高額療養費・限度額適用認定証で未収金を「作らない」|令和8年8月改定に合わせた院内の案内と運用【病院・クリニック向け】

高額療養費・限度額適用認定証で未収金を「作らない」|令和8年8月改定に合わせた院内の案内と運用【病院・クリニック向け】


和氣良浩 弁護士

この記事の監修者

和氣 良浩(わけ よしひろ)

弁護士法人ブライト|代表弁護士

大阪弁護士会

取扱分野:顧問弁護士・企業法務・債権回収・M&A・事業再生

未収金の相談で病院・医療法人・クリニックの事務長や医事課の方とお話ししていると、共通する構図が見えてきます。未収金の多くは「払わない患者さま」から生まれているのではなく、「窓口で請求した金額が、その方が想定していた金額とかけ離れていた」瞬間に生まれている——というものです。

高額療養費制度は、この落差を窓口の段階で消すための仕組みです。限度額の手当てが済んでいれば、入院費の窓口負担は自己負担限度額までにとどまります。逆に手当てが間に合わなければ、いったん3割の全額を請求することになり、「そんな金額は用意できない」という話から未収金が立ち上がります。回収の巧拙より前に、入口の設計で結果がほぼ決まっているのが医療費の未収金です。

しかも制度は、いま動いている最中です。令和8年(2026年)8月診療分から自己負担限度額が見直され、新たに「年間上限」が設けられました。さらに令和9年(2027年)8月には所得区分の細分化が予定されています(厚生労働省)。院内に貼ってある限度額の一覧表が令和8年7月以前のものであれば、その表はすでに患者さまへの誤案内の原因になっています。

この記事では、大阪で企業法務を扱う弁護士法人ブライトが、未収金を「回収する」のではなく「作らない」という観点から、入院・高額治療の前に院内で案内しておくこと、マイナ保険証での限度額情報の確認、認定証が間に合わなかったときの扱い、そして分割の申出が来たときの入口の作り方までを整理します。金額・制度内容は2026年9月時点の公表資料に基づいて記載していますが、個別の債権について判断するものではありませんので、実際の対応は事案ごとに弁護士へご確認ください。

未収金を「作らない」院内運用から相談できます

文面や督促の巧拙より、入院説明・窓口案内・分割の入口という「段取り」の設計で結果が変わります。弁護士法人ブライトは大阪で医療機関の未収金対応を継続受託する体制を用意しています。顧問先142社・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが対応します。

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未収金は「回収」より「発生させない」方が安い——入口は高額療養費

未収金がいったん立ち上がると、督促状の作成、電話、訪問、内容証明、支払督促や訴訟——と、金額に比べて不釣り合いな人件費がかかります。支払督促・少額訴訟・通常訴訟の使い分けで整理したとおり、手続の選択をどれだけ最適化しても、1件あたりの持ち出しをゼロにはできません。

これに対し、入院説明の段階で「限度額の手当てが済んでいますか」と一言確認するコストは、ほぼゼロです。未収金対策で最も費用対効果が高いのは、この一言を院内の標準動作にすることです。

窓口で限度額までに抑える仕組み(現物給付化)を使えているか

高額療養費制度は、本来は「いったん窓口で自己負担を支払っていただいた後、月ごとの自己負担限度額を超える部分について、事後的に保険者から償還払いされる制度」です(厚生労働省「高額療養費制度に関する参考資料」)。つまり原則は後払いの還付であり、放っておけば窓口では3割の全額を請求することになります。

そのうえで、入院については窓口での支払いを自己負担限度額までにとどめる現物給付化の仕組みが導入され、外来についても平成24年4月から、同一医療機関で自己負担限度額を超える場合に現物給付化が導入されました。この取扱いを受けるための条件が、厚生労働省の案内では次のように示されています。

この取扱いを受けるには、マイナ保険証をご利用いただくか、事前に「限度額適用認定証(認定証)」を入手していただく必要があります。

厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」(2026年7月31日更新)

言い換えると、マイナ保険証か認定証のどちらかが窓口で機能していないと、その患者さまの入院費は自動的に「いったん全額請求」になります。未収金台帳を開いて高額の残高から順に見ていくと、この形になっている件が相当数あるはずです。

