「緊急の案件が出てきた。育休中の担当者に確認を取っていいものか」——そんな判断を迫られたことはないでしょうか。電話一本かける前に手が止まる。メールを送ろうと思っても、「これって問題になるんじゃないか」と気になって下書きのまま保存してしまう。 その迷いは正しい感覚です。ただ、正しい感覚が正しい判断に変わっているかどうかは別の話です。「連絡してはいけない」と思い込んで放置した結果、業務が止まった。逆に「少しくらいいいだろう」と連絡し続けた結果、会社がハラスメントを問われた。どちらも現実に起きています。 この記事では、育休中の社員への連絡について、会社がどう判断すればいいのかを整理します。法律の条文解説よりも、「社長として何を考え、何を決め、何を残すか」にフォーカスして書きます。 「育休中に連絡してはいけない」は正確ではない まず前提を整理します。育児・介護休業法は、育休中の社員に業務をさせることを原則として禁止しています。ただし、これは「一切の連絡が禁止」という意味ではありません。 問題になるのは「業務を遂行させること」です。連絡の内容・頻度・目的によって、それが業務指示に該当するかどうかが変わります。例えば、次のような連絡は法的リスクを生じさせやすい行為です。 引き継ぎが不十分だった案件の対応を求める 取引先からの問い合わせを転送し、回答を求める 業務進捗の確認・報告を定期的に求める 「ちょっとだけ教えてほしい」という形でも、繰り返す 一方で、会社が本人の同意を得たうえで、育休中の職場の状況共有や、本人が希望する研修情報の提供などを行うことは、法律上認められている場合があります。 つまり問題は「連絡するかどうか」ではなく、「どのような内容を、どの頻度で、誰の合意のもとで連絡するか」なのです。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先143社・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) なぜ「ちょっとした連絡」が会社のリスクになるのか 【図解】「育休中に連絡してはいけない」は正確ではへの対応フロー ① 問題発生 → ② 事実確認・記録 → ③ 顧問弁護士に相談 → ④ 対応策の実行 ※ 弁護士に早期相談することで、リスクを最小化できます。 育休中の連絡が問題化するパターンには、共通した構造があります。それは「善意の積み重ねが、当事者の認識のズレとともに悪化する」という構造です。 上司側の認識:「忙しいのはわかってるけど、これだけ確認させてほしかっただけ」 育休中の社員側の認識:「毎週連絡が来て、休んでいる罪悪感を感じていた。精神的に参った」 この認識のズレが、復職後あるいは退職後に表面化することがあります。「育休中にこれだけ連絡されたことでストレス障害が生じた」「業務を強いられた」として、会社に損害賠償請求が来るケースも現実にあります。 さらに厄介なのは、社長本人は直接連絡していなくても、部下の上司が日常的に連絡を取っていたというケースです。会社として管理できていない状態が、使用者責任という形で会社全体のリスクになります。 「うちはそんな社員いない」「連絡するほど仕事好きな人ばかり」という感覚が、一番危ない状態です。問題は、社員が声に出せないまま蓄積されていることが多いからです。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先143社・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) 問題が起きる前にできること:育休前の「合意形成」が全て 育休中の連絡トラブルを防ぐために、最も効果的な対策は育休開始前の合意形成と記録です。これが唯一にして最大の予防策です。 具体的には、育休に入る前に以下の点を本人と確認し、書面に残しておきます。 育休中の連絡の可否(本人が希望する・希望しない) 連絡可の場合、どの手段・どの頻度・どの内容に限るか 緊急時の連絡先と対応方法(本人ではなく代替者への連絡フローも含む) 職場の情報共有に関する希望(例:社内報の送付、業務の変更通知など) ここで重要なのは「会社から提示して本人が署名する」形式にすることです。口約束や口頭確認だけでは、後から「そんな話はしていない」「強制された」と言われたとき、会社側が立証できません。 また、就業規則や育休取扱規程の中に、「育休中の連絡に関する会社の方針」を明記しておくことも有効です。規程がなければ担当者によって対応がバラバラになり、それ自体がリスクになります。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先143社・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) 問題が発生したときの対応フロー:証拠の残し方が全てを決める 「育休中に連絡されてハラスメントだ」と社員から主張された場合、会社はどう動けばいいのでしょうか。 