ハラスメント申告を放置した会社に起きること|初動対応・調査・被害者保護の手順と放置コスト この記事でわかること: ハラスメント申告を放置した場合に会社が直面する3つの具体的リスク(損害賠償・行政指導・人材流出) 申告を受けた直後から取るべき4つの初動ステップ 顧問弁護士がいれば「この段階で」防げた、という具体的なポイント 「様子を見ていたら大事になった」——あなたの会社は大丈夫ですか? 「申告があったけど、よくある人間関係のもつれだろう」「加害者とされた人は会社の売上を支えてきた功労者だ」「どちらの言い分が正しいか分からないうちに動いたら、かえって混乱する」——ハラスメント申告を受けた経営者や人事担当者が、こうした判断で動きを止めてしまうケースは少なくありません。 しかし現実には、「様子を見ていた数週間・数ヶ月」が会社の命取りになります。使用者責任を問われる損害賠償訴訟、行政からの是正指導、そして被害者・目撃者の連鎖退職。放置したコストは、対応にかかるコストの何倍にも膨らみます。 この記事では、ハラスメント申告を放置した場合に実際に起きる3つのコスト、そして申告を受けた瞬間から会社が取るべき正しい手順を、実務目線で解説します。 ハラスメント申告を放置した場合の3つのコスト コスト①:損害賠償請求——「会社も同罪」と見なされる使用者責任 ハラスメントは加害者個人の問題だと思っていませんか。法律上、会社は従業員が業務中に行ったハラスメントについて、民法715条の使用者責任を負います。加害者個人への賠償と並んで、会社に対しても直接、損害賠償請求が届くのです。 裁判例では、パワーハラスメントを原因とした損害賠償額が50万〜200万円規模になるケースが複数報告されています。さらに被害者が精神疾患(適応障害・うつ病)を発症している場合は、休業補償・治療費・慰謝料が加算され、請求総額が300万円を超えるケースもあります。 問題は「ハラスメントが起きた事実」だけではありません。「申告を受けたにもかかわらず会社が適切に対応しなかった」という事後対応の不備が、賠償額を大きく引き上げます。裁判所は「会社が見て見ぬふりをした」と判断した場合、加害者個人への請求と同水準か、それ以上の賠償責任を会社に認めることがあります。 コスト②:行政指導・企業名公表——法令違反の対外的リスク 2020年のパワハラ防止法施行(中小企業は2022年適用)により、会社にはハラスメント防止措置を講じる義務が課されています。申告への対応を怠った場合、被害者が労働局や労働基準監督署に申告するケースがあり、行政指導・勧告の対象になり得ます。 さらに深刻なのは、勧告に従わなかった場合に企業名が公表されるリスクです。取引先・採用候補者・顧客への影響は計り知れず、特に中小企業においては経営に直結するダメージになります。 コスト③:連鎖退職と採用コスト——「あの会社は見て見ぬふりをする」という評判 ハラスメントが放置されている職場から、人は去ります。被害者本人だけでなく、目撃していた周囲の社員、「次は自分かもしれない」と不安を抱えた社員が次々と離職します。 ある物流業の会社では、パワハラ傾向のある社員を「業務上は熟練しているから」という理由で長年放置していました。結果として、同じ部署に配属された社員が次々と退職し、10名以上が会社を去りました。その後、問題社員自身も退職。退職から数ヶ月後には弁護士を通じて未払い残業代300万円超の請求書が届き、さらに過去に退職した別の社員3名も残業代請求を開始。最終的に150〜200万円での和解となりました。 人が去り、請求が来る。この負の連鎖を止めるためには、問題が小さいうちに動くしかありません。問題社員を放置していた会社が直面した3つのリスクでも詳しく解説していますが、「対応を先送りにするコスト」は時間とともに複利で膨らみます。 放置が招いた実際のケース ある製造業の会社では、職場内でセクシャルハラスメントが発生し、被害者が被害届の提出を検討する事態にまで発展しました。