横領・着服した社員への損害賠償請求と刑事告訴の実務|弁護士解説【会社側・使用者側】

横領・着服した社員への損害賠償請求と刑事告訴の実務|弁護士解説【会社側・使用者側】

和氣 良浩

監修:和氣 良浩(わけ よしひろ)

弁護士法人ブライト|代表弁護士|大阪弁護士会

大阪で20年以上、中小企業の企業法務・顧問弁護士サービスを提供。顧問先130社以上に透明性の高いリーガルサポートを実践している。

経理担当社員が数百万円を横領していたことが発覚した。最初の24〜72時間が最も重要です。この時間帯に証拠を確保し、適切な初動対応をとることで、回収率と刑事告訴の成功率が大きく変わります。

弁護士法人ブライトの「みんなの法務部」では、横領・着服が発覚した中小企業からの緊急相談を年間複数件受けています。本記事では、発覚直後から解決までの実務的な対応手順を解説します。

横領・着服が発覚したら — 72時間以内に弁護士へ

弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずは無料でご相談ください。

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横領・着服発覚後の緊急対応フロー(72時間以内にやること)

第1段階(発覚当日):証拠の確保

最優先事項は証拠の確保です。本人が証拠を隠滅・廃棄する前に以下を実行します。

  • 会計ソフト・経費精算システムのログのバックアップ(管理者権限で即座に)
  • 通帳・領収書・請求書等の原本の確保(コピーを取り、原本を金庫に保管)
  • 当該社員のパソコン・社用スマートフォンの業務一時停止(アクセス権の剥奪)
  • 会社の銀行口座・印鑑へのアクセス権の即時制限

この段階で本人を呼んでヒアリングしてはいけません。証拠隠滅・口裏合わせのリスクがあります。

第2段階(24時間以内):弁護士への相談

証拠を確保したら、24時間以内に弁護士に相談します。弁護士は以下を判断します。

  • 横領の金額・手口・期間(損害額の概算)
  • 刑事告訴の可能性(業務上横領罪・詐欺罪・背任罪)
  • 本人への告知タイミングと方法
  • 懲戒解雇の手順と退職金の扱い

第3段階(48〜72時間):本人へのヒアリング

弁護士の立会いまたは指示のもとで、本人から事実確認を行います。ヒアリングは録音し、本人の自認を書面(自認書)に残します。「○○円を着服した事実を認める」という自認書は、その後の民事・刑事両面で極めて重要な証拠になります。

弁護士法人ブライトの顧問先では、この段階で自認書を取得できたケースでは分割返済合意が成立し、刑事告訴を猶予する形で解決した事例があります(金額は数十万円〜数百万円のレンジ)。

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懲戒解雇と損害賠償請求を同時に進める方法

解雇通知書・損害賠償請求書の同時送付

自認書が取得できた段階で、懲戒解雇通知書と損害賠償請求書を同時に内容証明郵便で送付します。懲戒解雇の根拠は就業規則の「横領・着服を行った者は懲戒解雇とする」という条文です。この条文がない場合でも、横領は「刑事上の犯罪行為」として普通解雇の合理的理由になります。

損害賠償請求書には:横領の期間・金額・手口・弁済を求める旨・弁済期限(通常1〜2週間)を明記します。

給与・退職金との相殺の可否

横領した金額を給与・退職金と相殺できるか、という問いには注意が必要です。

  • 給与との相殺:労働基準法24条(賃金の全額払いの原則)により、本人の同意なく一方的な相殺は原則禁止です。ただし、本人が書面で相殺に同意した場合は可能です。
  • 退職金との相殺:就業規則に「懲戒解雇の場合は退職金を支給しない」または「一部不支給」の規定があれば、退職金の全部または一部の不支給が可能です。ただし、退職金の全額不支給は「横領が重大である」という立証が必要であり、長年の勤続の一部を認める判決も存在します。

⚖️ 横領・着服に関連する主要法令

  • 刑法253条(業務上横領罪):10年以下の懲役。業務上占有している他人の財物を横領した場合
  • 刑法246条(詐欺罪):10年以下の懲役。架空請求・領収書偽造等を伴う場合
  • 民法709条(不法行為):損害賠償請求の根拠
  • 破産法253条1項2号:詐欺・横領による損害賠償債権は免責されない(非免責債権)
  • 労働基準法24条:賃金全額払いの原則。相殺には本人の書面同意が必要

刑事告訴(業務上横領罪)の手順と注意点

刑事告訴は証拠が揃った段階で、弁護士に告訴状の作成を依頼します。告訴状の提出先は所轄の警察署です。

告訴状の記載事項:告訴人(会社)の情報、被告訴人(社員)の情報、犯罪事実(横領の期間・金額・手口)、証拠一覧、告訴の趣旨(処罰を求める旨)。

刑事告訴の活用戦略として、「告訴猶予」(告訴する権利を持ちながら一定期間行使しない)という選択肢があります。本人が誠実に弁済に応じている間は告訴を猶予し、弁済が止まった時点で告訴するという方法です。弁護士法人ブライトの顧問先でもこの方法で数百万円の回収に成功した事例があります。

