この記事のポイント(結論)
- 足場解体作業中の転落は安全配慮義務違反(労安衛則518条・先行手摺工法の不採用等)を根拠に会社への損害賠償を請求できる
- 後遺障害等級が認定されれば、労災保険の障害補償給付に加えて会社への逸失利益・後遺障害慰謝料を上積みできる
- 後遺障害等級と損害賠償の目安:1〜3級(5,000万円〜1億円超)/7〜9級(2,000万〜5,000万円)/12〜14級(100万〜500万円)
- 「等級が取れたのに会社から何も言われていない」は要注意。等級認定はゴールでなくスタートライン
足場解体作業は、建設現場の工程の終盤に行われる危険度の高い高所作業です。解体時は足場が不安定になり、墜落リスクが特に高まります。厚生労働省の労働災害統計でも、足場からの墜落・転落は死傷事故の主要原因の一つです。
本記事では、足場解体時の転落事故で後遺障害を負った場合の後遺障害等級別の損害賠償額の目安・会社への安全配慮義務違反の立証方法を解説します。
監修:笹野 皓平 弁護士(弁護士法人ブライト 労災部部長・登録2011年・修習64期)
執筆監修:和氣 良浩 弁護士(代表・弁護士歴14年以上)
足場解体時の転落で問える「会社の安全配慮義務違反」
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足場解体作業では、以下の安全基準違反が安全配慮義務違反(労働契約法5条・民法415条)の根拠となります。
違反①:墜落制止用器具(安全帯)の未使用・未支給
労働安全衛生規則518条・519条は、高さ2メートル以上の高所作業における墜落防止措置を義務付けています。2019年2月1日施行のフルハーネス型墜落制止用器具の義務化以降、旧来のU字つりランヤードのみの装備は義務を満たしません。安全帯が支給されていなかった、またはフルハーネス型への切り替えが行われていなかった場合は、明確な安全配慮義務違反となります。
違反②:先行手摺工法の不採用
労働安全衛生規則563条・564条は足場の手摺・中桟等の設置を義務付けています。解体時には「先行手摺工法」(手摺を最後まで残して解体する方法)が安全基準として広く採用されており、これを採用せずに転落が発生した場合は義務違反の根拠となります。実務書(建設工事における安全衛生管理)でも先行手摺工法の不採用は義務違反として指摘されています。
違反③:特別教育・作業計画の不備
足場の組立・解体には特別教育(労働安全衛生規則36条39号)が義務付けられています。未受講者への作業指示は安全配慮義務違反です。また、足場解体作業計画書(安衛則564条)の未作成・不備も違反となります。
後遺障害等級別の損害賠償額の目安
後遺障害等級が認定された場合、労災保険の障害補償給付に加えて、会社への損害賠償として逸失利益・後遺障害慰謝料を請求できます。以下は実務基準(東京地裁「損害賠償額算定基準(赤い本)」)を基にした目安です(年収500万円・40歳の場合)。
| 後遺障害等級 | 後遺障害慰謝料(会社への請求) | 労働能力喪失率 | 逸失利益目安(年収500万・40歳) | 合計目安(慰謝料+逸失利益) |
|---|---|---|---|---|
| 1級(要常時介護) | 2,800万円 | 100% | 約8,957万円 | 約1億1,757万円〜 |
| 3級(要随時介護) | 1,990万円 | 100% | 約8,957万円 | 約1億947万円〜 |
| 5級 | 1,400万円 | 79% | 約7,076万円 | 約8,476万円〜 |
| 7級 | 1,000万円 | 56% | 約5,016万円 | 約6,016万円〜 |
| 9級 | 690万円 | 35% | 約3,135万円 | 約3,825万円〜 |
| 12級 | 290万円 | 14% | 約1,254万円 | 約1,544万円〜 |
| 14級 | 110万円 | 5% | 約448万円 | 約558万円〜 |
上記はあくまでも目安です。実際には入通院慰謝料・治療費・休業損害・弁護士費用が加算されるほか、過失相殺・素因減額・労災保険給付との損益相殺が適用されます。弁護士による個別計算が必須です。
「等級はスタートライン」——後遺障害等級認定後に弁護士が行うこと
後遺障害等級が認定されると、労災保険から障害補償給付が支払われます。しかし多くの被災者が「等級が取れたから終わり」と誤解しています。実際には、等級認定後が会社への損害賠償請求の本番です。
- 逸失利益の算定と交渉:等級別の労働能力喪失率・基礎収入・就労可能年数を設定し、有利な計算方式で主張する
- 後遺障害慰謝料の請求:労災保険でカバーされない慰謝料を全額会社に請求する
- 過失相殺への反論:会社が「被災者の不注意」を主張する場合、安全管理の不備を証拠で反論する
- 後遺障害診断書の内容精査:記載が不十分な場合は追記・新規書き直しを医師に依頼し、等級を上げる余地がないか検討する
ブライトが実際に対応した案件(脚立転落・後遺障害8級)では、等級認定後に会社が「被災者側7割過失」を主張しましたが、上長の反省文を証拠として活用し安全義務違反を立証。過失相殺を大幅に抑制した上で解決金1,500万円で和解しました。
