「雇用保険の手続で別の会社の名前が出てきた」「本人が『夜、別の会社でアルバイトをしている』と言い出した」——従業員の二重就労(掛け持ち勤務)は、たいてい前触れなく発覚します。 このとき会社が最初に迷うのが「これは懲戒の話なのか、給与計算の話なのか」です。結論から言うと両方で、順番を間違えると、懲戒処分が無効になるだけでなく自社が払うべきだった割増賃金の未払いという別の問題を自分で作り出してしまいます。 無断で副業をしていたこと自体は「服務規律」の問題です。一方、掛け持ち先も雇用契約であれば、労働基準法38条1項によって両社の労働時間が通算されます。処分を検討する前に、まず自社の労働時間管理と賃金計算が法令に沿っているかを確認する——これが二重就労の対応が他の問題社員対応と決定的に違うところです。 この記事では、大阪で中小企業の労務を扱う弁護士法人ブライトの企業法務チームが、発覚後の初動から労働時間通算の計算、割増賃金の負担者、健康確保、懲戒の当て方までを実務の順番どおりに整理します。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。 法務チェックリスト 無料ダウンロード 顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る 0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 二重就労・掛け持ち勤務とは|「無断副業」と何が違うのか 実務では「副業」「兼業」「ダブルワーク」「二重就労」が混ざって使われますが、会社の対応を分けるのは「掛け持ち先が雇用契約かどうか」の一点です。 二重就労=どちらも「雇用」であること 二重就労(掛け持ち勤務)とは、一人の労働者が事業主を異にする複数の会社と、それぞれ労働契約を結んで働いている状態です。正社員が夜間に別会社のアルバイトをしている、パートが2社でシフトに入っている、といったケースが典型です。 これに対し、掛け持ち先が業務委託・請負・フリーランス、あるいは自身の起業・会社役員(理事・監事等)である場合は労働基準法が適用されないため、労働時間の通算は行われません。厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(平成30年1月策定、令和2年9月・令和4年7月改定)も、フリーランス・独立・起業・共同経営・アドバイザー・コンサルタント・顧問・理事・監事等を通算されない例として明記しています。 ただし落とし穴があります。契約書の題名が「業務委託契約書」でも、実態が指揮命令下の労働であれば雇用と評価されることです。同ガイドラインも、請負であるかのような契約だが実態は雇用契約だと認められる場合には、実態に応じて労働基準法・労働安全衛生法上の使用者責任が問われるとしています(業務委託と雇用の違い・偽装請負のリスク)。 「無断副業」は服務規律の問題、「二重就労」は労働時間規制の問題 同じ事実から、性質のまったく違う2つの論点が同時に立ち上がります。分けずに議論すると必ず混乱します。 比較軸 無断副業(届出違反)の論点 二重就労(労働時間通算)の論点 問題の性質 服務規律違反・企業秩序 労働基準法上の労働時間規制・賃金 会社が問われること 懲戒処分は有効か・重すぎないか 割増賃金を払っていたか・上限規制を守っていたか 放置したときのリスク 企業秩序の弛緩、他の社員への波及 未払賃金請求、労基署の是正勧告、労災時の責任 時間の制約 発覚から処分までは慎重で構わない 賃金は毎月発生し続ける(放置するほど累積) 注意していただきたいのは最終行です。懲戒の検討はじっくりやってよいが、労働時間と賃金の是正は待ってくれない。「処分を決めてから考える」という順番は、会社にとって不利にしか働きません。 会社が同時に背負う3つの義務 二重就労を把握した会社は、①労働時間を通算して管理する義務(労基法38条1項)、②通算の結果、法定労働時間を超えた部分のうち自ら労働させた時間について割増賃金を支払う義務(同37条1項)、③健康確保措置と安全配慮義務——の3つを同時に負います。 「本人が勝手にやっていたことだから会社は関係ない」という整理は、少なくとも①②については通用しません。38条1項の「事業場を異にする場合」には事業主を異にする場合も含まれるというのが行政解釈(昭和23年5月14日付け基発第769号)であり、ガイドラインもこれを明示しています。 発覚したら最初にやること|処分より先に「事実の確定」 実務では、二重就労の相談を受けたとき、まず「懲戒できますか」への回答を保留します。