「もう辞めた会社だから、今さら何も言えない」「退職するとき、会社に言われるまま書類にサインしてしまった」——仕事中の事故で骨折や切断などの重いけがを負い、そのまま会社を辞めた方、あるいは辞めるよう迫られている方から、私たちがよくお聞きする言葉です。
このとき多くの方が本当に恐れているのは、法律上の細かな理屈ではありません。辞めた会社ともう一度向き合わなければならないこと。収入が途絶えたまま、後遺症を抱えてこの先どう暮らしていくのかが見えないこと。そして「辞めたことで、自分から権利を手放してしまったのではないか」という後悔——その重さのほうが、ずっと大きくのしかかっています。
先にお伝えします。会社を辞めても、事故について会社に損害賠償を請求する権利は消えません。一般的な解説は「退職後も労災保険は受け取れます」という点にとどまることが多いのですが、重い後遺障害が残る事故で本当に大切なのは、労災保険では埋まらない部分を会社に請求できるかどうかです。本記事では、退職の前後で何に気をつければその権利を守れるのかを、法律の条文に沿って整理します。
この記事が対象としている方
- 業務中の事故(高所からの転落・墜落、機械への挟まれ・巻き込まれ、フォークリフト・重機・クレーンの事故、指や手足の切断など)で、骨折以上の重いけがを負った方
- 後遺障害が残った方、または残る見込みの方(労災の等級認定を受けた方・申請中の方)
- その事故のあとに退職した方、退職を勧められている方、解雇を告げられた方、またはそのご家族
この記事の対象ではない方(ご案内先)
- うつ病などの精神疾患、腰痛、後遺障害の残らないけがについてのご相談は、当法人ではお受けしていません
- 休業補償の入金時期や請求書の書き方など、労災保険の手続きだけのご質問は、事業場を管轄する労働基準監督署の窓口へお問い合わせください
- 通勤中の事故は、相手方(加害者)への請求が中心になるため交通事故のページをご覧ください
この記事の結論
- 会社への損害賠償請求権(安全配慮義務違反・不法行為)は事故の時点で発生する権利であり、退職しても消えません。自己都合退職でも、解雇でも、定年でも同じです。
- 労災保険の給付を受ける権利も、退職によって変更されることはないと法律に明記されています(労働者災害補償保険法12条の5第1項)。
- 注意すべきは、①退職時に署名する書面(清算条項・念書)②時効 ③証拠が手元から離れることの3つです。
- まだ辞めていない方へ:業務上のけがで療養のために休業している期間とその後30日間は、原則として解雇できません(労働基準法19条)。辞める前・書面にサインする前が、最も選択肢の多いタイミングです。
業務中の事故で重いけがを負い、退職した方・退職を迫られている方のご相談は、労災事故部が直接お受けします。
0120-934-867(通話料無料)(平日9:00〜18:00)
会社を辞めても、事故の損害賠償請求はできる——その理由
仕事中の事故について請求するお金は、大きく分けて2つの制度から出てきます。1つは国の労災保険の給付、もう1つは会社に対する損害賠償です。この2つは別の制度で、それぞれについて「退職したらどうなるか」を確認しておく必要があります。
会社への損害賠償は「事故のときに」発生している
会社には、働く人が生命や身体の安全を確保しながら働けるよう配慮する義務があります(労働契約法5条)。これを安全配慮義務といい、会社がこれに違反して事故が起きた場合は、民法415条(債務不履行)に基づく損害賠償責任を負います。また、会社や現場責任者の過失による事故であれば、民法709条(不法行為)・715条(使用者責任)を根拠にすることもあります。
ここで大切なのは、これらの賠償請求権は事故によって損害が生じた時点で発生しているという点です。雇用関係が続いていることは、請求の条件ではありません。ですから、自分から辞めた場合も、会社から解雇された場合も、定年で退職した場合も、退職それ自体を理由に請求できなくなることはありません。「辞めた人には払わない」という会社の説明には、法的な根拠がないのです。
労災保険の給付も、退職で打ち切られない
