「働きすぎが原因だと、家族はみんな分かっている。でも、会社は『持病でしょう』と言う」——仕事中や帰宅後に脳梗塞・心筋梗塞・くも膜下出血で倒れた方、ご家族を突然亡くされたご遺族から、私たちが繰り返しお聞きする言葉です。
このとき、多くの方が本当に恐れているのは「労災が下りないこと」そのものではありません。働きすぎで倒れたという事実が、なかったことにされてしまうこと。故人が命を削って働いた時間が、誰にも認められないまま終わってしまうこと。そして、住宅ローンや子どもの学費を抱えたまま、これから先の生活がどうなるのか分からないこと——その不安のほうが、はるかに重くのしかかっています。
脳・心臓疾患の労災(いわゆる過労死・過労死型の労災)には、厚生労働省が定めた明確な認定基準があります。そして、労災が認められたあとには会社への損害賠償請求という、もう一段大きな段階が控えています。本記事では、認定基準の中身を通達の原文に沿って正確に整理したうえで、会社への賠償請求で実際に何が争点になるのかを、労災事故を数多く取り扱う弁護士が解説します。
この記事の結論
- 脳梗塞・脳出血・くも膜下出血・心筋梗塞などは、厚生労働省の認定基準(令和3年9月14日付け 基発0914第1号)に基づき労災認定される対象疾病です。「病気だから労災ではない」ということはありません。
- いわゆる「過労死ライン」(発症前1か月におおむね100時間、または2〜6か月平均で月80時間を超える時間外労働)は、あくまで「関連性が強い」と評価される水準です。令和3年の改正で、この水準に届かなくても労働時間以外の負荷要因と併せて認定され得ることが明文化されました。
- 労災認定はゴールではなくスタートラインです。労災保険には慰謝料の費目がなく、遺族が受け取れる金額は会社への損害賠償請求で大きく変わります。
- 会社が持ち出す最大の反論は「持病(高血圧・糖尿病など)が原因だ」という素因減額の主張。認定基準自体が、基礎疾患があっても業務起因性は否定されないという考え方を明記しています。
ご家族を亡くされた方・重い後遺症が残った方のご相談は、労災事故部が直接お受けします。
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「過労死」とは何を指すのか——法律上の定義と、労災の対象になる9つの疾病
「過労死」は日常語ですが、法律上の定義もあります。過労死等防止対策推進法2条は、過労死等を「業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡」「業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡」およびこれらの疾患・精神障害と定義しています。
つまり過労死には、①脳・心臓疾患(身体の病気)と②精神障害(うつ病等)という、性質のまったく異なる2つの流れがあります。労災の認定基準も別々に定められており、審査の視点も証拠も変わります。本記事は①の脳・心臓疾患を扱います。精神障害については後述の項でご案内します。
認定基準の対象になる9つの疾病
認定基準は、対象疾病を次のとおり列挙しています。ご家族の死亡診断書や診療情報提供書に書かれた病名が、この一覧に当てはまるかをまず確認してください。
| 分類 | 対象疾病 |
|---|---|
| 脳血管疾患 | ① 脳内出血(脳出血) ② くも膜下出血 ③ 脳梗塞 ④ 高血圧性脳症 |
| 虚血性心疾患等 | ⑤ 心筋梗塞 ⑥ 狭心症 ⑦ 心停止(心臓性突然死を含む) ⑧ 重篤な心不全 ⑨ 大動脈解離 |
このうち⑧「重篤な心不全」は、令和3年の改正で新たに追加された疾病です。それ以前は、不整脈が原因となった心不全症状は「心停止」に含めて扱われていましたが、心不全は心停止とは異なる病態であるとして独立の対象疾病になりました(心不全は医学的には特定の病名というより心臓の機能が低下した状態を指しますが、認定基準では独立の対象疾病として掲げられています)。不整脈によるものも含まれます。数年前に「対象外だ」と言われた経験がある方は、現在の基準で判断し直す価値があります。
なお、この一覧にない疾病でも道が閉ざされるわけではありません。認定基準は、対象疾病以外の各動脈の閉塞・解離について、個別に検討したうえで労働基準法施行規則別表第1の2第11号(その他業務に起因することの明らかな疾病)として取り扱うと定めています。また肺塞栓症(エコノミークラス症候群)は発症の仕組みが異なるため本認定基準の対象外ですが、業務による座位等の状態が血栓形成の有力な要因といえる場合には、同別表第1の2第3号5として取り扱うとされています。
認定基準の正体——令和3年9月14日付け 基発0914第1号