まず確認すべきは、どのような連絡がいつ、誰から送られていたかという事実の把握です。メール、Slack、LINEなど、社内で使っているコミュニケーションツールのログは、会社として保全できる状態にしておく必要があります。 次に、連絡した側(上司・担当者)からヒアリングを行い、その内容を記録します。このとき重要なのは、事実確認と言い訳の整理を分けることです。「何を送ったか」「何を求めたか」を時系列で整理することが最初の一歩です。 その後の対応として、会社が取り得る選択肢は大きく二つあります。 事実として問題があった場合:謝罪・再発防止策の提示・場合によっては金銭的解決の検討 事実としての問題が認められない場合:客観的な記録をもとに説明し、誤解を解くための対話 どちらのルートに進むかを誤ると、問題が長引きます。この判断は、感情的に動いた瞬間に崩れます。証拠は、紛争になってから急に作れるものではありません。日頃からログを保全し、記録を残す習慣が、この局面で会社を守ります。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先143社・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) 失敗事例の構造:なぜ相談が遅れるのか 育休中の連絡トラブルが悪化するケースには、共通する遅れの理由があります。 ① 「揉め事になるとは思っていなかった」 上司は善意で連絡していた。育休中の社員も当初は「仕方ない」と思っていた。それが積み重なって、復職後または退職後に一気に表面化する。問題が「発生」ではなく「発覚」という形で来るため、準備ができていない。 ② 「誰に相談すればいいかわからなかった」 社長には直接言いにくい。人事担当者も当事者になっていることがある。外部の相談窓口(顧問弁護士)がいない会社では、誰も判断できないまま時間が経過する。 ③ 「記録が残っていなかった」 連絡のやり取りをプライベートのスマートフォンで行っていた。LINEでやり取りしていたが、担当者が退職しアカウントが消えた。Slackのログを保管設定していなかった。こうした状況では、何が起きていたかを会社側が証明できなくなります。 これらは決して特殊な状況ではありません。中小企業ほど、連絡手段や記録の管理が属人的になりがちです。問題が起きてから「記録がない」と気づいても、遅いのです。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先143社・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) うちの会社ではどう考えればいいのか 「結局、うちの会社ではどうすればいいのか」——この問いに答えるために、会社の規模・体制別に整理します。 社員数10〜30名程度の中小企業の場合 人事部門がなく、社長や総務が育休対応を一手に担っていることが多いです。このケースでは、育休前の合意書(連絡に関する確認書)を一枚作るだけで、リスクが大きく変わります。書式は市販のひな形や社労士への依頼でも作れますが、会社の実態に合わせた内容かどうかを弁護士に確認してもらうことが望ましいです。 社員数30〜100名程度の成長フェーズの企業の場合 部門が増え、上司が個別に育休中の社員と連絡を取るケースが増えます。会社の方針として「育休中の連絡はこのルールで行う」という規程を整備し、上司向けの周知・研修を行うことが重要です。規程なき運用は、担当者の善意と感覚に依存するため、トラブルの温床になります。 共通して言えること どの規模であっても、育休中の連絡は「本人の明示的な同意」と「記録の保全」の二つがセットで機能するという原則は変わりません。このセットが揃っていれば、万一問題になったときにも会社は毅然と対応できます。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先143社・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) 再発防止策:一度の対応で終わらせないための仕組みづくり 育休中のトラブルを一度乗り越えたとしても、次の育休取得者が出たとき、また同じことが起きます。個別対応を繰り返すのではなく、仕組みとして整備することが再発防止の本質です。 育休取扱規程の整備:連絡に関するルール、緊急時の連絡フロー、合意書の書式をセットで整える 上司・管理職向けの研修:「善意の連絡がハラスメントになるメカニズム」を伝える機会を設ける 記録保全のルール化:社内で使う連絡ツールのログ保管期間・保管方法を明文化する 復職面談の仕組み化:育休明けの初回面談を制度として設け、不満や問題を早期に把握できる体制を作る これらは「やろうと思えばできること」ですが、日常業務に追われる中でなかなか手がつかない。