退職勧奨の進め方と違法にならない手順|「追い出し部屋」と言われないために【使用者側 弁護士解説・大阪】

退職勧奨の進め方と違法にならない手順|「追い出し部屋」と言われないために【使用者側 弁護士解説・大阪】

和氣 良浩

監修:和氣 良浩(わけ よしひろ)

弁護士法人ブライト|代表弁護士|大阪弁護士会

大阪で20年以上、中小企業の企業法務・顧問弁護士サービスを提供。顧問先130社以上に透明性の高いリーガルサポートを実践している。

「会社を辞めてほしい社員がいるが、解雇するのはリスクが高い。退職勧奨は使っていい手段なのか」――大阪の中小企業の経営者から、顧問弁護士への相談でよく受ける質問のひとつです。

退職勧奨は、会社が社員に対して任意の退職を促す行為であり、それ自体は違法ではありません。しかし進め方を誤ると、「強要」「パワハラ」として損害賠償請求を受けるリスクがあります。実際、大阪地裁・東京地裁では、違法な退職勧奨に対して100万円〜300万円の慰謝料認容例があります。

このページでは、退職勧奨と解雇の違い・合法的な退職勧奨の進め方・絶対にやってはいけない言動・断られた場合の次の選択肢まで、使用者側弁護士の視点から解説します。

退職勧奨の進め方、弁護士に設計させてください

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退職勧奨と解雇の違い

退職勧奨と解雇は、よく混同されますが、法的な性質がまったく異なります。

項目 退職勧奨 解雇
法的性質 会社からの「辞めてほしい」という申し出。社員が同意して初めて効力が生じる 会社の一方的な意思表示。社員の同意不要で労働契約を終了させる
社員の自由 断る自由がある。断っても不利益取扱いは違法 拒否できない(ただし解雇無効の争いは可)
法的要件 任意性の確保が必要。強要・圧迫は違法 客観的合理的な理由+社会通念上の相当性(労働契約法16条)
会社側リスク 違法な退職勧奨は不法行為として慰謝料請求を受ける 解雇無効判決→バック給与支払い・復職命令のリスク

退職勧奨の最大のメリットは、社員が同意すれば「合意退職」として成立するため、解雇無効の争いが生じにくい点です。一方で、適切に行わなければ「強迫による意思表示」(民法96条)として合意退職を取り消される可能性があります。

退職勧奨と解雇、どちらが適切かご相談ください

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合法的な退職勧奨の5ステップ

退職勧奨を適法に進めるための手順を解説します。この5ステップを踏むことで、後から「強要だった」と争われるリスクを大幅に減らせます。

ステップ1:面談前の準備(目的・条件・書面の設計)

退職勧奨を行う前に、会社として「なぜ辞めてほしいのか」を整理します。業績不振・組織改編・配置転換の検討・就業規則違反の繰り返しなど、客観的な理由を準備します。あわせて、退職条件(退職金の上乗せ・退職日の猶予など)を検討しておきます。

事前に弁護士に相談し、「何を話すか・何を話してはいけないか」のスクリプトを作成することを強く推奨します。

ステップ2:個別面談の場を設ける(1対1か、会社側2名以内)

退職勧奨は個別面談で行います。会社側は1〜2名(上司+人事など)が適切で、3名以上になると「圧迫」と判断されるリスクが上がります。面談の冒頭で「今日はあなたの今後のキャリアについて話したい」と趣旨を説明します。

面談は1回の時間を1〜1.5時間以内に抑えることが大切です。長時間にわたる面談は「拘束」とみなされる可能性があります。

ステップ3:言葉の選び方(使っていい表現・使ってはいけない表現)

使っていい表現(例) 使ってはいけない表現(例)
「会社の方向性とのミスマッチがあると感じています。退職という選択肢を考えていただけますか」 「もう居場所はない」「辞めないと降格する」「次は解雇になる」
「ご自身のキャリアのために、転職を検討されてみてはいかがでしょうか」 「あなたのような人材は要らない」「毎日来るのが辛いでしょう」
「退職の意思が固まったら、できるだけ条件面でサポートします」 「辞めるまで毎日話し合う」「家族のことも考えなさい」

退職勧奨で問題になった裁判例(日本IBM事件・東京地裁2007年、ニプロ事件・大阪高裁2014年)では、「あなたは会社に必要ない」「次は解雇だ」といった言動が違法と認定されています。これらは会社側の感情から出た言葉であっても、損害賠償の対象になります。