令和8年8月から限度額が変わった——院内の案内資料は更新できているか

もうひとつ、いま確認していただきたいのが院内の案内資料です。令和8年8月診療分から、月単位の自己負担限度額が引き上げられ、あわせて年単位の上限額(年間上限)が新設されました。「252,600円+(総医療費−842,000円)×1%」「80,100円+(総医療費−267,000円)×1%」「57,600円」「35,400円」といった数字が書かれた掲示物や入院案内があれば、それは令和8年7月以前の内容です。

この種の案内は、入院前の説明で患者さまが自己負担を見積もる根拠になります。古い数字のまま案内して、実際の請求額がそれを上回れば、「聞いていた金額と違う」という話になり、支払いの遅れにつながります。制度改定は、未収金の発生要因としては地味ですが、確実に効いてきます。

この項の根拠

  • 厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」(2026年7月31日更新)
  • 厚生労働省「高額療養費制度に関する参考資料」
  • 厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて(令和8年8月診療分から)」

【2026年9月時点】70歳未満の自己負担限度額(令和8年8月〜令和9年7月)

院内資料を差し替える際の参照用として、現在適用されている70歳未満の区分を掲げます。金額は全国健康保険協会(協会けんぽ)および厚生労働省の公表資料によります。

所得区分(標準報酬月額) 自己負担限度額(月単位) 多数回該当 年間上限額
ア 83万円以上 270,300円+(総医療費−901,000円)×1% 140,100円 168万円
イ 53万〜79万円 179,100円+(総医療費−597,000円)×1% 93,000円 111万円
ウ 28万〜50万円 85,800円+(総医療費−286,000円)×1% 44,400円 53万円
エ 26万円以下 61,500円 44,400円 53万円(※)
オ 低所得者(住民税非課税) 36,900円 24,600円 29万円
令和8年8月〜令和9年7月診療分。総医療費=保険適用される診療費用の総額(10割)。※標準報酬月額15万円以下であることが確認できた方は年間上限41万円を適用し、令和9年8月以降に償還払い。出典=全国健康保険協会「高額療養費」、厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて(令和8年8月診療分から)」

多数回該当(直近12か月で3か月以上該当した場合に4か月目から適用)は、今回の見直しでも据え置きとされました。長期に治療を続けている患者さまの窓口負担は変わっていない、という点は説明の際に押さえておくと安心につながります。

「年間上限」は窓口では効かない——ここを誤って案内すると未収金になる

令和8年8月から新設された年間上限は、医事課にとって最も誤案内の起きやすいポイントです。厚生労働省の説明はこうです。

月ごとの自己負担額が積み上がっても、年間の上限額に達した後は、それ以上の医療費については、保険者から還付を受けることができます。(年間とは、8月から翌年7月までを指します。)

厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」(2026年7月31日更新)

ポイントは「保険者から還付を受ける」という部分です。年間上限は、月単位の限度額と違って窓口で自動的に適用されるものではなく、患者さま自身が保険者へ申請して後から還付を受ける形になります。協会けんぽも、年間上限額の高額療養費の申請は令和9年8月から開始すると案内しています。

つまり、窓口で「年間の上限があるので、もうこれ以上は請求されません」と説明してしまうと事実と異なります。窓口で請求すべき金額は、あくまで月単位の限度額に基づく金額です。年間上限は「後から戻る可能性がある話」であり、窓口負担を減らす話ではない——この線引きを院内で徹底しておかないと、患者さまが「上限に達しているはずだ」と主張して支払いを止める、という形の未収金が生まれます。

院内マニュアルに入れる一行

「年間上限は保険者への申請による還付です。窓口でお支払いいただく金額は月ごとの限度額に基づく金額となります」——この一文を、入院費の説明書式と窓口対応メモの両方に入れておきます。

令和9年8月にもう一度変わる——認定証の有効期限が令和9年7月31日で切られている理由

令和9年8月からは、所得区分がさらに細分化されます。70歳未満は現在の5区分から、年収帯に応じてより細かい区分へ分かれる予定です。これを受けて、協会けんぽは限度額適用認定証の有効期限について次のように案内しています。