脳・心臓疾患の労災認定は、労働基準監督署の担当者の裁量で決まるわけではありません。全国の労働局・労働基準監督署は、厚生労働省労働基準局長が発出した次の通達に従って判断しています。
「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」
令和3年9月14日付け 基発0914第1号(令和5年10月18日付け 基発1018第1号により改正)
この通達は令和3年9月15日から施行され、それまで20年近く運用されてきた平成13年12月12日付け基発第1063号を廃止して置き換わったものです。インターネット上には旧基準を前提にした解説が今も残っています。ご自身の事案がどちらの基準で判断されるのかは、発症日で決まります。
基準の土台にある考え方——「自然経過を超えて著しく増悪」
認定基準は冒頭で、脳・心臓疾患は動脈硬化等の血管病変が長い年月をかけて徐々に進行して発症するもの(=自然経過)だと述べたうえで、次のように述べています。
業務による明らかな過重負荷が加わることによって、血管病変等がその自然経過を超えて著しく増悪し、脳・心臓疾患が発症する場合があり、そのような経過をたどり発症した脳・心臓疾患は、その発症に当たって業務が相対的に有力な原因であると判断し、業務に起因する疾病として取り扱う。
ここが決定的に重要です。この基準は、そもそも「血管に持病がある人が倒れる」ことを前提に組み立てられています。問われているのは「持病があったかどうか」ではなく、「持病の自然な進み方を超えるほどの負荷が、仕事によって加わったかどうか」です。会社から「もともと高血圧だったのだから仕方がない」と言われた方は、この一文をぜひ覚えておいてください。
3つの認定要件——どれか1つを満たせばよい
図解:脳・心臓疾患の労災認定 3つの入口
[入口①]長期間の過重業務 = 発症前おおむね6か月を見る
著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務。いわゆる「過労死ライン」(月80時間/100時間)はここで使われる目安。
[入口②]短期間の過重業務 = 発症前おおむね1週間を見る
発症に近接した時期の特に過重な業務。徹夜続き・深夜に及ぶ連日の残業など。
[入口③]異常な出来事 = 発症直前から前日までを見る
極度の緊張・興奮・恐怖等の強度の精神的負荷/急激で著しい身体的負荷/急激で著しい作業環境の変化。通常、負荷を受けてから24時間以内に症状が出るとされる。
▶ 3つは「すべて満たす」必要はありません。いずれか1つに当たれば業務上と扱われます。
実務でご相談の多くが該当するのは①ですが、「残業時間は足りないから無理」と自己判断して②③を見落としているケースが少なくありません。発症直前の1週間、あるいは発症当日に何があったかは、必ず思い出して整理してください。
入口①:長期間の過重業務——「過労死ライン」月80時間・100時間の正確な意味
認定基準は、労働時間を「疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因」と位置づけ、発症日を起点とした1か月単位の連続した期間で、次のとおり評価すると定めています。
| 時間外労働の水準 | 業務と発症との関連性の評価 |
|---|---|
| 発症前1〜6か月間にわたり、1か月あたりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない | 関連性が弱い |
| おおむね45時間を超えて、時間外労働が長くなるほど | 関連性が徐々に強まる |
| 発症前1か月間におおむね100時間、または発症前2〜6か月間にわたり1か月あたりおおむね80時間を超える時間外労働 | 関連性が強い(=いわゆる過労死ライン) |
ここで見落とされがちな定義が2つあります。
- 「時間外労働時間数」とは、1週間当たり40時間を超えて労働した時間を指します。会社の就業規則上の所定労働時間(1日7時間など)を基準にした社内集計とは、数え方が違うことがあります。休日に出勤して働いた時間も、その週の労働時間に含めて数えることになるため、「休日出勤は残業時間に入っていない」という社内の集計方法をそのまま前提にすると、実際より短く出ることがあります。
- 評価期間は「発症前おおむね6か月間」。それより前の業務も、疲労の蓄積を評価するうえで付加的要因として考慮されます。「半年より前のことは関係ない」と切り捨てる必要はありません。