処分の可否は事実が確定してからでないと判断できないからです。急ぐのは賃金計算に直結する情報の収集です。 STEP1|就労形態を特定する(雇用か、業務委託か) 最初に確認するのは「掛け持ち先で何をしているか」ではなく「どういう契約形式で、実態としてどう働いているか」です。雇用と判明すれば通算が必要になり、給与計算のやり直しが視野に入ります。業務委託・自営なら通算は不要ですが、競業・秘密漏えいという別の論点が前に出ます。 STEP2|通算に必要な項目を本人から申告させる ガイドラインは、通算対象となる場合に会社が本人から確認すべき事項を挙げています。これをそのまま社内の申告書式にするのが早道です。 他社の事業内容・従事する業務内容(競業性・秘密漏えいリスクの判断) 労働時間通算の対象になるか否か(雇用か業務委託かの切り分け) 他社との労働契約の締結日・期間(所定労働時間の通算順を決める) 他社での所定労働日・所定労働時間・始業終業時刻(通算計算の基礎) 他社での所定外労働の有無・見込み時間数・最大時間数(上限規制の遵守見込み) 他社での実労働時間等の報告手続・確認の頻度 とくに「契約の締結日」は見落とされがちですが、後述のとおりどちらの会社が割増賃金を負担するかを決める分岐点です。日付の分かる資料(労働条件通知書の写し等)まで出してもらうのが望ましい対応です。 STEP3|いきなり懲戒に飛ばない 実務でよく見るのが、発覚した翌日に懲戒委員会を開いてしまうパターンです。しかし裁判例を踏まえた考え方として、労働時間以外の時間をどう使うかは基本的に労働者の自由であり、会社が制限できるのは①労務提供上の支障、②業務上の秘密の漏洩、③競業による自社の利益侵害、④名誉・信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為——といった事情がある場合と解されています。ガイドラインも、この4類型を示したうえで「原則、副業・兼業を認める方向とすることが適当である」としています。 つまり「無断だったから処分」ではなく、「①〜④のどれに、どの程度当たるか」を立証できてはじめて処分の議論に入れるということです。この点は従業員の無断副業が発覚したときの対応|懲戒の可否と就業規則の整え方で、懲戒の相当性を中心に詳しく解説しています。 初動の流れ(7日間の目安) 二重就労が発覚してからの初動フロー 1〜2日目|情報の確保発覚の端緒を記録し、勤怠記録・シフト表を保全する。 ▼ 3日目|本人ヒアリング(懲戒の場ではないと明示する)就労形態・契約日・所定労働時間・実労働時間を聴取。申告書に落とす。 ▼ 4〜5日目|通算計算と賃金の点検通算して法定労働時間を超える部分と、自社が払うべき割増賃金の有無を確認する。 ▼ 6日目|健康確保の判断単月100時間未満・複数月平均80時間以内を通算で満たしているか。危険水域なら先に時間を止める。 ▼ 7日目以降|処遇の判断継続を認めるか、条件を付けるか、処分を検討するか。就業規則の改定要否も洗う。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。 法務チェックリスト 無料ダウンロード 顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る 0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 労働時間の通算(労基法38条1項)|何が通算され、何が通算されないのか ここが対応の中核です。「全部まとめて計算する」と思われがちですが、実際には通算される規定と通算されない規定が明確に分かれています。取り違えると、不要な管理を増やすか、守るべき上限を見落とします。 通算される規定・通算されない規定 項目 通算 内容 法定労働時間(労基法32条) 通算する 1日8時間・週40時間の判定は、自社と他社の労働時間を通算して行う 時間外労働と休日労働の合計で単月100時間未満・複数月平均80時間以内(36条6項2号3号) 通算する 労働者個人の実労働時間に着目した規制のため、他社の時間も含めて1か月単位で管理する 36協定の限度時間(月45時間・年360時間/36条4項)、特別条項の年の上限(同5項) 通算しない 個々の事業場の36協定の内容を規制するもの。自社の時間だけで判断する 休憩(34条)・休日(35条)・年次有給休暇(39条) 通算しない 労働時間に関する規定ではないため 実務上いちばん重いのは2行目です。単月100時間未満・複数月平均80時間以内は、他社での労働時間を含めて守らなければなりません。