カスハラ対策義務化|企業が取るべき就業規則整備・体制構築の全手順【弁護士解説】

カスハラ対策義務化|企業が取るべき就業規則整備・体制構築の全手順【弁護士解説】

この記事でわかること:

  • カスハラ対策を放置し続けた場合に企業が負う3つの具体的コスト
  • 2025年法改正で義務化された企業の対応措置と就業規則整備の手順
  • 今からでも間に合う体制構築のステップと顧問弁護士活用の効果

「カスハラ対応は現場に任せている」——その判断が会社を危険にさらす

こんな状況に心当たりはありませんか?

  • 「クレーム対応は接客スタッフが自分でうまくやってくれている」と思っている
  • 「就業規則にカスハラ条項を入れるよう社労士に言われたが、後回しにしている」
  • 「カスハラがひどい常連客がいるが、売上への影響が怖くて断れない」
  • 「カスハラで精神的に参った社員がいるが、まだ休職に至っていないから大丈夫と思っている」

このような状態を続けている会社には、今まさに静かにコストが積み上がっています。2025年の労働施策総合推進法改正により、カスタマーハラスメント(カスハラ)対策は企業の法的義務となりました。施行は2026年10月1日ですが、「施行後に考えればいい」という発想自体が、すでにリスクになり始めています。

本記事では、カスハラ対策を放置した場合に発生する具体的なコストを整理したうえで、経営者・人事担当者がすぐに着手すべき対処ステップを解説します。

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カスハラ対策を放置するとかかる3つのコスト

コスト① 従業員の離職・採用コスト(1人あたり数十万〜100万円超)

カスハラ対策が整っていない職場では、被害を受けた従業員が「会社は守ってくれない」と感じ、離職を決断するケースが後を絶ちません。厚生労働省の調査によれば、カスハラを経験したことがある労働者のうち、約30%が「辞めたい・辞めた」と回答しています。

採用・育成コストを考えると、正社員1人が離職した場合の直接・間接コストは50万〜150万円程度に上るとも言われます。人手不足が深刻な業種ほど、この数字はさらに膨らみます。さらに、「あの会社はカスハラ対応がひどい」という評判がSNSや求人口コミサイトに広がれば、採用難が長期化するという二次的な損害も生じます。

コスト② 労災・損害賠償リスク(数百万〜数千万円規模になり得る)

カスハラによってうつ病や適応障害を発症した従業員が労働基準監督署に申告し、業務上災害(労災)と認定されるケースが増加しています。労災認定がなされると、企業は安全配慮義務違反として民事上の損害賠償責任を問われる可能性があります。

過去の裁判例では、使用者が顧客からのハラスメントに対して適切な対応を怠ったことを理由に、数百万円規模の損害賠償が命じられた事案が存在します。2026年10月以降は法令上の義務が明確になるため、「知らなかった」「現場が対応していた」という言い訳が通用しなくなります。対策を講じていない事実そのものが、裁判での不利材料になるのです。

なお、問題のある状況を放置することが企業にとって重大なリスクになるという構図は、カスハラに限りません。問題社員を放置していた会社が直面した3つのリスクでも詳しく解説していますが、「現場で何とかなっている」という感覚が、後に大きなコストをもたらすパターンは共通しています。

コスト③ 行政指導・企業ブランド毀損(対応コストと機会損失は計り知れない)

2026年10月の施行後、カスハラ対策の措置義務を果たしていない企業は、労働局による指導・勧告の対象になります。勧告に従わない場合は企業名が公表される可能性もあり、取引先・顧客・求職者に対する信頼失墜という形でブランドが傷つきます。

BtoB取引の多い会社では、カスハラ対策を含む職場環境の整備状況が取引条件として問われるケースも今後増えていくと予想されます。早期に対策を整えることは、コスト削減であると同時に、競合他社との差別化にもなり得ます。

実際に起きた事例——放置がもたらした代償

ある小売業の会社では、特定の常連客から長期にわたって暴言・長時間の電話クレームを受け続けたパート従業員が、ある日突然、出勤できなくなりました。会社はその従業員に「お客様は大切にしなければ」と指導しており、対応マニュアルも記録もありませんでした。その後、当該従業員が適応障害の診断書を持って労働基準監督署に相談。会社は安全配慮義務違反を問われ、示談解決に至るまでに半年以上を要し、最終的な解決金と弁護士費用を合わせると相当の出費を強いられることになりました。

またある飲食業の会社では、カスハラを受けていたホールスタッフが相次いで退職し、採用・教育コストが1年間で大幅に膨らみました。残ったスタッフの業務負担が増えてさらに離職が連鎖するという悪循環に陥り、経営者が「早い段階で弁護士に相談し、お断り基準と社内フローを整えていれば防げた」と振り返った事例もあります。

いずれの事例にも共通するのは、「現場が何とかやっている」という認識のもとで対策が先送りにされていた点です。カスハラ対応は経営判断であり、現場任せにしている間に、会社は静かにリスクを積み上げているのです。

カスハラ対策義務化の概要——法改正で何が変わるか

2025年6月11日公布の労働施策総合推進法改正(令和7年法律第63号)により、事業主は顧客等からのカスタマーハラスメントに対して「就業環境を害しないよう必要な措置を講じる義務」を負うことが明文化されました。施行は2026年10月1日で、厚生労働省は2026年2月に具体的な指針を策定・公表しています。

この改正で特に重要なのは、「カスハラ対策は努力義務ではなく法的義務」であるという点です。パワハラ・セクハラと同列に位置づけられ、企業は①方針の明確化と周知、②相談窓口の設置、③事案への適切な対応、④再発防止措置、の4点を整備することが求められています。

