カスハラ対応マニュアルの作り方|就業規則への明文化・条項記載例・整備手順【弁護士解説】

カスハラ対応マニュアルの作り方|就業規則への明文化・条項記載例・整備手順【弁護士解説】

和氣 良浩

監修:和氣 良浩(わけ よしひろ)

弁護士法人ブライト|代表弁護士|大阪弁護士会

大阪で20年以上、中小企業の企業法務・顧問弁護士サービスを提供。顧問先130社以上に透明性の高いリーガルサポートを実践している。

カスハラを放置した会社が払った代償|対応マニュアル整備を先送りにすると起きること

この記事でわかること:

  • カスハラを放置することで発生する具体的な3つのコストとリスク
  • 実際に問題が深刻化した事例と、早期対応との分岐点
  • 今すぐ会社が整備すべきカスハラ対応マニュアル・規程の中身と手順

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カスハラ対応、こんな状況になっていませんか?

「クレーム対応は現場に任せている」「お客様のことだから、なるべく穏便に」「うちの業種は多少のことは仕方ない」――こうした空気のまま、カスタマーハラスメント(カスハラ)への対応を後回しにしている経営者・人事担当者は少なくありません。

しかし、その「とりあえず今は様子見」が、後から思いがけない大きなコストを生んでいるケースが増えています。2025年4月施行の改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法の改正)では、カスハラに関する事業主の対策措置義務が明確化されました。もはや「気づいていなかった」では済まない時代です。

この記事では、カスハラ対応を放置した場合に実際に発生するコストを具体的に示しながら、中小企業が今すぐ整備すべき対応マニュアルと規程の内容を解説します。


カスハラを放置すると発生する3つのコスト

コスト①:離職・採用コスト(1人あたり50〜100万円超)

カスハラ対応が個人任せの職場では、担当従業員が「自分の接客が悪いから怒らせた」と自己責任化し、精神的に追い詰められていきます。会社がサポートしてくれないと感じた従業員は、静かに職場を去っていきます。

厚生労働省の調査によると、カスハラを理由とした離職・休職は、接客業・サービス業を中心に増加傾向にあります。中途採用の求人コスト、引き継ぎにかかる工数、新人の戦力化までの期間を合算すると、1人の退職に伴うコストは業種・職種にもよりますが50万〜100万円超になるケースも珍しくありません。

カスハラへの組織的な対応体制がなければ、問題のある顧客対応が続くたびに、現場の消耗と離職リスクが積み上がっていきます。

コスト②:メンタル不調による休職コスト(月々の給与+業務停滞)

悪質なクレーム対応を繰り返した従業員が、適応障害やうつ病で休職に至るケースがあります。休職中も一定期間は給与の支払い義務が発生し(傷病手当金との調整があるとはいえ)、業務の停滞・他の従業員への負荷集中という二次的なコストも生じます。

さらに深刻なのは、「会社がカスハラから守ってくれなかった」として、従業員から安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求を受けるリスクです。使用者は従業員の心身の安全に配慮する義務(労働契約法第5条)を負っており、カスハラ対応の放置がこの義務違反とみなされる事例も出始めています。

コスト③:法的対応コスト(訴訟・弁護士費用・和解金)

カスハラが深刻化した場合、警察や弁護士への対応が必要になります。こうした段階になって初めて弁護士を探すと、スポット対応の費用は高くなりがちです。また、対応が後手に回った結果、相手方(顧客)との間で訴訟トラブルに発展するケースもゼロではありません。

証拠が残っていない、記録が存在しない、会社としての警告を行っていないという状態では、法的対応が取りにくくなります。記録なき対応は、後から高い代償を払うことになるのです。

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実際に起きた事例:放置が招いた危機

あるサービス業の会社では、一部の顧客から継続的に威圧的なクレームや要求が繰り返されていましたが、「お客様だから」という慣習で現場担当者が一人で対応を続けていました。会社としての方針もなく、記録も取っていない状態が続いていたため、相手の要求がどんどんエスカレートしても、どこで断ればよいかの判断基準がありませんでした。

結果として、担当従業員が精神的に限界を迎えて退職。さらに退職後、「会社が適切なサポートをしなかった」として相談が持ち込まれるという事態に発展しました。対応方針を決め、記録を残し、弁護士に相談するタイミングが半年早ければ、担当者の退職も訴訟リスクも防げた可能性が高いと、対応した弁護士は振り返っています。