自社では月30時間の残業でも、掛け持ち先と合わせて100時間を超えれば抵触します。自社は他社の勤怠を直接見られないため、申告を受ける仕組みがなければ知らないうちに違反状態に置かれます。 通算の順序|所定労働時間は「契約の先後」、所定外は「発生順」 通算には決まった順序があり、ここが実務でもっとも間違えやすい部分です。 開始前(所定労働時間の通算):自社と他社の所定労働時間を通算し、法定労働時間を超える部分があれば、時間的に後から労働契約を締結した使用者の超過部分が時間外労働になる 開始後(所定外労働時間の通算):これに加えて、自社と他社の所定外労働時間を実際に行われる順に通算する つまり所定内は「契約が古いか新しいか」、所定外は「その日どちらが先に発生したか」で決まります。自社に所定外労働がない場合、所定外労働時間の通算は不要とされています。なお通算の基礎は自社の労働時間制度であり、週・月の起算日が他社と違っても自社の起算日を基に通算します。3社以上でも考え方は同じです。 計算例|自社が「先」か「後」かで結論が変わる 本業A社(1日8時間)と掛け持ち先B社(1日3時間)で考えます。数値は説明用の設例です。 ケース 契約の先後 ある1日の働き方 時間外になる部分 割増賃金を払う会社 ① A社が先・B社が後 A社8時間 → B社3時間 B社の3時間 B社(後から契約した側) ② B社が先・A社が後 B社3時間 → A社8時間 通算11時間のうち法定8時間を超える3時間 A社(後から契約した側) ③ A社が先・B社が後 A社8時間+所定外2時間 → B社3時間 A社の所定外2時間+B社の3時間 A社は自社の2時間、B社は自社の3時間 ②に注目してください。自社(A社)の働かせ方はまったく変わっていないのに、契約の先後だけで自社に割増賃金の支払義務が生じます。「うちは定時どおり8時間しか働かせていない」という説明は通りません。ヒアリングで契約締結日を押さえることが重要な理由です。 割増率は自社の就業規則等で定めた率(2割5分以上)です。通算して法定労働時間を超える部分が1か月60時間を超えた場合、その超えた時間のうち自ら労働させた時間は5割以上の率になります。 他社の労働時間はどうやって把握するのか 他社の実労働時間は労働者からの申告等で把握します。会社が他社に直接照会する義務も権限もありません。ガイドラインは、日々把握する必要はなく必要な頻度で足りるとし、1週間分を週末にまとめて申告させる、所定外労働があった場合のみ申告させる、上限規制の水準に近づいたときに申告させる——といった運用を例示しています。 ここで効いてくるのが就業規則です。「会社の照会があった場合は、副業・兼業に係る労働時間その他の事項を報告しなければならない」という申告義務条項がなければ、本人が黙ったときに会社は手を打てません。実務では、発覚してから就業規則を見て、この条項が無いと気づく会社が非常に多い印象です。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。 法務チェックリスト 無料ダウンロード 顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る 0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 割増賃金は自社が払うのか|負担者と、遡って請求されるリスク 「自ら労働させた時間」についてだけ払う 割増賃金の支払義務は各社が別々に負います。各使用者は、自社の労働時間制度を基に、まず労働契約の締結の先後の順に所定労働時間を通算し、次に所定外労働の発生順に所定外労働時間を通算したうえで、自社の法定労働時間を超える部分のうち「自ら労働させた時間」について割増賃金を支払う——という組み立てです。 他社が働かせた時間の割増賃金まで自社が払うわけではありません。しかし自社が働かせた時間であれば、通算の結果として法定労働時間を超えている限り自社が払う——ここが「自社だけ見ていれば足りる」という発想が通用しない理由です。 遡及請求と時効|放置するほど金額が膨らむ 二重就労を把握しながら通算せずに給与計算を続けると、その差額は未払賃金として積み上がります。賃金請求権の消滅時効は当面3年とされており(労基法附則の経過措置)、退職後に代理人から一括請求される展開は珍しくありません。 実務で会社側が訴訟局面で苦しくなるのは、タイムカードやPCログといった客観的な労働時間の記録が不十分なときです。当法人が使用者側で対応した事案でも、相手方が提出したチャット履歴が労働時間の証拠として持ち出され、こちらは客観的記録が乏しい状態から反論を組み立てざるを得ないケースがありました。