「あの従業員の言動、正直ひどいと思っている。でも、クビにしようとしたら逆に訴えられる気がして……」 そういう不安を抱えながら、何も動けずにいる社長は少なくありません。暴言を吐く社員への対応は、「放置すれば職場が壊れる」「動けば紛争になる」という二択に見えて、身動きが取れなくなるものです。 この記事では、職場の暴言がどのレベルから懲戒処分・解雇の対象になるのか、具体的にどのような証拠を残せばよいのか、そして段階的にどう動けばよいのかを、企業法務の実務視点から整理します。 「暴言」は感情の問題ではなく、会社の判断の問題 多くの社長が最初につまずくのは、「これは暴言と言えるのか」という認定の問題です。怒鳴る・罵倒する・人格を否定する発言をする——誰が聞いても問題だとわかる言動でも、「本人に悪気はないかもしれない」「昔からああいう人だから」という言い訳が積み重なって、対応が先送りになっていきます。 しかし法的な観点から言えば、「暴言かどうか」の判断は、発言した本人の意図ではなく、受け手が合理的に受け取る影響と、会社として記録・対応してきた経緯によって決まります。 つまり、「あの人はああいう人だから」という感情論では対応できず、会社として「事実を記録し、指導し、それでも改善しなかった」というプロセスを積み上げることが、懲戒処分・解雇を正当化する根拠になります。 どのレベルから懲戒処分・解雇の対象になるのか 【図解】「暴言」は感情の問題ではなく、会社の判断への対応フロー ① 問題発生 → ② 事実確認・記録 → ③ 顧問弁護士に相談 → ④ 対応策の実行 ※ 弁護士に早期相談することで、リスクを最小化できます。 「暴言」と一口に言っても、その深刻さには幅があります。実務上、以下のような観点で段階を整理するとわかりやすくなります。 注意・指導で済む段階(軽微な暴言) 感情的な発言が一度あった、口調がきつい、といったレベルは、まず口頭または書面での注意・指導から始めるのが原則です。この段階で記録を残さず放置すると、後で「指導を受けたことはない」と主張されるリスクがあります。 譴責・減給・降格が相当な段階(繰り返される暴言) 注意・指導を行っても改善が見られない場合、または一度の発言でも相手(同僚・部下・顧客・利用者)に精神的な被害を与えるほど重大な内容であれば、懲戒処分(譴責・減給・降格)の対象になりえます。この段階で就業規則の該当条項に基づく手続きが必要です。 懲戒解雇・普通解雇が相当な段階(改善なき継続・重大事案) 複数回の注意・指導にもかかわらず改善がなく、職場環境や事業運営に重大な支障をきたしている場合は、解雇も選択肢になります。ただし、解雇は「最後の手段」として段階的対応の記録がなければ、裁判所に否定されるリスクがあります。 例えば、介護・福祉施設で利用者への暴言が繰り返された事案では、「複数回の暴言と、指導に対する改善拒否が認定された」として懲戒解雇が有効とされた裁判例(大阪地判令和4年)がある一方、初回や軽微な暴言については「懲戒解雇は重きに失する」として一部取消しとなった裁判例(横浜地判令和3年)もあります。「一発アウト」にできるかどうかは、事案の重大性と、それまでの対応の積み重ねで決まります。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) 問題が起きる前にできること(予防・就業規則の整備) 懲戒処分・解雇が法的に有効であるためには、就業規則に「暴言・ハラスメント行為」を懲戒事由として明記していることが大前提です。「常識的にアウトだから処分できる」という発想は通用しません。 予防段階でやっておくべきことを整理すると、次のようになります。 就業規則に暴言・ハラスメントを懲戒事由として明記する 懲戒の種類と手続き(事実確認→本人弁明の機会→処分決定)を明文化する パワーハラスメント防止規程を整備し、相談窓口を設ける(労働施策総合推進法上の義務) 管理職への研修として「記録の取り方」を教育しておく 就業規則が古いままで「暴言」や「ハラスメント」の定義が曖昧な会社は、問題が起きた後に規程を整備しようとしても間に合いません。問題社員が現れる前に、会社の「ルールブック」を整えておくことが、もっとも低コストで確実なリスク管理です。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) 問題発生時の対応フロー(証拠の残し方を具体的に) 暴言が発生した、あるいは報告を受けたとき、最初にやるべきことは「事実の記録化」です。