だからこそ、誰かが外から定期的に確認してくれる仕組みが必要です。 育休中の連絡トラブルは、一度の対応で解決しても、規程や体制が整っていなければ繰り返されます。就業規則・育休取扱規程の整備は、担当者レベルで進めるには限界があります。顧問弁護士がいれば、「今の規程でどこが穴になっているか」「次に育休取得者が出たときのフローはこれでいいか」を継続的に確認できます。弁護士法人ブライトでは、企業法務部の弁護士歴平均14年以上の弁護士チームが、顧問先143社と向き合いながら、みんなの法務部として経営判断を支えています。育休対応に限らず、人事・労務の問題は「揉めてから弁護士を使う」ではなく、「揉めないように弁護士を使う」体制が、中長期でもっともコストが低い選択です。 よくある質問 Q1. 育休中の社員から「連絡してほしい」と言われた場合、連絡しても問題ありませんか? 本人が希望する形での連絡であれば、法的に問題が生じにくい場合があります。ただし、口頭での希望表明だけでは不十分です。どの内容・頻度・手段で連絡するかを書面で確認し、会社が保管することが重要です。本人の「希望」が後から「強制された」に変わることを防ぐために、記録が必要です。 Q2. 育休中の社員への連絡が「ハラスメント」と判断される基準はありますか? 明確な数値基準はありませんが、判断要素としては「連絡の頻度」「内容が業務遂行を求めるものかどうか」「本人の意思に反して続いていたかどうか」「精神的・身体的な負担が生じていたかどうか」などが挙げられます。特に、本人が「やめてほしい」と伝えた後も連絡が続いた場合は、ハラスメントと認定されるリスクが高まります。 Q3. 育休中に緊急の業務が発生した場合、どう対応すればいいですか? 育休中の本人に頼るのではなく、代替要員・代替フローを事前に整備しておくことが原則です。それでも本人にしか分からない情報が必要な場合は、あくまで「情報提供のお願い」として一度確認するにとどめ、業務の遂行を求めないことが重要です。その連絡の記録も残しておくべきです。 Q4. 上司が育休中の部下に無断で連絡していた場合、会社はどう責任を取るのですか? 会社は使用者責任として、上司の行為について損害賠償責任を問われる可能性があります。「社長は知らなかった」という事情は、会社の責任を免除する理由にはなりません。だからこそ、育休中の連絡に関するルールを社内で明示し、上司が勝手に判断しないよう管理することが会社の義務となります。 当事務所が参考にした実務書 当事務所では本テーマに関する最新の実務書を継続的に確認し、顧問先企業のリスク評価に反映しています。本記事の作成にあたり特に参考にした書籍を以下に紹介します。 『育児介護休業法コンメンタール』 — 荒木尚志、奥田香子/弘文堂/2024年1月/分類:条文逐条解説書 『新・労働法実務相談(第3版)』 — 労務行政研究所(編)/労務行政/2019年9月/分類:Q&A形式の実務解説書 『問題社員対応の法律実務』 — 石井妙子、鈴木亘/弘文堂/2021年6月/分類:業種特化型実務書 『人事労務の法律と書式』 — 岡芹健夫(監修)/新日本法規出版/2022年3月/分類:マニュアル・チェックリスト型 『労働判例インデックス(第5版)』 — 石嵜信憲(編)/中央経済社/2023年4月/分類:判例集 ※ 書籍内容は引用しておらず、書誌情報のみ表示しています。本記事は弁護士法人ブライトが監修・執筆しています。 この記事の監修者 和氣 良浩(わけ よしひろ) 弁護士法人ブライト|代表弁護士/パートナー弁護士 大阪弁護士会/大阪大学法学部卒 専門:顧問弁護士・企業法務・M&A・経営権紛争・事業再生 育休中の連絡トラブル・労務管理・問題社員対応など、経営上の人事課題を継続的に相談できる顧問弁護士をお探しの方は、弁護士法人ブライト「みんなの法務部」にお問い合わせください。顧問先143社・企業法務部の弁護士歴平均14年以上の経験豊かな弁護士が対応します。企業法務窓口:06-4965-9590(平日9:00〜18:00) 「みんなの法務部」というブライトの考え方 中小企業の社長に「専属の法務部」を持っていただく——これがブライトの顧問サービスの基本姿勢です。社内に法務部を置けない規模でも、契約書・労務・債権回収・M&Aまで日常的に相談できる体制を、月額固定で。企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームで、143社の顧問先と向き合っています。 ▶ みんなの法務部とは(詳しく見る) 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