試用期間の本採用拒否【会社側・使用者側 弁護士解説】目的と手段の比較・実務手順

試用期間の本採用拒否【会社側・使用者側 弁護士解説】目的と手段の比較・実務手順

和氣 良浩

監修:和氣 良浩(わけ よしひろ)

弁護士法人ブライト|代表弁護士|大阪弁護士会

大阪で20年以上、中小企業の企業法務・顧問弁護士サービスを提供。顧問先130社以上に透明性の高いリーガルサポートを実践している。

この記事の結論(要点)

「試用期間が終われば本採用しなくていい」は半分正しく、半分誤りです。本採用拒否は解雇に準じる扱いを受けるため、正当な理由と手続きが必要です。

ただし弁護士法人ブライトは「本採用拒否ができるかどうか」からは入りません。「なぜ本採用したくないのか」という目的を整理することが先です。能力不足なのか、勤務態度なのか、経歴詐称なのかによって、最適な手段は変わります。

「目的→手段の比較→実務手順」の順で整理します。

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よくある相談:「試用期間が終わるのですが、この社員を本採用したくないのです」

大阪のある中小企業の社長から、こういった相談が届きます。

  • 「5月に入社した営業職が、業務時間中に居眠りをしたり、同じことを何度教えても覚えてくれない。試用期間が終わるが、このまま本採用していいのか不安」
  • 「業務で車を使う職種なのに、危険な運転が目立つ。このメンバーを今後育てていくのは難しいと感じている」
  • 「面接ではしっかりした経歴を話していたが、蓋を開けてみたらスキルが著しく不足していた」
  • 「協調性がなく、周囲の社員が困っている。これ以上一緒に働くのは無理だという声も上がっている」

どの相談にも共通するのは「本採用したくない」という判断があること。そして多くの社長が「試用期間中だから自由に断れるはず」と思っていることです。

結論から言うと、これは半分正しく、半分誤りです

まず、自社の状況を整理してみてください

当てはまる項目が多いほど、対応の準備が整っています。空欄が多い場合は、動く前に「整える」段階です。

  • ☐ 試用期間の定義・期間が就業規則に明記されている
  • ☐ 本採用拒否の事由(能力不足・勤務態度不良等)が就業規則または雇用契約書に明記されている
  • ☐ 問題行動を口頭または書面で指導・注意した記録がある
  • ☐ 改善の機会を与えたことが確認できる(指導→経過観察→評価)
  • ☐ 試用期間中の勤務が14日を超えているか確認している(解雇予告の要否に関係する)
  • ☐ 採用時に求めるスキル・行動水準を明確にしていた(書面が望ましい)

空欄が多いなら、まず「記録の整備」と「就業規則の確認」から。チェックの数より、空欄をどう埋めるかが結果を分けます。

なぜ本採用したくないのか:目的を言語化する

「本採用したくない」という判断は正しい場合も多い。しかし、その「なぜ」を言語化できているかが重要です。理由によって、取るべき手段が変わるからです。

よくある理由と、それが法的にどの程度の根拠になるか

理由の種類 具体例 法的な根拠力 ポイント
能力・スキルの不足 業務で必要な技術が身についていない・同じミスを繰り返す 中〜高(記録次第) 指導記録・改善機会の付与が必須。採用時に求めるスキルを明示していたかも重要
勤務態度の問題 業務中の居眠り・無断遅刻・指示への従わない態度 中〜高(記録次第) 回数・頻度を記録すること。口頭注意だけでなく書面での警告が重要
協調性・コミュニケーションの問題 同僚との関係が著しく悪化・チームワークを乱す 低〜中(主観評価が多い) 「なんとなく合わない」は根拠にならない。具体的な行動・発言を記録する必要がある
経歴・スキルの詐称 面接で述べた経験・資格が実際には虚偽だった 高(詐称の証拠があれば) 経歴詐称は採用契約の重大な錯誤。詐称の事実と採用への影響を証拠化する
健康・安全上の懸念 危険業務での問題行動・業務継続に支障がある状況 中(客観的記録が必要) 「危険と判断した」という主観でなく、具体的な危険行為・インシデントの記録が必要

弁護士法人ブライトが顧問先企業から相談を受ける際、まずこの「なぜ本採用したくないのか」を丁寧に確認します。感情論を否定することなく、事実を整理する作業です。

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本採用拒否は最適な手段か:選択肢を比較する

「本採用したくない」という目的を達成する手段は一つではありません。本採用拒否(解約権の行使)が唯一の手段ではなく、状況によっては別の手段がより適切な場合もあります。