会社が申告を受けてから実際に動くまでに数週間のタイムラグがあり、その間に被害者の精神状態は悪化。最終的に被害者側から「加害者個人への損害賠償」と「会社の使用者責任・事後対応の不備」の両面で請求を受けることになりました。 もし申告を受けた翌営業日に被害者へのヒアリングを行い、加害者と物理的に引き離す措置を取っていれば、「会社が誠実に対応した」という事実が証拠として残り、使用者責任の範囲は大きく縮小できたはずです。 別のケースでは、役員クラスの人物が部下への攻撃的な言動を繰り返していました。「役員を処分するのは難しい」という経営者の躊躇から対応が遅れ、複数の部下が相次いで退職。最終的に弁護士の介入により360度ヒアリングと就業規則の懲戒規程に基づく降格処分で収束しましたが、退職者の補充採用に要したコストと残存社員のモチベーション低下は回復に相当の時間を要しました。 申告を受けたら動く:4つの初動ステップ STEP1|申告の受け付けと記録——「聞いた証拠」を残す 申告を受けたその日に、内容を書面またはメールで記録します。口頭申告であっても、その場で復唱・確認し、後から「言った・言わない」にならないよう記録を残してください。 申告者には以下の4点を明確に伝えます。 申告内容を真剣に受け止めること 調査を行うこと 調査中はプライバシーを守ること 申告を理由とした不利益な取り扱いは絶対に行わないこと 「報復はしない」という約束を明言することが、申告者の信頼を得る出発点です。この一言が、後の協力関係を左右します。 STEP2|事実調査(ヒアリング)——公正性と記録が命綱 調査は申告者→第三者(目撃者・同席者)→被申告者の順で行います。被申告者に先に事実確認すると、証拠の隠滅や口裏合わせのリスクが生まれます。また、申告者と被申告者を同席させることは二次被害の原因になるため、絶対に避けてください。 ヒアリングは録音またはメモで記録し、後から参照できる状態にしておきます。「いつ・どこで・どのような言動があったか」を具体的に聴取することで、事実認定の精度が上がります。 調査の過程でも「大したことではないでしょう」「お互い様では」といった軽視発言は厳禁です。こうした発言が後に「会社が組織ぐるみで隠蔽しようとした」という証拠になり得ます。 STEP3|加害者への処分——「やりすぎ」も「ゆるすぎ」もリスク 調査の結果、ハラスメントの事実が認定された場合、就業規則の懲戒規程に基づいて処分を決定します。選択肢は軽い順に、注意・口頭指導/戒告・譴責(始末書)/減給/降格・出勤停止/懲戒解雇です。 行為の悪質性に比例しない処分は「懲戒権の濫用」として無効になるリスクがあります。軽微な言動に懲戒解雇を行えば、加害者から解雇無効を争われます。逆に重大なハラスメントに口頭注意だけで済ませれば、被害者から「対応が不十分だった」として会社の責任が問われます。「適切な重さの処分」を選ぶために、就業規則の懲戒規程が整備されているかどうかが鍵になります。 STEP4|被害者の保護措置——処分と並行して必ず実施 加害者への処分と同時進行で、被害者の保護措置を講じます。具体的には以下が考えられます。 加害者と被害者の部署・席を分ける(加害者側を異動させるのが原則) 被害者が希望する場合は配置転換 有給休暇の取得サポート(無給での自宅待機にしない) 外部相談窓口(EAP・弁護士・産業医)への案内 被害者が「会社の対応が不十分だった」として損害賠償を求めるケースは実際にあります。調査と保護の両方を丁寧に実施し、その記録を残しておくことが、会社の責任を果たした証拠になります。 「顧問がいれば、この段階で防げた」という視点 ここまで読んで、「対応の流れは分かった。でも実際にやろうとすると、どこかで判断に迷う」と感じた方も多いはずです。 