また、認定基準は「特に過重な業務」に当たるかを、同種労働者(職種・立場・職責・年齢・経験等が類似する者。基礎疾患を有していても日常業務を支障なく遂行できる者を含む)にとっても特に過重な負荷といえるか、という視点で判断すると定めています。「本人が特別に体が弱かった」という会社側の説明が、そのまま通る枠組みにはなっていません。
残業時間が「足りない」と言われた方へ
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令和3年改正の核心——「過労死ラインに届かなくても認定される」道が明文化された
多くの解説記事は「月80時間を超えているかどうか」で話を終えます。しかし、令和3年改正のいちばんの実務的な意味は、そこに届かなかった人に道を開いたことにあります。認定基準は次のとおり定めています。
(過労死ラインの)水準には至らないがこれに近い時間外労働が認められる場合には、特に他の負荷要因の状況を十分に考慮し、そのような時間外労働に加えて一定の労働時間以外の負荷が認められるときには、業務と発症との関連性が強いと評価できる
さらに、労働時間と労働時間以外の負荷要因の関係について、「労働時間以外の負荷要因による負荷がより大きければ又は多ければ、労働時間がより短くとも業務と発症との関連性が強い場合がある」ことに留意せよ、とまで明記されています。月70時間台でも諦める理由にはならない、というのが現在の基準です。
「労働時間以外の負荷要因」の一覧——ここを主張できるかで結論が変わる
| 負荷要因 | 具体的な内容と評価の視点 |
|---|---|
| 勤務時間の不規則性 | ①拘束時間の長い勤務(始業から終業までの時間・労働密度・仮眠施設の状況等) ②休日のない連続勤務(連続労働日数、発症との近接性) ③勤務間インターバルが短い勤務——終業から次の始業までがおおむね11時間未満の勤務の有無・時間数・頻度・連続性 ④不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務 |
| 事業場外における移動を伴う業務 | 出張の多い業務(頻度・連続性・移動時間・宿泊状況、とくに4時間以上の時差を伴う海外出張)/その他移動を伴う業務 |
| 心理的負荷を伴う業務 | 常に生命・財産が脅かされる危険を有する業務、重大な判断が求められる業務、納期に追われる困難な業務、周囲の支援がない中での困難な業務ほか。パワーハラスメント・対人トラブル・退職強要なども具体的出来事として評価対象 |
| 身体的負荷を伴う業務 | 重量物の運搬作業、人力での掘削作業など。日常業務と質的に著しく異なる場合(事務職の人が急に激しい肉体労働を行った等)はその程度も評価 |
| 作業環境 (長期間の過重業務では付加的に評価) |
温度環境(寒暖の程度、防寒・防暑衣類、水分補給の状況、激しい温度差のある場所への出入り)/騒音(おおむね80dBを超える騒音の程度・ばく露時間) |
とくに「勤務間インターバル11時間未満」は、運送・建設・医療・介護・警備・宿泊など、深夜や早朝にまたがる勤務が常態化している業種で強力な材料になります。残業時間だけを見て「足りない」と判断された事案でも、シフト表と実際の始業・終業時刻を並べ直すと、11時間未満のインターバルが常態化していたことが浮かび上がることがあります。
入口②③:短期間の過重業務と異常な出来事——1週間・24時間で決まるケース
短期間の過重業務は、発症前おおむね1週間を評価期間とします。認定基準は、次の場合に業務と発症との関係性が強いと評価できるとしています。
- 発症直前から前日までの間に、特に過度の長時間労働が認められる場合
- 発症前おおむね1週間継続して、深夜時間帯に及ぶ時間外労働を行うなど過度の長時間労働が認められる場合
なお、この1週間のうちに就労しなかった日があったとしても、それだけで業務起因性が否定されるわけではないと明記されています。
異常な出来事は、発症直前から前日までの間の出来事を評価します。認定基準が例として挙げているのは次のような場面です。
- 業務に関連した重大な人身事故や重大事故に直接関与した場合
- 事故の発生に伴って著しい身体的・精神的負荷のかかる救助活動や事故処理に携わった場合
- 生命の危険を感じさせるような事故や対人トラブルを体験した場合
- 著しい身体的負荷を伴う消火作業・人力での除雪作業・身体訓練・走行等を行った場合
- 著しく暑熱な作業環境下で水分補給が阻害される状態や、著しく寒冷な作業環境下での作業、温度差のある場所への頻回な出入りを行った場合
最後の項目は、夏場の屋外作業・冷凍倉庫の出入りなどが典型です。「その日だけ特別なことがあった」事案は、残業時間が基準に届いていなくても、業務起因性を主張する余地があります。暑熱環境そのものが原因となる熱中症については、熱中症の労災が認められない・不支給になったときもあわせてご覧ください。
