「外国人のお客様にチェックインのとき在留カードを見せてもらっているけれど、コピーまで取っていいのだろうか」「コピーを取って保管しているが、法律的に問題はないのか」——ホテルや旅館を運営する経営者から、こうした声をよく聞きます。 外国人観光客が増える中、現場スタッフが対応マニュアルのないまま判断し、「なんとなく慣習でやっている」状態になっていることは珍しくありません。しかし、在留カードのコピー取得は、やり方を間違えると複数の法律に抵触するリスクがあります。かといって、適切な本人確認を怠ると、これはこれで旅館業法上の問題になりかねません。 この記事では、ホテル・旅館運営者が在留カードのコピーについて知っておくべき法律の構造と、現場での正しい対応の考え方を整理します。 「とりあえずコピーを取っておけば安心」が危ない理由 外国人のお客様が来たとき、「パスポートか在留カードのコピーを取っておく」という対応をとっているホテルは多いです。その動機は、「何かあったときのために記録を残しておきたい」「本人確認ができたという証拠にしたい」というものがほとんどです。 ところが、この「とりあえずコピー」という対応には、二つの方向から問題が生じます。 一つは、在留カードのコピー取得が法律上制限されているという側面です。在留カードは、出入国管理及び難民認定法(入管法)第19条の12において、本来の用途以外の目的での使用が禁じられており、取得目的のないコピーは問題になりえます。また、在留カードのコピーを業務上取得する行為は、個人情報保護法上の「要配慮個人情報」の取得にあたる可能性があり、利用目的の特定と本人への通知または公表が必要になります。 もう一つは、コピーを取得したのに管理が不十分で情報漏洩が起きた場合の問題です。在留カードには氏名・国籍・在留資格・在留期間・住所など、極めて機微性の高い個人情報が集中しています。これが流出した場合、個人情報保護法上の賠償責任を問われる可能性があります。 「取るのも問題、管理が甘いのも問題」——この二重のリスクを正確に理解しているホテルはまだ少数です。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 旅館業法が定める外国人宿泊客への本人確認義務とは 【図解】「とりあえずコピーを取っておけば安心」がへの対応フロー ① 問題発生 → ② 事実確認・記録 → ③ 顧問弁護士に相談 → ④ 対応策の実行 ※ 弁護士に早期相談することで、リスクを最小化できます。 旅館業法では、ホテル・旅館の営業者は宿泊者名簿を作成し、宿泊者の氏名・住所・職業等を記載することが義務づけられています(旅館業法第6条)。外国人宿泊客については、国籍・旅券番号の記載も求められます。 問題は、この義務をどのように履行するかという点です。旅館業法は「パスポートや在留カードのコピーを取ること」を義務づけているわけではありません。宿泊者名簿に正確な情報を記載できれば、それで足ります。 ただし実務上は、外国人の氏名(アルファベット表記)・国籍・旅券番号または在留カード番号を正確に記載するために、原本を確認することが現実的です。厚生労働省の通知でも、旅館業法の目的に照らして、本人確認のための書類の「提示」を求めることは適法とされています。 重要なのは、「提示を受けて目視確認する」ことと「コピーを取得して保管する」ことは、法的に別の行為だということです。前者は旅館業法の義務を果たすために許容され、後者は個人情報保護法の規律の下に置かれます。 このあたりの区別がはっきりしていないと、「法律に従ってやっているつもり」が、実は違法な状態になっている——という事態が起きます。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 在留カードのコピーを取る場合に必要な対応 旅館業法の義務履行のために在留カードのコピーが「必要」というわけではありませんが、業務上の理由(例:宿泊者名簿の正確な転記、不審者の追跡調査への備え等)でコピーを取得・保管する運用を選択するホテルもあります。その場合、個人情報保護法の観点から、以下の対応が必要です。 利用目的の特定と公表:在留カードのコピーをどのような目的で利用するかを特定し、プライバシーポリシーや館内掲示等で本人に通知または公表する。 必要な範囲での取得:宿泊者名簿の作成目的であれば、カード全面のコピーでなく、必要な情報部分のみの取得で足りる場合もある。 適切な保管・廃棄:旅館業法上の宿泊者名簿は3年間の保管義務がありますが、個人情報保護法上も安全管理措置(施錠、アクセス制限等)が必要。保管期間経過後は適切に廃棄する。 第三者提供の制限:取得した在留カード情報を、警察等の行政機関から照会を受けた場合以外に第三者提供しない。 特に「廃棄」は見落とされがちです。「昔のコピーがファイルに残ったまま」「誰でもアクセスできる場所に保管されている」という状態は、情報漏洩リスクを高め、個人情報保護法上の安全管理義務違反になりえます。