令和9年8月には高額療養費の制度改正に伴う被保険者の所得区分の見直しが予定されているため、令和8年8月より交付される限度額適用認定証の有効期限は、最長で令和9年7月31日までとなります。その後も必要な場合は、令和9年8月以降に新たにご申請いただきますようお願いいたします。

全国健康保険協会「限度額適用認定証」

医療機関の実務に直すと、長期入院・長期通院の患者さまについて、令和9年7月31日で認定証がいっせいに切れるということです。8月以降も限度額の適用を受けるには再申請が必要で、再申請が遅れた月は認定証の効力が及びません(後述のとおり、認定証は申請書受付月より前の月には遡りません)。

令和9年6月ごろに、認定証を提出している患者さまへ再申請の案内を出す——この1回のアクションを院内カレンダーに登録しておくだけで、令和9年8月分の未収金の山をひとつ防げます。

制度改定に合わせた院内書式の点検を

限度額の案内文、入院説明書、窓口対応マニュアル——制度が動いた年は、書式が古いまま残っていないかの点検が要ります。弁護士法人ブライトは大阪で医療法人・クリニックの院内書式の整備を継続的にお手伝いしています。企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが対応します。

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入院・高額治療の前に院内で案内しておくこと——5つの確認

ここからは、予約から入院までの間に院内で回しておきたい確認事項を、医事課の動作に落とした形で整理します。

(1)入院説明の段階で「限度額の手当てが済んでいるか」を確認する

入院予約・入院説明の場で確認するのは、次の3点だけで足ります。

  • マイナ保険証を使う予定があるか(オンライン資格確認で限度額情報が提供されます)
  • マイナ保険証を使わない場合、限度額適用認定証の交付申請は済んでいるか
  • 住民税非課税世帯に当たる可能性があるか(該当する場合は後述のとおり別の認定証が要ります)

この3点を入院説明書のチェック欄に組み込み、未チェックのまま入院の手続を進めない運用にします。医事課が個別に思い出して確認する形では、忙しい日に必ず漏れます。

(2)マイナ保険証なら認定証は原則不要——ただし低所得区分は申請が要る

ここが、院内で最も取り違えの多いところです。協会けんぽの案内を引きます。

オンライン資格確認を導入していない医療機関等を受診される場合や、協会けんぽにマイナンバーの登録を行っていない場合に予め(医療機関等へ医療費を支払う前に)申請いただく必要があります。マイナ保険証を利用される場合は申請不要です。なお、被保険者が低所得者に該当する場合はマイナ保険証を利用される場合であっても、「限度額適用・標準負担額減額認定証」をご申請ください。

全国健康保険協会「限度額適用認定証」

整理すると、次のようになります。

患者さまの状況 認定証の要否
マイナ保険証を利用(オンライン資格確認導入済の医療機関) 原則不要
資格確認書で受診/オンライン資格確認が使えない 限度額適用認定証が必要
住民税非課税世帯(低所得区分) マイナ保険証を使っても「限度額適用・標準負担額減額認定証」の申請が必要
出典=全国健康保険協会「限度額適用認定証」。国民健康保険・後期高齢者医療制度の取扱いは保険者へご確認ください。

低所得区分の方こそ、支払能力の面から未収金になりやすい層です。「マイナ保険証だから大丈夫」と案内してしまい、入院時食事療養費の標準負担額の減額も受けられないまま請求が膨らむ——という形が、実務ではしばしば起こります。低所得の可能性がある方については、マイナ保険証の有無にかかわらず保険者への申請をご案内してください。

(3)高額療養費の対象外になる費用を先に伝える

高額療養費の対象は、保険が適用される診療費の自己負担分です。協会けんぽは「保険外併用療養費の差額部分や入院時食事療養費、入院時生活療養費の自己負担額は対象になりません」と明記しています。

院内の実務に直すと、次のような費目は限度額の外側で別に請求されます。

  • 食事代(入院時食事療養費の標準負担額)
  • 差額ベッド代(特別療養環境室料=保険外併用療養費の差額部分)
  • 先進医療の技術料
  • 文書料(診断書・証明書等)、テレビカード、寝具レンタル等の実費

患者さまが「限度額の範囲で収まるはず」と考えているところへ、これらが上乗せされた請求書が出ると、金額の落差がそのまま不信感になります。入院説明の時点で「限度額に含まれないもの」を一覧で示し、概算額まで添える。ここまでやっている医療機関は、未収金の発生率が明確に低くなります。