労災保険についても、労働者災害補償保険法12条の5第1項が「保険給付を受ける権利は、労働者の退職によつて変更されることはない」と定めています。療養(治療費)や休業の給付、後遺障害が残った場合の障害の給付は、退職後も要件を満たす限り受け取れます。退職後に労災の申請をすること自体もできます。
ただし、労災保険には慰謝料の費目がありません。休業の給付も、給付基礎日額の60%(これとは別に休業特別支給金20%)にとどまります。後遺障害が残る事故では、労災保険で埋まらない部分——慰謝料、将来の収入の減少分(逸失利益)、休業損害の差額など——が大きく残ります。この部分を取り戻す手段が、会社への損害賠償請求です。会社に請求できる範囲の全体像は安全配慮義務違反による損害賠償請求の解説で詳しく説明しています。

退職した後で「請求できるのか」を確かめたい方へ
事故の状況、けがの内容、退職のいきさつをお聞きし、会社への損害賠償請求ができる見込みと、残された時間(時効)の目安をお伝えします。相談料は何度でも無料です。
※ 事案の内容により、ご相談をお受けできない場合があります。※ お電話でのご相談の受付は平日9:00〜18:00です。
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退職の「形」で何が変わるか——自己都合・退職勧奨・解雇・期間満了・定年
退職しても請求権は消えませんが、どのような形で辞めたか(辞めさせられたか)によって、気をつける点は変わります。代表的な5つの形を整理します。
| 退職の形 | 会社への損害賠償請求 | 特に気をつけたい点 |
|---|---|---|
| 自己都合退職(けがで働けず自分から辞めた) | 請求できる | 退職届の理由欄や退職時の書面の文言。けがのために働けなくなった経緯を、メールや受診記録など客観的な形で残しておく |
| 退職勧奨に応じた | 請求できる | 勧奨に応じる義務はない。退職合意書の清算条項に事故の賠償まで含める文言がないかを確認してから署名する |
| 解雇された | 請求できる | 療養のための休業期間とその後30日間は原則として解雇できない(労働基準法19条)。解雇そのものの有効性も別に争える場合がある |
| 有期契約の期間満了(雇止め) | 請求できる | 期間満了による終了は、解雇制限の規定がそのまま当てはまる場面とは扱いが異なる。更新への期待の有無など個別の検討が必要 |
| 定年退職・再雇用の終了 | 請求できる | 逸失利益(将来の収入の減少分)の計算で、年齢や就労を続けられる期間が争点になりやすい |
当法人に寄せられるご相談では、退職をめぐって会社から次のような言い方をされたという例が繰り返し出てきます。いずれも、その場で受け入れる前に立ち止まっていただきたい場面です。
| 会社から言われたこと(ご相談で多い例) | 知っておきたいこと |
|---|---|
| 「軽い作業で戻るか、辞めて自分で休業補償を申請するか、どちらかにしてほしい」 | どちらかを今すぐ選ぶ必要はありません。労災保険の休業補償給付は、辞めなくても受けられます。復職の話を急いで進めると、後で「働けている」として収入の減少(逸失利益)の評価に影響することがあるため、賠償との関係を確認してから決めます |
| 「労災の給付を打ち切る」 | 労災保険の給付は国(労働基準監督署)が支給するもので、会社の判断で打ち切ることはできません。退職によって変更されないことも法律に定められています(労働者災害補償保険法12条の5第1項) |
| 「業績が悪いための人員整理で、事故とは関係ない」 | 療養のための休業中とその後30日間は、整理解雇であっても原則として解雇できません(労働基準法19条)。解雇の問題と事故の賠償は、別々ではなく一つの交渉としてまとめて扱えることがあります |
| 話し合いの場では「後遺症は認めない」と言いながら、別の場面で退職合意書への署名を求めてくる | 後遺障害の等級が決まる前に書面に署名を求められる例があります。署名の前に、次の章で述べる清算条項の有無を確認してください |
「療養中の解雇」は原則としてできない