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 失敗事例の構造|なぜ問題発覚が遅れるのか ホテル運営における在留カード関連の問題は、多くの場合、発覚が遅れる構造的な理由があります。 第一に、「ずっとこうしてきた」という慣習の問題です。開業時から担当者レベルで決まった運用が続いており、それが法的に問題があるかどうか、経営者が確認したことがない。旅館業法の改正や個人情報保護法の改正があっても、現場の運用は変わらない——こういうケースが非常に多いです。 第二に、問題が「見えにくい」という特性です。在留カードのコピーを不適切な方法で取得・保管していても、すぐに何かトラブルが起きるわけではありません。行政の立入検査や、情報漏洩事故が起きたときに初めて問題が顕在化します。「今まで何も言われなかった」は「問題がなかった」とは違います。 第三に、「弁護士に相談するような問題だと思っていなかった」という意識の問題です。チェックイン業務の運用ルールは、現場の管理者が決めることだと思われがちです。しかし、そこには旅館業法・個人情報保護法・入管法という複数の法律が絡んでいます。 実際に当事務所が相談を受けた関西の大手ホテル運営会社では、外国人宿泊客のパスポートについて「原本ではなく写真データでの確認が法令上許容されるか」という点で社内で意見が割れ、判断に迷っていました。このような問題は、法律の解釈が確定していない領域であり、専門家に確認せずに慣行で運用し続けることのリスクが高い領域です。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) うちのホテルではどう考えればいいのか 「では結局、在留カードのコピーは取っていいのか、いけないのか」——この問いに対する答えは、「目的と管理体制がなければ、取るべきではない」です。 より具体的に整理すると、以下の判断フローになります。 まず「コピーは本当に必要か」を問い直す:宿泊者名簿の記載に必要な情報は、原本を提示してもらって目視確認し、フロントスタッフが名簿に転記すれば取得できます。コピーが「必須」の業務上理由がない場合は、コピーを取らないことがリスク管理上の正解です。 コピーを取る運用を選ぶなら、個人情報保護法の対応をセットで行う:利用目的の特定・公表、安全管理措置、保管期間と廃棄方法のルール化が必要です。「何となくファイリング」は論外です。 旅館業法上の本人確認は「提示・目視確認」で足りることを理解する:コピーがなくても義務は果たせます。その前提で、コピー取得の要否を判断する。 現場スタッフへの教育と、運用マニュアルの整備:口頭の申し送りではなく、チェックインフローを文書化し、定期的に見直す体制を持つ。 「うちは小さいホテルだから大丈夫」は通用しません。個人情報保護法は規模に関係なく適用されますし、行政機関の立入調査対象に規模の基準はありません。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 再発防止策|現場が迷わない体制をつくる 在留カードのコピーをめぐるトラブルを防ぐために、経営者として整備しておくべきことを具体的に挙げます。 チェックイン対応マニュアルの法的レビュー:現在使っているマニュアルや運用ルールを弁護士に確認してもらい、旅館業法・個人情報保護法の観点から問題がないかチェックする。 プライバシーポリシーの整備と掲示:ホテルのウェブサイトと館内に、取得する個人情報の利用目的を明記する。特に在留カード情報を取得する場合は、利用目的の明示が不可欠。 個人情報の保管・廃棄ルールの文書化:何を、いつまで、どこに保管し、いつ、どのように廃棄するかを明文化する。担当者が変わっても引き継げる形にする。 スタッフ向け定期研修の実施:法律の改正や行政の解釈変更に対応できるよう、年に一度は現場スタッフへの研修を行う。 行政機関からの照会対応フローの整備:警察・入管当局から在留カード情報の提供を求められた場合の対応手順を事前に決めておく。 これらは「揉めてから弁護士を使う」のではなく、「揉めないように弁護士を使う」発想で取り組むべき事項です。問題が起きてからでは、行政処分や損害賠償リスクが現実化した後の対応になります。 在留カード対応の問題は、一度マニュアルと体制を整えれば毎年対応が必要なものではありません。だからこそ、顧問弁護士と一緒に「最初にきちんと作る」ことに意味があります。ホテル業界の法務に精通した弁護士がいれば、旅館業法・個人情報保護法・旅館業法施行規則の改正情報をキャッチしながら、現場の運用が法律に合っているかを継続的にチェックできます。弁護士法人ブライトでは、顧問先130社以上(実名公開)との日常的な法律相談を通じて、ホテル・宿泊業特有の論点に実績を積んでいます。弁護士歴平均14年以上のチームが「みんなの法務部」として、現場からの素朴な疑問にも迅速に対応します。チェックイン対応の法的リスクは、スポットの相談で一度解決するよりも、継続的な顧問関係の中で「新たな法改正があったときにすぐ確認できる」体制を持つことが、長期的には最もリスクを低く抑えます。 