監修:和氣 良浩(わけ よしひろ) 弁護士法人ブライト|代表弁護士|大阪弁護士会 大阪で20年以上、中小企業の企業法務・顧問弁護士サービスを提供。顧問先141社に透明性の高いリーガルサポートを実践している。 カスハラ対応で会社が負けるのは、たいてい記録がないときです。「ひどい言われ方をされた」という担当者の記憶はあっても、いつ・誰が・何を言ったのかを示せない。この状態では、警察に相談しても、弁護士に依頼しても、打てる手が限られます。 逆に言えば、記録さえ整っていれば選択肢は一気に広がります。そして記録は、特別な知識がなくても、様式さえあれば現場が書けます。 この記事では、大阪の顧問弁護士としてカスハラ案件を扱ってきた立場から、そのまま印刷して使える記録票の項目と、良い記載例・悪い記載例を示します。 この記事でわかること そのまま使える対応記録票の12項目(印刷して現場に置ける形) 同じ出来事でも証拠価値が変わる、良い書き方と悪い書き方の対比 録音・防犯カメラ・メールを、記録票とどう紐づけるか 保存期間の決め方と、個人情報の扱いで踏んではいけない線 記録様式の整備から、大阪の弁護士がご一緒します 弁護士法人ブライトは、法務部がない会社の「外部法務部」。顧問先141社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが、大阪から現場の運用づくりまで伴走します。 顧問サービス(みんなの法務部プラン)を見る 06-4965-9590(みんなの法務部)LINEで相談する なぜ「記憶」では足りないのか カスハラへの法的対応は、どの手段を選ぶにしても「その行為が実際にあったこと」を会社側が示すところから始まります。刑事告訴なら構成要件に当たる事実、民事の損害賠償なら不法行為と損害、出入禁止なら正当な理由。すべて事実の裏づけが要ります。 ところが現場の記憶は、時間とともに確実に薄れます。担当者が退職すれば失われます。記録は、担当者の記憶を会社の資産に変える作業です。 2026年10月1日から、事業主には顧客等からの著しい迷惑行為によって労働者の就業環境が害されないよう、雇用管理上必要な措置を講じる義務が課されます(改正労働施策総合推進法33条1項)。企業規模による猶予はありません。指針は、方針の明確化と周知、相談体制の整備、事後の迅速適切な対応に加えて、「特に悪質な場合の対処方針をあらかじめ定めて周知し、実際に対処できる体制を整えること」を求めています。この記事で扱う運用は、その体制整備の具体化にあたります。詳しくはカスハラ対策義務化に罰則はあるのかをご覧ください。 記録は「事後」だけでなく「事前」にも効きます 見落とされがちですが、記録には2つ目の役割があります。労働局から報告を求められたときに、正確な報告ができるということです。報告義務違反には20万円以下の過料が定められています(改正後の労働施策総合推進法51条)。社内に何も残っていなければ、そもそも報告のしようがありません。 そのまま使える記録票——12項目 項目は多すぎると書かれなくなります。現場が3分で埋められる分量に絞りました。この12項目をそのままフォーマットにしてください。 # 項目 書き方の要点 1 記録日時/記録者 対応した本人が、その日のうちに書く 2 発生日時(開始・終了) 「14:05〜15:20」のように分単位。所要時間が損害額の根拠になります 3 発生場所・経路 店舗/電話/メール/チャット/SNSのどれか。店舗なら売場名まで 4 相手の特定情報 氏名・連絡先・会員番号・注文番号など、分かる範囲で。特定できないと法的手段が大きく制限されます 5 対応者・同席者 途中交代も含め全員。後に証言者になります 6 発端となった事実 相手の申し出は何だったか。正当な部分があればそれも書く 7 相手の要求内容 「何をしろと言ったか」を具体的に 8 相手の言動 発言はできる限りそのまま。要約しない(後述) 9 当社の対応 誰が何を説明し、何を断ったか 10 結果・終了状況 帰った/打ち切った/継続中/警察を呼んだ 11 関連証拠 録音ファイル名・カメラ映像の時刻範囲・メールの件名など所在を書く 12 従業員への影響 体調不良・就業への支障の有無。措置義務の配慮の起点になります ⚖️ 様式をつくるときの3原則 評価語ではなく事実で書かせる——「悪質」「ひどい」は評価。読んだ人が同じ絵を描ける事実を書く 発言は「 」でそのまま——罪名の検討は発言の文言で決まります。要約すると使えなくなります その日のうちに書く——翌日以降の記載は、後から作ったのではという疑いを招きます 自社の業種に合わせた記録様式をお作りします 弁護士法人ブライトは、法務部がない会社の「外部法務部」。