労働基準法19条1項は、労働者が業務上のけがや病気の療養のために休業する期間と、その後30日間は解雇してはならないと定めています。例外は、①会社が同法81条の打切補償(療養開始後3年を経過しても治らない場合に平均賃金の1,200日分を支払うもの)を行った場合、②天災事変などやむを得ない事由で事業の継続ができなくなり、労働基準監督署長の認定を受けた場合です。また、療養開始後3年を経過した日に傷病補償年金を受けている場合などは、打切補償を支払ったものとみなされます(労働者災害補償保険法19条)。
つまり、重いけがで休業している最中に「もう来なくていい」と言われても、それで直ちに雇用が終わるわけではありません。ここで慌てて退職届を出してしまうと、本来は争えたはずの点を自分で閉じてしまうことになりかねません。労災申請を理由とした不利益な扱いについては労災申請で会社から報復・不利益取扱を受けた場合の対処法もあわせてご覧ください。
なお、休業中に解雇を告げられた方のなかには、「もうあの会社に戻るつもりはない」という方も少なくありません。その場合でも、解雇の効力を争えることは交渉の材料になります。当法人では、職場への復帰を求めるのではなく、解雇が無効であることを前提とした解決金と、事故の安全配慮義務違反に基づく損害賠償とをあわせて請求する進め方を検討することがあります。どちらを主にするかは、ご本人が職場に戻りたいかどうかで決まります。
退職のときに署名する書面に要注意——清算条項・念書・示談書
退職をめぐるご相談で、私たちが最初に確認するのが「辞めるときに、会社から何か書面を出されませんでしたか」という点です。退職合意書や念書には、次のような一文が入っていることがよくあります。
「甲及び乙は、本合意書に定めるもののほか、甲乙間に何らの債権債務がないことを相互に確認する。」
これを清算条項といいます。本来は未払い賃金や退職金など雇用関係の精算を確認するための条項ですが、会社側は後になって「事故の賠償も含めてすべて解決済みだ」と主張してくることがあります。実際にその条項が事故の損害賠償まで含むかどうかは、書面の文言、合意に至った経緯、受け取った金額が事故の損害に見合うものかなどによって判断が分かれます。署名したからといって当然に請求できなくなるわけではありませんが、争点を一つ増やしてしまうことは確かです。
- 署名する前なら:事故の損害賠償を清算の対象から外す一文(例:「本件労働災害に基づく損害賠償請求権は、本合意の対象に含まない」)を入れるよう求める、またはサインをいったん持ち帰る
- 見舞金・退職金の上乗せを提示されたら:その金額が「事故の賠償の代わり」という趣旨で渡されていないかを確認する。見舞金と損害賠償の関係は労災の骨折で見舞金をもらうべきかで解説しています
- すでに署名してしまったら:あきらめる前に、書面の写しと、署名に至ったやりとり(メール・メッセージ・メモ)をそろえて弁護士に見せてください
ご相談で実際にあった型——等級が決まる前に合意書を求められる
重いけがの事故で、後遺障害の等級の申請がまだこれからという段階なのに、会社から退職合意書への署名を求められたというご相談があります。そうした例では、会社が一方で「後遺症は認めない」という姿勢を示しながら、もう一方で、早い段階で清算条項つきの合意書をまとめようとしていることがあります。等級が決まる前に「これで全部終わり」という書面を作っておけば、その後に重い等級が認定されても、会社は「もう解決済みだ」と主張できるからです。
このような場面で当法人がお伝えしているのは、次のような対応です。
- 退職そのものと、事故の賠償とを切り分けて返答する:「退職には応じるが、事故についての話は改めて協議したいので、この合意書には署名できない」と伝える
- ご本人が以前に作ったメモや請求書を前提にした合意書に注意する:ご本人が会社に出した手書きの請求メモなどを前提に清算条項が組まれていると、後で「本人が求めた範囲で終わった」と言われかねません
- 会社から労災関係の書類の写しを求められても、目的と対象が分からないうちは渡さない:何に使うのかがはっきりするまでは提出を控え、弁護士に相談してから判断します
- 退職のときに受け取るお金の名目を書面で残す:退職時に会社から受け取ったまとまったお金について、後の交渉で会社が「損害賠償の額から差し引くべきだ」と主張してきた例もあります。退職金・見舞金・解決金のどれなのかを、受け取る時点で書面やメールで確認しておきます
退職合意書・念書にサインする前に