横領の手口別・回収戦略の違い

現金・小口経費の着服

最も典型的な横領の形態です。レジの売上から抜く、小口現金を私的に流用するなど。この場合、会計記録と実際の現金の突合が主な証拠になります。横領期間が長期にわたるほど損害額が膨らむため、発覚次第すぐに勘定の洗い出しを行うことが重要です。弁護士法人ブライトが関与した同種事案では、長期間にわたる着服が発覚し、相応の金額で返済合意が成立したケースがあります。

架空請求・水増し請求

架空の取引先への振込や、実際の請求金額より高い金額を計上する手口です。取引先への照会と帳簿の突合が証拠収集の核心になります。この手口は詐欺罪(刑法246条)も成立しうるため、刑事告訴の効果が高くなります。

横領防止のための内部統制整備

横領事案が発生した後に顧問弁護士から必ず提言されるのが内部統制の見直しです。弁護士法人ブライトの「みんなの法務部」が顧問先に推奨する内部統制の最低ライン:

  • 経理担当と承認者を分離する(1人が全権を持たない)
  • 月次で残高突合・帳簿チェックを実施する
  • 経費精算は領収書原本+上長承認の2段階にする
  • 銀行口座の複数名アクセスと取引通知メールの設定
  • 会計システムのアクセスログを定期的に確認する

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証拠収集と不正調査の方法

内部調査の進め方

横領が発覚した場合、まず社内の他の人間が関与していないかの確認が必要です。経理担当1名が単独で行える横領は、内部統制の問題でもあります。調査は原則として弁護士の指揮のもとで行います。

取引先への照会

架空請求・水増し請求を伴う横領の場合、取引先への照会で実際の取引金額を確認します。取引先は一般的に協力的ですが、プライバシーへの配慮から書面での照会が無難です。

弁護士に相談すべきサインと費用・期間の目安

横領が疑われる段階から弁護士に相談することが重要です。以下のサインが1つでもある場合は、直ちに相談してください。

相談すべきサイン 放置するリスク
帳簿と現金・口座残高が合わない状態が続いている 証拠の散逸・横領額の拡大
当該社員が急に退職したいと申し出た 証拠隠滅・財産の隠匿・逃亡リスク
横領の金額が50万円を超える可能性がある 刑事告訴・民事訴訟の複合対応が必要になる
本人が横領を認めたが返済について話し合いにならない 時間経過とともに資産が失われ、回収が困難になる

費用の目安(弁護士法人ブライト「みんなの法務部」顧問先の場合):

  • 初動対応(証拠確保・ヒアリング立会・書面作成):顧問契約内で対応可能なケースが多い
  • 損害賠償請求・示談交渉:着手金10〜30万円程度+報酬(回収額の10〜20%)が一般的な水準
  • 刑事告訴状の作成・提出:別途費用が発生する場合が多い(弁護士によって異なる)
  • 民事訴訟(支払督促・通常訴訟):着手金20〜50万円程度+報酬

顧問契約がある場合は多くの局面でスポット費用を抑えられます。大阪の弁護士法人ブライト「みんなの法務部」では、横領発覚時の緊急対応サポートを顧問業務として提供しています。

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よくある質問

Q. 刑事と民事は同時に進めてよいですか?

A. 同時進行が可能です。刑事手続きで収集・認定された証拠は民事訴訟でも活用できます。大阪の弁護士法人ブライトでは民事・刑事の両面を同時にサポートしています。

Q. 本人が認めている場合でも刑事告訴しますか?

A. 本人が認めて分割返済に応じる場合は、告訴猶予として返済状況を見ながら判断します。返済が止まった時点で告訴する方針が実務上多く取られます。

Q. 退職金は全額カットできますか?

A. 就業規則の根拠規定と横領の重大性によります。全額カットが認められた裁判例(東京高裁平成15年等)がある一方、長年の勤続に対して一定額の支払いを命じた事例もあります。弁護士に個別判断を依頼してください。

Q. 横領した社員が破産した場合は回収できますか?

A. 詐欺・横領を原因とする損害賠償債権は破産法253条1項2号により「非免責債権」です。破産手続きが開始されても免責されないため、引き続き請求できます。

Q. 社員に横領を疑われているが証拠がない場合はどうすれば?

A. まず弁護士に相談した上で、帳簿と実際の資産の突合調査を行います。証拠が固まる前に本人への告知や処分を行うと、名誉毀損・不当解雇のリスクがあります。疑いの段階では、アクセス権の制限と記録保全を静かに進めることが重要です。

Q. 警察に相談に行った場合、すぐに動いてくれますか?

A. 警察は民事事件として扱いたがる傾向があります。弁護士が作成した告訴状を証拠と一緒に提出することで受理される可能性が高まります。告訴状なしで「相談」だけするより、弁護士を介して告訴状を持参する方が実効的です。

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本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、特定の事案に対する法律アドバイスではありません。個別の対応については弁護士にご相談ください。

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