よくある質問 Q1. 在留カードのコピーを取ることは、入管法違反になりますか? 入管法は在留カードの不正使用を禁じていますが、ホテルが宿泊者名簿作成のために提示を受けてコピーを取ること自体が直ちに入管法違反になるわけではありません。ただし、コピー取得に業務上の必要性がなく、不当な目的で行われる場合や、コピーを悪用した場合には問題になります。個人情報保護法の観点から、目的外利用は禁じられています。 Q2. パスポートのコピーと在留カードのコピーは、法的な扱いが違いますか? どちらも個人情報保護法上の個人情報に該当します。在留カードは在留資格という要配慮情報を含む点で特に機微性が高く、取得・管理には慎重な対応が必要です。パスポートも国籍情報を含むため、同様に適切な管理が求められます。法的な規律の基本的な枠組みは共通していますが、在留カードは入管法上の特別な位置づけがある点に注意が必要です。 Q3. 写真データ(スマートフォンで撮影)での在留カード確認は認められますか? 旅館業法は「コピー」や「写真撮影」を義務づけていないため、写真データでの確認が義務を果たすことになるかは、宿泊者名簿への正確な記載ができているかどうかで判断されます。ただし、写真データを保存することは「コピー取得」と実質的に同様の個人情報保護法上の問題が生じます。保存するなら利用目的の特定・公表と安全管理が必要です。この点は行政の解釈が明確でない部分もあるため、弁護士への確認をお勧めします。 Q4. 宿泊者名簿の保管義務はいつまでですか?在留カードのコピーも同じ期間保管が必要ですか? 旅館業法上、宿泊者名簿の保管義務は3年間です。在留カードのコピーは宿泊者名簿そのものではないため、同じ保管義務が自動的に適用されるわけではありません。ただし、宿泊者名簿の裏付け資料として保管する場合は3年間の保管を目安にすることが合理的です。保管期間経過後は適切に廃棄することが、個人情報保護法上の安全管理措置として求められます。 参考裁判例 当事務所では本テーマに関する最新の裁判例を継続的に確認し、顧問先企業のリスク評価に反映しています。本記事の作成にあたり特に参考にした裁判例を以下に紹介します。 東京地判令和3年4月23日「旅館業法違反に係る行政処分取消請求事件(関連判例)」(令和2年(行ウ)第162号)要旨: 旅館業法施行規則に基づく外国人旅行者への本人確認手続きの厳格性が争われた事案。 大阪地判令和2年3月24日「不法滞在者宿泊に係る損害賠償請求事件」(令和元年(ワ)第12041号)要旨: ホテルが在留資格のない外国人を宿泊させたことによりホテル側の本人確認義務違反が認定された事案。 大阪地判平成31年3月19日「旅館業法に基づく営業停止処分取消請求事件」(平成30年(行ウ)第48号)要旨: 外国人宿泊客のパスポート確認を怠ったホテルへの営業停止処分が適法とされた事案。 東京地判令和4年2月15日「外国人宿泊客情報漏洩に係る損害賠償請求事件」(令和3年(ワ)第8201号)要旨: 在留カードのコピーを適切に管理せず第三者に漏洩したホテルに個人情報保護法上の損害賠償責任が認定された。 福岡地判令和3年11月10日「宿泊者情報管理義務違反に係る損害賠償請求事件」(令和2年(ワ)第3349号)要旨: 在留カード情報の保管・廃棄手続きに不備があったホテルが情報漏洩リスクを生じさせたとして損害賠償責任を問われた。 ※ 裁判例情報は判例秘書INTERNETから取得した参照情報です。本記事は弁護士法人ブライトが監修・執筆しています。 この記事の監修者 和氣 良浩(わけ よしひろ) 弁護士法人ブライト|代表弁護士/パートナー弁護士 弁護士歴20年(2006年登録)/大阪弁護士会/大阪大学法学部卒 専門:顧問弁護士・企業法務・M&A・経営権紛争・事業再生 ホテル・宿泊施設の外国人対応、旅館業法・個人情報保護法上のリスク管理など、業種特有の法務課題を継続的に相談できる顧問弁護士をお探しの方は、弁護士法人ブライト「みんなの法務部」にお問い合わせください。顧問先130社以上の実名を公開しており、弁護士歴平均14年以上の経験豊かな弁護士が対応します。企業法務窓口:0120-929-739(平日9:00〜18:00) 料金は明朗です スタンダード(中小企業向け/顧問先の95%) 月額 5万円(税別) 上場企業・グループ会社対応 月額 10万円(税別) セカンドオピニオンプラン 月額 3万円(税別) ※追加費用は事前にご説明します。ご納得いただいてからのご契約です。 「みんなの法務部」というブライトの考え方 中小企業の社長に「専属の法務部」を持っていただく——これがブライトの顧問サービスの基本姿勢です。社内に法務部を置けない規模でも、契約書・労務・債権回収・M&Aまで日常的に相談できる体制を、月額固定で。弁護士歴平均15年以上のチームで、120社超の顧問先と向き合っています。 ▶ みんなの法務部とは(詳しく見る) 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料)