また、ある小売業の会社では、特定の顧客からの長時間電話クレームや来店時の暴言が常態化していましたが、「クレームはとにかく謝って収める」という対応が続きました。その結果、顧客は「謝れば要求が通る」と学習し、要求内容が返金・補償・担当者の処分にまで及ぶようになりました。対応に追われる中で記録が残っておらず、警告書を送ろうにも証拠が乏しく、法的対応への移行が非常に困難な状態になっていました。

これらの事例に共通しているのは、「会社として対応する仕組みがなかった」という点です。個人の判断と我慢に依存した対応は、必ず限界を迎えます。

なお、問題のある従業員や顧客への対応を放置すると連鎖的なリスクを招くことについては、問題社員を放置していた会社が直面した3つのリスクも参考にしてください。

カスハラに関連する法律(改正労働施策総合推進法・刑法など)の詳細については、カスハラ関連法律の完全解説|改正労働施策総合推進法・刑法・条文と企業の義務もあわせてご覧ください。


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カスハラ対応マニュアルに盛り込む5つの要素

「では何を整備すればいいのか」。以下に、実務で機能するマニュアルの構成要素を解説します。

1. カスハラの定義と判断基準

「何がカスハラか」を社内で共有することが出発点です。厚生労働省のガイドラインに基づく定義を記載しつつ、自社の業種に即した具体例を追加します。

たとえば次のような行為はカスハラとして対応する、と明記しておきます。

  • 30分を超える電話クレームの継続
  • 同じ要求を5回以上繰り返す
  • 脅し・侮辱・差別的な発言
  • 土下座・個人への謝罪要求・SNSでの拡散示唆

曖昧な基準は「これはカスハラになるのか…」という現場の判断迷いを生みます。具体的な行動や時間の目安を入れることで、迷わず報告・対応に移れるようになります。

2. 対応フロー

「どういう状況になったら、何をするか」のフローを明示します。

基本的な流れ:担当者が対応→一定の時間・回数を超えたら上長に報告→上長が対応を引き継ぐ→弁護士へ相談→警察への相談・法的措置

ポイントは「いったん電話を切ることを会社が許可する」「上長が来るまで担当者だけで対応しない」といった具体的な行動指示を入れることです。現場の担当者が「打ち切っていいんだ」と判断できる根拠を会社が与えることが重要です。

3. 記録様式

対応のたびに記録する様式を用意します。記録には以下の項目を含めます。

  • 日時・対応時間
  • 顧客の名前・連絡先(わかる範囲で)
  • 要求の内容(具体的な言葉で)
  • 対応内容(誰が・何を伝えたか)
  • 顧客の反応
  • 次のアクション

この記録が、弁護士相談時・警察相談時の重要な材料になります。記録がなければ、法的対応への移行が困難になります。

4. エスカレーションルール

担当者が一人で抱え込むことを防ぐために、上長への報告・引き継ぎ条件を明確にします。

すぐに上長へ引き継ぐ場面の例:

  • 脅迫・暴言があった
  • 30分以上の電話が続いている
  • 相手が来店して退去しない
  • SNSでの拡散を示唆している

「上長への報告は弱さではなく、正しい手順だ」という文化をルールとして明文化することが、従業員を守る組織風土を作ります。

5. 弁護士連携の手順

一定の状況になったとき、弁護士に相談・依頼するラインを事前に決めておきます。

  • 警告書・通知書の送付が必要な場合
  • 法的措置(出禁通知・損害賠償請求)を検討する場合
  • 脅迫的な言動があり、警察への相談を視野に入れる場合

顧問弁護士がいれば、こうした判断を即座に相談できます。「いざとなれば弁護士が動いてくれる」という安心感は、従業員にとっても心理的な支えになります。


就業規則・社内規程への明記も必須

マニュアルと並行して、就業規則・社内規程にカスハラ対応の方針を明記することをお勧めします。

「従業員はカスハラと判断した場合、会社の指示のもとで対応を打ち切ることができる」「カスハラへの対応は会社が責任を持って行う」という内容を規程に盛り込むことで、従業員が安心して毅然と対応できます。

また、顧客向けに「カスタマーハラスメントへの取り組みと方針」を公表することも、近年では有効な抑止策として多くの企業が採用しています。「この会社はきちんと方針を持っている」というメッセージは、問題のある顧客に対して一定の抑止効果があります。


顧問弁護士がいれば、この段階で防げた

先に紹介した事例を振り返ると、いずれも「問題が深刻化してから弁護士に相談した」という共通点があります。

顧問弁護士がいれば、次のことが可能でした。

  • マニュアル・規程の策定段階から法的に有効な内容を整備できる
  • 特定顧客からのクレームが繰り返される段階で早期に相談し、警告書の送付タイミングを判断できる
  • 従業員の安全配慮義務の観点から、経営判断をサポートできる
  • 「弁護士が対応している会社」という事実だけで、悪質なクレーマーの行動を抑止できる