副業・兼業をしていた場合——複数業務要因災害で労働時間は通算される
「本業の残業だけでは基準に足りないが、副業と合わせれば明らかに働きすぎだった」——このケースは、以前は救済されませんでした。現在は異なります。
認定基準は労働者災害補償保険法7条1項2号の「複数業務要因災害」について、長期間の過重業務・短期間の過重業務の判断にあたり、異なる事業における労働時間を通算して評価し、労働時間以外の負荷要因についても異なる事業における負荷を合わせて評価すると明記しています。
ただし注意が必要です。労災保険での通算評価と、会社への損害賠償請求は話が別です。損害賠償はそれぞれの会社ごとに、その会社が負っていた安全配慮義務の内容と違反の有無を検討することになります。「労災は通算で認定されたが、賠償請求はどの会社に対して立てるべきか」という判断が必要になるため、副業がある事案は早い段階でご相談ください。
最大の分かれ目——「持病が原因だ」と言われたときの素因減額
脳・心臓疾患の事案で、会社側からほぼ確実に出てくる主張があります。「本人にもともと高血圧・糖尿病・動脈硬化があった」「健康診断で指摘されていたのに本人が放置していた」「飲酒や喫煙の習慣があった」——いわゆる素因減額の主張です。
この主張は、実は2つのまったく別の場面で出てきます。混同すると議論がかみ合わなくなるため、切り分けて理解してください。
| 場面 | 争点 | 判断のよりどころ |
|---|---|---|
| ①労災認定(労基署) | そもそも業務上の疾病といえるか(オール・オア・ナッシング) | 認定基準。基礎疾患があっても、業務による明らかな過重負荷で自然経過を超えて増悪したと認められれば業務上と扱われる |
| ②会社への損害賠償(民事) | 賠償額をいくら減らすか(割合の問題) | 民事の損害賠償法の考え方。会社側は「本人の体質・生活習慣も損害に寄与した」として減額割合を主張してくる |
①について、認定基準は次のとおり明記しています。器質的心疾患(先天性心疾患、弁膜症、高血圧性心疾患、心筋症、心筋炎等)を有する場合であっても、その病態が安定しており直ちに重篤な状態に至るとは考えられない場合で、業務による明らかな過重負荷によって自然経過を超えて著しく重篤な状態に至ったと認められるときは、業務と発症との関連が認められる——。持病があること自体は、労災認定を否定する理由になりません。
問題は②です。ここでは減額割合をめぐる交渉になります。死亡事案では損害額自体が大きいことが多いため、減額割合の主張の当否によって、最終的な金額が大きく変わり得ます。そして実務では、会社側がこの主張を法的な枠組みとして述べるのではなく、「なんとなくの事情」として持ち出してくることが少なくありません。「健康診断で通院を勧められていたのに放置していた」「休日もゴルフに出かけていた」「お酒が好きだった」——こうした私生活上の断片的な事実を並べたうえで、金額の根拠を示さないまま減額した提示をしてくる、という形です。これらが並べられたからといって、当然に減額が認められるわけではありません。
【ブライトの判断基準】
会社側が生活習慣や通院歴をほのめかしてきたとき、私たちはまず「それは素因減額という法的主張として述べておられるのですか。であれば、その枠組みと根拠をお示しください」と、正面から言語化を求めます。漠然とした印象論のままにしておくと、反論の的が定まらず、そのぶん提示額が低いまま固まってしまうからです。
そのうえで、「基礎疾患があったとしても、それを急激に悪化させたのは、会社の安全配慮義務に違反する過重労働である」という構成で押し返します。減額を前提にした提示に、そのまま乗ることはしません。
「ブライトは『持病があるから仕方がない』で終わらせない。何が発症の引き金になったのかを、証拠で立て直す。」これが、ブライトが過労死・脳心臓疾患の事案で一貫して大切にしている考え方です。
実際、会社から示された解決金の提示額について、算定の根拠を一つひとつ確認し、減額主張を法的な土俵に乗せ直したことで、当初提示額から増額して解決に至った事案があります(※ 事案の内容は依頼者の特定を避けるため抽象化しています。結果は個々の事案の事情により異なり、同様の結果を保証するものではありません。)。「会社が提示してきた金額が妥当かどうか」は、ご遺族がご自身で判断するのが最も難しい部分です。合意書にサインをする前に、一度ご相談ください。
会社から示談金・解決金を提示されている方へ
提示書面と、分かる範囲の勤務記録をお持ちいただければ、法的な相場との差がどのくらいあるかをお伝えします。相談料は何度でも無料。着手金0円・完全成功報酬制のため、費用のご心配なくご相談いただけます(実費等が別途必要となる場合があります)。
