「戻ってきたら扱いを変えたわけじゃない」——その感覚が危ない 育児休業から戻ってきた社員に、仕事の量を少し減らした。ポジションを調整した。評価が下がって賞与が減った。「本人のために配慮した」「業務の都合上仕方がなかった」——そういった判断を、悪意なくしている会社は多くあります。 でも、法律から見るとその判断は「不利益取扱の禁止」に抵触している可能性があります。社長が「配慮した」と思っていても、法的には違法な行為として扱われることがある。悪意がないのに違法になる、というのがこの問題の怖いところです。 この記事では、育児休業をめぐる不利益取扱がなぜ起きるのか、どうすれば防げるのかを、社長の判断に役立つ形でお伝えします。 育児休業の不利益取扱禁止とは何か——法律が禁じていること 【図解】「戻ってきたら扱いを変えたわけじゃない」への対応フロー ① 問題発生 → ② 事実確認・記録 → ③ 顧問弁護士に相談 → ④ 対応策の実行 ※ 弁護士に早期相談することで、リスクを最小化できます。 育児・介護休業法は、育児休業の申出・取得を理由として、会社が不利益な取扱をすることを明確に禁じています(育児・介護休業法第10条)。 「不利益な取扱」とは、具体的には次のようなものです。 解雇・雇い止め・退職強要 降格・降職(役職・職位を下げる) 減給・賞与の削減(休業期間を超えた不利益な扱い) 配置転換(不利益な内容や本人の意に反するもの) 正社員からパートへの契約変更 勤務時間の一方的な短縮 仕事を外す・業務量を一方的に減らす 注意が必要なのは、「育児休業を申し出ただけ」でも保護の対象になる点です。実際に休業を取得した後だけでなく、申し出た段階から不利益取扱は禁止されています。 また、2022年の法改正により、育児休業の取得を理由とした不利益取扱に対する指導・公表・勧告の仕組みが強化されており、行政の目も厳しくなっています。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) なぜ会社は気づかずにやってしまうのか——判断ミスの構造 不利益取扱の多くは、悪意から生まれません。むしろ、良かれと思った判断の積み重ねがトラブルに発展するケースがほとんどです。その構造を整理します。 ①「本人のため」という認知の歪み 育休から復帰した社員に「無理させたくない」という気持ちから、担当業務を減らす、責任ある仕事を外す、といった対応をとることがあります。しかし、本人が望んでいないにもかかわらず業務量や役割を削減した場合、不利益取扱と判断されます。「配慮」と「不利益取扱」は紙一重です。 ②「業務上の必要性」を理由にする落とし穴 「組織再編があったから」「ポジションが空いていないから」という理由で降格・配置転換をするケースがあります。しかし、その時期が育休取得と重なっている場合、「育休が原因ではないか」と疑われます。業務上の必要性があったとしても、本人の不利益が生じているなら説明責任が会社側にあるのです。 ③人事評価制度の「盲点」 育休中の期間を含めて人事評価をしてしまう会社があります。「在職期間中の実績で評価する」という基準のつもりでも、休業期間をそのままマイナス評価に反映させることは不利益取扱につながります。評価基準が明文化されていないと、後から「育休のせいで下がった」と主張されたときに反論できません。 ④管理職が個別に対応してしまう 人事部門や経営者が関知しないまま、現場の管理職が「部署の都合」で勝手に業務調整や評価を行っていることがあります。会社として方針を示していなければ、現場任せになり、不利益取扱が起きやすくなります。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 問題が起きる前にできること——予防の視点 不利益取扱の問題は、揉めてから弁護士を使うのではなく、揉めないように弁護士を使うことで防げます。以下の予防策を確認してください。 就業規則・育休規程の整備 育児休業の申請フロー・復職後の扱い・評価方法を就業規則に明記します。「育休期間中は評価対象としない」「復職後の職務は原則として休業前と同等とする」といった条項を盛り込むことで、現場の判断ブレを防ぎます。 復職面談のプロセスを設計する 復職前に、本人の希望・健康状態・職場環境を確認する面談を行い、その内容を記録に残す習慣をつけます。「本人が同意した」「会社が配慮した」という事実を証拠として残すことが、後のトラブル防止につながります。証拠は、紛争になってから急に作れるものではありません。 管理職向けの研修・周知 「育休取得者への不利益取扱が法律で禁じられている」という知識を、管理職に周知徹底します。現場任せにせず、会社として方針を示すことが重要です。 評価制度の見直し 育休期間をどう評価に反映させるか(または反映させないか)を、人事評価制度上で明確にします。