「監査役と監査等委員、どちらを置けばいいのかよく分からない」——そう感じながら、ひとまず顧問税理士や司法書士に任せてしまっている社長は少なくありません。会社の規模が小さいうちは大きな問題にならないかもしれない。でも、IPOを視野に入れ始めたとき、あるいは取引先や金融機関からガバナンス体制を問われたとき、「うちの組織設計、本当に正しかったのだろうか」という不安が急に大きくなります。 この記事は、監査役と監査等委員の違いを法律用語で説明するものではありません。社長が「どちらを選ぶべきか」「今の体制は何が弱いのか」を判断するための地図を提供するために書きました。 そもそも「監査役」と「監査等委員」は何が違うのか 会社が外部に対して「きちんとガバナンスが機能している」と示すために、取締役の行動を監視する仕組みが法的に必要です。その仕組みとして、日本の会社法は大きく3つのルートを用意しています。 監査役(+取締役会)型 監査等委員会設置会社型 指名委員会等設置会社型 このうち、中堅・中小の非上場企業やIPO準備企業が実際に選択する場面で悩むのが、「監査役」と「監査等委員」のどちらを置くか、という問題です。 監査役とは 監査役は取締役会とは独立した機関として、取締役の職務執行を監視します。取締役会の「外」に設置される独立した機関という位置づけです。監査役は取締役会に出席する義務がありますが、議決権はありません。意見を述べることはできますが、経営の意思決定には加わらない。これが監査役の基本的なスタンスです。 監査等委員とは 監査等委員は取締役の一員です。「監査等委員会設置会社」においては、取締役が「監査等委員である取締役」と「それ以外の取締役」に分かれます。つまり、監査等委員は取締役会の議決権を持ちながら、経営の監視も担うという二面性があります。監査役が「外から見る」のに対し、監査等委員は「内側から見る」イメージです。 判断ミスが起きる構造——「名前が似ているから同じだろう」という思い込み 【図解】そもそも「監査役」と「監査等委員」は何がへの対応フロー ① 問題発生 → ② 事実確認・記録 → ③ 顧問弁護士に相談 → ④ 対応策の実行 ※ 弁護士に早期相談することで、リスクを最小化できます。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先141社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) 多くの社長が、この二つの違いを正確に理解しないまま設計を進めてしまいます。なぜ判断ミスが起きるのか。その構造には共通したパターンがあります。 ①「監査」という言葉の印象で同一視してしまう 「監査役も監査等委員も、監査をする人でしょ?」という理解は間違いではありませんが、権限の構造・経営への関与度・選任方法・報酬決定のルールが全く異なります。名前の類似が正確な理解を妨げています。 ②設計の選択肢があることを知らない 会社設立時に「監査役を置いてください」と言われるまま設置した結果、IPO準備が進んだ段階で「監査等委員会設置会社に移行しないと審査が通りにくい」という話が出てきて慌てる、というケースがあります。 ③ガバナンスを「コンプライアンスのお飾り」と思っている 監査役も監査等委員も、いずれも「形として設置すれば良い」と思われがちです。しかし、実際の機能・権限の違いが、いざ問題が起きたときの対応力に直結します。 問題が起きる前に確認しておくこと——予防としての機関設計レビュー 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先141社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) 「今の機関設計で大丈夫かどうか」を確認するタイミングは、問題が起きてからでは遅い場合があります。特に以下の局面では、事前のレビューが重要です。 IPO準備を始めるとき:上場審査では、ガバナンス体制の実態が問われます。監査等委員会設置会社であれば、社外取締役が監査等委員として経営チェックを担うことで、上場後の体制として評価される場面が増えています。 取引先・金融機関からガバナンスを問われるとき:大手企業との取引や金融機関からの融資審査で、機関設計の妥当性を問われることがあります。 社外役員を選任するとき:誰を監査役にするか、あるいは監査等委員にするかによって、その人の権限・責任・報酬の決まり方が異なります。候補者に対して正確に説明できなければ、優秀な人材を確保できません。 定款変更・組織再編のとき:機関設計の変更は定款変更を伴い、株主総会の特別決議が必要です。「いつでも変えられる」ではなく、計画的な準備が求められます。 顧問弁護士がいれば、これらのタイミングで「今の設計はどこが弱いか」「どう変えるべきか」を経営判断の材料として提供することができます。法律の条文を読み解くだけでなく、実際の上場審査や企業実務の文脈で判断を支える役割です。 