(4)世帯合算・多数回該当は「窓口では反映されない部分がある」と伝える

世帯合算(同じ月に世帯の複数名が受診した場合などに自己負担額を合算できる仕組み)は、保険者側で計算して還付する仕組みであり、窓口で自動的に反映されるものではありません。また70歳未満の場合、1つの医療機関について自己負担額が21,000円以上のものだけが合算対象で、同じ医療機関でも「医科入院」「医科外来」「歯科入院」「歯科外来」はそれぞれ別に計算されます(協会けんぽ)。

多数回該当についても、同一保険者・同一被保険者での通算が前提です。転職や退職で保険者が変わった場合、被保険者から被扶養者に変わった場合は、月数が通算されません。「前回まで44,400円だったのに今回は違う」という問い合わせは、たいていここが原因です。

(5)特定疾病療養受療証(人工透析等)の確認

人工透析を実施している慢性腎不全、血友病、抗ウイルス剤を投与している後天性免疫不全症候群については、特定疾病療養受療証の交付を受けることで、自己負担限度額が月10,000円(診療のある月の標準報酬月額53万円以上である70歳未満の被保険者・被扶養者は20,000円)となります(協会けんぽ)。

該当する患者さまについては受療証の提出有無を継続的に管理します。ここは毎月発生する債権なので、取りこぼしが月次で積み上がる性質があります。

この項の根拠

  • 全国健康保険協会「限度額適用認定証」
  • 全国健康保険協会「高額療養費」(対象外費目・世帯合算・多数回該当・特定疾病療養受療証)

院内の説明書式づくりから伴走します

「限度額に含まれないもの」の一覧、入院説明のチェック欄、窓口対応メモ——現場で回る形まで落とし込むところが要です。弁護士法人ブライトは大阪で顧問先142社の企業法務を担い、医療機関の院内書式づくりにも継続的に関わっています。

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マイナ保険証で限度額情報を確認する——オンライン資格確認の実務

オンライン資格確認を導入している医療機関では、患者さまがマイナ保険証を利用し、限度額情報の提供に同意することで、限度額情報が医療機関へ提供されます(協会けんぽ)。認定証の現物を預からなくても窓口で限度額適用ができる、というのがこの仕組みの要点です。

確認した内容を医事システムに残す——後から争いになるのはここ

未収金が回収局面に入ったとき、患者さま側から「限度額の説明を受けていない」「窓口で手続してもらえなかった」という主張が出ることがあります。これに対して医療機関が示せるのは、いつ・誰が・どの情報を確認し、どう案内したかの記録だけです。

最低限、次の3点を医事システムまたは入院説明書の控えに残します。

  • 限度額情報の取得日と取得区分(オンライン資格確認/認定証の提示/未取得)
  • 未取得だった場合、その旨を患者さまへ案内した日と担当者
  • 限度額に含まれない費目について説明した旨と、交付した書面の名称

この記録は、督促状・内容証明の段階でも、その先の手続でも効いてきます。逆に記録が無いと、金額の争いが「言った・言わない」になり、回収に必要な時間が一気に伸びます。

資格確認書の方・オンライン資格確認ができないとき

マイナ保険証を利用していない方は資格確認書で受診されます。この場合は限度額適用認定証(低所得区分は限度額適用・標準負担額減額認定証)の提示が必要です。システム障害等でオンライン資格確認ができない場合の取扱いについても、あらかじめ院内の手順書に書いておくことをおすすめします。当日の判断に委ねると、担当者ごとに扱いが割れます。

「言った・言わない」にしないための記録の作り方

限度額の確認と案内をどう残すかで、回収局面の手間がまったく変わります。弁護士法人ブライトは大阪で医療機関の未収金対応を継続受託し、記録の残し方から院内規程への落とし込みまでお手伝いしています。

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認定証が間に合わなかったとき——窓口はどう扱うか

認定証は「申請書受付月より前の月」には遡らない

ここは制度の構造として動かせない部分です。協会けんぽは、限度額適用認定証について次のように案内しています。

限度額適用認定証の有効期間は、申請書を受け付けた日の属する月の1日(資格を取得した月の場合は資格取得日)から最長で1年間の範囲となります。/申請書受付月より前の月の限度額適用認定証の交付はできません。日程に余裕を持ってご提出ください。

