賃貸借契約の更新拒絶通知|貸主側の「正当事由」要件と借主側の対抗手段【弁護士解説】

賃貸借契約の更新拒絶通知|貸主側の「正当事由」要件と借主側の対抗手段【弁護士解説】

和氣 良浩

監修:和氣 良浩(わけ よしひろ)

弁護士法人ブライト|代表弁護士|大阪弁護士会

大阪で20年以上、中小企業の企業法務・顧問弁護士サービスを提供。顧問先130社以上に透明性の高いリーガルサポートを実践している。

賃貸借契約の期間が満了する前に、貸主から「更新を拒絶する」と通知を受けた——そのような状況に直面した借主、あるいは更新を断って物件を取り戻したい貸主、双方から相談が寄せられます。

結論を先にお伝えします。普通借家契約における更新拒絶は、借地借家法28条が定める「正当事由」がなければ法的に無効です。貸主が一方的に「出て行ってほしい」と通告しても、借主は正当事由が認められない限り居座り続けることができます。逆に正当事由が認められれば、立退料の支払いを補完手段として、貸主は明渡しを実現できます。

この記事では、更新拒絶通知の法的位置づけ、正当事由の判断要素、通知時期・手続き、立退料の相場、借主側の対応手段、定期借家への切り替えの可否、大阪での建物明渡訴訟の傾向まで、弁護士が実務的な視点で解説します。

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1. 更新拒絶通知の法的位置づけ(借地借家法28条)

普通借家契約と定期借家契約の違い

まず前提として、賃貸借契約には「普通借家契約」と「定期借家契約」の2種類があります。

普通借家契約は、期間満了後も正当事由なしには更新を拒絶できません。社会的弱者である借主を保護するために、借地借家法が強力な更新拒絶規制を設けています。

定期借家契約は、契約で定めた期間が満了すれば原則として契約が終了します。更新拒絶の概念自体が存在せず、「再契約するかどうか」を当事者が任意に決定できます。

この記事では主に普通借家契約における更新拒絶を扱います。

借地借家法28条の内容

⚖️ 借地借家法28条(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)

  • 正当事由が必要:貸主が更新拒絶・解約申入れをするには「正当事由」が必要
  • 正当事由の判断要素:①貸主・借主が建物使用を必要とする事情、②従前の経緯(賃貸借に関する経緯)、③建物の利用状況・現況、④財産上の給付(立退料)の申出
  • 正当事由なし=法律上無効:正当事由が認められなければ、更新拒絶・解約申入れは効力を生じない

根拠条文:借地借家法28条

借地借家法28条は強行規定です。契約書に「貸主はいつでも解約できる」と書いてあっても、この条文に反する特約は無効となります。借主保護の観点から、非常に強力な規定です。

更新拒絶と解約申入れの違い

更新拒絶には2つのパターンがあります。

  • 期間満了前の更新拒絶:期間の定めのある普通借家契約で、期間満了の1年前〜6ヶ月前の間に通知する
  • 解約申入れ:期間の定めのない普通借家契約で、6ヶ月前に解約申入れをする

いずれも正当事由が必要であり、正当事由なしには効力が生じません。

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2. 正当事由の判断要素

更新拒絶の可否を決める「正当事由」は、以下の4つの要素を総合的に判断します。どれか一つだけで決まるわけではなく、複数の事情を組み合わせて評価されます。

① 貸主・借主が建物使用を必要とする事情

最も重視される要素です。貸主側の自己使用の必要性が高いほど、正当事由が認められやすくなります。

貸主側の事情(認められやすい例) 借主側の事情(対抗力が高い例)
自ら住む・事業のために使う必要がある 長年(10年超)の居住・営業実績がある
他に居住・事業場所がない 移転先を見つけることが著しく困難
親族の居住・介護のために使う必要がある 固定客・地域との関係が事業の生命線
建物を取り壊して新築・大規模改修する計画がある 引っ越しにより生計・健康に重大な影響が生じる

判例では、「貸主が他に居住できる家屋を所有している」「使用目的が不明確・変遷している」場合は、自己使用の必要性が認めにくいとされています。

② 建物の老朽化・危険性

建物の劣化が著しく、安全性に問題がある場合には、正当事由の補強要素となります。ただし「老朽化しているから」だけでは正当事由として十分でないのが実務の現実です。

  • 耐震性能が現行基準(1981年以降の新耐震基準)を大幅に下回る
  • 建物の一部が崩落・倒壊の危険がある
  • 大規模修繕を行わない限り継続使用が困難

老朽化を理由にする場合は、専門家(建築士等)による建物診断報告書を証拠として準備することが重要です。

③ 賃貸借に関する経緯・従前の事情

貸主が低廉な賃料で貸し続けてきた経緯、当初から一定期間後の明渡しを前提とした賃貸借であった事情などが考慮されます。逆に、借主が賃料を滞納せず誠実に使用してきた場合は借主側の主張を補強します。

④ 立退料(財産上の給付)