ステップ4:「考える時間」を与える(即決を迫らない)

面談の場で即答を求めることは違法な強要とみなされるリスクがあります。「1週間考えてから返事をしてください」と猶予を設けることが重要です。また、「回答しなければどうなるか」を匂わせることもNGです。

ステップ5:合意退職書面の作成と署名取得

社員が退職に同意した場合、口頭だけで済ませず、退職合意書(退職届ではなく合意書)を作成します。退職合意書には、以下を明記します。

  • 退職日・退職理由(合意退職・自己都合・会社都合のいずれか)
  • 退職金・上乗せ条件
  • 守秘義務・競業避止条項(必要な場合)
  • 「合意書の内容に関し、民事上の請求を行わない」旨の清算条項(最重要)

清算条項がないと、合意退職後に「退職は強要だった」として訴訟を起こされるリスクが残ります。

退職勧奨に関する主な裁判例・条文

  • 下関商業高校事件(最高裁1980年7月10日):退職勧奨でも、その態様が社会通念上相当の限度を超えれば違法な権利侵害となる
  • ニプロ事件(大阪高裁2014年):連日の退職勧奨面談・「どうせ出世できない」等の発言が違法と認定。慰謝料110万円
  • 民法96条:強迫による意思表示は取り消すことができる(合意退職を無効にされる根拠)
  • 労働契約法16条:解雇は客観的合理的な理由と社会通念上の相当性が必要

「追い出し部屋」と言われないための注意点

退職勧奨と関連して問題になるのが「追い出し部屋(追い出し配転)」です。退職勧奨に応じない社員を、遠隔地の部署・閑職・業務量がゼロに近い部署に異動させることで、自ら辞めることを促す手法です。

2014年以降、大手企業の事例がメディアで取り上げられ、裁判にも発展しています。中小企業でも同様の問題が起きており、以下のケースは「追い出し部屋」と認定されるリスクがあります。

  • 退職勧奨に応じなかった社員を、翌日から業務が実質ゼロの部署に異動させる
  • 「次のプロジェクトには参加させない」と告げて孤立させる
  • 退職勧奨と同時期に合理的な理由のない大幅な降格・減給を行う
  • 退職勧奨に応じない社員に対して、同僚・上司が無視・排除するよう仕向ける

これらは不法行為(民法709条)またはパワーハラスメント(労働施策総合推進法30条の2)として会社が損害賠償責任を負う可能性があります。退職勧奨に応じない社員に対して「圧力をかけるために」行う不利益取扱いは、退職強要として問題になります。

退職勧奨を断られた場合の選択肢

退職勧奨を断られることは珍しくありません。断られた場合、次のどの方向に進むかを冷静に検討します。

選択肢1:一定期間待ち、改善状況を見る

退職勧奨を断られた後も、通常業務を継続させながら注意指導・改善指示を続けます。この期間に問題行為の記録を積み上げることが、後の解雇に向けた証拠固めになります。弁護士法人ブライトの顧問先では、退職勧奨を断られた後に3〜6ヶ月の証拠積み上げを経て、有効な解雇が実現した事案があります。

選択肢2:配置転換・職種変更を提案する

能力・適性の問題が退職勧奨の理由であれば、配置転換によって問題が解消するケースもあります。また、配置転換を経ても問題が解消しない場合、「配置転換で改善の機会を与えた」という証拠にもなります。

選択肢3:PIPを導入して改善期間を設ける

業績・能力不足の場合は、PIP(業績改善計画)を導入して具体的な目標・期間を設定します。PIPの詳細な進め方は能力不足社員への対応とPIP導入の手順をご参照ください。

選択肢4:解雇の検討(最終手段)

注意指導・退職勧奨・改善機会の付与を経ても改善がない場合、解雇を検討します。解雇は最終手段ですが、上記のプロセスを経ていれば「解雇の相当性」が認められやすくなります。解雇の具体的な手順と解雇予告の計算方法は解雇予告・解雇予告手当の計算と手順をご参照ください。

断られたあとの対応、一人で悩まないでください

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書面の残し方・証拠管理のポイント

退職勧奨の過程で最も重要なのが「記録の残し方」です。後から「強要された」と争われた場合、会社側が「適切な手順を踏んだ」ことを証明できなければ不利になります。

面談記録書(必須)