※ 事案の内容により、ご相談をお受けできない場合があります。※ お電話でのご相談の受付は平日9:00〜18:00です。
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労災認定はゴールではない——会社への損害賠償が本丸
多くの記事は「労災認定を受けましょう」で終わります。しかし、ご遺族が最終的に受け取れる金額を大きく左右するのは、その先にある会社への損害賠償請求です。理由はシンプルで、労災保険には慰謝料という費目が存在しないからです。
図解:過労死事案の補償の二層構造
[第1層]労災保険給付 = 国からの給付(会社の落ち度は不要)
遺族補償年金/遺族補償一時金/葬祭料/(生前の療養・休業に対する給付) など
▶ 慰謝料は含まれない。逸失利益も全額は埋まらない。
[第2層]会社への損害賠償 = 安全配慮義務違反を理由とする請求
死亡慰謝料/近親者固有の慰謝料/死亡逸失利益の不足分/葬儀費用 など
▶ 重い後遺障害・死亡の事案では、ここで金額が大きく動く。
※ 同じ費目については二重取りにならないよう調整(損益相殺)されますが、慰謝料は労災保険に費目自体がないため、別途請求できます。
会社に賠償を求める法的な根拠は安全配慮義務違反(労働契約法5条・民法415条/民法709条)です。過労死の事案では、次のような点が「会社は何をすべきだったのか」の中身になります。
- 労働時間を客観的な方法で把握し、長時間労働の実態を認識していた(または認識できた)か
- 健康診断で異常所見が出ていたのに、就業上の措置(業務量の軽減・配置転換・受診勧奨)を取らなかったか
- 本人や周囲から体調不良の申告があったのに、業務を軽減しなかったか
- 人員配置や納期設定そのものが、恒常的な長時間労働を前提にした組み立てになっていなかったか
安全配慮義務違反の要件・請求できる損害の項目・請求できる相手の範囲については、安全配慮義務違反による損害賠償請求とは|労災で会社に請求できる範囲・要件・時効で総論としてまとめています。
死亡事案で争点になりやすい3つの数字
| 項目 | 争点になるポイント |
|---|---|
| 死亡逸失利益 | 基礎収入をいくらと見るか(直近1年か、残業を含む実収入か)、就労可能年数、中間利息控除の係数。金額全体のなかで最も大きくなる項目 |
| 生活費控除率 | 亡くなった方が一家の支柱だったか、扶養家族が何人いたかで割合が変わる。数%の違いが数百万円の差になる |
| 損益相殺の範囲 | 遺族補償年金など労災保険給付のうち、何をどこまで賠償額から差し引くか。特別支給金は損益相殺の対象にならないと扱われるのが実務の一般的な理解で、ここを取り違えると受取額が変わる |
ご自身の事案でおおよそいくらになるのかを先に知りたい方は、労災の賠償額診断ツールで、労災保険給付と会社への損害賠償を合わせた概算を確認できます。また、労災認定後の遺族補償と相続手続の関係は過労死認定後の遺族補償と相続実務で整理しています。
「労災が下りたから終わり」ではありません
支給決定通知を受け取った段階でご相談いただければ、会社への損害賠償請求まで見据えた組み立てができます。労災の記録は、そのまま賠償請求の証拠になります。
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労働時間をどう立証するか——タイムカードがない場合の実務
過労死事案の勝負どころは、突き詰めれば「何時間働いていたかを、客観的な資料でどこまで再現できるか」です。会社の自己申告制の勤怠記録しかない、あるいは会社が資料を出さない——このパターンは珍しくありません。
| 資料 | 使いどころ |
|---|---|
| タコグラフ・運行記録・デジタコ | 運送・バス・タクシー。始業から終業までを分単位で再現できる最も強力な資料の一つ |
| 日報・作業日誌・作業指示書 | 建設・設備・メンテナンス。現場への入退場と作業内容が分かる |
| 入退館記録・警備システムの解除/施錠記録 | オフィス勤務。誰が最初に開けて最後に閉めたかが残る |
| ETC利用履歴・GPS・社用車の運行記録 | 移動を伴う業務。直行直帰の実態を裏づけられる |
| メール・チャット・業務システムの送信/操作ログ | 深夜・早朝の稼働を時刻付きで示せる |
| 家族のLINE・帰宅時刻のメモ・保育園の送迎記録 | 他の資料がない期間を補完する。ご家族の記録が決め手になることがあります |
会社が労災申請に協力してくれない場合