正当事由が単独では不十分な場合でも、立退料の申出が「補完手段」として正当事由を補強します。多くの実務ケースでは、自己使用の必要性が中程度であっても、相当額の立退料を提示することで正当事由が認められています。

立退料の詳細は後述します。

3. 更新拒絶通知の時期と手続き

通知の期限(期間満了の1年〜6ヶ月前)

借地借家法26条1項は、更新拒絶の通知時期を定めています。

⚖️ 更新拒絶通知の適法時期

  • 通知期間:期間満了の1年前〜6ヶ月前の間(この「窓」の中で通知する必要がある)
  • 6ヶ月未満の通知:期間満了の6ヶ月を切った時点の通知は無効(法定時期を逸脱)
  • 1年を超えた通知:早すぎる通知は無効(更新拒絶の効力が生じない)
  • 期間の定めのない契約:解約申入れは6ヶ月前に行う(借地借家法27条)

根拠条文:借地借家法26条1項・27条

通知の方法と証拠保全

更新拒絶通知は、口頭でも書面でも法律上は有効です。ただし、通知の存在・内容・時期を立証するために、以下の方法で行うことが強く推奨されます。

  • 内容証明郵便+配達証明:通知日・内容・受領の3点が公的に証明される(最も確実)
  • 書留郵便:配達記録が残る(内容証明より安価だが内容の証明はできない)
  • 直接交付+受領書:相手方に受領確認のサインをもらう

口頭のみの通知は、後に「通知した・しない」で紛争になります。内容証明郵便の書き方を参考に、適切な書面で通知することを推奨します。

通知後も自動更新される場合

更新拒絶通知を適法に行っても、期間満了後も借主が使用を継続し、貸主が異議を述べなかった場合は「法定更新」が成立します(借地借家法26条2項)。通知後は速やかに明渡しを求める行動を取らなければなりません。

4. 立退料の相場と算定方法

立退料の法的性質

立退料は、正当事由が不十分な場合に「補完手段」として機能する財産上の給付です。借主の損害(引越費用・移転先確保・営業損失など)を補填することで、正当事由を補強します。

立退料の金額に法的な基準はなく、最終的には裁判所が事案に応じて判断します。ただし実務上の相場観はあります。

居住用物件の立退料相場

居住期間・状況 立退料の目安
5年未満・単身者 家賃6ヶ月〜1年分+引越費用
5〜10年・家族世帯 家賃1年〜2年分+引越費用・礼金相当
10年超・高齢者・障害者等 家賃2年〜3年分+特別の事情に応じた上乗せ
建物の経済的価値が高い場合 借家権価格(地価×借家権割合)で算定することも

事業用物件(テナント・オフィス)の立退料相場

事業用物件の場合、居住用より立退料が高額になる傾向があります。借主側に営業損失・顧客喪失・設備移転費用が発生するためです。

事業の状況 立退料の目安
小規模事業・短期営業 賃料1年〜2年分+移転費用
長期営業・固定顧客あり(飲食・小売等) 賃料3年〜5年分+営業損失補填
代替物件確保が著しく困難な業種 賃料5年分以上になるケースも
オフィス原状回復費用が多額の場合 立退料に原状回復相当額を加算することも

大阪では、老朽化ビルの建替えに伴う立退き案件が多く、テナントが10年以上営業している飲食店・クリニック等では、立退料交渉が1,000万円を超えるケースも珍しくありません。

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5. 借主側の対応手段

貸主から更新拒絶通知を受けた借主は、以下の手段で対抗することができます。あきらめる必要はありません。

① 更新請求・使用継続による法定更新

期間満了の前または後に、借主が更新を請求する(または使用継続する)と、法定更新が成立します(借地借家法26条)。貸主が正当事由のある異議を述べなければ、賃貸借は従前と同一条件で更新されたものとみなされます。

実務上は、貸主の更新拒絶通知に対して「更新します」と書面で回答し、退去しない——という対応が有効です。

② 賃料の供託

貸主が更新を拒絶して賃料の受け取りを拒否した場合、借主は法務局に賃料を供託することで、賃料不払いによる契約解除を防ぐことができます(民法494条)。

  • 供託先:住所地(または弁済地)の法務局・地方法務局
  • 手続き:供託書の作成・提出と賃料相当額の納付
  • 効果:賃料を「払った」と同等の法的効果が生じる

供託は弁護士に依頼せず本人申請も可能ですが、供託要件を誤ると無効になるリスクがあります。専門家への確認を推奨します。

③ 更新拒絶無効の確認訴訟・明渡請求への応訴

貸主が建物明渡訴訟を提起してきた場合、借主は訴訟で正当事由の不存在を主張して争うことができます。また、借主側から積極的に「更新拒絶は無効」との確認を求める訴訟を提起することも可能です。

④ 損害賠償請求

正当事由なく強引に退去を強制した場合や、明渡し後に正当事由がなかったことが判明した場合は、借主は貸主に対して損害賠償を請求できます。賃料差額・引越費用・休業損害などが対象になります。