顧問先141社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが、大阪から現場の運用づくりまで伴走します。 顧問サービス(みんなの法務部プラン)を見る 06-4965-9590(みんなの法務部)LINEで相談する 同じ出来事でも、書き方で証拠価値が変わります ここが実務上いちばん差が出るところです。同じ1件の対応でも、書き方次第で「使える記録」と「使えない記録」に分かれます。 ❌ 悪い記載例 「本日、常連のお客様から長時間にわたり激しいクレームを受けた。かなり悪質で、スタッフがだいぶ参っていた。暴言もあった。今後の対応を検討したい。」 問題点=すべて評価語で、事実がひとつもありません。いつ・誰が・何と言ったのかが不明で、どの罪名を検討できるかも判断できません。 ✅ 良い記載例 「9月3日14:05〜15:20(1時間15分)、2階food売場にて。相手=山田様(会員番号1234・電話090-****-****)。対応者=佐藤、15:00から店長田中が同席。 発端=9月1日購入の商品に傷があるとの申し出(傷は現認、返品規定の範囲内)。 要求=『商品代金の10倍を出せ』『佐藤を今すぐクビにしろ』。 言動=14:40頃『ぶっ殺すぞ』『お前みたいな無能は生きてる価値がない』と大声(周囲の客5名程度が振り返る)。14:55、レジカウンターを平手で3回叩く。 当社対応=返品または交換で対応できる旨を3回説明。金銭の上乗せと人事への要求は応じられないと回答。15:20、店長が対応終了を告げ相手退店。 証拠=防犯カメラ2F-03、14:00〜15:30。録音なし。 影響=佐藤が当日夕方から頭痛を訴え、翌日は早退。」 違いは明らかです。良い例からは、脅迫罪(刑法222条)に当たり得る発言、公然性のある侮辱(刑法231条)、業務への支障、従業員の健康被害が、いずれも具体的に読み取れます。ここまで書けていれば、弁護士も警察も判断できます。 とくに「ぶっ殺すぞ」を「暴言があった」と要約してしまうと、脅迫罪の検討ができなくなります。不快な言葉をそのまま書くことに抵抗を感じる方もいますが、記録の目的は会社と従業員を守ることです。文言はそのまま残してください。どの発言がどの罪に当たり得るかはカスハラの暴言事例で整理しています。 「この記録で法的手段が取れるか」を無料で見立てます 弁護士法人ブライトは、法務部がない会社の「外部法務部」。顧問先141社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが、大阪から現場の運用づくりまで伴走します。 顧問サービス(みんなの法務部プラン)を見る 06-4965-9590(みんなの法務部)LINEで相談する 録音・カメラ・メールを記録票に紐づける 記録票は索引です。本体の証拠がどこにあるかを指し示せる状態にしておきます。 証拠 実務上の注意 通話録音 自社の従業員が当事者として録音する限り、相手の同意がなくても違法にはならないと解されています。冒頭アナウンスを標準化すると運用が安定します 防犯カメラ映像 最も失われやすい証拠です。保存期間は2週間〜1か月程度の機器が多く、該当区間を切り出して別保存しない限り上書きされます。記録票を書いた日に切り出すのが確実です メール・チャット 本文ごと保存。スクリーンショットだけでなく、送受信日時とアドレスが分かる形で SNS・レビュー投稿 URLと投稿日時も記録。削除されると復元が難しくなります 診断書 従業員が受診した場合。健康情報のため保管者と閲覧範囲を限定します 保存期間と個人情報の扱い 保存期間は法律で決まっていません。実務では、不法行為の消滅時効を意識して3年から5年程度を目安に社内規程で定めることが多いです(民法724条は、損害及び加害者を知った時から3年、生命・身体を害する不法行為の場合は5年と定めています)。 あわせて、指針は相談者・行為者等のプライバシー保護のために必要な措置を講じ、周知することを求めています。記録には相手方と従業員双方の個人情報が含まれますので、次の3点を決めてください。 保管場所と閲覧できる人の範囲——誰でも見られる共有フォルダに置かない 利用目的——カスハラ対応と再発防止に限る旨を明記する 従業員の健康情報の分離——診断書等は別管理にする 記録の運用ルールは、対応マニュアルや就業規則と一体で整えるのが実務的です。カスハラ対応マニュアルの作り方と就業規則への記載例をあわせてご覧ください。記録が整ったあとの打ち手はカスハラを訴える方法と警察に通報すべきタイミングで解説しています。 