全国健康保険協会「限度額適用認定証」

つまり、先月分の窓口負担を、今月申請した認定証で限度額まで下げることはできません。緊急入院などで認定証の手当てが間に合わなかった月の分は、原則どおり「いったん窓口で支払い、後から保険者へ高額療養費を請求する(償還払い)」という流れになります。

この局面で医療機関が取りうる現実的な選択肢は、次の3つです。

償還払いになった場合の選択肢

選択肢 内容 留意点
高額医療費貸付制度の案内 協会けんぽの場合、高額療養費支給見込額の8割相当額を無利子で貸し付ける制度があります。貸付金の返済には、後日支給される高額療養費が充てられます。 医療機関が発行する「保険点数(保険診療対象総数)のわかる医療費請求書」が申請に必要。窓口で速やかに発行できる体制を作っておく
受領委任払いの活用 市町村国保など、保険者によっては高額療養費を医療機関が直接受け取る受領委任払いの取扱いを設けている場合があります。 保険者ごとに取扱いの有無・要件が異なるため、地域の保険者へ事前に確認しておく
分割払いの合意 支払能力の問題で一括が難しい場合、分割払いの合意書を取り交わします。 口頭で済ませない。書面の作り方は次項のとおり
制度の有無・要件は保険者により異なります。出典=全国健康保険協会「高額療養費」(高額医療費貸付制度)

医事課の動きとして押さえていただきたいのは、貸付制度に必要な医療費請求書を、窓口でその場で出せるようにしておくという点です。「後日郵送します」となった時点で、患者さまの手続は止まりがちです。止まった分だけ未収金の期間が延び、連絡がつかなくなるリスクが上がります。

「後で戻るから払ってください」で終わらせない

償還払いになる場面で最も危ういのが、「高額療養費で後から戻りますから、いったん全額お支払いください」という案内だけで終えてしまうことです。「後から戻る」ことと「いま払える」ことは別の問題であり、いま払えない方にこの説明をしても未収金になるだけです。

この場面では、貸付制度の案内か、分割払いの合意——どちらかの具体的な出口まで案内しきる。ここが未収金を作らない分岐点になります。

償還払いになった案件の出口設計を相談できます

貸付制度の案内、受領委任払いの確認、分割合意——どこで誰が判断するかを決めておくことで、窓口担当者の負担が大きく減ります。弁護士法人ブライトは大阪で医療機関の未収金を継続受託する体制を用意しています。

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分割の申出が来たときの入口——その場で決めず、院内の基準に乗せる

窓口で「分割にしてほしい」と言われたとき、最も避けたいのはその場にいた担当者が金額と回数を口頭で決めてしまうことです。口頭の合意は、後から金額も回数も証明できません。しかも診療費の債権は消滅時効が進行しますから、「分割の話をしていた」というだけでは時効の進行を止める効果を確実には得られません。

そこで、院内の入口として次の3段構えを作っておきます。

  1. その場では受け付けるだけ——「分割のご希望として承ります。金額と回数は書面でお取り決めしますので、改めてご案内します」と伝え、連絡先を確認する
  2. 金額を確定させる——レセプトの返戻・査定、高額療養費の適用後の金額で債権額を固める
  3. 書面で合意する——債務の承認、分割スケジュール、期限の利益喪失、遅延損害金を入れた合意書を取り交わす

この3段目、すなわち合意書に何を書き、何を書いてはいけないかについては、医療費の分割払い合意書の作り方(医療機関向け)で条項例まで含めて詳しく整理しています。合わせてご覧ください。

金額を確定させてから合意する理由

保険請求の査定や返戻で金額が動くと、合意書に書いた債権額と実際の債権額がずれます。ずれた合意書は、後日「金額が違う」という反論の材料になり、せっかく取った承認の意味を弱めます。分割の合意は、金額が固まってからです。

院内の案内文の作り方——そのまま使える文例3種

以下は、医事課・入院受付でそのまま流用していただける文例です。医療機関名・金額・日付は各院の実情に合わせて調整してください。

文例(a)|入院案内に添える「限度額の手当て」のご案内

入院費のお支払いについて(高額療養費制度のご案内)