二重就労が絡むと、会社が直接記録を持たない「他社での就労時間」まで加わります。申告書という形で記録を残すことが、そのまま防御になります。 管理モデル|他社の実労働時間を追わずに済む方法 掛け持ちの日数が多い場合や双方に所定外労働がある場合、毎回の申告と通算計算は現実的に回りません。そこでガイドラインは簡便な管理方法として「管理モデル」を示しています。 項目 使用者A(先に契約した会社) 使用者B(後から契約した会社) 上限の設定 Aの法定外労働時間+Bの労働時間(所定内+所定外)の合計が、単月100時間未満・複数月平均80時間以内となる範囲で、各社が自社の上限を設定する 割増賃金 自社の法定外労働時間について支払う 自社の労働時間について支払う 他社の実労働時間の把握 設定した上限内で働かせる限り不要 実務上のメリットは他社の勤怠を追いかけなくても法令を守れる状態を作れる点です。ただし設定した範囲を逸脱して働かせた場合はその逸脱した使用者が法違反を問われ得るとされており、上限を自社で守り切ることが前提です。なお合計を80時間超に設定すると翌月以降の調整が生じ得るため、その必要がない水準で労使が合意しておくことが望ましいとされています。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。 法務チェックリスト 無料ダウンロード 顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る 0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 健康確保と安全配慮義務|「知らなかった」が最も危ない 健康診断・面接指導の対象者判定は通算しない 意外に思われますが、健康確保措置(健康診断、長時間労働者への面接指導、ストレスチェック等)の実施対象者の選定にあたって、副業・兼業先の労働時間を通算することとはされていません。自社の労働時間で判断します。ただし会社の指示によって副業・兼業を開始した場合は、副業先との情報交換、それが難しければ本人からの申告により把握し、通算した労働時間に基づいて健康確保措置を実施することが適当とされています。 法令の線とは別に、安全配慮義務が残る ここが本当のリスクです。健康診断の対象者判定で通算しなくてよいことと、過重労働で健康を害したときに会社が責任を問われないことは、まったく別です。ガイドラインも、長時間労働や不規則な労働による健康障害を防止する観点から、自社と副業先の労務の兼ね合いの中で時間外・休日労働の免除や抑制等を行うなど、労使で話し合うことが適当だとしています。二重就労を把握しながら、通算して100時間近い時間外労働が続く状態を放置していた——という事実関係は、後から見れば説明の苦しい状況です。「本人が勝手に働いていた」という説明は、把握していた時点から先には通りません。 労災が起きたとき|合算と「複数業務要因災害」 掛け持ち勤務者に労災が発生した場合の取扱いは、令和2年の法改正で大きく変わりました。従来は災害が発生した就業先の賃金分のみで給付を算定していましたが、非災害発生事業場の賃金額も合算して算定することになり、労災認定にあたっても複数の就業先の業務上の負荷を総合的に評価することになりました。さらに両方で雇用されている場合、一方の就業先から他方へ移動する途中の災害は通勤災害として労災保険給付の対象になります(保険関係の処理は移動の終点となる事業場で行うとされています)。 実務でこの変化が効くのは健康障害が起きた後の「原因はどちらの仕事か」という争いです。当法人が受けた相談でも、会社側が「本人が掛け持ちしていたアルバイトも発症の一因ではないか」と示唆し、因果関係や素因減額を争点にする構えを見せていた例がありました。負荷を総合的に評価する枠組みがある以上、「自社の分だけを見ていれば足りる」という前提で防御を組み立てるのは難しくなっていると受け止めるべきです。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。 法務チェックリスト 無料ダウンロード 顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る 0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) 懲戒処分はできるか|「無断だったこと」だけでは足りない 処分の可否を分けるのは「実害」 前述のとおり、会社が副業・兼業を制限できるのは①労務提供上の支障、②業務上の秘密の漏洩、③競業による自社の利益侵害、④名誉・信用の毀損や信頼関係の破壊——といった事情がある場合です。