面談のたびに以下を記録します。

  • 日時・場所・出席者
  • 主な発言内容(逐語録でなくても要点を記録)
  • 社員の反応・返答内容
  • 「回答に猶予を与えた」事実

面談記録書は会社側だけで作成し、社員への署名は必須ではありません(署名を求めると「合意をとりつけようとしている」と主張される場合があるため)。

メール・チャット記録の保存

退職勧奨の経緯をメールやSlackで連絡した場合、そのログを保存します。「言った・言わない」の争いを防ぐ最も確実な手段です。

退職合意書の作成(合意が成立した場合)

口頭での合意だけで終わらせず、必ず書面化します。退職合意書の作成は弁護士に依頼することで、清算条項・守秘義務条項など必要な文言を漏れなく盛り込めます。

問題社員対応の全体像との連携

退職勧奨は、問題社員対応の選択肢のひとつです。問題の種類・経緯・社員の反応によって、最適な手段は異なります。退職勧奨・解雇・懲戒処分の使い分けと全体のフローについては、問題社員への対応完全ガイドもあわせてご参照ください。

また、弁護士法人ブライトの顧問弁護士サービス「みんなの法務部」では、退職勧奨の場への同席・合意書の作成・解雇に向けた証拠固めの設計など、使用者側に特化したサポートを提供しています。企業法務トップでは人事労務関連の記事も多数掲載しています。

よくある質問

退職勧奨を断った社員を解雇できますか?

退職勧奨を断ったこと自体は解雇の理由になりません。ただし、退職勧奨を行うに至った事情(能力不足・就業規則違反・問題行為の繰り返し)が継続している場合は、注意指導・改善機会の付与を経た上で解雇の検討が可能です。大阪の弁護士法人ブライトでは、退職勧奨後の証拠積み上げから解雇の手順設計まで使用者側として対応しております。

退職勧奨は何回まで行っていいですか?

法律で回数が定められているわけではありませんが、社員が「退職する意思はない」と明確に表明した後も繰り返す場合は違法と判断されるリスクが高まります(下関商業高校事件・最高裁1980年)。社員が断った場合は一定期間を置くか、別の対応方法を検討することが賢明です。

退職勧奨で退職した社員は失業給付を受けられますか?

退職届の記載や離職票の処理によって異なります。会社都合退職(特定受給資格者)として処理すれば、7日間の待期期間後すぐに失業給付を受けられます。自己都合退職として処理した場合は3ヶ月の給付制限があります。退職勧奨に応じてもらいやすくするために「会社都合退職扱い」を条件として提示するケースも実務では多いです。詳細は弁護士にご相談ください。

退職勧奨を弁護士に依頼するとどうなりますか?

弁護士が関与することで、(1)面談前の法的リスク整理とスクリプト作成、(2)合意書の文言設計(清算条項・守秘義務条項等)、(3)断られた場合の次の手順設計ができます。大阪の弁護士法人ブライト「みんなの法務部」では顧問先の退職勧奨に実際に同席し、トラブルなく合意退職を実現するサポートを行っています。まずは無料相談からご利用ください。

退職勧奨・問題社員対応は弁護士法人ブライトへ

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この記事の内容は「問題社員対応の全体フロー」の一部です。目的別の手段選択フローや他の対応手段については以下のハブ記事で解説しています。

→ 問題社員対応|辞めさせたいなら目的から考える【意思決定フロー付き・大阪の弁護士解説】

参考文献(当事務所蔵書)

退職勧奨そのものは使用者が基本的に自由に行える適法な働きかけですが、社員が拒否の意思を示した後も執拗に繰り返すなど社会通念上相当な範囲を逸脱すると違法な退職勧奨として不法行為となり、慰謝料の支払いを命じた裁判例もあります(渡辺弘『労働関係訴訟〔改訂版〕Ⅱ(リーガル・プログレッシブ・シリーズ)』(青林書院、2021年))。

  • 渡辺弘『労働関係訴訟〔改訂版〕Ⅱ(リーガル・プログレッシブ・シリーズ)』(青林書院、2021年)
  • 石嵜信憲ほか『労働契約解消の法律実務〔第3版〕』(中央経済社、2018年)
本記事は、一般的な情報の提供を目的とするものであり、個別案件に関する法的助言を目的とするものではありません。また、情報の正確性、完全性及び適時性を法的に保証するものではありません。
なお、本記事の内容に関する個別の質問や意見などにつきましては、ご対応できかねます。ただし、当該記事の内容に関連して、当事務所へのご相談又はご依頼を具体的に検討されている場合には、この限りではありません。
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