記録から法的手段までを一本の流れで設計します 弁護士法人ブライトは、法務部がない会社の「外部法務部」。顧問先141社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが、大阪から現場の運用づくりまで伴走します。 顧問サービス(みんなの法務部プラン)を見る 06-4965-9590(みんなの法務部)LINEで相談する よくある質問 カスハラの記録は、どこまで細かく書けばよいですか? 「読んだ人が同じ絵を描ける」水準が目安です。具体的には、日時(分単位)、場所、相手の特定情報、対応者、相手の要求内容、発言の文言そのもの、当社の対応、終了状況、関連証拠の所在、従業員への影響、の10点が揃っていれば実務上は十分に使えます。最も重要なのは発言をそのまま残すことです。「暴言があった」と要約してしまうと、脅迫罪に当たり得る発言だったのか、侮辱にとどまるのかが判断できなくなります。逆に「悪質」「ひどい」といった評価語だけの記録は、どれだけ長く書いても証拠としては機能しません。 録音していない場合、記録票だけでも意味はありますか? あります。録音があるに越したことはありませんが、その日のうちに対応者本人が書いた記録は、それ自体が証拠として一定の意味を持ちます。とくに複数の対応者が同席していて、それぞれの記録が整合していれば信用性は高まります。重要なのは作成のタイミングで、後日まとめて作った記録は「後から作ったのではないか」と疑われやすくなります。また、録音がなくても防犯カメラ映像が残っていることがあります。カメラは保存期間が2週間から1か月程度の機器が多く上書きされてしまうため、記録票を書いた日に該当区間を切り出して別保存してください。 記録はいつまで保存すればよいですか? 法律上の決まりはないため、社内規程で定めることになります。実務では3年から5年程度を目安にすることが多く、これは不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効を意識したものです。民法724条は、損害及び加害者を知った時から3年で時効消滅すると定めていますが、人の生命または身体を害する不法行為の場合は5年に延びます(民法724条の2)。従業員が精神疾患を発症したようなケースはこちらに当たり得ます。なお、保存にあたっては相談者・行為者双方のプライバシー保護が求められますので、保管場所と閲覧範囲、利用目的をあわせて決めてください。 相手の氏名や連絡先が分からない場合はどうすればよいですか? 分かる範囲で構いませんが、特定情報が全くないと、その後に取れる法的手段が大きく制限されます。民事の損害賠償請求も刑事告訴も、相手を特定できないままでは進めにくいのが実情です。まずは社内に残っている情報から辿れないかを確認してください。会員番号、注文番号、予約記録、配送先、決済の記録などが手がかりになります。店舗であれば防犯カメラ映像が特定の材料になりますし、繰り返し来訪する相手なら次回の来店時に確認する運用を決めておくこともできます。特定できていない段階でも、記録の作成と証拠の保全だけは先に進めてください。 大阪でカスハラの記録様式づくりを相談できますか? はい。弁護士法人ブライトは大阪を拠点に、記録票の様式設計から保存ルール、そこから先の法的手段までを一式でご支援しています。オンラインでの打ち合わせにも対応しています。業種によって残すべき項目は変わります。店舗小売なら防犯カメラとの紐づけ、コールセンターなら通話録音の管理、ECなら注文番号とメッセージ履歴の保全が要点になります。2026年10月1日からは事業主に雇用管理上の措置義務が課され、労働局から報告を求められる場面も生じます。そのとき社内に何も残っていなければ正確な報告自体ができませんので、様式の整備は早めに着手されることをおすすめします。 2026年10月の義務化に向けて、いまの記録運用を点検しませんか 弁護士法人ブライトは、法務部がない会社の「外部法務部」。顧問先141社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが、大阪から現場の運用づくりまで伴走します。 顧問サービス(みんなの法務部プラン)を見る 06-4965-9590(みんなの法務部)LINEで相談する ※本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、個別の法律アドバイスではありません。具体的な問題については弁護士にご相談ください。記載内容は2026年9月時点の法令に基づきます。