入院時の窓口でのお支払いは、手続をしていただくことで、ひと月あたりの自己負担限度額までにとどめることができます。お手数ですが、入院までに次のいずれかをご準備ください。

① マイナンバーカードを健康保険証として利用される場合
当院の窓口で読み取りを行い、限度額情報の提供にご同意いただくことで、限度額の適用ができます。事前のお手続きは原則不要です。

② ①以外の方(資格確認書をご利用の方など)
ご加入の健康保険組合・協会けんぽ・市区町村(国民健康保険・後期高齢者医療制度)へ「限度額適用認定証」の交付をご申請いただき、入院時に窓口へご提出ください。

③ 住民税非課税世帯に該当される方
マイナンバーカードをご利用の場合でも、別途「限度額適用・標準負担額減額認定証」のご申請が必要です。お食事代の負担軽減にも関わりますので、あらかじめご申請ください。

ご注意:認定証は、ご申請を受け付けた月より前の月にさかのぼって適用することができません。入院の予定が決まりましたら、お早めにお手続きください。

なお、お食事代、差額ベッド代、先進医療の技術料、診断書などの文書料は、自己負担限度額には含まれず、別途ご負担いただきます。概算については「入院費用のご案内」をご確認ください。

文例(b)|認定証が未提出の方への窓口説明メモ(院内用)

〔院内用〕限度額の手当てが未了の患者さまへの説明手順

1.まず事実を伝える:「今月分につきましては、限度額適用のお手続きが確認できておりませんので、いったん保険の自己負担割合どおりの金額でのご請求となります」

2.戻る道筋を伝える:「お支払いいただいた後、ご加入の保険者へ高額療養費をご請求いただくことで、限度額を超える部分は後日お戻りになります」

3.ここで終わらせない:「本日のご用意が難しい場合は、次の2つをご案内できます」
 ・貸付制度(保険者によって、高額療養費の支給見込額の一部を無利子で貸し付ける制度があります。ご申請に必要な医療費請求書は当院で本日お渡しできます)
 ・分割でのお支払い(金額と回数をお取り決めし、書面を作成させていただきます)

4.翌月以降の手当て:「来月以降は限度額の適用を受けられるよう、認定証のご申請(またはマイナンバーカードのご利用)をお願いいたします」

5.記録する:説明日・担当者・交付書面・患者さまの意向を医事システムへ入力する

文例(c)|長期入院・長期通院の方への再申請のご案内(令和9年6月ごろ送付)

限度額適用認定証の再申請のお願い

平素より当院をご利用いただき、ありがとうございます。

現在ご提出いただいております限度額適用認定証は、制度改正に伴い、有効期限が令和9年7月31日までとなっております。令和9年8月以降も窓口でのお支払いを自己負担限度額までにとどめるためには、ご加入の保険者へ改めて交付をご申請いただく必要があります。

認定証は、ご申請を受け付けた月より前の月にさかのぼって適用することができません。8月分のお支払いに間に合わせるため、7月中のご申請をお願いいたします。

ご不明な点がございましたら、医事課までお問い合わせください。

文例に病名・診療内容を書き込まない

患者さまへの案内文・督促文に病名や診療科名、治療内容を記載すると、同居のご家族を含む第三者の目に触れた場合に守秘の問題を生みます。金額と手続の話に限る——これは案内文でも督促状でも共通の原則です。

予防法務として何を顧問弁護士に頼むか

ここまでの内容は、いずれも「訴訟の手前」の話です。未収金の相談で弁護士に持ち込まれるのは、たいてい回収が難しくなってからですが、医療機関の未収金は、入口の設計を直した方が費用対効果が高い類型です。顧問契約の中で継続的に扱う場合、実務的には次のような頼み方になります。

  • 院内書式の点検と改訂——入院説明書、限度額の案内文、分割払い合意書、督促文書の雛形を、制度改定に合わせて年1回見直す
  • 判断基準の明文化——いくら以上・何か月以上で誰が判断するか、どの段階で外部へ渡すかを院内規程に落とす
  • 難件だけを切り出して受託——連絡が取れない、金額が大きい、相続が絡む、外国人患者で帰国済みといった類型だけを弁護士へ回す
  • 窓口担当者からの相談窓口——「この場でどう答えるべきか」をその日のうちに聞ける相手を用意しておく