実務上の主な違い——社長が押さえるべき5つのポイント 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先141社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) ①取締役会における議決権の有無 監査役には取締役会の議決権がありません。出席して意見を言うことはできますが、議決には加われない。一方、監査等委員は取締役の一員として議決権を持ちます。これは、経営への関与度という意味で根本的な違いです。 ②社外要件と人数の違い 監査役会設置会社では、監査役が3名以上必要で、そのうち半数以上が社外監査役でなければなりません。監査等委員会設置会社では、監査等委員が3名以上必要で、過半数が社外取締役でなければなりません。いずれも社外の目を入れる仕組みですが、「社外監査役」と「社外取締役(監査等委員)」では法的地位が異なります。 ③任期の違い 監査役の任期は原則4年(定款で短縮不可)。監査等委員である取締役の任期は2年(定款で1年に短縮可能)。その他の取締役は原則2年(定款で1年に短縮可能)。この任期の差は、安定した監査機能を担保するための設計です。 ④報酬決定のルール 監査役の報酬は、株主総会で取締役報酬とは別枠で決議されます。監査等委員である取締役の報酬も、その他の取締役とは区別して株主総会で決議されます。この「別枠」設計は、経営者からの独立性を担保するためのものです。 ⑤意見陳述権・差止請求権 監査役も監査等委員も、取締役の法令・定款違反行為に対して差止請求をする権限があります。監査等委員は、取締役会の場で議決権を持ちながら意見を述べることができる分、経営に対するリアルタイムの関与が可能です。一方、監査役は独立した立場から客観的・事後的に問題を指摘する強みがあります。 失敗事例の構造——なぜ「後から困る」のか 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先141社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) IPO準備を進めていた関西の企業では、設立当初から置いていた監査役体制のまま上場審査に臨もうとした結果、主幹事証券から「ガバナンス体制の見直し」を求められる事態になりました。監査等委員会設置会社への移行自体は法的に可能ですが、定款変更・株主総会の特別決議・登記変更が必要になるため、スケジュールが数ヶ月単位でズレてしまいました。 なぜこうなったのか。原因は2つです。 「設立時の判断がそのまま正しい」という思い込み:設立時に何も考えずに選んだ設計が、成長フェーズで足かせになる。でも、誰も「今の体制で大丈夫か」を確認していなかった。 専門家への相談が遅れた:「上場が決まってから考えよう」と後回しにした結果、相談のタイミングが遅すぎた。機関設計の変更は手続きに時間がかかるため、早めの確認が必須です。 証拠の観点では、機関設計に関する問題は「証拠がない」というより「判断の記録がない」という形で顕在化します。なぜその機関設計を選んだのか、どういう議論の末に決めたのか。そのプロセスが取締役会議事録や定款の変遷に残っていないと、後から「本当に適切な設計だったのか」を説明できなくなります。 うちの会社はどちらを選べばいいのか 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先141社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) 一概に「監査役が良い」「監査等委員が良い」とは言えません。会社の規模・成長フェーズ・上場の有無・社外役員の確保状況によって、最適解は変わります。ただ、実務上の傾向として以下のように整理できます。 非上場・中小企業で当面IPO予定なし:監査役(会)型が引き続きシンプルで使いやすい。形骸化しないよう、実質的な機能を持たせることが重要。 IPOを検討している・または上場後の体制を見据えている:監査等委員会設置会社への移行を早めに検討する価値がある。社外取締役が経営のチェックを担う形は、上場審査や投資家からの評価にもプラスに働くことが多い。 社外役員の確保が難しい段階:どちらの設計でも社外の人材が必要になります。「誰を選ぶか」の議論を早めに始めることが、設計の選択肢を広げます。 重要なのは、「どちらかを選んで終わり」ではないということです。選んだ設計が実際に機能しているか、形骸化していないか——これを定期的に確認する仕組みが必要です。 再発防止策——ガバナンス体制を「生きた仕組み」にするために 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先141社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) 機関設計を整えることはスタートラインです。本当に大切なのは、設計した体制が実際に機能し続けることです。そのために必要な再発防止策を整理します。 取締役会・監査役会(または監査等委員会)の議事録を確実に残す:どういう議論をして、どう決定したか。その記録が、後から体制の妥当性を示す証拠になります。 社外役員との情報共有の仕組みを作る:社外の目が機能するためには、情報が届かなければなりません。