実務では「ヒアリングで本人が否定した場合、どこまで調査を続けるか」「処分の重さをどう決めるか」「被害者が示談を求めてきたらどう応じるか」など、テキストには書きにくい判断の局面が次々と出てきます。こうした判断を「その都度、顧問弁護士に相談できる体制」があるかどうかが、対応の質を大きく左右します。 前述の物流業の事例でも、問題社員への対応を早期に弁護士へ相談できていれば、就業規則の整備・問題社員への指導の記録化・残業代トラブルの予防が同時に実現できた可能性があります。ハラスメント申告は、会社の労務管理体制全体の「穴」が一度に露見する瞬間でもあります。 顧問弁護士を持つことのメリットについては、顧問弁護士は必要?重要性・利用すべき場面・費用対効果の判断基準でも詳しく解説しています。「事件が起きてから依頼する」のではなく、「起きる前から相談できる関係を作る」ことが、中小企業のリスク管理の要です。 なお、ハラスメント問題の処理の過程で、加害者との雇用関係を終了させるケースも出てきます。退職勧奨の進め方については退職勧奨で違法と言われないための進め方も合わせてご参照ください。 よくある質問(FAQ) Q1. 申告があってから数週間が経ってしまいました。今からでも適切に対応できますか? 対応が遅れた事実は変わりませんが、今この瞬間から動き始めることは必ず評価されます。裁判や行政対応においても「遅かったが誠実に対応した会社」と「最後まで放置した会社」では、判断が大きく異なります。まず弁護士に現状を相談し、今から取れる対応の優先順位を整理することをお勧めします。重要なのは「完璧なタイミング」ではなく「誠実な対応の証拠」を残すことです。 Q2. ハラスメント申告への対応を弁護士に依頼した場合、費用はどのくらいかかりますか? スポット依頼(単発の事案対応)の場合、初回相談・書類作成・ヒアリング設計のサポートで数万〜十数万円程度が目安です。ただし、訴訟に発展した場合は着手金・報酬金で数十万〜百万円を超えることもあります。一方、顧問契約(月額2〜5万円程度)を締結しておけば、申告を受けた初日に相談でき、事前の就業規則整備も含めてトータルのコストを大幅に抑えられます。「申告が来てから依頼する費用」と「顧問として継続的にサポートを受ける費用」を比較すると、後者の方が費用対効果は高いケースがほとんどです。 Q3. 調査の結果、ハラスメントの事実が確認できませんでした。申告者への対応はどうすればよいですか? 事実が確認できなかった場合でも、申告者に対して「調査を行ったが現時点では事実確認ができなかった」と丁寧に説明する必要があります。「嘘をついた」扱いをしたり、申告を理由に評価を下げたりすることは、法的に「不利益取り扱いの禁止」に違反する可能性があります。また「グレーゾーン」のケースでは、再発防止に向けた職場環境の改善(コミュニケーション研修・定期面談の実施など)を検討することが望ましいです。こうした場面でも、弁護士に手順の確認を依頼しておくと、対応の記録が整い、後のトラブルを防ぎやすくなります。 監修:弁護士法人ブライト 企業法務チーム 大阪・神戸を拠点に企業法務・顧問弁護士サービスを提供。中小企業の法的リスク対応を日々サポートしています。 労務トラブルの対応を弁護士に相談したい経営者の方へ 弁護士法人ブライト(大阪・梅田)は、問題社員対応・解雇・残業代請求・ハラスメント調査・就業規則整備まで、企業側の立場で労務問題に対応しています。→ 労務に強い弁護士をお探しの経営者の方へ(サービス案内) ※本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、個別の法律アドバイスではありません。具体的な問題については弁護士にご相談ください。 企業の法律問題でお困りの経営者様へ 弁護士法人ブライト|顧問先130社以上の実績・弁護士歴平均14年以上。まずはお気軽にご相談ください。 無料相談を申し込む 📞 0120-929-739