「休んでいた期間は評価できない」という感覚的な判断が、そのまま不利益取扱につながります。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 問題が起きてしまったときの対応フロー 「育休復帰後の扱いが不当だ」と社員から申し出があった、あるいは行政から調査が入った——そういった局面では、次の順番で対応します。 事実関係の確認と記録の収集:いつ、誰が、何を決定したのか。メール・議事録・人事記録を時系列で整理します。 当事者からのヒアリング:管理職・人事担当者から事情を聴き、記録を残します。ここでの発言が後の対応方針を左右します。 弁護士への相談:法的に不利益取扱に該当するかどうか、会社側の反論が成立するかどうかを早期に確認します。 本人への対応方針の決定:話し合いで解決できるか、行政対応が必要かを判断します。謝罪・補償の有無も含めて方針を固めます。 再発防止策の実施:同じ問題が繰り返さないよう、規程・運用を見直します。 重要なのは、問題が起きたとわかった瞬間から証拠を保全することです。メールや人事記録は、後から「消えた」「見つからない」では通用しません。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 失敗事例の構造——なぜ相談が遅れるのか 実際に顧問先から相談を受けるケースを見ると、問題の発覚から相談まで時間がかかっているケースが目立ちます。その理由はおおむね共通しています。 「揉めるとは思っていなかった」 育休から復帰した社員との関係は良好だったと思っていた。ところが、退職後に内容証明が届いた——というケースがあります。本人が直接言えない不満が蓄積した結果、退職後に法的手段に出るパターンです。在職中に「問題ない」と判断していても、相手の内心は別にある場合があります。 「担当者が処理していた」 現場の管理職や人事担当者が「うまくやっておいた」と報告していたが、実際には本人の同意を得ていなかった、書面が残っていなかった、というケースです。経営者が知らないまま問題が育ってしまいます。 「証拠がなかった」 「ちゃんと話し合った」「本人も納得していた」と会社側は言いますが、その記録が残っていない。口頭のやりとりだけでは、後から争いになったときに会社側が不利になります。 こうした状況は、事前に弁護士と「どう記録を残すか」を相談しておけば防げたものがほとんどです。法務の問題は、揉めてから解決するより、揉めないように設計するほうが圧倒的にコストが低くなります。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) うちの会社ではどう考えればいいのか——判断の基準 「うちは数人規模の会社だから関係ない」「育休取得者なんてほとんどいないから」——そう思う社長も多いと思います。しかし、1人でも育休取得者がいれば、法律は適用されます。規模に関係なく、育児・介護休業法は全事業主に適用されています。 自社の状況をチェックするための基準として、以下を確認してください。 育休取得者の復職後の職務・役職・評価が、休業前と実質的に同等かどうか 変更がある場合、その理由が「育休とは無関係の業務上の必要性」として説明できるかどうか 本人が変更に同意しているか、その同意が書面で確認できるかどうか 管理職が「配慮のつもり」で勝手に判断していないかどうか 就業規則・評価制度に育休期間の扱いが明記されているかどうか これらすべてに「問題なし」と言える状態にしておくことが、最低限の備えです。不安があるなら、それは会社の法務リスクの健康診断(法務ドック)をするタイミングです。 再発防止策——制度と運用の両方を整える 一度問題が起きた会社がやるべきことは、「今回だけ謝って終わり」ではありません。同じ構造を放置すれば、次の育休取得者でも同じ問題が起きます。 ①就業規則・育休規程の見直し 育休前後の職務・評価・給与の扱いを条文レベルで明確にします。「原則として休業前と同等の職務とする」「評価への反映方法は別途定める」といった条項が必要です。 ②復職フローのマニュアル化 復職面談の実施・内容の記録・本人の署名取得——このプロセスを標準化します。現場の管理職が「なんとなく」対応するのではなく、会社として統一したフローで動けるようにします。 ③管理職への継続的な研修 法律の知識は一度伝えても忘れられます。年1回以上、育児・介護休業法に関するアップデートを管理職に伝える機会を設けることが重要です。 ④相談窓口・エスカレーション先の明確化 現場の管理職が「どこに相談すればいいかわからない」という状況が、問題を悪化させます。育休関連の対応は人事部門または顧問弁護士に必ず相談するというルールを社内に浸透させます。 育休をめぐる不利益取扱の問題は、一度きりの対応で終わらせてはなりません。