手段 向いている状況 法的リスク 一言
試用期間の延長 改善の兆しがある・判断材料をもう少し集めたい 低(就業規則に延長規定があれば) 本人の同意が望ましい。無制限の延長は不可
指導継続・改善計画 問題行動が軽微・改善意欲がある 最低(後の対応への布石になる) 記録が積み上がるので、後の本採用拒否・解雇の根拠にもなる
配置・職種の変更検討 今の職種は合わないが、別業務なら機能しそう 低〜中 会社にその余地があるか次第。本人の希望も確認
退職勧奨 本人に「辞めてほしい」旨を伝え、合意退職を目指す 中(強要にならないよう注意) 同意が取れれば争いになりにくい。拒否されたときの対応も準備が必要
本採用拒否(解約権行使) 客観的な問題行動の記録がある・指導しても改善なし 中〜高(正当事由が必要) 解雇に準じる扱い。記録・手続きが不十分だと無効リスク

本採用拒否は「一番シンプルで確実な手段」に見えますが、実際には最もリスクが高い選択肢の一つです。記録が不十分な状態で実行すると、後から「不当解雇」として争われる可能性があります。

一方で、退職勧奨や指導継続という手段を選ぶことは、社長の判断(本採用したくない)を否定するものではありません。「辞めてほしい」という目的を、より安全に達成する別ルートの提案です。

詳しくは問題社員対応の全体像もご参照ください。

本採用拒否が認められやすいケース・難しいケース

認められやすいケース

  • 採用時に求めるスキル・行動水準を明示しており、それを下回ることが客観的に示せる
  • 指導・注意を書面で複数回行い、改善機会を与えたことが記録に残っている
  • 経歴・資格を偽っていた事実が証拠で確認できる
  • 業務上の危険行為や重大なミスが繰り返し記録されている
  • 就業規則に本採用拒否の事由が明記されており、その事由に該当する

認められにくいケース(NG時の代替ルートも提示します)

  • 「なんとなく合わない」「印象が悪い」という主観的理由のみ → 代替:退職勧奨で合意を目指す
  • 指導・注意の記録が一切ない → 代替:まず書面指導を積み上げてから判断する
  • 試用期間の定義や本採用拒否事由が就業規則に書かれていない → 代替:就業規則を整備してから本採用拒否を検討する
  • 採用時に求めるスキルを明示していなかった → 代替:試用期間を延長し評価基準を設定し直す

※プライバシー保護のため、複数の事例をもとに内容を一部変更して紹介しています。

本採用拒否の可否、弁護士に確認してから動いてください

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実務プロセス:本採用拒否を行う場合の手順

本採用拒否を行うと判断した場合、以下の手順で進めます。

ステップ1:就業規則の確認

試用期間の定義・期間・本採用拒否の事由が明記されているか確認します。記載がない場合は、実施前に整備するか、法的リスクを理解した上で判断します。

ステップ2:解雇予告の要否を確認

試用開始から14日を超えて勤務している場合は、解雇予告(30日前の予告、または解雇予告手当の支払い)が必要です(労働基準法第20条)。14日以内であれば予告なしで可能ですが、現実的にはほとんどのケースで14日を超えています。

⚖️ 解雇予告に関する根拠条文

  • 労働基準法第20条:使用者は労働者を解雇する場合、少なくとも30日前に予告する、または30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければならない
  • 労働基準法第21条(除外規定):試用期間中で14日を超えない者への解雇は、第20条の予告規定の適用除外となる

根拠条文:労働基準法第20条・第21条

ステップ3:通知書の作成

口頭での通知は避け、書面(本採用拒否通知書)で交付します。通知書には以下の項目を含めます。

  • 本採用拒否の事実とその日付
  • 本採用拒否の理由(具体的に)
  • 最終勤務日または解雇予告手当の支払い

ステップ4:面談の実施

書面交付と合わせて、本人との面談を行います。説明が不十分だと「一方的に切られた」という印象になり、後の紛争につながるリスクが高まります。録音があると双方にとって明確です。

法律上のポイント(解約権留保付労働契約)

試用期間中の雇用契約は、法律上「解約権留保付労働契約」と呼ばれます。使用者が一定の条件のもとで解約できる権利(留保)を持つ契約という意味です。

この解約権の行使は「解雇に準じる」と判断されており、正当な理由なく行使することはできません。ただし、通常の解雇より「広い範囲で認められる」とされています(最高裁・三菱樹脂事件、1973年12月12日)。

三菱樹脂事件の判決は、「試用期間中の解約権行使は解雇権濫用法理が適用されるが、本採用後の解雇より緩やかに判断される」という立場を示しました。つまり、完全に自由というわけではないが、本採用後より機動的に判断できるというのが法律の考え方です。

「試用期間中なら自由に解雇できる」という誤解は根強く残っています。弁護士法人ブライトが顧問先企業に最も多く伝えているメッセージの一つが、この誤解の修正です。

⚖️ 解約権留保付労働契約のポイント

  • 「試用期間=自由解雇」は誤り:正当事由が必要(ただし本採用後より緩やかな基準)
  • 解雇権濫用法理は適用される:労働契約法第16条の「客観的合理的理由」「社会通念上相当」の要件
  • 三菱樹脂事件(最高裁1973年12月12日):試用期間中の解約権行使に関する基本判例

