能力不足社員の解雇|大阪の顧問弁護士が教える判断基準と対応手順

能力不足社員の解雇|大阪の顧問弁護士が教える判断基準と対応手順

和氣 良浩

監修:和氣 良浩(わけ よしひろ)

弁護士法人ブライト|代表弁護士|大阪弁護士会

大阪で20年以上、中小企業の企業法務・顧問弁護士サービスを提供。顧問先130社以上に透明性の高いリーガルサポートを実践している。

この記事の結論

「仕事ができない社員を解雇したい」という相談に対して、ブライトは「解雇できるかどうか」の前に「その能力不足を、会社はどれだけ記録してきたか」を確認します。

日本の解雇規制は世界的に見ても厳しく、能力不足を理由にした解雇が裁判で認められるためには、改善機会を十分に与えた証拠が不可欠です。この事実を知らないまま動くと、解雇無効・地位確認訴訟・バックペイ請求という最悪のシナリオを招きます。

能力不足社員への対応、解雇の前に弁護士に相談してください

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「覚えが悪い、仕事ができない」——よくある相談の入口

ブライトへの相談でよく聞く言葉があります。

  • 「入社して半年になるが、教えたことを全く覚えない。このまま雇い続けるのは無理だ」
  • 「営業職なのに数字がまるで出ない。給与分の働きをしていない」
  • 「何度指導しても同じミスを繰り返す。もう限界だ」
  • 「試用期間中だから自由に解雇できると思っていたが、本当にそうか?」

これらの相談の背景にあるのは、「このまま置いておくことへの損害感」です。社長の感情としては非常に理解できます。しかし、ここで重要な事実があります。

「仕事ができない」だけでは、日本の法律上、解雇の正当な理由にはなりません。

解雇するためには、「能力不足が客観的に立証でき」「改善機会を十分に与えたにもかかわらず改善されなかった」という事実が必要です。この2点が揃っていない状態で解雇すると、解雇権濫用として無効になります(労働契約法第16条)。

解雇の前に「記録の状況」を確認しましょう

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📋 まず、自社の状況を整理してみてください

当てはまる項目が多いほど、対応の準備が整っています。空欄が多い場合は、動く前に「整える」段階です。

  • ☐ 具体的にどの業務がどの水準でできていないか説明できる
  • ☐ 指導・教育の記録が残っている
  • ☐ 改善目標と期限を本人に提示した
  • ☐ 配置転換・他部署での活用を検討した
  • ☐ 採用時に求めた能力水準が明確だった
  • ☐ 評価が主観でなく客観的事実に基づいている

空欄が多いなら、まず「指導記録」と「改善目標の明文化」から。チェックの数より、空欄の埋め方が結果を分けます。

ブライトが解雇の前に必ず確認する4つの事実

「能力不足で解雇できるか」という相談を受けたとき、ブライトが最初に確認するのは「解雇の手順」ではありません。現在の事実の状態です。

① 能力不足の具体的内容が記録されているか

「仕事ができない」という感覚的な評価ではなく、具体的な事実が必要です。

  • どの業務で、何回、どのようなミスが発生したか
  • 売上目標に対して何%の達成率か(数値で示せるか)
  • 業務指示をいつ・どのように出し、どの程度できなかったか

これらが記録(メール・業務日報・評価シート)として残っているかを確認します。記録がなければ、まず記録を作ることから始めます。

② 改善機会を十分に与えたか

「口頭で何度も言った」だけでは不十分です。改善機会として必要なのは次の要素です。

  • 書面による明確な指摘——「○○ができていない。△△までに××のレベルに達するよう改善せよ」という書面を渡しているか
  • 改善期間の設定——いつまでに改善すべきかの期限を伝えているか
  • 改善しなかった場合の結果の通知——「改善がなければ雇用継続が困難になる」と事前に伝えているか

この3点が揃っていない場合、「改善機会を与えた」とは言えません。

業務改善プログラム(PIP)の設計と活用

「改善機会を与えた」という事実を証拠として残す具体的な手段が、業務改善プログラム(PIP:Performance Improvement Plan)です。欧米では一般的ですが、日本でも能力不足解雇の有効性を高めるために活用できます。