定期的な情報提供ルートを設計に組み込むことが重要です。 定期的な機関設計レビュー:毎年、あるいは大きな経営イベント(M&A・上場・事業売却等)の前後に、現行の機関設計が適切かどうかを確認するタイミングを設けます。 定款・内部規程との整合性確認:機関設計は定款に記載されます。実際の運用と定款の内容がズレていないか、定期的に確認が必要です。 ガバナンスの問題は、「問題が起きてから直す」ではコストが大きくなります。特に上場審査や買収・提携のデューデリジェンスで問題が発覚した場合、取り返しのつかないタイミングになることもあります。 機関設計・ガバナンス整備のような問題は、一度きりのスポット対応では不十分です。会社が成長するにつれて、体制の見直しは繰り返し必要になります。弁護士法人ブライト「みんなの法務部」では、顧問先141社の実名を公開し、企業法務部の弁護士歴平均14年以上の弁護士が、機関設計の設計段階から運用の相談まで継続的にサポートしています。「今の体制を一度点検してほしい」「IPO前に整理したい」という相談も含め、困ったときにすぐ相談できる体制を整えておくことが、経営判断の質を上げる安全装置になります。 よくある質問 Q. 小さな会社でも監査等委員会設置会社にできますか? A. はい、できます。監査等委員会設置会社は取締役会設置会社であれば、非上場・中小企業でも採用できます。ただし、監査等委員(取締役)を3名以上置く必要があり、そのうち過半数が社外取締役でなければなりません。人材確保のコストや、運営上の手間も含めて判断する必要があります。 Q. 監査役を監査等委員会設置会社に途中で変更できますか? A. はい、変更可能です。ただし、定款変更(株主総会の特別決議)が必要で、監査役の任期途中での変更には手続き上の考慮が必要です。また、移行に際しては役員体制・報酬設計・内部規程の見直しが一体で必要になります。計画的に進めることが重要です。 Q. 監査等委員は経営陣の仲間ではないのですか? A. 監査等委員は取締役の一員ですが、独立性の確保が強く求められます。報酬の決定方法が他の取締役と切り離されており、また選任・解任の株主総会における意見陳述権も保障されています。「取締役だから経営側」という単純な理解は誤りで、牽制機能を持つ存在として設計されています。 Q. IPO審査では監査役と監査等委員のどちらが有利ですか? A. 一概に「どちらが有利」とは言えませんが、近年のIPO実務では監査等委員会設置会社を採用する企業が増えています。社外取締役が監査等委員として経営チェックに関与する形が、コーポレートガバナンス・コードの趣旨とも整合しやすいとされています。ただし、主幹事証券・証券取引所との対話の中で個別に判断されるため、早めに専門家に相談することをお勧めします。 当事務所が参考にした実務書 当事務所では本テーマに関する最新の実務書を継続的に確認し、顧問先企業のリスク評価に反映しています。本記事の作成にあたり特に参考にした書籍を以下に紹介します。 『会社法コンメンタール 8 ── 機関(2)』 — 江頭憲治郎 ほか/商事法務/2009年3月/分類:条文逐条解説書 『新・会社法実務問題シリーズ 5 ── 機関設計・取締役・取締役会』 — 松井秀樹 ほか/中央経済社/2022年9月/分類:Q&A形式の実務解説書 『監査役・監査等委員・監査委員の実務』 — 弥永真生/中央経済社/2022年1月/分類:Q&A形式の実務解説書 『監査等委員会の実務』 — EY新日本有限責任監査法人 ほか/中央経済社/2020年9月/分類:実務解説書 『実践 コーポレートガバナンス』 — 富山和彦 ほか/日本経済新聞出版/2023年5月/分類:学術書・体系書 ※ 書籍内容は引用しておらず、書誌情報のみ表示しています。本記事は弁護士法人ブライトが監修・執筆しています。 この記事の監修者 和氣 良浩(わけ よしひろ) 弁護士法人ブライト|代表弁護士/パートナー弁護士 弁護士歴20年(2006年登録)/大阪弁護士会/大阪大学法学部卒 専門:顧問弁護士・企業法務・M&A・経営権紛争・事業再生 機関設計・ガバナンス体制の整備・IPO準備など、会社の組織法務に関する継続的なご相談は、弁護士法人ブライト「みんなの法務部」にお問い合わせください。顧問先141社の実名を公開しており、企業法務部の弁護士歴平均14年以上の経験豊かな弁護士が対応します。企業法務窓口:06-4965-9590(平日9:00〜18:00) 「みんなの法務部」というブライトの考え方 中小企業の社長に「専属の法務部」を持っていただく——これがブライトの顧問サービスの基本姿勢です。社内に法務部を置けない規模でも、契約書・労務・債権回収・M&Aまで日常的に相談できる体制を、月額固定で。企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームで、141社の顧問先と向き合っています。 ▶ みんなの法務部とは(詳しく見る) 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先141社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料)