根拠:最高裁昭和48年12月12日大法廷判決・労働契約法第16条

再発防止:採用前から始める試用期間設計

問題が起きてから動くより、採用前に設計することが本質的な予防法務です。

就業規則に明記すべき項目

  • 試用期間の期間(一般的に3〜6ヶ月)と延長の可否・最大期間
  • 本採用拒否が可能な事由(能力不足・勤務態度・経歴詐称等)の具体化
  • 評価方法と通知タイミング

採用時に整備すべき書類

  • 雇用契約書(試用期間であることの明記・本採用拒否事由の記載)
  • 業務内容・求めるスキル水準の明示(後の評価基準になる)
  • 試用期間中の評価シート(定期的に記録を残す)

大阪のある医療クリニックでは、就業規則はあるものの試用期間中の特別手当を就業規則外で運用しており、本採用拒否の際に「不当な扱いを受けた」と主張される展開になりかけたケースがありました。規定と実態の乖離が紛争の火種になります。

※プライバシー保護のため、複数の事例をもとに内容を一部変更して紹介しています。

弁護士法人ブライトでは「法務ドック」として、就業規則・雇用契約書の包括的な見直しを定期的に実施しています。採用トラブルの多くは、事前の書類整備で防げます。

問題社員への対応全体については、問題社員対応の全体像(ハブページ)をご覧ください。退職勧奨については退職勧奨の進め方、能力不足解雇については能力不足社員の解雇もあわせてご参照ください。

採用・試用期間の設計から相談できます

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よくある質問

試用期間中なら、どんな理由でも本採用拒否できますか?

いいえ、自由に断ることはできません。試用期間中の雇用契約は「解約権留保付労働契約」であり、本採用拒否(解約権の行使)は解雇に準じる扱いを受けます。客観的に合理的な理由があり、社会通念上も相当と認められる場合にのみ有効です。ただし本採用後の解雇より、緩やかな基準で判断されます(最高裁・三菱樹脂事件)。「なんとなく合わない」「印象が悪い」だけでは根拠として弱い点に注意が必要です。

試用期間中の本採用拒否に、解雇予告は必要ですか?

試用開始から14日を超えて勤務している場合は、労働基準法第20条に基づき、30日前の解雇予告または解雇予告手当(30日分以上の平均賃金)の支払いが必要です。14日以内であれば予告なしで可能ですが、現実的にはほとんどのケースが14日を超えています。予告なしで突然通知すると、手続き上の違法が主張されるリスクがあります。

本採用拒否と退職勧奨はどちらがよいですか?

一概にどちらが良いとは言えません。本採用拒否は会社が一方的に行う措置であり、法的リスクが伴います。退職勧奨は本人の同意を得て合意退職を目指す方法であり、合意が取れれば紛争になりにくい利点があります。ただし、退職勧奨を拒否された場合の対応も準備が必要です。どちらが適切かは、問題の内容・記録の状況・本人の意向によって異なります。大阪の弁護士法人ブライトでは、状況を整理した上で最適な手段をご提案します。

就業規則に試用期間の記載がない場合はどうなりますか?

就業規則への記載がなくても試用期間自体は設けられますが、本採用拒否の事由や手続きが不明確になるため、紛争時に不利になる可能性があります。また、常時10人以上の労働者を使用する事業場では就業規則の作成・届け出が義務です(労働基準法第89条)。試用期間の規定は、採用前に整備しておくことを強くお勧めします。

大阪で試用期間・本採用拒否について弁護士に相談するには?

弁護士法人ブライトでは、大阪の中小企業の使用者側(会社側)の労務問題に対応しています。試用期間の設計・評価基準の整備から、本採用拒否通知書の作成・面談対応まで一貫してサポートします。まずは無料相談(0120-929-739)またはお問い合わせフォームからご連絡ください。顧問契約の場合は、採用段階からの法務設計も対応しております。

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参考文献(当事務所蔵書)

試用期間は判例上「解約権留保付労働契約」と位置づけられ(最大判昭48.12.12・三菱樹脂事件)、本採用拒否がどのような場合に許されるか、通常の解雇とどう異なるかは労働審判でも定番の争点とされています(豊川義明ほか『労働審判=紛争類型モデル〔第2版〕』(大阪弁護士協同組合、2013年))。

  • 豊川義明ほか『労働審判=紛争類型モデル〔第2版〕』(大阪弁護士協同組合、2013年)
  • 石嵜信憲ほか『労働契約解消の法律実務〔第3版〕』(中央経済社、2018年)
本記事は、一般的な情報の提供を目的とするものであり、個別案件に関する法的助言を目的とするものではありません。また、情報の正確性、完全性及び適時性を法的に保証するものではありません。
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