請求書の事業主証明欄への記入を会社が拒むことがあります。この場合でも申請は可能です。事業主証明が得られない事情を添えて、証明のないまま労働基準監督署へ提出する取扱いが認められています。会社の協力が得られないことは、申請を諦める理由になりません。
また、実務上ぜひ知っておいていただきたいのが、労災の調査記録の開示です。労働基準監督署は認定の可否を判断するために、会社に対する調査を行い、勤務記録や関係者からの聴取結果を記録として残しています。遺族の方が遺族補償給付等の支給決定を受けた後、その決定を根拠に、保有個人情報の開示請求によって調査記録の開示を求めていく——という進め方があります。会社が出し渋る資料を、別のルートから確保できることがあるのです。
これは、労災申請の段階から「その先の損害賠償で何が必要になるか」を見据えていないと出てこない発想です。私たちが「労災申請と損害賠償はセットで設計すべき」とお伝えしているのは、この点にあります。会社が労災の存在自体を争っている場合の対処は、会社が労災を認めない場合の対処法もご覧ください。
証拠は、時間とともに失われます
タコグラフ・運行記録・入退館データ・システムログには、いずれも保存期間があります。動くのが早いほど、取れる材料が増えます。「まだ何も決めていない」段階でも構いません。まずはお電話ください。
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うつ病・精神障害による過労死・過労自殺は「別の認定基準」です
本記事で扱ってきたのは、あくまで脳・心臓疾患(身体の病気)の認定基準です。うつ病・適応障害などの精神障害、およびそれを原因とする自殺については、まったく別の認定基準(心理的負荷による精神障害の認定基準)が適用されます。審査の視点も、集めるべき証拠も変わります。
精神障害の労災、および持病を理由に素因減額を主張されたときの反論の考え方については、過労死・過労うつ(精神疾患)の労災認定|持病のせいにされたとき素因減額に反論する方法で解説しています。
あわせてもう一点。通勤途中に倒れた場合の扱いにもご注意ください。通勤中の移動は原則として会社の指揮命令下にあるとはいえないため、会社の安全配慮義務違反を問う組み立ては容易ではありません。もっとも、恒常的な長時間労働の末に通勤中に発症したような事案では、判断が分かれる余地があります。通勤中の交通事故そのものについては交通事故のページをご覧ください。
時効——制度ごとに年数が違うので、「もう遅い」と決めつけない
「労災の時効」とひとくくりにされがちですが、実際には労災保険の給付と会社への損害賠償で、まったく別の時効が動いています。さらに労災保険の中でも給付の種類によって年数が違います。
| 請求の種類 | 期間 | 起算点の目安 |
|---|---|---|
| 労災保険|療養補償給付・休業補償給付・葬祭料 | 2年 | 費用を支出した日の翌日/休業した日の翌日/死亡の日の翌日 など |
| 労災保険|障害補償給付・遺族補償給付 | 5年 | 傷病が治ったとき(症状固定)の翌日/死亡の日の翌日 |
| 会社への損害賠償|不法行為構成(民法709条) | 5年(人の生命・身体を害する場合。民法724条の2) | 損害および加害者を知った時。別に、不法行為の時から20年の期間もある |
| 会社への損害賠償|債務不履行構成(安全配慮義務違反) | 5年/権利を行使することができる時から20年(民法166条1項・167条) | おおまかには「倒れた(亡くなった)ことと、会社に請求できる状態にあることを知った時」。事案により判断が分かれます |
ポイントは2つです。第一に、労災保険の請求期限が過ぎていても、会社への損害賠償請求の期間が残っていることがあります。第二に、2020年4月1日の改正民法施行の前後で適用される規定が変わるため、発症日・死亡日によって結論が変わります。「3年過ぎたからもう無理だと言われた」という方も、実際には別の構成で請求権が残っていることがあります。ご自身で判断せず、日付が分かる資料をお持ちのうえでご確認ください。
発症・ご逝去から時間が経っている方こそ、お早めに
時効が迫っている事案では、期間の進行を止めるための手続を先に打つ必要が出ることがあります。判断に時間の余裕がありません。日付の分かる資料をお手元に、まずはお電話ください。
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弁護士に依頼すると、何がどう変わるのか
過労死の事案でご遺族が直面するのは、法律の問題だけではありません。会社との連絡、労基署とのやり取り、親族への説明——それらすべてを、最愛の人を失った直後にご自身で背負うことになります。弁護士が入ることで変わるのは、金額だけではないと考えています。