ブライトが顧問先130社以上の使用者側対応を通じて確認してきた、PIPに盛り込むべき5項目は以下の通りです。

項目 記載内容の例
現状の問題点 「○○業務において、過去3ヶ月で△件のミスが発生した。期限遅延が○回あった」(数値で示す)
改善目標 「今後3ヶ月間で○○業務のミスを月1件以内に抑える」(数値化・具体化が必須。「積極的に取り組む」は不可)
改善期間 3〜6ヶ月が一般的。2週間・1ヶ月では「改善の機会を与えた」と評価されないリスクが高い
会社側のサポート 「週1回の面談を実施する」「OJT担当者を配置する」など、会社が何を提供するかを明示する
評価・確認方法 「期間終了時に目標の達成状況を確認し、改善が見られない場合は次の措置を検討する旨を本人に伝える」

PIPの文書(改善指導書)は必ず本人に交付し、内容確認の署名または受領確認を取ります。署名を拒否した場合は「交付した事実・内容を説明した事実」を記録するだけで足ります。この一手間が、後の紛争で決定的な差を生みます。

自社だけで作成したPIPは「形式だけ」と判断されるリスクがあります。大阪で能力不足対応を顧問弁護士に依頼する企業の多くは、このPIP設計の段階から弁護士と一緒に進めています。

③ 採用時に期待した能力水準を明示していたか

採用時に「この業務ができる人材」として採用したことの根拠が必要です。求人票・面接記録・雇用契約書に業務内容と期待水準が記載されているかを確認します。「なんとなく採用して、なんとなく不満が出た」というケースでは、解雇の根拠が薄くなります

④ 試用期間中か、本採用後か

試用期間中の解雇は、本採用後に比べて要件が緩やかとされていますが、「試用期間中だから自由に解雇できる」は誤解です。試用期間は「本採用が相当かを判断する期間」であり、合理的な理由なく解雇すれば無効になります(最判昭48.12.12・三菱樹脂事件)。

ただし、本採用後に比べれば要件は緩いため、試用期間中の段階で弁護士に相談することで選択肢が広がります。

なぜ「記録がない状態での解雇」が経営を傷つけるのか

実際の相談記録から、記録なしで動いたケースを紹介します。

※プライバシー保護のため、複数の事例をもとに内容を一部変更して紹介しています。

実例:試用期間中の解雇が危険と判断されたケース

5月入社の営業職。業務時間中の居眠り、教えたことを全く覚えない、車の運転を中心とした業務で危険と判断した。会社は「このメンバーを育てていくのは難しい」として解雇または退職勧奨を検討して相談してきた。

ブライトが確認したのは、「危険」「覚えが悪い」という評価を裏付ける具体的な記録の有無だった。記録がほとんどない状態だったため、「試用期間中でも、この状態での解雇は正当事由として弱い。書面指導・改善期間設定・記録の積み上げを先行させてから退職勧奨を試みるべき」とアドバイスした。

「危険」という感覚的評価を、業務ミスの具体的記録に変換することが最初の作業だった。

この事例が示すのは、「解雇の可否」は記録の量と質で決まるということです。会社が「もう無理だ」と感じた段階で弁護士に相談しても、記録がなければ打てる手が限られます。記録がある状態で相談に来た会社とは、選択肢の数が大きく違います。

「記録がない」状態からでも一緒に対応します

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実際の対応プロセス——ブライトが伴走するとこうなる

能力不足社員の対応を相談された場合、ブライトは次の流れで進めます。

ステップ 内容 期間目安
1. 現状確認 既存の記録量・就業規則の解雇事由・試用期間の有無を確認 初回相談
2. 書面指導の実施 業務上の問題点を書面で通知。「改善期間○ヶ月・改善しない場合は雇用継続困難」を明記 即時〜1週間
3. 改善記録の積み上げ 指導内容・本人の対応・改善状況を週次で記録 1〜3ヶ月
4. 改善なし→方針決定 記録を踏まえて退職勧奨か懲戒処分か解雇かを選択。弁護士と事前協議 改善期間満了時
5. 退職勧奨または解雇 顧問弁護士が方針を設計・場合によっては交渉代理 方針決定後

