マンション敷地売却の旧法と新法はここが逆|古い解説記事の落とし穴と経過措置

マンション敷地売却の旧法と新法はここが逆|古い解説記事の落とし穴と経過措置

マンション敷地売却の旧法と新法はここが逆|古い解説記事の落とし穴と経過措置

和氣 良浩

監修:和氣 良浩(わけ よしひろ)

弁護士法人ブライト|代表弁護士|大阪弁護士会

大阪で20年以上、中小企業の企業法務・顧問弁護士サービスを提供。顧問先130社以上に透明性の高いリーガルサポートを実践している。

結論から言います。マンションの敷地売却で借家人がどうなるかは、2026年4月1日を境に旧法と新法で正反対になりました。そして、ネット上に出回っている解説記事の多くは、いまだに旧法のままです。

調べ物をしていて、こんな経験はありませんか。ある記事には「借家権は権利消滅期日で消滅する」と書いてある。別の記事には「借家権は消えない」と書いてある。どちらが正しいのか分からない。

そこへ貸主や組合の担当者から「ガイドラインにこう書いてあります」と資料を示され、そういうものかと受け止めてしまう。

そのガイドライン、旧法のものかもしれません。

この記事では、新旧のどこが逆転したのか、なぜ古い情報が残っているのか、そして「うちのマンションは決議も認可も法改正前だから旧法のままでは?」という一番危ない思い込みを、条文にあたって潰します。


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2026年4月の法改正で何が変わったのか

令和7年5月30日法律第47号による改正です。施行日は2026年(令和8年)4月1日

法律の題名そのものが変わりました。「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」から、「マンションの再生等の円滑化に関する法律」へ。制度の名前も「マンション敷地売却事業」から「マンション等売却事業」に、組合の名称も「マンション敷地売却組合」から「マンション等売却組合」になりました。

名称の変更だけを見て「言い換えただけだろう」と思われるかもしれません。違います。同じ改正で、区分所有法(建物の区分所有等に関する法律)の側に、賃貸借の終了請求・使用貸借の終了請求・配偶者居住権の消滅請求という制度が新設されました。この新設が、借家人の扱いを根本からひっくり返しています。

旧法と新法はここが逆|新旧対比表

まず全体像を押さえてください。逆転しているのは5点です。

旧法 新法(2026年4月1日〜)
借家権 権利消滅期日に消滅 消滅しない(円滑化法149条1項)
明渡し義務 借家人も明渡し義務を負う 借家人は明文で除外(円滑化法155条)
契約の終わらせ方 事業手続の中で当然に消滅 賃貸借の終了請求+6か月(区分所有法64条の2)
補償金を払う人 組合 貸主である区分所有者(組合が請求した場合は組合も連帯)
補償の内容 権利補償+通損補償 通常生ずる損失」=用対連基準と同水準が想定

上から順に見ていきます。

借家権が消えるかどうか。 円滑化法149条1項は、権利消滅期日にマンションが組合に帰属し、「所有権並びに借家権及び使用貸借による権利以外の権利は、消滅する」と定めています。消えるのは抵当権などです。所有権・借家権・使用貸借は残ります。

明渡し義務があるかどうか。 円滑化法155条は、明渡し義務を負う占有者から「売却等マンションの借家権を有する者及び使用貸借による権利を有する者を除く」と明文で書いています。書き漏らしではなく、条文が名指しで外しています。

では、どうやって契約を終わらせるのか。 区分所有法64条の2の賃貸借の終了請求を使うか、任意の明渡し交渉をするしかありません。国土交通省の実務マニュアルも、「権利消滅期日に借家権は消滅しないことから、賃借人からの建物の明渡しを終えなければ、マンション等売却事業を進めることはできない」としています。

補償金を払うのは誰か。 区分所有法64条の2第3項は、「当該専有部分の区分所有者は」補償金を支払わなければならない、と定めています。組合ではありません。貸主です。組合が終了請求をした場合は、円滑化法122条3項の準用により組合も連帯債務者になります。

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古い情報がなぜこれだけ残っているのか

原因ははっきりしています。国土交通省の「マンション敷地売却ガイドライン」(令和4年3月改訂)が旧法ベースだからです。

このガイドラインには、「マンション敷地売却制度では、借家人は権利消滅期日までに補償金を取得し、権利消滅期日で借家権は消滅することとなります」と書かれています。旧法下ではそのとおりでした。現在は適用されません。

ネット上の解説記事の多くは、このガイドラインを下敷きに書かれています。国交省の公表資料ですから、参照元として何もおかしくありません。ただ、法改正に追いついていないのです。「借家権は権利消滅期日で消滅します」「補償金は組合から支払われます」——こうした記述を見かけたら、旧法の説明だと思ってください。

新法に対応した資料は、国土交通省「マンション等売却実務マニュアル」(令和8年3月)です。

「6か月」の正体を取り違えている解説がある

新法の解説には「6か月」という数字が出てきます。これを借地借家法27条の解約申入れ(申入れから6か月で終了)と混同している解説を見かけます。

違います。この6か月の正体は、区分所有法64条の2第2項です。

> 前項の規定による請求があつたときは、当該専有部分の賃貸借は、その請求があつた日から六月を経過することによつて終了する。

終了請求があった日から6か月で終了する、という規定です。円滑化法の側に6か月の規定はありません。円滑化法122条2項は、これと同じ構造の規定を組合について置いているものです。