| Before(ご相談前によくある状況) | After(ご依頼後) |
|---|---|
| 会社から「持病が原因」と言われ、働きすぎの事実そのものを否定されている | 客観的な記録で労働時間を再現し、業務による過重負荷を正面から主張できる状態になる |
| 提示された解決金が妥当なのか分からないまま、期限を切られて迫られている | 法的な相場との差が数字で示され、納得したうえで判断できるようになる |
| 会社からの連絡のたびに動揺し、日常生活が立て直せない | 連絡の窓口が弁護士に移り、ご遺族が会社と直接やり取りしなくてよくなる |
| 「故人が命を削って働いた事実が、誰にも認められないまま終わる」という不安 | 業務上の死亡として法的に位置づけられ、故人の働き方が公的に認められたと感じられる |
実際の事案で、恒常的な長時間労働の末に運転中に急性心筋梗塞を発症して亡くなった長距離トラック運転手のご遺族について、タコグラフと日報から時間外労働の実態を立て直し、会社の素因減額の主張に反論して5,000万円台で解決に至ったケースがあります。経過の詳細は、「持病のせいだ」と素因減額を主張する会社に、タコグラフで反論した過労死遺族の記録をご覧ください。
※ 掲載している事例は、ご本人が特定されないよう内容を抽象化しています。事案の内容によって結論・金額は異なり、同様の結果を保証するものではありません。
なぜブライトなのか
弁護士法人ブライトは、顧問先130社以上の企業法務を手がける法人です。会社側がどのような論理で長時間労働を説明し、どこで責任を切り分けようとするのかを、日常的に見ています。労働時間管理の実務、健康診断後の就業上の措置、36協定の運用——こうした会社側の労務実務への理解に加え、交通事故分野で培った賠償実務・訴訟・示談交渉・保険実務が、被災者・ご遺族の側に立ったときの武器になります。当法人には弁護士歴平均13年以上(在籍弁護士7名の平均)の弁護士が在籍し、労災事故部が直接対応します。
弁護士費用
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なお、訴訟提起の際の印紙代・郵券代、記録の取得費用などの実費は依頼者にご負担いただきます(事案によっては「実費予納金」として数万円程度をあらかじめお預かりする場合があります。未使用分は精算してご返金します)。また、当法人は法テラスの立替制度には対応していません。費用の詳しい内訳と、費用倒れを避けるための考え方は労災の弁護士費用はいくら?相場と費用倒れを防ぐポイントで説明しています。
参考裁判例(判例データベースで原文照合済み)
脳・心臓疾患の労災と会社の責任について、道しるべとなる裁判例を2件ご紹介します。いずれも判例データベースで判決原文を確認しています。
基礎疾患があっても業務起因性を認めた最高裁判例
最高裁判所第一小法廷判決 平成12年7月17日(平成7年(行ツ)第156号・休業補償不支給決定取消請求事件)
支店長付きの運転手が業務中にくも膜下出血を発症した事案です。最高裁は、発症前の相当長期間にわたる過重な業務の継続が精神的・身体的負荷を与えていたことを重視し、高血圧症など発症の基礎となり得る疾患があった場合でも、業務上の疾病に当たると判断しました。「基礎疾患・持病があるから労災にならない」とは限らないことを示した重要判例で、長期間の過重業務を重視する現在の認定基準の考え方につながっています。
会社の安全配慮義務違反による損害賠償責任を認めた裁判例
東京高等裁判所判決 平成11年7月28日(平成10年(ネ)第1785号・損害賠償請求控訴事件)
コンピュータソフト会社に勤務する社員が脳幹部出血により死亡した事案で、会社の安全配慮義務違反による損害賠償責任が認められました。労災保険の認定とは別に、会社そのものに対する損害賠償請求が成り立ち得ることを示した裁判例です。
※いずれも個別事案についての判断であり、結論はそれぞれの事情によって異なります。ご自身のケースにあてはまるかは、無料相談でお尋ねください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 勤務時間中ではなく、自宅で倒れた場合でも労災になりますか。
なり得ます。脳・心臓疾患の労災は、「どこで倒れたか」ではなく「発症前の業務が過重だったか」で判断されます。帰宅後・休日・入浴中に倒れた事案でも、発症前おおむね6か月の就労実態が認定基準に照らして評価されます。発症場所を理由に諦める必要はありません。
Q2. 残業時間が月80時間に届いていません。それでも可能性はありますか。