このプロセスを踏むことで、仮に解雇・退職勧奨に至った場合でも、「改善機会を与えた証拠がある」という状態で臨めます。これが最大のリスクヘッジです。

退職勧奨を先行させる場合

改善期間中に「一緒に働くのは難しい」と感じた場合、解雇より先に退職勧奨を試みることも選択肢のひとつです。退職勧奨で合意が得られれば、解雇手続きのリスクを回避しながら雇用関係を終了できます。ただし、退職勧奨も任意性の確保が必要です。詳しくは退職勧奨の進め方をご参照ください。

法律上のポイント——能力不足解雇が認められるための要件

労働契約法第16条は「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定めています。

能力不足を理由とした解雇について、裁判所は次の要素を総合的に判断します。

能力不足解雇が認められやすい要件

  • 採用時に高い能力水準を約束して採用した(専門職・管理職として採用)
  • 能力不足の事実が具体的に記録されている(ミスの内容・頻度・影響が数値化できる)
  • 改善機会を十分に与えた(書面指導・改善期間・フォロー体制の記録がある)
  • 改善の見込みがないことが客観的に示せる(複数回の指導後も改善なしの記録)
  • 他の部署への配置転換が不可能な規模の会社(中小企業の場合、配転先がないことが重要)

逆に、次のケースでは解雇が無効と判断されやすいです。

  • 「なんとなく使えない気がする」という感覚的評価のみ
  • 改善機会を与えた証拠がない(口頭注意のみ)
  • 採用時に何ができるかを明確にしていない
  • 入社直後(1〜2ヶ月)で業務習熟期間が不十分

能力不足解雇に関する主な裁判例

  • セガ・エンタープライゼス事件(東京地裁1999年):能力不足解雇が有効と認められた事例。注意指導の記録・配置転換の検討が評価された
  • フォード自動車事件(東京高裁1979年):成績不良を理由とする解雇が有効とされた事例。繰り返しの指導・警告の記録が決め手
  • エース損害保険事件(東京地裁2000年):能力不足解雇が無効とされた事例。会社側の指導不足・改善機会の欠如が理由とされた
  • 三菱樹脂事件(最判昭48.12.12):試用期間中の解雇は本採用後より要件が緩やかだが合理的理由が必要

根拠条文:労働契約法第16条(解雇権濫用法理)

弁護士に相談すべきケース

次のいずれかに該当する場合は、解雇を実行する前に必ず大阪の弁護士に相談してください。

  • 注意指導の記録がほとんどない(または口頭のみ)
  • 就業規則に能力不足の解雇事由が明記されていない
  • 試用期間が終了した後に解雇を検討している
  • 対象社員が「解雇は不当だ」と主張し始めている
  • 対象社員がメンタル不調を訴えている(問題のすり替えリスクがある)
  • 同業他社で能力不足解雇の訴訟が起きたと聞いて不安になっている

解雇の実行前に、必ず一度ご相談ください

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問題が解決した後に考えること——採用と記録設計の見直し

能力不足社員の問題が解決した後、ブライトが必ず提案することがあります。「なぜ、採用時に見抜けなかったのか」という問いと、「次に同じことが起きたとき、すぐ対応できる体制が整っているか」という確認です。

採用時の業務内容・期待水準の明文化

雇用契約書・業務内容の合意書に、採用時に期待する能力水準と業務範囲を明記します。これが後の「採用時の約束と違った」という主張の根拠になります。

指導記録の日常化

問題が起きてから記録するのではなく、業務指示・指導内容を日常的に記録する習慣を作ります。シンプルな「指導録」様式一枚で十分です。顧問弁護士がいれば、この様式設計も依頼できます。

就業規則の解雇事由の整備

「業務能力が著しく不足し、指導・改善機会を与えても改善の見込みがない場合」という解雇事由を就業規則に明記します。この一文があるだけで、解雇の法的根拠が格段に強くなります。

顧問弁護士サービス「みんなの法務部」では、採用書類の整備・就業規則の見直し・指導記録の設計を一体でサポートします。問題が起きる前に体制を整えることが、最も費用対効果の高い経営判断です。企業法務トップページもご覧ください。

よくある質問

試用期間中の社員を解雇するのに、理由は必要ですか?