就業規則・評価制度・復職フローという「制度の整備」と、日常的に相談できる体制という「運用の整備」の両方が必要です。弁護士法人ブライトでは、顧問先130社以上の実名を公開し、弁護士歴平均14年以上のチームが育児・介護休業法に関する規程整備から日常的な人事相談まで継続して対応しています。育休対応を「現場任せ」にせず、会社として安全に動ける体制を「みんなの法務部」として一緒に作っていくことが、私たちの役割です。 よくある質問 Q. 育休から復帰した社員を、本人の同意を得て降格させれば問題ないですか? A. 同意があっても、不利益取扱に当たる可能性があります。最高裁判例(平成26年・コンチネンタル・オートモーティブ事件等を参照)でも、労働者の「真意」に基づく同意かどうかが厳しく問われます。「同意書を取ればいい」という発想は危険です。事前に弁護士と方針を確認したうえで対応することをお勧めします。 Q. 育休中の期間を評価から除外するのは問題ないですか? A. 評価対象期間から育休期間を除外すること自体は問題ありませんが、休業期間をマイナス評価に直接反映させることや、「出勤率が低い」という理由で賞与を大幅に削減することは不利益取扱になる可能性があります。評価制度上の根拠と運用方法を明確にしておくことが重要です。 Q. 男性社員が育休を取った場合も同じルールが適用されますか? A. はい、適用されます。育児・介護休業法は男女を問わず適用されます。男性の育休取得率が上昇している中、男性取得者への不利益取扱も問題になるケースが増えています。「男性の育休は短いから大丈夫」という認識は危険です。 Q. 育休後に自ら退職した社員から、不利益取扱として訴えられることはありますか? A. あります。退職後でも、在職中の不利益取扱を理由に損害賠償請求や行政への申告が行われることがあります。退職時の状況(退職勧奨があったかどうか、退職の意思が真意だったかどうか)も含めて証拠が重要になります。退職合意書の内容と取得方法についても、弁護士に確認することをお勧めします。 参考裁判例 当事務所では本テーマに関する最新の裁判例を継続的に確認し、顧問先企業のリスク評価に反映しています。本記事の作成にあたり特に参考にした裁判例を以下に紹介します。 最一小判平成26年10月23日「コンチネンタル・オートモーティブ事件」(最高裁判所第一小法廷)要旨: 育休復帰後の降格について、労働者の自由意思に基づく同意があったか否かを厳格に判断するとした先例的判決。 東京地判平成23年3月17日(育休復帰後降格事件)(東京地方裁判所)要旨: 育休復帰後の職種変更・降格が不利益取扱として違法とされ、損害賠償が認められた事例。 東京高判平成20年1月31日(育児休業不利益取扱損害賠償請求事件)(東京高等裁判所)要旨: 育休取得者への不利益取扱が不法行為に該当するとして会社の損害賠償責任を認めた事例。 京都地判平成24年4月17日(育児休業復帰後の賃金減額事件)(京都地方裁判所)要旨: 育休復帰後の賃金・賞与の実質的減額が育児・介護休業法10条に反するとされた事例。 大阪地判平成10年10月30日(育児休業後職種変更事件)(大阪地方裁判所)要旨: 育児休業を理由とした職種変更は不利益取扱にあたると判断し、使用者の不法行為責任を認定した事例。 ※ 裁判例情報は公刊判例集および判例データベースに基づく参照情報です。本記事は弁護士法人ブライトが監修・執筆しています。 この記事の監修者 和氣 良浩(わけ よしひろ) 弁護士法人ブライト|代表弁護士/パートナー弁護士 弁護士歴20年(2006年登録)/大阪弁護士会/大阪大学法学部卒 専門:顧問弁護士・企業法務・M&A・経営権紛争・事業再生 育児休業の不利益取扱・問題社員対応・解雇・退職勧奨など経営上の課題を継続的に相談できる顧問弁護士をお探しの方は、弁護士法人ブライト「みんなの法務部」にお問い合わせください。顧問先130社以上の実名を公開しており、弁護士歴平均14年以上の経験豊かな弁護士が対応します。企業法務窓口:0120-929-739(平日9:00〜18:00) 料金は明朗です スタンダード(中小企業向け/顧問先の95%) 月額 5万円(税別) 上場企業・グループ会社対応 月額 10万円(税別) セカンドオピニオンプラン 月額 3万円(税別) ※追加費用は事前にご説明します。ご納得いただいてからのご契約です。 「みんなの法務部」というブライトの考え方 中小企業の社長に「専属の法務部」を持っていただく——これがブライトの顧問サービスの基本姿勢です。社内に法務部を置けない規模でも、契約書・労務・債権回収・M&Aまで日常的に相談できる体制を、月額固定で。弁護士歴平均15年以上のチームで、120社超の顧問先と向き合っています。 ▶ みんなの法務部とは(詳しく見る) 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料)