会社から示された書面の写しをお持ちいただければ、事故の損害賠償にどのような影響がありうるかを確認します。すでにサインしてしまった方からのご相談もお受けしています。
※ 事案の内容により、ご相談をお受けできない場合があります。※ お電話でのご相談の受付は平日9:00〜18:00です。
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時効は「退職した日」ではなく「事故・症状固定」から数える
退職から時間がたってから「やはり請求したい」と考える方も少なくありません。そのとき気になるのが時効です。時効は退職日から数えるのではありません。また、損害賠償と労災保険では期間がまったく違うため、混同しないことが大切です。
| 請求の種類 | 期間(原則) | 根拠 |
|---|---|---|
| 会社への損害賠償(安全配慮義務違反=債務不履行) | 権利を行使できることを知った時から5年/権利を行使できる時から20年 | 民法166条1項・167条 |
| 会社への損害賠償(不法行為) | 損害と加害者を知った時から5年/不法行為の時から20年 | 民法724条・724条の2 |
| 労災保険:療養・休業の給付 | 2年 | 労働者災害補償保険法42条 |
| 労災保険:障害・遺族の給付 | 5年 | 労働者災害補償保険法42条 |
後遺障害に関する損害は、症状固定の時から数えるのが一般的です。上の「5年」「20年」は、2020年4月1日施行の改正民法のルールです。それより前に起きた事故は、経過措置により期間が変わります。たとえば、不法行為として請求する場合は、施行日の時点で旧民法の「知った時から3年」がまだ過ぎていなければ5年となり、安全配慮義務違反(債務不履行)として請求する場合は旧民法の「権利を行使できる時から10年」が適用されるなど、事故の時期と請求の根拠によって期間が異なります。また、会社に内容証明郵便で請求する(催告)と6か月間は時効の完成が猶予される(民法150条)など、時効の完成を猶予したり更新したりする方法もあります。「もう何年も前に辞めたから遅い」と自分で判断せず、事故日・症状固定日・退職日をメモにして相談してください。
退職した後でも会社に請求できるお金の内訳
退職したかどうかにかかわらず、会社に請求できる損害の項目は同じです。労災保険から出るものと、会社への損害賠償でなければ取れないものを並べると、次のようになります。
| 損害の項目 | 労災保険から | 会社への損害賠償で請求 |
|---|---|---|
| 治療費 | 療養の給付(原則全額) | 労災保険で賄えない自己負担分など |
| 休業による収入の減少 | 給付基礎日額の60%(+休業特別支給金20%) | 残りの差額(特別支給金は差し引かない扱い) |
| 入通院の慰謝料 | なし | 請求できる |
| 後遺障害の慰謝料 | なし | 等級に応じて請求できる |
| 将来の収入の減少(逸失利益) | 障害の給付(年金・一時金) | 給付で埋まらない部分を請求できる |
| 将来の介護費用など | 介護の給付(要件あり) | 給付で埋まらない部分を請求できる |
退職後の逸失利益の考え方
退職した方からよく聞かれるのが、退職後の収入の減少がどう扱われるかです。後遺障害による将来の収入の減少(逸失利益)は、事故前の収入に、後遺障害の等級に応じた労働能力喪失率と、働けたはずの期間に対応する係数を掛けて計算するのが基本です。退職して収入がなくなったからといって全額が認められるわけではなく、反対に、退職したから認められないというものでもありません。
一方で、症状固定までの休業損害については、けがのために働けず退職せざるを得なかったのか、事故と関係のない理由で辞めたのかが問題になることがあります。だからこそ、退職に至った経緯を記録で示せるようにしておくことが大切です。また、定年でいったん退職したあと、同じ会社で非正規の立場で働き続けていた方の事故では、事故時の収入と、それ以前の正社員時代の収入のどちらを計算の基礎にするかが争点になったご相談もあります。雇用の形が変わっていた方は、過去の給与の資料も手元に残しておいてください。逸失利益の計算方法は労災の後遺障害と逸失利益の解説、全体の金額の目安は労災の賠償額診断ツールで確認できます。