あります。令和3年の改正で、過労死ラインに至らない場合でも、これに近い時間外労働に加えて労働時間以外の負荷要因(勤務間インターバルが短い勤務、深夜・交替制勤務、出張の多さ、心理的負荷、身体的負荷、温度環境・騒音など)が認められるときは、業務と発症との関連性が強いと評価できることが明記されました。また、会社の勤怠記録に表れていない労働時間が別の資料から出てくることもあります。
Q3. 高血圧や糖尿病の持病がありました。労災は認められませんか。
持病があること自体は、労災認定を否定する理由になりません。認定基準は、血管病変等が「自然経過を超えて著しく増悪」したかどうかを問う枠組みで作られており、基礎疾患を有していても日常業務を支障なく遂行できる者を「同種労働者」に含めると定めています。ただし、会社への損害賠償の場面では別途、減額割合をめぐる主張(素因減額)が出てくるため、そこは反論の準備が必要です。
Q4. 会社が事業主証明を書いてくれません。申請できませんか。
申請できます。事業主証明が得られない場合は、その事情を添えて労働基準監督署へ提出する取扱いが認められています。実務上は、会社が非協力的であること自体が、後の損害賠償請求における会社の姿勢を示す事情になることもあります。
Q5. すでに労災認定を受け、遺族補償年金も出ています。会社に請求する意味はありますか。
あります。労災保険には慰謝料の費目が存在しません。死亡慰謝料・近親者固有の慰謝料は、会社への損害賠償請求でなければ受け取れない部分です。また逸失利益も、労災保険の給付だけで全額が埋まるわけではありません。すでに支給決定を受けている事案は、労基署の調査記録という強力な資料が存在するという点でも、賠償請求を進めやすい状態にあります。
Q6. 会社と争うことになると、残された家族の生活や親族関係に影響しませんか。
「会社とは円満に解決したい」というご希望は、実際によくうかがいます。訴訟が唯一の方法ではありません。当法人でも、会社側に賠償額の算定根拠を丁寧に確認しながら交渉を進め、示談で解決した事案があります。ご遺族の意向(争いたくない/徹底的に争いたい)を最初にうかがい、それに沿った進め方を設計します。
Q7. 費用が心配です。労災の損害賠償はいくらかかりますか。
労災事故部は着手金0円・完全成功報酬制で対応しています。報酬金は、獲得した経済的利益の24%(税込26.4%)で、着手の段階でご負担いただく弁護士費用はありません。ただし、印紙代・郵券代・記録の取得費用などの実費は別途ご負担いただきます。費用の詳しい内訳と費用倒れを避ける考え方は、労災の弁護士費用はいくら?相場と費用倒れを防ぐポイントをご覧ください。
まとめ
- 脳内出血・くも膜下出血・脳梗塞・高血圧性脳症・心筋梗塞・狭心症・心停止・重篤な心不全・大動脈解離の9疾病が、脳・心臓疾患の労災認定の対象。
- 基準は令和3年9月14日付け 基発0914第1号(令和5年10月18日改正)。平成13年の旧基準は廃止済み。
- 認定の入口は①長期間の過重業務(おおむね6か月)②短期間の過重業務(おおむね1週間)③異常な出来事(前日〜当日)の3つ。いずれか1つでよい。
- 過労死ラインは発症前1か月おおむね100時間/2〜6か月平均で月80時間。ただしこれに届かなくても、労働時間以外の負荷要因と併せて認定され得るのが令和3年改正の要点。
- 副業がある場合、複数業務要因災害として労働時間は通算される。
- 持病があること自体は認定を妨げない。争いになるのは民事の素因減額(賠償額をいくら減らすか)の場面。
- 労災認定はスタートライン。慰謝料は労災保険に費目がなく、会社への損害賠償請求で初めて受け取れる。
- 時効は制度ごとに違う。「もう遅い」と自己判断しない。
ご家族が働きすぎで倒れたのではないかと感じておられるなら、その感覚が後から客観的な記録で裏づけられることは少なくありません。問題は、その記録が時間とともに失われていくことです。まだ何も決めていない段階で構いません。お手元にある資料だけをお持ちのうえ、一度ご相談ください。
過労死・脳心臓疾患の労災について、まずはご相談ください
ご家族を亡くされたご遺族、重い後遺症が残った方からのご相談を、労災事故部が直接お受けします。相談料は何度でも無料。着手金0円・完全成功報酬制(報酬金は、獲得した経済的利益の24%(税込26.4%))のため、費用のご心配なくご相談いただけます(実費等が別途必要となる場合があります)。
死亡診断書・給与明細・勤務表・支給決定通知など、お手元にある資料をお持ちいただければ、より具体的な見通しをお伝えできます。
※ 事案の内容により、ご相談をお受けできない場合があります。※ お電話でのご相談の受付は平日9:00〜18:00です。
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