今すぐ着手すべきカスハラ対策の4つのステップ

ステップ1 カスハラの定義と判断基準を社内で明確化する

まず「何がカスハラか」を会社として定義します。厚生労働省の指針では、カスハラを「顧客等からのクレーム・言動のうち、その要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、労働者の就業環境が害されるもの」と整理しています。

具体的な行為類型としては、①暴言・罵倒、②長時間の拘束(電話・居座り)、③土下座の要求、④SNSへの投稿・拡散を示唆した脅し、⑤業務と無関係な過大要求などが挙げられます。これを就業規則や別途のカスハラ対応方針として文書化します。

ステップ2 就業規則にカスハラ条項を整備する

就業規則には少なくとも次の内容を盛り込む必要があります。

  • カスハラを受けた従業員を会社が組織的に守る旨の明記
  • カスハラへの対応フロー(誰に報告し、誰が顧客に対応するか)
  • カスハラ行為者への取引拒否・関係遮断の権限と手続き
  • 相談窓口と秘密保持の規定

就業規則の変更には労働者代表への意見聴取と労働基準監督署への届出が必要です。既存の規則に条項を追加する場合も、この手続きを省略することはできません。

ステップ3 相談・エスカレーション体制を整える

現場で対応に困ったときに「誰に連絡すればよいか」が即座にわかる体制を作ります。具体的には、①一次対応者(現場リーダー)→②二次対応者(管理職)→③外部弁護士への相談、というエスカレーションラインを文書化します。

特に「悪質な顧客に対してサービスを断る・取引を打ち切る」という判断は、現場スタッフには難しい場面が多く、経営者・管理職が迅速に意思決定できる仕組みが不可欠です。顧問弁護士がいれば、「この行為はカスハラとしてお断りできるか」という判断を法的根拠をもって即座に確認できるため、対応の迷いが大幅に減ります。

ステップ4 記録の保存と研修の実施

カスハラを受けた日時・内容・対応経緯を記録する仕組みを整えます。この記録は、後に労災申請・訴訟・行政調査が生じた際の重要な証拠になります。また、従業員向けに「カスハラとは何か」「どう対応するか」「会社がどう守るか」を伝える研修を定期的に実施することで、従業員の安心感と組織の対応力が高まります。

「顧問弁護士がいればこの段階で防げた」という現実

カスハラ対策で企業がつまずくのは、多くの場合「問題が大きくなってから弁護士に相談する」という後手後手の対応パターンです。顧問弁護士がいる会社であれば、就業規則の整備・社内フローの設計・悪質顧客への通知書作成といった予防的な対応を、コストを抑えながら継続的に実施できます。

一方、問題が起きてから初めて弁護士を探す場合、緊急対応費用・示談交渉費用・裁判費用がまとめてのしかかることになります。顧問弁護士は必要?重要性・利用すべき場面・費用対効果の判断基準では、顧問契約の具体的な費用感と活用シーンを詳しく解説しています。カスハラ対策の義務化が施行される前に、体制を整える伴走者を確保しておくことが、最も低コストな経営判断です。

なお、カスハラ対応の過程では、悪質な顧客との関係を整理する一方で、社内の人員配置や雇用問題に波及するケースもあります。そうした局面では退職勧奨で違法と言われないための進め方のような労務ノウハウも合わせて整備しておくと安心です。

よくある質問(FAQ)

Q1. 施行は2026年10月なので、まだ準備しなくても大丈夫ですか?

施行前であっても、カスハラが原因で従業員が離職・発病した場合、安全配慮義務違反として民事責任を問われるリスクはすでに存在しています。法改正は企業の義務をより明確にするものであり、施行後に慌てて整備を始めると、就業規則の変更手続きや社内研修に数か月かかることも珍しくありません。2026年10月の施行までに体制を整えるには、今から準備を始めることが現実的な選択です。

Q2. カスハラ対策の整備にはどのくらいの費用がかかりますか?

就業規則の整備・相談窓口の設定・研修の実施といった予防的な対策であれば、顧問弁護士のサポートを活用することで月額の顧問料(一般的に数万円程度)の範囲内で継続的に対応することが可能です。一方、カスハラ被害が労災認定・訴訟に発展した場合は、弁護士費用だけでも数十万〜数百万円、解決金・賠償金を含めればさらに大きな出費になり得ます。「整備コスト」と「放置コスト」を比較すれば、早期対応が合理的な選択であることは明らかです。

Q3. カスハラ行為者に対してサービスの提供を断ることは法的に問題ありませんか?

事業者には契約自由の原則があり、正当な理由がある場合はサービス・取引の提供を断ることができます。カスハラに該当する行為(暴言・脅迫・不当要求など)は正当な理由となり得ます。ただし、断り方が不適切だと逆に名誉毀損・不当対応として訴えられるリスクもあるため、断る際の文書(通知書・お断りレター)の内容と送付方法については、弁護士に確認することを強くお勧めします。

監修:弁護士法人ブライト 企業法務チーム
大阪・神戸を拠点に企業法務・顧問弁護士サービスを提供。中小企業の法的リスク対応を日々サポートしています。

※本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、個別の法律アドバイスではありません。具体的な問題については弁護士にご相談ください。

本記事は、一般的な情報の提供を目的とするものであり、個別案件に関する法的助言を目的とするものではありません。また、情報の正確性、完全性及び適時性を法的に保証するものではありません。
なお、本記事の内容に関する個別の質問や意見などにつきましては、ご対応できかねます。ただし、当該記事の内容に関連して、当事務所へのご相談又はご依頼を具体的に検討されている場合には、この限りではありません。
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