足場解体転落の典型的な後遺障害——部位別の等級認定の傾向
足場解体時の転落事故では、以下の後遺障害が多く見られます。等級認定においては、後遺障害診断書の記載内容が等級を大きく左右します。
| 後遺障害の種類 | 主な等級の目安 | 認定の留意点 |
|---|---|---|
| 脊椎圧迫骨折・脊柱変形 | 6〜11級 | 可動域制限の記載が診断書に必要。角度測定値を明記させる |
| 脊髄損傷・下肢麻痺 | 1〜5級 | 神経系統の機能障害。ADL低下・介護の必要性を詳細に記載 |
| 高次脳機能障害(頭部打撲) | 3〜9級 | MRI正常でも神経心理学的検査・SPECT検査で立証可能 |
| 骨盤・股関節骨折後の機能障害 | 8〜12級 | 可動域制限の他、疼痛の記載も重要 |
| 上肢・下肢の骨折後遺症 | 10〜14級 | 「局部に頑固な神経症状」(12級13号)と「局部の神経症状」(14級9号)で等級が大きく変わる |
一次ソース論点①:後遺障害診断書に「後遺障害なし」と書かれてしまうケース
ブライトが実際に対応した複数の転落事故案件で共通して見られた問題が、後遺障害診断書の記載不備です。医師が「後遺障害なし」「機能に問題なし」と記載してしまうと、等級が非該当となり労災保険の障害補償給付が受けられません。
この場合、弁護士が医師と連携して追記依頼または新規診断書の作成を行います。特に可動域制限(関節の動く角度)は客観的な測定値の記載が必要です。記載があるかないかで、後遺障害の等級が非該当から7〜8級になるケースも実際にあります。
一次ソース論点②:家族が窓口になる重篤なケース
足場解体転落事故で脊髄損傷・高次脳機能障害など重篤な後遺障害を負った場合、本人がコミュニケーションできない状態になることがあります。ブライトでは、配偶者・父親・姉など家族が相談窓口となるケースに多く対応しています。
「夫が事故で下半身不随になった」「父が意識不明から回復したが後遺症が残っている」という状況でも、家族が弁護士に相談・受任を依頼できます。本人の回復後に追認する形での対応も実績があります。
▶ 転落事故の損害賠償全般については足場からの転落で労災|会社への損害賠償もご覧ください
▶ 脊髄損傷の後遺障害については脊髄損傷を負う転落労災と後遺障害・損害賠償もご覧ください
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解決事例:後遺障害7級・雇用主廃業でも3,000万円(元請から回収)
事案概要:元請から指示された専門外作業中にワイヤー切断で約10メートル落下。左腕脱臼・右足骨折・腰骨圧迫粉砕骨折、後遺障害7級認定。直接の雇用会社は廃業。
ブライトの対応:刑事記録の保管期限切れリスクを早期に説明し、証拠保全を先行。相手方(元請)の保険会社が労働能力喪失に疑義を示したのに対し、医療記録・後遺障害診断書を戦略的に開示。借入金免除を和解合意書の清算条項に組み込み課税上の配慮も実施。
結果:解決金3,000万円+借入金免除で和解。手残り約2,204万円。
よくある質問(FAQ)
Q1. 後遺障害等級が認定されました。労災保険だけでよいですか?
いいえ。等級認定後が会社への損害賠償請求の本番です。逸失利益・後遺障害慰謝料は労災保険でカバーされず、全額を会社に請求できます。等級が認定されたら弁護士に相談することをお勧めします。
Q2. 足場解体作業中に転落しましたが、ヘルメットをしていませんでした。請求できますか?
ヘルメット未着用は被災者側の過失として過失相殺に影響することがありますが、会社が安全帯・手摺等の安全措置を怠っていた場合は、会社側の過失が大きく評価され、請求権がなくなることはほとんどありません。
Q3. 診断書に「後遺障害なし」と書かれました。等級は取れますか?
可能性があります。弁護士が医師に追記依頼・新規診断書作成を依頼することで等級が取れるケースがあります。特に可動域制限・神経症状の記載があるかどうかで等級が変わります。
Q4. 雇用主(下請け会社)が廃業しています。誰に請求すればよいですか?
元請・一次下請けへの請求が可能です。雇用主の廃業は元請への請求権を消滅させません。ブライトでは雇用主が廃業した案件で元請から3,000万円の解決金を得た実績があります。
Q5. 等級認定後、会社との示談交渉はどうすれば?
会社または相手方保険会社から示談案が提示されることがありますが、弁護士に依頼せずに承諾することはお勧めしません。提示額が適正かどうかを弁護士が判断し、逸失利益・慰謝料等を正確に計算した上で交渉します。
まとめ:後遺障害等級後の損害賠償請求こそ弁護士が必要
足場解体時の転落事故で後遺障害を負った場合、等級認定後が損害賠償請求の本番です。安全配慮義務違反の立証・後遺障害診断書の内容精査・逸失利益の最大化・過失相殺への反論——これらはすべて弁護士の関与なしには困難です。
「等級が取れたから仕方ない」「会社から示談の話が来た」という状況で、一人で進めることはリスクがあります。まず弁護士に相談してください。
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