退職後の収入の減少をどう請求に反映できるか、一緒に整理します
後遺障害の等級、事故前の収入、退職のいきさつをうかがい、会社に請求できる項目と金額の見通しをお伝えします。着手金0円・成功報酬制(報酬金は、獲得した経済的利益の24%(税込26.4%))のため、費用のご心配なくご相談いただけます(実費等が別途必要となる場合があります)。
※ 事案の内容により、ご相談をお受けできない場合があります。※ お電話でのご相談の受付は平日9:00〜18:00です。
0120-934-867(通話料無料)(平日9:00〜18:00)
退職すると集めにくくなる証拠と、退職後でも取れる証拠
退職によって変わる最も現実的な問題は、職場の資料や同僚に近づきにくくなることです。事故の状況を示す資料の多くは会社の中にあり、退職すると自分の目で確かめる機会がなくなります。
退職前に、自分の手元にあるものを確保しておく
- 給与明細・源泉徴収票・雇用契約書(労働条件通知書)
- 事故当日や直後の写真、上司・同僚とのメール・LINE・チャットのやりとり
- 労災の支給決定通知、後遺障害の等級決定通知、診断書・診療明細
- 事故の状況を自分の言葉で書いたメモ(日時・場所・作業内容・誰が何を指示したか)
- 事故を見ていた同僚の名前(連絡を取るかどうかは慎重に判断してください)
なお、会社の内部資料を無断で持ち出すことは、それ自体が別のトラブルの種になることがあります。手元にないものを無理に集める必要はありません。次に述べるとおり、退職後でも法的な手段で取り寄せられる資料があります。
退職した後でも取り寄せられるもの
| 方法 | 取り寄せられるものの例 |
|---|---|
| 労働局への保有個人情報の開示請求 | 労災の請求について労働基準監督署が集めた調査資料(会社の報告、聴き取りの記録など。一部が黒塗りになることがあります) |
| 消防本部への個人情報の開示請求 | 救急搬送の記録(出動時の状況や傷病の程度。重いけがの事故では、事故直後の状況を示す客観的な資料になります) |
| 弁護士会照会(弁護士法23条の2) | 弁護士が弁護士会を通じて行う照会。公的機関や企業に事実関係を問い合わせる |
| 証拠保全(民事訴訟法234条) | 会社が資料を改ざん・廃棄するおそれがある場合に、裁判所の手続きで事前に記録を確保する |
| 訴訟の中での文書提出命令(民事訴訟法220条) | 作業手順書・安全教育の記録・事故報告書など、会社が持つ文書の提出を求める |
証拠の集め方の詳細は労災事故の証拠保全の解説にまとめています。退職後のご相談でも、こうした手段を組み合わせて、会社の安全配慮義務違反を立て直していくことは十分に可能です。
「辞めた会社とまた関わりたくない」——弁護士が窓口になるということ
退職した方が請求をためらう一番の理由は、法律の問題ではなく、「あの会社の人たちとまた話をしなければならないのか」という気持ちの重さです。在職中に事故の責任をめぐって嫌な思いをされた方ほど、その思いは重くなります。
弁護士に依頼すると、会社とのやりとりはすべて代理人である弁護士が行います。ご本人が会社に電話をしたり、元の上司と顔を合わせたりする必要はありません。解決の方法も、交渉(示談)・労働審判・訴訟のなかから、ご本人の意向(早く終わらせたい/とことん責任を明らかにしたい)に合わせて選びます。
見方を変えると、退職していることには職場での立場を気にせずに請求できるという面もあります。在職中は「請求したら居づらくなる」と迷っていた方が、退職を機に請求を決断されることは珍しくありません(在職のまま請求する場合については労災事故の損害賠償は復職後も請求できるで解説しています)。
【ブライトの判断基準】
退職した方からのご相談で、会社側からよく出てくるのが「本人が自分の都合で辞めた」「辞めるときに全部終わっている」という説明です。私たちはこの説明をそのまま受け取らず、まず退職の経緯と、そのとき交わされた書面の文言を一つずつ確認します。
けがのために働けなくなったのか、会社から辞めるよう仕向けられたのか。その経緯は、それ自体が「会社がこの事故にどう向き合ったか」を示す事情になります。退職の事実を、請求をあきらめる理由ではなく、会社の対応を明らかにする材料として整理し直します。