証拠は、紛争になってから急に作れるものではありません。 STEP 1:発言内容・状況の記録 いつ・どこで・誰が・誰に・どのような言葉を言ったか、目撃者は誰かを、できる限り早く文書化します。被害者の申告書(署名・日付入り)を取得しておくことが重要です。 STEP 2:関係者からの事情聴取と記録保存 被害者・目撃者からの事情聴取を行い、聴取メモを作成・保存します。本人(暴言をした側)にも弁明の機会を与え、その内容を記録に残します。この「弁明の機会の付与」は、懲戒処分の適法性において重要な手続き要件です。 STEP 3:指導・注意の文書化 口頭での注意で終わらせず、指導書・警告書を書面で交付し、本人に署名または受領確認をさせることが不可欠です。「言った・言わない」の争いを防ぐために、指導内容・日時・担当者名を明記した書面を保存してください。 STEP 4:改善状況のモニタリングと継続記録 指導後の行動変化を定期的に確認し、改善が見られた場合も見られなかった場合も記録に残します。「改善の機会を与えたが変化がなかった」という事実の積み重ねが、後の段階的処分の根拠になります。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) 失敗事例の構造:なぜ対応が遅れ、証拠が残らなかったのか 実際に顧問先から寄せられた相談をもとに、なぜ対応が遅れるのかの構造を整理します。 ある社会福祉法人では、50代の看護師職員が利用者への暴言や業務怠慢を繰り返していましたが、対応は長期間放置されていました。理由は次のようなものでした。 「本人の親族に地域の有力者がいる」という人間関係への遠慮から、正式な指導や文書化を避けてきた 暴言の事実は口頭で報告されていたが、被害者の申告書も指導書も残っていなかった 「解雇したら訴えられる」という恐れから動けず、問題がエスカレートした この事例が示す教訓は明確です。「揉めたくないから記録しない」という判断が、結果として会社をもっとも危険な状態に追い込むということです。記録がなければ処分もできない、処分できなければ問題は続く、という悪循環に入ります。 また、感情的な場面で本人が「もう辞める!」と口頭で言ったとしても、法的には退職の意思表示として有効とはみなされないケースが多く、「言った言わない」の争いになりやすい点も注意が必要です。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) うちの会社ではどう考えればいいのか 自社の状況に照らして考えるとき、次のような問いを自分に投げかけてみてください。 就業規則に「暴言・ハラスメント」が懲戒事由として明記されているか? これまでの指導・注意の内容は文書で残っているか? 被害者(同僚・部下・顧客・利用者)の申告書や証言は取得・保存されているか? 本人に弁明の機会を与えた記録があるか? 懲戒処分の種類と手続きが就業規則で定められているか? これらがすべてそろっていれば、段階的な懲戒処分から最終的な解雇まで、法的に守られた形で対応できます。一つでも欠けていれば、今からでも整備を始めることが「次の一手」です。 特に気をつけたいのは、業種特有のリスクです。介護・医療・福祉の現場では、職員の暴言が利用者・患者への虐待に該当する可能性があり、行政報告義務や施設の指定取消しリスクも生じます。飲食・サービス業では顧客への暴言が企業イメージへの打撃になります。自社の事業特性に合わせたリスク評価が必要です。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) 再発防止策:一件解決で終わらせない体制づくり 一人の問題社員への対応が終わったとき、次にやるべきことは「再び同じことが起きないための仕組みを作ること」です。 就業規則の見直し:今回の事案を踏まえ、懲戒事由・手続き・処分の種類を明確化する ハラスメント対応規程の整備:相談窓口・調査手順・処分フローを文書化する 管理職教育:問題行動を発見した際の報告・記録のルールを周知する 定期的な就業規則レビュー:法改正・裁判例の動向に合わせて規程を更新し続ける 再発防止策は、いずれも「問題が起きてから作る」のでは遅い。日常の運用の中に仕組みとして組み込んでおくことが重要です。 問題社員への対応は、スポットで弁護士に依頼して「一件落着」で終わるものではありません。就業規則・ハラスメント対応規程の整備から、日常的な指導記録の取り方、いざというときの懲戒処分・解雇の手続きまで、継続的にサポートできる体制が必要です。