二重就労では実務上①と③が中心になります。 類型 会社が示すべき事実 処分の相場観 ①労務提供上の支障 遅刻・早退・居眠り・ミスの増加など、掛け持ち開始後の勤務成績の変化を時系列で示す まず注意指導。改善なければ段階的に ③競業 掛け持ち先が競合であること、顧客・技術情報への接触可能性 重い処分が視野に入る。中止命令と並行 申告義務違反のみ(実害なし) 届出制・許可制の規定と、それに反した事実 単独で重い処分は無効リスクが高い 「就業規則に書いてあるのに無断でやった」という事実だけで懲戒解雇まで持っていく構成は、争われたときに耐えません。処分の重さは、実際にどのような支障が生じたかによって決まります。懲戒処分の段階の踏み方・手続については懲戒処分の進め方|譴責・減給・出勤停止・懲戒解雇の5段階と手続きをご覧ください。 やってはいけない対応 その場で「明日からやめろ」とだけ言う——制限できる事情の説明がなく、不利益取扱いと評価されかねません。ガイドラインも、副業・兼業に係る相談や自己申告を理由とする不利益取扱いはできないとしています 掛け持ち先に直接連絡して事情を聞く——本人の同意なく行えばプライバシーの問題に発展します 過去の割増賃金の未払いを放置したまま処分を進める——会社側の未払いが反撃材料になります 本人の同意なく給与から一方的に控除・減額する——賃金全額払いの原則との関係で別の違反を作ります 再発防止|就業規則・申告書式・社会保険をセットで直す 「届出制のまま」になっていないか 実務では、二重就労をきっかけに就業規則を点検すると、副業条項が古い「原則禁止」のままか、届出制と書いてあるだけで労働時間の申告義務・照会への回答義務が入っていない状態がよく見つかります。当法人の顧問先でも、法務ドックで規程を点検した結果、副業規定を届出制から許可制へ改めることをお勧めし、改定に至った例があります。 もっとも、単純に許可制へ寄せればよい話でもありません。ガイドラインは、禁止・一律許可制の企業に対し、自社の業務に支障をもたらすかを精査したうえで、そうした事情がなければ原則認める方向で検討することを求めています。「許可制にするなら、不許可にできる事由を具体的に書き切る」のが実務の落としどころです。 整備は単独では終わらない 実務で見ていると、二重就労の管理ルールだけが単独で欠けている会社はほとんどありません。当法人が顧問として労務体制の整備に入った企業でも、兼業の申請・許可制度を設計する場面で、36協定が未締結だった、フレックスタイム制の労使協定が届け出られていなかった、固定残業代の記載が有効性を欠いていた——といった課題が同時に出てきました。二重就労は労務管理の穴を教える「症状」であることが多いのです。 また、就業規則があっても個別の誓約書が取られていないケースも目立ちます。当法人でも、元従業員の競業が問題になった顧問先について、就業規則と秘密保持誓約書はあるが競業・副業に関する誓約書が無かったため、書面での同意を取る運用へ切り替えることをお勧めしたことがあります。掛け持ち先が競合に近いほど、書面の有無が後の交渉力を左右します。 整備チェックリスト 就業規則の副業条項:禁止・制限できる事由(労務提供上の支障/秘密漏洩/競業/名誉信用)が具体的に書かれているか 申告義務条項:労働時間その他の事項について、会社の照会に応じる義務が明記されているか 申告書式:契約締結日・所定労働時間・所定外の見込みまで書かせる欄があるか 誓約書:秘密保持・競業避止について、個別の書面同意を取っているか 雇用保険:原則は主たる賃金を受ける雇用関係のみ。65歳以上は2つの事業所の労働時間を合算する制度がある(令和4年1月〜) 社会保険:両方で被保険者要件を満たすときは、いずれかの年金事務所・医療保険者を選択し、報酬月額を合算して標準報酬月額を算定。保険料は各事業主が按分して納付する 社会保険は総務が最初につまずくポイントです。いずれの事業所でも要件を満たさない場合は、労働時間等を合算して要件を満たしても適用されません。逆に両方で満たす場合は選択と合算・按分の手続が必要です。給与計算に直結するため、通算計算と並行して確認してください。 規程の設計そのものについては副業・兼業解禁の就業規則設計|厚労省ガイドライン・許可制の要件・懲戒処分の基準、雇用契約書の記載事項については雇用契約書の作り方|必須記載事項・雇用形態別注意点もあわせてご確認ください。 