「ブライトは『もう辞めた会社だから』で終わらせない。事故の責任は、退職の日付で消えるものではない。」これが、ブライトが退職後の労災のご相談で一貫して大切にしている考え方です。
当法人の解決事例——事故の後に解雇された方の事案
当法人がこれまでに掲載している解決事例のなかから、事故の後に職を失った方の事案をご紹介します。
運送会社に勤務する60代のトラック運転手の方が、荷降ろし作業中にカゴ車が荷台から落下して右足首を骨折し、後遺障害10級(足関節の機能障害)が残りました。さらに、事故の後に会社から解雇の通知を受けるという状況でした。会社側は「荷締めベルトを使っていなかった本人の責任だ」と主張しましたが、現場の再現や証人尋問の準備を進め、元請けへの通知を交渉の材料として生かし、相手方代理人との交渉で解決に至りました(詳しくは機械・重機事故の労災の解決事例の事例5をご覧ください)。
※ 事案の内容は依頼者の特定を避けるため抽象化しています。結果は個々の事案の事情により異なり、同様の結果を保証するものではありません。
ご依頼の前と後で変わること(一般的な流れ)
| ご依頼前 | ご依頼後 |
|---|---|
| 「辞めた会社には何も言えない」と、請求そのものをあきらめかけている | 事故の責任と退職の経緯を分けて整理し、会社に請求できる項目と見通しが分かる |
| 元の上司や会社の担当者と、また話をしなければならないと思うと気が重い | 会社とのやりとりはすべて弁護士が行い、ご本人は治療と生活の立て直しに専念できる |
| 退職時にサインした書面のせいで、もう遅いのではと後悔している | 書面の文言と経緯を確認したうえで、何が争えて何が難しいのかを率直に知ることができる |
| 収入が途絶え、後遺症を抱えたこれからの生活が見えない | 労災保険で埋まらない慰謝料・逸失利益などを会社に求める道筋が見え、生活の見通しを立て直すきっかけになる |
※ 上の表は、ご依頼後に一般的に進む流れを示したものです。結果は事案ごとに異なり、同様の結果を保証するものではありません。
事故の後に解雇・退職勧奨を受けた方へ
解雇や退職勧奨への対応と、事故の損害賠償請求を、別々ではなく一つの流れとして整理します。まだ辞めていない方は、退職届を出す前にご相談ください。
※ 事案の内容により、ご相談をお受けできない場合があります。※ お電話でのご相談の受付は平日9:00〜18:00です。
0120-934-867(通話料無料)(平日9:00〜18:00)
まだ辞めていない方へ——退職する前に確認したい6つのこと
- 療養中に「辞めてほしい」と言われても、すぐに応じない:療養のための休業期間とその後30日間は、原則として解雇できません(労働基準法19条)。退職勧奨に応じる義務もありません。
- 書面は持ち帰ってから署名する:退職合意書・念書・示談書に、事故の賠償まで清算する趣旨の文言がないかを確認してください。
- 退職届の理由欄に、けがとの関係を書き添える:会社の書式が「一身上の都合により」となっていても、たとえば「後遺障害のため復職できる状況にないため」と書き添えておくと、けがのために辞めざるを得なかった経緯が記録に残ります。
- 手元の資料と経緯の記録を確保する:給与明細、事故状況のメモ、会社とのやりとりを、退職前にまとめておきます。
- 雇用保険の手続きも確認する:けがで30日以上働けない場合、失業給付(基本手当)の受給期間の延長を申請できることがあります。詳しくはハローワークでご確認ください。
弁護士費用と、ブライトに相談いただく理由
弁護士費用
労災の損害賠償請求について、弁護士法人ブライトは着手金0円・成功報酬制で対応しています。報酬金は、獲得した経済的利益の24%(税込26.4%)です。相談料は何度でも無料です(※事案の内容により、ご相談をお受けできない場合があります)。訴訟提起の際の印紙代・郵券代、記録の取得費用などの実費は依頼者にご負担いただきます。また、当法人は法テラスの立替制度には対応していません。費用の詳しい内訳は労災の弁護士費用はいくら?で説明しています。
なぜブライトなのか
