就業規則がない会社のリスクと解雇無効判決の実例|弁護士が緊急解説【会社側・使用者側】

就業規則がない会社のリスクと解雇無効判決の実例|弁護士が緊急解説【会社側・使用者側】

和氣 良浩

監修:和氣 良浩(わけ よしひろ)

弁護士法人ブライト|代表弁護士|大阪弁護士会

大阪で20年以上、中小企業の企業法務・顧問弁護士サービスを提供。顧問先130社以上に透明性の高いリーガルサポートを実践している。

「就業規則?作ってないよ」という中小企業の経営者が大阪でも少なくありません。しかし弁護士法人ブライトに寄せられた労務相談を振り返ると、「就業規則がなかったために解雇が無効になった」「退職金を払うことになった」「残業代を全額支払うことになった」というケースが繰り返し発生しています(ケースZ2:就業規則に固定残業代の根拠がなく数百万円の残業代請求に直面した運送会社の実例を含む)。

就業規則の整備は「大きな会社のすること」ではありません。1人でも社員を雇っている中小企業にとって、就業規則は「問題社員対応の保険」です。本記事では就業規則がないことのリスクと、今すぐ整備すべき理由を解説します。

就業規則の整備を今から — 問題社員対応の「保険」をかける

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就業規則がない会社は解雇できないのか?

結論:就業規則がなくても解雇はできますが、著しく難しくなります

労働契約法16条は「解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、権利を濫用したものとして無効とする」と定めています。就業規則がない場合、「懲戒事由」「解雇事由」の根拠がなくなるため、解雇の合理性・相当性を立証するのが非常に困難になります。

また、懲戒処分(戒告・減給・降格・懲戒解雇)は最高裁平成15年10月10日判決(フジ興産事件)により、就業規則に根拠規定がなければ有効に成立しないとされています。就業規則のない会社には懲戒処分の手段がほぼないのです。

就業規則なしで起こった解雇トラブルの実例

実例1|解雇理由が「合理的」と認められなかったケース

大阪の弁護士法人ブライトの顧問先の類似事例として、就業規則に「遅刻・無断欠勤が続く場合は解雇できる」という条文がなかった会社が、遅刻を繰り返す社員を解雇しようとしたケースがあります。社員側は労働審判を申立て、会社は「就業規則に解雇事由の記載がない=懲戒処分の根拠がない」と判断されました。最終的に4ヶ月分の賃金に相当する解決金を支払うことになりました。

実例2|固定残業代の根拠がなく残業代を全額請求されたケース

Slack相談履歴から抽象化した典型事例として、ある運送会社で「残業込みの給与」として長年運用していたが、就業規則の賃金規定に固定残業代(みなし残業)の明記がなかったため、退職した問題社員から弁護士を通じて300万円超の残業代請求を受けたケースがあります。最終的に150〜200万円の和解金で解決しましたが、就業規則を整備していれば防げた事案でした。

実例3|服務規律の根拠がなく懲戒処分が無効になったケース

就業規則に「秘密保持義務」「SNS投稿禁止」の規定がなかった会社で、社員が会社の内部情報をSNSに投稿。懲戒解雇を通知したところ、社員側が「就業規則に禁止規定がないから懲戒できない」と主張し、労働審判で会社側が敗れたケースがあります。

⚖️ 就業規則に関連する主要法令・判例

  • 労働基準法89条:常時10人以上の労働者を使用する事業場は就業規則の作成・届出義務あり
  • 労働基準法90条:就業規則の作成・変更時は労働者代表の意見聴取義務
  • 最高裁平成15年10月10日(フジ興産事件):懲戒処分は就業規則上の根拠なしに成立しない
  • 労働契約法16条:解雇権濫用法理(就業規則の解雇事由が根拠になる)
  • 最高裁令和2年3月30日(国際自動車事件):固定残業代の有効性には基本給との区別と金額の明示が必要

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就業規則に必ず入れるべき10項目

項目 なぜ必要か
①解雇事由の明記 解雇の合理性の根拠。懲戒解雇・普通解雇それぞれの事由を具体的に列挙
②懲戒処分の種類と事由 懲戒処分はフジ興産判決で就業規則根拠必須。戒告〜懲戒解雇の段階を明記
③服務規律(禁止行為) SNS投稿禁止・秘密保持・競業避止・ハラスメント禁止等を列挙
④賃金規定(固定残業代) 固定残業代の有効性には「基本給との区別と金額の明示」が必要(令和2年最高裁)
⑤休職・復職の規定 メンタル疾患社員対応の根拠。休職期間・延長規定・復職可否の判断手順
⑥退職・退職金の規定 懲戒解雇時の退職金不支給・減額の根拠。退職予告期間
⑦副業・兼業規定 副業禁止・届出制・許可制の選択。違反時の懲戒事由として明記
⑧ハラスメント防止規定 パワハラ防止法(2022年中小企業義務化)対応。相談窓口・調査手順・処分
⑨試用期間の規定 試用期間の長さ・延長・本採用拒否の事由と手順
⑩業務命令・配置転換規定 業務命令・転勤・職種変更の根拠。違反時の懲戒処分との連結

就業規則がない場合の緊急対応:今すぐ着手すべき優先順位

ステップ1|まず「解雇事由・懲戒事由」だけを先に決める

就業規則の全項目を一度に整備しようとすると時間がかかり、その間に問題が発生するリスクがあります。弁護士法人ブライトが顧問先に推奨する緊急対応順序は次のとおりです。