必要です。試用期間中であっても、客観的合理的な理由なく解雇することはできません(最高裁・三菱樹脂事件)。ただし、本採用後に比べると要件が緩やかで、「本採用が不相当と判断するに足りる合理的理由」があれば認められます。試用期間中の解雇を検討している場合は、早めに弁護士に相談することで選択肢が広がります。

「仕事ができない」を記録するとはどういうことですか?

具体的には、①いつ・どの業務で・どの程度のミスが発生したか(例:2026年4月、A業務でX件のミスが発生、顧客クレームが2件)、②業務指示をいつ出し、どのように不履行だったか、③改善を求める書面を出した日付・内容、④改善期間後も同様の問題が継続したこと——これらを書面・メール・業務日報などの形で残すことです。感覚的な評価(「やる気がない」「覚えが悪い」)ではなく、事実を記録することが重要です。

改善指導をしたが、全く改善しない。解雇できますか?

改善指導の記録があり、改善機会を十分与えたことが証明できる場合は、能力不足を理由とした解雇が認められやすくなります。ただし、「どの程度の改善を期待したか」「改善期間は適切だったか」「会社側のサポートは十分だったか」も判断要素になります。「記録はある、指導もした、それでも全く改善しない」という状態で弁護士に相談いただければ、次のステップを一緒に設計します。

解雇が無効になった場合、会社はどうなりますか?

解雇無効が確定すると、解雇日から判決日まで(あるいは和解日まで)の賃金の全額支払い(バックペイ)が命じられます。また、社員の地位確認(元の雇用関係が続いていることの確認)も求められます。解雇日から裁判終了まで1〜2年かかることも多く、その間の賃金支払い義務が生じるため、会社の経済的損害は非常に大きくなります。解雇は最後の手段であり、実行前に弁護士への相談が不可欠です。

大阪で能力不足社員の対応を相談できる顧問弁護士を探しています。

弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は、大阪の中小企業の労務問題を専門に扱う顧問弁護士サービスです。能力不足社員への指導記録設計・就業規則整備・退職勧奨・解雇手続きまで、弁護士歴平均14年以上のチームが一貫してサポートします。顧問先130社以上に対応しており、初回のご相談は無料です。まずはお気軽にお問い合わせください。

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関連記事:解雇失敗4パターン|中小企業が陥りやすいリスクと対策退職勧奨の進め方|違法にならない手順と判断基準

この記事の内容は「問題社員対応の全体フロー」の一部です。目的別の手段選択フローや他の対応手段については以下のハブ記事で解説しています。

→ 問題社員対応|辞めさせたいなら目的から考える【意思決定フロー付き・大阪の弁護士解説】

参考文献(当事務所蔵書)

実務書では、普通解雇の有効性は、①就業規則の解雇事由への該当性、②解雇の社会的相当性、③解雇手続(労働基準法19条・20条等)の遵守——といったチェックポイントを順に検討する枠組みが示されています(石嵜信憲ほか『労働契約解消の法律実務〔第3版〕』(中央経済社、2018年))。

  • 石嵜信憲ほか『労働契約解消の法律実務〔第3版〕』(中央経済社、2018年)
  • 佐々木宗啓ほか『類型別 労働関係訴訟の実務〔改訂版〕Ⅱ』(青林書院、2022年)
本記事は、一般的な情報の提供を目的とするものであり、個別案件に関する法的助言を目的とするものではありません。また、情報の正確性、完全性及び適時性を法的に保証するものではありません。
なお、本記事の内容に関する個別の質問や意見などにつきましては、ご対応できかねます。ただし、当該記事の内容に関連して、当事務所へのご相談又はご依頼を具体的に検討されている場合には、この限りではありません。
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