関連記事:賃貸借契約を解除する方法も参照ください。

⑤ 立退料の増額交渉

正当事由が認められる可能性が高くても、立退料の金額が低すぎる場合は増額交渉ができます。弁護士を代理人として立てることで、交渉力が格段に上がります。

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6. 定期借家契約への切り替えはできるか

原則:貸主が一方的に切り替えることはできない

貸主が「今後は定期借家契約にする」と一方的に通告しても、借主の同意なしに普通借家から定期借家への切り替えはできません。

判例・実務は、普通借家の「更新」という形で定期借家契約を締結させようとする合意について、強行規定(借地借家法29条1項・30条)に反するとして無効としています。

例外:建物を一旦明渡した後の再契約

正当事由ある更新拒絶により借主が明け渡した後、新たな借主と定期借家契約を締結することは自由です。また、既存の借主と合意の上で「一旦解約→定期借家として再契約」する手法も理論上は可能ですが、後に強迫・錯誤などを理由に争われるリスクがあります。

定期借家契約の中途解約ルール

定期借家契約の途中解約については、定期借家契約の途中解約(借主・貸主向け)をご参照ください。定期借家への切り替えを検討している場合は、定期借家契約は中途解約できる?も合わせてご確認ください。

7. 大阪での建物明渡訴訟の傾向

大阪地方裁判所の実務

大阪は、都市再開発・ビル建替えに伴う立退き案件が全国的にも多い地域です。大阪地方裁判所では、建物明渡訴訟において以下の傾向があります。

  • 和解率が高い:訴訟になっても裁判所が積極的に和解を促すため、立退料の折り合いがつけば和解で終結するケースが多い
  • 正当事由の審査は厳格:自己使用の必要性について具体的な証拠(収入証明・移転計画書等)がないと認められにくい
  • 老朽化単独では不十分:「建物が古いから」だけでは正当事由と認められず、立退料の補完が求められることが大半
  • 調停前置主義の活用:民事調停を先行させると、双方にとって費用・時間を節約できる

訴訟の費用・期間目安

手続 期間の目安 費用の目安
弁護士交渉(任意交渉) 1〜6ヶ月 着手金20〜50万円程度
民事調停 3〜6ヶ月 申立費用数千円〜+弁護士費用
建物明渡訴訟(和解) 6ヶ月〜1年 訴訟費用+弁護士費用50〜100万円程度
建物明渡訴訟(判決) 1〜2年以上 訴訟費用+弁護士費用100万円以上

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よくある質問

更新拒絶通知が届いたが、正当事由があるかどうか判断するにはどうすれば良いですか?

正当事由の有無は、貸主の自己使用の必要性、建物の状況、賃貸借の経緯、立退料の提示内容などを総合的に評価して判断します。法律の専門知識が必要なため、通知を受け取ったら早めに弁護士に相談することをお勧めします。大阪の弁護士法人ブライトでは、通知の内容を確認した上で、正当事由の有無と対応方針をアドバイスします。

更新拒絶通知の期限(1年〜6ヶ月前)を過ぎてしまった場合、貸主はどうすれば良いですか?

期間満了の6ヶ月前を過ぎた通知は法律上無効です。この場合、その期の更新を拒絶することはできず、契約は更新されます。次の更新期まで待って改めて適法な時期に通知するか、期間の定めのない契約に移行した後に解約申入れ(6ヶ月前)をする方法を検討します。いずれにせよ正当事由の準備・立退料の検討は先行して進めておくことが重要です。

立退料を受け取ったら出て行かなければなりませんか?

立退料の受け取り自体は「退去に同意した」とは直ちに解釈されません。ただし、立退料を受け取る際に「退去に同意する」旨の合意書や和解書にサインしてしまうと、退去義務を負うことになります。立退料の支払申出を受けた場合は、金額が適正か、サインの前に弁護士に内容を確認してもらうことを強く推奨します。

建物の老朽化を理由に更新拒絶された場合、借主はどう対抗できますか?

老朽化だけを理由とした更新拒絶は、裁判所でも正当事由として認められにくい傾向があります。借主側は、①自己使用の必要性がないこと、②代替物件を見つけることが困難であること、③提示された立退料が低すぎること、を具体的に主張して争うことができます。大阪では老朽化ビルの立退き案件が多く、弁護士を介した交渉・調停で解決するケースが多い傾向にあります。

テナントとして長年営業してきたが、更新拒絶で立退きを求められた。どのくらいの立退料を請求できますか?

事業用テナントの立退料は、営業期間・固定顧客の有無・業種・移転コストなどによって大きく異なります。目安として、長期営業(10年超)で固定客が多い飲食店・クリニック等の場合、賃料の3〜5年分以上の立退料が認められた事例もあります。まず弁護士に相談して、あなたの具体的な状況に基づいた試算と交渉方針を立てることをお勧めします。大阪では立退き交渉の実績豊富な弁護士法人ブライトにご相談ください。

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