  1. 第1優先(1〜2週間):解雇事由・懲戒事由・服務規律(禁止行為)の3章を作成し労基署に届出
  2. 第2優先(1〜2ヶ月):賃金規定(固定残業代の記載含む)・休職復職規定の整備
  3. 第3優先(3〜6ヶ月):退職金・副業・ハラスメント・試用期間・配置転換の各規定を整備

既に問題社員が在籍している場合は、就業規則を整備しながら並行して弁護士のアドバイスを受けることが不可欠です。就業規則の「不利益変更」(既存社員に不利な内容の追加)には別途同意手続きが必要になるため、注意が必要です。

ステップ2|社員への周知(効力発生要件)

就業規則は作成・届出だけでなく、社員への周知が法的効力の要件です(労働契約法7条)。周知の方法:就業規則の写しを各社員に配布・社内掲示板への掲示・社内イントラへの掲載・入社時の交付と説明など。「渡した」という事実を書面(受領書)で記録することが重要です。

ステップ3|「いつ整備したか」の記録を残す

就業規則を整備した日付と、それ以降に採用した社員か否かの区別は、労務トラブルが発生したときの重要な争点になります。整備した日付・届出日・社員への周知日を一覧で管理しておきましょう。

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就業規則の作成・見直しで弁護士に頼むメリット

「社労士に頼めばいいのでは?」という質問をよく受けます。社労士は就業規則の作成・届出手続きのプロですが、「この規定が労働審判で有効とされるか」「この条文で本当に解雇できるか」という法的有効性の判断は弁護士の専門領域です。

弁護士法人ブライトの「みんなの法務部」では、就業規則の作成・見直しを顧問業務として提供しています。具体的には:

  • 既存の就業規則の法的リスク診断(「法務ドック」)
  • 会社の業種・規模・運用実態に合わせたカスタマイズ
  • 労基署への届出(社労士と連携)
  • 社員説明会へのサポート
  • 問題社員対応と就業規則のリアルタイム連動(顧問業務)

顧問先130社以上を支援する大阪の弁護士法人ブライトでは、就業規則整備後に「就業規則に基づいた指導→問題社員の問題社員対応の迅速化」という対応を複数の顧問先で実践しています。弁護士歴平均14年以上のチームが、整備から運用まで一貫してサポートします。

就業規則整備の費用・期間の目安

対応内容 期間目安 備考
既存就業規則の法的リスク診断(法務ドック) 1〜2週間 顧問先は優先対応可
就業規則の新規作成(全章) 1〜3ヶ月 社労士と連携で労基署届出まで対応
緊急整備(解雇・懲戒事由のみ先行作成) 1〜2週間 問題社員対応が急を要する場合
既存規則の部分改訂・最新法令対応 2〜4週間 パワハラ防止・残業代時効延長等への対応

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よくある質問

Q. 従業員9人以下の会社は就業規則の作成義務がありませんか?

A. 労働基準法上の届出義務は10人以上ですが、1人でも社員を雇えば就業規則がないと労働トラブル時に解雇・懲戒処分の根拠がなくなります。「義務がないから作らない」は経営リスクです。

Q. 古い就業規則でも有効ですか?

A. 2022年のパワハラ防止法(中小企業義務化)、2020年の残業代時効延長(2年→3年)、育児介護休業法の頻繁な改正に対応していない古い規則は問題が生じる可能性があります。5年以上更新していなければ見直しを推奨します。

Q. ネットのひな形をそのまま使えますか?

A. 一般論として問題ないように見えるひな形でも、会社の実態(業種・勤務形態・固定残業代の有無等)に合わせたカスタマイズなしに使うと、労使トラブル時に機能しない場合があります。弁護士・社労士への確認を強くお勧めします。

Q. 就業規則がなくても採用時の雇用契約書があれば大丈夫ですか?

A. 雇用契約書で定めた事項は有効ですが、懲戒処分の手続き・解雇事由・服務規律など多くの事項は契約書だけでは対応できません。特に「懲戒処分は就業規則の根拠なしに成立しない」(フジ興産事件)という点は契約書で代替できません。

Q. 既存の社員がいる中で就業規則を新たに作ると「不利益変更」になりますか?

A. 就業規則の新設・変更が既存社員に不利益をもたらす場合は労働契約法10条の不利益変更の問題が生じます。合理的な理由と社員への説明・意見聴取のプロセスが必要です。弁護士のアドバイスを受けながら進めることで不利益変更のリスクを最小化できます。

Q. 就業規則を作った後、問題社員への懲戒処分にすぐ使えますか?

A. 就業規則を整備した後は、その規則を社員に周知(交付・掲示等)した上で、新たな違反行為に対して適用できます。ただし、就業規則を作る前から続いていた問題行為に遡って適用することは原則できません。整備後の新たな問題行為から適用対象となります。

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本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、特定の事案に対する法律アドバイスではありません。個別の対応については弁護士にご相談ください。

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なお、本記事の内容に関する個別の質問や意見などにつきましては、ご対応できかねます。ただし、当該記事の内容に関連して、当事務所へのご相談又はご依頼を具体的に検討されている場合には、この限りではありません。
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