弁護士へのスポット相談は都度費用がかかりますが、顧問契約を結ぶことで月額定額の範囲内で気軽に相談できるようになります。「何かあってから頼む」ではなく、「何かある前から相談できる」体制が、カスハラ対応を含む労務リスク全般のコスト削減につながります。

大阪の中小企業向けに顧問先130社以上の実績を持つ弁護士法人ブライトの顧問弁護士サービス「みんなの法務部」では、カスハラ対策を含む企業法務を総合的にサポートしています。

顧問弁護士の費用対効果や活用場面については、顧問弁護士は必要?重要性・利用すべき場面・費用対効果の判断基準もあわせてご覧ください。

また、カスハラが深刻化して従業員の退職が相次ぐようになった場合の対応については、退職勧奨で違法と言われないための進め方も参考になります。

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今すぐ取り組む3ステップ

  1. 現状の確認:社内にカスハラの定義・対応フロー・記録様式が存在するか確認する。何もなければゼロからの整備が必要です。
  2. マニュアルの草案作成:本記事の5要素をベースに、自社の業種・規模に合わせた草案を作成する。弁護士にレビューを依頼するのが確実です。
  3. 従業員への周知と研修:マニュアルを作っても周知されなければ機能しません。全従業員向けの説明会や研修で「会社が守る」という意思を伝えることが重要です。

カスハラ対応の整備は、従業員への投資であり、会社を守るリスク管理でもあります。「いつか整備しよう」と先送りにするたびに、その間に問題が深刻化するリスクは高まっています。


よくある質問(FAQ)

Q1. カスハラ対応マニュアルがない状態で、すでに問題が起きています。今からでも間に合いますか?

はい、今からでも対応は可能です。まず今起きている問題への対処(記録の整理・弁護士への相談)を進めながら、並行してマニュアル・規程の整備を行うことが現実的な進め方です。整備が遅れるほど次の問題への対処が難しくなるため、できるだけ早期に着手することをお勧めします。弁護士に相談することで、現在の問題対応と今後の体制整備を同時に進められます。

Q2. カスハラ対応マニュアルの整備や弁護士相談には、どのくらいの費用がかかりますか?

弁護士へのスポット相談は1時間あたり1〜3万円程度が相場ですが、顧問契約を結んでいれば追加費用なく気軽に相談できます。マニュアル・規程の整備を顧問契約の範囲でサポートしてもらえる場合も多く、トータルで見ると顧問契約の方がコスト効率は高くなるケースがほとんどです。整備せずに離職・訴訟リスクを抱えるコストと比較すれば、早期投資の方が合理的です。

Q3. カスハラと通常のクレームの線引きが難しいです。どう判断すればよいですか?

厚生労働省のガイドラインでは、「要求の内容が正当かどうか」「手段・態様が社会通念上相当かどうか」という2軸で判断することが示されています。正当な内容であっても、長時間の拘束・暴言・脅迫といった手段が伴う場合はカスハラになります。社内マニュアルに具体的な行動の目安(電話30分超、同一要求5回以上など)を設けることで、現場の判断ブレを防ぐことができます。判断に迷うケースは弁護士に相談するのが最も確実です。


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取引先担当者からの過剰な要求への対応については、取引先担当者からの過剰要求への対応|BtoBハラスメントの断り方もあわせてご覧ください。

和氣 良浩

監修:和氣 良浩(わけ よしひろ)

弁護士法人ブライト|代表弁護士|大阪弁護士会

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カスタマーハラスメント対策を会社として整備したい経営者の方へ

2026年10月1日から、カスハラ対策はすべての企業の義務になります。弁護士法人ブライト(大阪)は、就業規則・対応フローの整備から悪質クレームの個別対応まで一貫してサポートします。
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※本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、個別の法律アドバイスではありません。具体的な問題については弁護士にご相談ください。

本記事は、一般的な情報の提供を目的とするものであり、個別案件に関する法的助言を目的とするものではありません。また、情報の正確性、完全性及び適時性を法的に保証するものではありません。
なお、本記事の内容に関する個別の質問や意見などにつきましては、ご対応できかねます。ただし、当該記事の内容に関連して、当事務所へのご相談又はご依頼を具体的に検討されている場合には、この限りではありません。
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