弁護士法人ブライトは、法務部を持たない会社の「外部法務部」として、こうした日常の判断から継続的に関わる体制をとっています。大阪を中心に顧問先142社の企業法務を担っており、医療法人・クリニックからのご相談も受けています。

弁護士に相談すべきケース

次のような状況であれば、院内で抱え込まずに弁護士へご相談ください。

  • 未収金の残高が院内で把握しきれていない——件数・金額・発生年月の棚卸しから必要な段階です。時効期間の経過が近い債権が埋もれている可能性があります
  • 同じ患者さまで未収が繰り返し発生している——個別の督促ではなく、入口の運用と診療継続の扱いをあわせて設計し直す必要があります
  • 「払えないから診療を断られた」と言われている——応招義務との関係の整理が要ります(応招義務と医療費不払い)
  • 身元保証人・連帯保証人に請求したい——保証書の有効性の点検が先です(身元保証人への請求と極度額)
  • 患者さまがお亡くなりになった——相続人への請求は、相続放棄の有無を含めた確認が要ります
  • 院内書式が長く更新されていない——制度改定に追随できていない書式は、それ自体が未収金の発生源になります

よくある質問

マイナ保険証を使っていれば、限度額適用認定証はもう不要になりますか?

オンライン資格確認を導入している医療機関でマイナ保険証を利用される場合、限度額適用認定証の申請は原則不要とされています。ただし例外が2つあります。ひとつは、オンライン資格確認が使えない場合や保険者にマイナンバーの登録が行われていない場合。もうひとつは、被保険者が低所得者に該当する場合で、この場合はマイナ保険証を利用していても「限度額適用・標準負担額減額認定証」の申請が必要です(全国健康保険協会)。院内では「マイナ保険証なら不要」と単純化せず、低所得区分の確認を必ず残してください。

先月の入院分について、今月申請した認定証で限度額まで下げられますか?

できません。認定証の有効期間は申請書を受け付けた日の属する月の1日からとされており、申請書受付月より前の月の認定証は交付されないと案内されています(全国健康保険協会)。間に合わなかった月については、いったん窓口でお支払いいただき、患者さまから保険者へ高額療養費を請求していただく流れになります。一括のご用意が難しい場合は、貸付制度の案内か分割払いの合意まで案内しきることが、未収金を防ぐうえで重要です。

「年間上限に達しているはずだから、もう払わない」と言われました。どう答えればよいですか?

令和8年8月に新設された年間上限は、月ごとの自己負担額が積み上がって年間の上限額に達した場合に、保険者から還付を受けられる仕組みです(厚生労働省)。窓口で自動的に適用されるものではありません。したがって窓口でお支払いいただく金額は、月単位の限度額に基づく金額のままです。なお協会けんぽは、年間上限額の高額療養費の申請は令和9年8月から開始すると案内しています。この点は誤解が生じやすいため、院内の説明文に一行入れておくことをおすすめします。

差額ベッド代や食事代も高額療養費で戻りますか?

戻りません。保険外併用療養費の差額部分(差額ベッド代など)、入院時食事療養費、入院時生活療養費の自己負担額は高額療養費の対象外とされています(全国健康保険協会)。先進医療の技術料や文書料も限度額の外側です。入院説明の段階で「限度額に含まれないもの」の一覧と概算額をお示しし、請求書を見たときの落差をなくしておくことが、未収金を作らない実務です。

令和9年8月にまた制度が変わると聞きました。院内で何を準備すればよいですか?

準備は大きく2つです。ひとつは限度額の一覧表・入院説明書などの院内資料の差し替え。もうひとつが見落とされがちですが、限度額適用認定証の再申請の案内です。協会けんぽは、令和8年8月より交付される認定証の有効期限は最長で令和9年7月31日までとなり、その後も必要な場合は令和9年8月以降に新たに申請するよう案内しています。長期入院・長期通院の患者さまに対し、令和9年6月ごろに再申請のご案内を送る——この1回の作業を院内カレンダーに登録しておいてください。

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