条文が違えば、要件も効果も違います。借地借家法27条の解約申入れと、売却決議を前提とした区分所有法64条の2の終了請求は、別の制度です。混ぜて理解すると、自分がどの土俵に立っているのか分からなくなります。

起算日にも注意が要ります。実務マニュアルは、初日不算入の原則(民法140条)により「請求があった日から6か月」とは「賃貸借終了請求の意思表示が賃借人に到達した日の翌日から起算して6か月」を意味する、としています。

経過措置の落とし穴|「認可が古いから旧法」は通らない

ここが、この記事で一番お伝えしたいところです。よくある思い込みが、これです。

「うちのマンションは、組合の認可も売却決議も法改正前に済んでいる。だから旧法のままだろう」

通りません。根拠は3つあります。

(1)改正法附則5条5項2号。 施行日前に旧法120条1項の認可を受けた旧法116条のマンション敷地売却組合は、新法113条1項の認可を受けた新法109条のマンション等売却組合とみなす、と定めています。古い認可を受けた組合は、そのまま新法の組合になります。

(2)改正法附則5条7項。 施行日前に旧法108条1項の規定によりされたマンション敷地売却決議は、新区分所有法64条の6第1項の建物敷地売却決議とみなす、と定めています。古い決議は、そのまま新法の決議になります。

(3)区分所有法の附則2条1項。 新区分所有法の規定は、附則に特別の定めがある場合を除き、この法律の施行前に生じた事項にも適用する、と定めています(旧区分所有法の規定により生じた効力は妨げません)。

例外は限定的です。附則2条2項は、施行日前に旧区分所有法の規定により招集の手続が開始された集会について、なお従前の例による、としています。

結論。認可も決議も法改正前でも、新法が適用されます。

認可が古いことを理由に「旧法だから借家権は権利消滅期日で消えます」と説明され、そのまま受け入れてしまえば、新法で残るはずの借家権を、自分から手放すことになりかねません。

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借主側は何を確認すべきか

示された資料の日付を見てください。制度の名前が「マンション敷地売却事業」のままの資料は、旧法の説明です。

そして、明渡しと補償金の関係です。区分所有法64条の2第5項は、賃貸借が終了したときであっても、賃借人は補償金の提供を受けるまでは明渡しを拒むことができると定めています。実務マニュアルも、賃貸借の終了請求の場合は明渡しと補償金の支払いが同時履行になる、としています。

→ 関連:マンションの敷地売却で借家人・テナントはどうなる?2026年4月施行の新法を解説

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よくある質問

Q. ネットの記事に「借家権は権利消滅期日で消滅する」と書いてありました。間違いですか?

A. 旧法の説明です。国土交通省の「マンション敷地売却ガイドライン」(令和4年3月改訂)にその記述があり、多くの解説記事がこれを下敷きにしています。新法では、円滑化法149条1項により借家権は権利消滅期日に消滅しません。

Q. 組合の認可が法改正より前に下りています。旧法が適用されるのではないですか?

A. 新法が適用されます。改正法附則5条5項2号により、施行日前に旧法120条1項の認可を受けたマンション敷地売却組合は、新法のマンション等売却組合とみなされます。売却決議についても附則5条7項で同様のみなし規定があり、区分所有法の附則2条1項は、新法の規定を施行前に生じた事項にも適用するとしています。

Q. 「6か月」は借地借家法の解約申入れのことですか?

A. 違います。区分所有法64条の2第2項の規定で、賃貸借の終了請求があった日から6か月の経過によって賃貸借が終了する、というものです。円滑化法の側に6か月の規定はありません。要件も効果も異なる別の制度です。

Q. 貸主から口頭で「終了請求します」と言われました。これで6か月が始まるのですか?

A. 賃貸借の終了請求は要式行為ではないため、口頭による請求も可能とされています。起算点は、初日不算入の原則(民法140条)により、意思表示が到達した日の翌日からです。口頭の場合、請求の有無やその時期が後日の争点になりえます。何をいつ言われたのかを記録してください。


旧法と新法が逆になっている以上、「よく調べたつもり」が一番危ない状態です。読んだ記事が旧法ベースなら、結論も逆になっています。

貸主や組合から退去の話が出ているなら、届いている書面と、示された資料の日付を確認してみましょう。そのうえで、弁護士にご相談ください。

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監修:和氣 良浩(弁護士法人ブライト 代表弁護士・大阪弁護士会)

大阪・神戸を拠点に企業法務・顧問弁護士サービスを提供。みんなの法務部として中小企業の法的リスク対応を日々サポートしています。

※本記事は2026年7月時点の法令に基づく一般的な解説です。個別の事案については結論が異なる場合がありますので、弁護士にご相談ください。

本記事は、一般的な情報の提供を目的とするものであり、個別案件に関する法的助言を目的とするものではありません。また、情報の正確性、完全性及び適時性を法的に保証するものではありません。
なお、本記事の内容に関する個別の質問や意見などにつきましては、ご対応できかねます。ただし、当該記事の内容に関連して、当事務所へのご相談又はご依頼を具体的に検討されている場合には、この限りではありません。
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