弁護士法人ブライトは、顧問先142社の企業法務を手がける法人です。会社が退職や解雇の場面でどのような書面を用意し、どこで責任を切り分けようとするのかを、日常的に見ています。この会社側の実務への理解が、退職後に会社へ請求する被災者の側に立ったとき、書面の読み解きや交渉の組み立てに生きてきます。労災事故部が、事故の責任追及と、解雇・退職をめぐる問題を一つの流れとして担当します。
よくある質問(FAQ)
Q. 退職してから2年以上たっています。もう請求できませんか。
あきらめるのは早いかもしれません。2020年4月以降の事故であれば、会社への損害賠償は、生命・身体の侵害について原則として損害及び加害者を知った時から5年です(後遺障害に関する損害は症状固定の時から数えるのが一般的です)。それより前の事故は、請求の根拠によって旧民法の期間(3年または10年)が関係することがあります。一方、労災保険の療養・休業の給付は2年で時効になるため、制度ごとに確認が必要です。事故日・症状固定日・退職日をメモにしてご相談ください。
Q. 自己都合で退職しました。会社都合でないと請求できませんか。
退職の理由が自己都合か会社都合かは、会社への損害賠償請求ができるかどうかとは関係がありません。ただし、退職後の収入の減少をどう扱うかの場面で、けがのために働けなくなった経緯が問題になることがあります。そのいきさつを示す記録があれば、ご相談の際にお持ちください。
Q. 退職のときに「今後一切請求しない」という書面にサインしました。
書面の文言、署名に至った経緯、受け取った金額などによって評価が分かれます。サインしたからといって当然に請求できなくなるとは限りません。書面の写しと、当時のやりとりの記録をお持ちいただければ、何が争えるかを確認します。
Q. 退職後も労災保険の給付は受け取れますか。
受け取れます。労働者災害補償保険法12条の5第1項は、保険給付を受ける権利は労働者の退職によって変更されないと定めています。退職後に治療や障害の給付の手続きを進めることも可能です。
Q. 元の会社に連絡されると、再就職先に知られませんか。
会社への請求は、元の会社との間で行うもので、再就職先が当事者になることはありません。連絡の方法や時期についてご不安があれば、ご依頼の前にお伝えください。
Q. 会社がすでに倒産・廃業しています。
会社の状況によって、請求の相手方や回収の見込みが変わります。元請会社など事故現場の安全管理にかかわっていた別の会社に責任を問える場合もあるため、事故現場の体制が分かる資料とあわせてご相談ください。
まとめ
- 会社への損害賠償請求権は事故の時点で発生しており、退職しても消えない。自己都合・解雇・定年のいずれでも同じ。
- 労災保険の給付を受ける権利も退職によって変更されない(労働者災害補償保険法12条の5第1項)。
- 退職の前後で注意すべきは、清算条項のある書面・時効・証拠の3つ。
- 時効は退職日ではなく事故・症状固定から数える。損害賠償(原則5年)と労災保険(2年・5年)で期間が違う。
- 療養のための休業期間とその後30日間は原則として解雇できない(労働基準法19条)。
- 退職後でも、開示請求・弁護士会照会・証拠保全などで資料を取り寄せる手段がある。
会社を辞めたことで、ご自身を責めておられる方もいらっしゃいます。けれども、事故の責任は、退職の日付で消えるものではありません。大切なのは、辞めたかどうかよりも、今どの書面が手元にあり、時効まであとどのくらい時間があるかです。まだ何も決めていない段階で構いません。一度ご相談ください。
会社を辞めた後の労災の損害賠償について、まずはご相談ください
業務中の事故で重いけがを負い、退職した方・退職を迫られている方からのご相談を、労災事故部が直接お受けします。相談料は何度でも無料。着手金0円・成功報酬制(報酬金は、獲得した経済的利益の24%(税込26.4%))のため、費用のご心配なくご相談いただけます(実費等が別途必要となる場合があります)。等級の決定通知・退職時の書面・給与明細など、お手元にある資料をお持ちいただければ、より具体的な見通しをお伝えできます。
※ 事案の内容により、ご相談をお受けできない場合があります。※ お電話でのご相談の受付は平日9:00〜18:00です。
0120-934-867(通話料無料)(平日9:00〜18:00)