弁護士に相談すべきタイミング|大阪の中小企業からのご相談 二重就労は、「発覚した瞬間」と「本人が辞める前」に相談していただくと、選べる打ち手が大きく変わります。 こういう状態なら早めにご相談ください 掛け持ち先が競合、または取引先である 通算すると、時間外労働が月80時間を超えていそうだ 本人が就労形態や労働時間の申告を拒んでいる 掛け持ち開始後に遅刻・ミス・体調不良が増えている 就業規則に副業条項がない、または10年以上見直していない すでに本人や代理人から未払残業代の話が出ている 弁護士法人ブライトの関わり方 弁護士法人ブライトは大阪を拠点に、法務部を持たない中小企業の「外部法務部」として顧問先130社以上と向き合っています。二重就労では、初動のヒアリング設計(何を聞き、何を書面に残すか)、通算計算と賃金リスクの試算、就業規則・申告書式・誓約書の整備、必要な場合の処分手続まで、順番を崩さずに伴走します。 ご相談自体は顧問契約がなくてもお受けしています。そのうえで、代理人として交渉や書面作成まで踏み込む段階では、顧問プランまたは法務ドック(単発の法務診断)とあわせてお引き受けする形です。二重就労は入口が「処分」ではなく「労務管理の点検」であることが多く、規程と運用ごと直したほうが再発を防げるためです。 問題社員対応全般の進め方は問題社員への対応手順|タイプ別5つのステップ、会社側・使用者側の労務トラブルへの取り組みは問題社員対応の特化ページ、顧問サービスは企業法務・顧問弁護士サービスをご覧ください。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。 法務チェックリスト 無料ダウンロード 顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る 0120-929-739(みんなの法務部)LINE相談(無料) よくある質問(Q&A) Q1. 従業員の掛け持ち先が「業務委託」だと言われました。労働時間の通算は必要ですか? 掛け持ち先が労働基準法の適用されない働き方(フリーランス、独立、起業、共同経営、コンサルタント、顧問、理事、監事等)であれば通算されません。ただし契約書の名称ではなく実態で判断されるため、指揮命令を受けて時間管理されている実態があれば雇用と評価され得ます。なお通算対象外でも、就業時間を把握し長時間にならないよう配慮することが望ましいとされています。 Q2. うちは1日8時間しか働かせていません。それでも割増賃金を払う必要がありますか? あり得ます。所定労働時間の通算は労働契約の締結の先後で行うため、自社が「後から契約した会社」に当たる場合、自社の所定労働時間のうち通算して法定労働時間を超える部分が時間外労働となり、自社が割増賃金を支払います。働かせ方が同じでも結論が変わるため、掛け持ち先との契約締結日を必ず確認してください。 Q3. 無断で二重就労していたことを理由に、懲戒解雇できますか? 「無断だった」という事実だけを理由とする重い処分は、無効と判断されるリスクが高いと考えてください。会社が副業・兼業を制限できるのは、労務提供上の支障、秘密の漏洩、競業による利益侵害、名誉・信用の毀損や信頼関係の破壊といった事情がある場合です。どの事情にどの程度当たるかを事実で示せるかが分かれ目で、いきなり解雇に飛ぶ構成は争われたときに耐えません。 Q4. 大阪の中小企業ですが、就業規則に副業の規定がありません。何から手をつけるべきですか? ①現に起きている二重就労の通算計算と賃金の点検、②本人からの申告書を整えて事実を固定、③就業規則に「制限できる事由」と「申告・報告義務」を追加、④秘密保持・競業避止の個別誓約書を整備——の順番をお勧めします。規程改定は時間がかかるため、①②を先に走らせるのが実務的です。弁護士法人ブライトでは大阪を中心に、規程の点検から申告書式の作成まで一体で対応しています。 この記事の監修者 和氣 良浩(わけ よしひろ) 弁護士法人ブライト|代表弁護士/パートナー弁護士 弁護士歴20年(2006年登録)/大阪弁護士会/大阪大学法学部卒 専門:顧問弁護士・企業法務・M&A・経営権紛争・事業再生 ※本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、個別の法律アドバイスではありません。具体的な問題については弁護士にご相談ください。 会社側・使用者側専門 問題社員対応に特化した弁護士チームのご案内 タイプ別の対応方法・解決事例・費用の考え方を、1つのページにまとめています。「うちのケースはどれに当たるのか」からご確認いただけます。 → 問題社員対応の特化ページを見る→ タイプ別の対応一覧 → 解決事例