弁護士法人ブライトの顧問サービス「みんなの法務部」では、顧問先142社の実名を公開し、企業法務部の弁護士歴平均14年以上の弁護士が、問題社員対応・就業規則整備・労務リスクの予防まで継続的に対応しています。問題が起きたときだけ使う弁護士ではなく、問題が起きないように日常から一緒に考える法務パートナーとして活用することが、もっとも実効性の高いリスク管理につながります。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) よくある質問(Q&A) Q1. 暴言を一度吐いただけで解雇できますか? 原則として、一度の暴言だけで即解雇(懲戒解雇・普通解雇)を有効とすることは困難です。裁判例上も、段階的な指導・注意を経ていることが解雇の相当性を支える重要な要素とされています。ただし、発言内容が極めて重大(差別的・脅迫的・虐待に該当するレベル)であれば、初回でも懲戒処分の対象になりえます。就業規則の規定内容と事案の重大性を合わせて判断することが必要です。 Q2. 暴言の証拠はどのように残せばよいですか? 被害者・目撃者の申告書(日付・署名入り)、指導書・警告書の写し、指導時のメモ(日時・場所・発言内容・担当者名)が基本的な証拠となります。録音については、会社として組織的に行う場合は原則として適法ですが、方法や状況によって判断が変わることがあるため、事前に弁護士に確認することをお勧めします。 Q3. 本人が「辞める」と口頭で言ったら退職扱いにできますか? 感情的な場面での「もう辞める」という発言は、法的に有効な退職の意思表示とはみなされないことが多いです。退職として処理するには、退職届の提出または退職合意書への署名が必要です。口頭での発言だけで退職扱いにすると、後から「不当解雇だ」と主張されるリスクがあります。 Q4. 介護・福祉施設で職員が利用者に暴言を吐いた場合、どのような追加リスクがありますか? 介護・福祉施設の場合、職員による利用者への暴言は「虐待」として高齢者虐待防止法等の対象となる可能性があります。この場合、施設として行政への報告義務が生じ、対応が不十分であれば行政処分(業務改善命令・指定取消し)のリスクもあります。労務対応だけでなく、行政対応・家族対応まで含めた総合的な対処が必要です。 当事務所が参考にした実務書 当事務所では本テーマに関する最新の実務書を継続的に確認し、顧問先企業のリスク評価に反映しています。本記事の作成にあたり特に参考にした書籍を以下に紹介します。 『職場のハラスメント対策の法律実務』 — 向井蘭/労働調査会/2022年5月/分類:条文逐条解説書 『問題社員対応の法律実務(第2版)』 — 北岡秀晃/民事法研究会/2022年8月/分類:Q&A形式の実務解説書 『ハラスメントをめぐる法律と実務〔改訂版〕』 — 野川忍/労務行政/2023年9月/分類:条文逐条解説書 『懲戒処分の法律実務(第3版)』 — 石嵜信憲/中央経済社/2023年4月/分類:Q&A形式の実務解説書 『労働判例インデックス(第5版)』 — 森井利和・重光侑美/商事法務/2024年4月/分類:判例集 ※ 書籍内容は引用しておらず、書誌情報のみ表示しています。本記事は弁護士法人ブライトが監修・執筆しています。 この記事の監修者 和氣 良浩(わけ よしひろ) 弁護士法人ブライト|代表弁護士/パートナー弁護士 弁護士歴20年(2006年登録)/大阪弁護士会/大阪大学法学部卒 専門:顧問弁護士・企業法務・M&A・経営権紛争・事業再生 問題社員の暴言対応・懲戒処分・解雇・退職勧奨など経営上の労務課題を継続的に相談できる顧問弁護士をお探しの方は、弁護士法人ブライト「みんなの法務部」にお問い合わせください。顧問先142社の実名を公開しており、企業法務部の弁護士歴平均14年以上の経験豊かな弁護士が対応します。企業法務窓口:06-4965-9590(平日9:00〜18:00) 「みんなの法務部」というブライトの考え方 中小企業の社長に「専属の法務部」を持っていただく——これがブライトの顧問サービスの基本姿勢です。社内に法務部を置けない規模でも、契約書・労務・債権回収・M&Aまで日常的に相談できる体制を、月額固定で。企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームで、142社の顧問先と向き合っています。 ▶ みんなの法務部とは(詳しく見る) 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料)