「このお客さんは本当のことを言っているのか、それとも言いがかりなのか」——そう判断に迷いながらも、相手が強い言葉を使ってくるため、気づけば言われた通りの対応をしていた。そんな経験はありませんか。 社長として一番怖いのは「間違った判断をしてしまうこと」です。正当な訴えを無視すれば信用を失う。でも行き過ぎた要求に応じ続ければ、お金も時間も従業員のメンタルも削られていく。どこで線を引けばいいのか、誰も教えてくれないまま現場対応が続いていく。 この記事では、「権利主張型クレーム」と呼ばれるタイプの要求がなぜ判断を難しくするのか、その構造から整理します。そのうえで、予防から対応・再発防止まで、社長が自分の判断の軸を持てるよう、実務的な観点で解説します。 「権利主張型クレーム」とはどういう状態か クレームには大きく分けて二つの性質があります。一つは「改善を求める正当な申し出」、もう一つは「要求内容が正当な根拠を超えている申し出」です。 後者のうち、特に対応が難しいのが「権利主張型」と呼ばれるパターンです。これは、顧客や取引先が「消費者としての権利がある」「契約上の権利を行使している」「法的に認められている」という言葉を前面に出しながら、実際には過大な要求・執拗な謝罪要求・金銭的補償の求めを続ける状態を指します。 この類型が難しいのは、言っていること自体は「権利の話」であるため、最初から「不当要求だ」と断定しにくい点にあります。相手が「弁護士に相談した」「消費者センターに言う」「SNSで拡散する」などと付け加えることで、対応する側の判断がさらに揺らぎます。 企業側が「訴訟リスクを避けたい」「炎上が怖い」と感じた瞬間に、権利主張型クレームは効果を発揮します。つまり、相手の要求の正当性ではなく、企業側の「不安」が判断の基準になってしまうのです。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) なぜ「判断ミス」が起きるのか——構造を理解する 【図解】「権利主張型クレーム」とはどういう状態かへの対応フロー ① 問題発生 → ② 事実確認・記録 → ③ 顧問弁護士に相談 → ④ 対応策の実行 ※ 弁護士に早期相談することで、リスクを最小化できます。 権利主張型クレームへの対応で判断ミスが起きる理由は、主に三つの構造的な問題にあります。 ①「正当な権利行使」と「不当要求」の境界線が見えない 法的な観点で見れば、消費者や取引先には当然の権利があります。しかし、その権利行使の方法が社会通念上相当な範囲を超えると、不法行為(民法709条)に該当し得ます。問題は、その「相当な範囲を超えたかどうか」の判断が、法律の知識なしには非常に難しいことです。現場担当者も経営者も、判断基準を持たないまま対応を続けることになります。 ②「断ること」への心理的ハードルが高い 日本のビジネス文化では「お客様の声には誠実に向き合う」が原則として根付いています。これ自体は正しいことですが、権利主張型クレームの場面では、この原則が「断れない」という状況を生みやすい。相手が「消費者の権利だ」と言えば言うほど、拒絶することが「悪いこと」のように感じられてしまいます。 ③記録が残らないまま対応が積み重なる 電話・対面・メールと複数のチャネルにわたって対応が続くと、「何を言ったか」「何を約束したか」が記録されないまま進むことが多い。記録がないということは、後から「そんなことは言っていない」「謝罪したのだから認めたはずだ」という議論になったとき、企業側が不利な立場に立たされることを意味します。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) 問題が起きる前にできること——予防の考え方 権利主張型クレームへの最善の備えは、「起きてから判断する」ではなく「判断基準をあらかじめ作っておく」ことです。 具体的には以下の三点が重要です。 対応方針の文書化:どのような要求には応じるか・応じないかの基準を社内ルールとして明文化しておく。「謝罪はするが金銭的補償は〇〇の範囲に限る」「弁護士を通じた対応に切り替える基準」などを事前に整備する。 現場の判断権限の整理:担当者が「自分の権限で決められること」「上司・法務・弁護士に上げるべきこと」を迷わずに切り分けられる仕組みを作る。これがないと、現場が単独で対応を完結させようとし、後で取り返しのつかない約束をしてしまう。 顧問弁護士への事前相談:「この事案はどの程度対応すれば十分か」を弁護士と事前に確認しておくことで、社長や担当者が「ここまで対応した、あとは法的手続きで対応する」と腹を括れるようになる。不安を抱えたまま対応するのと、法的に整理されたうえで対応するのでは、交渉の質がまったく異なります。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) 問題発生時の対応フロー——証拠をどう残すか 権利主張型クレームが発生したとき、初動の質が後の展開を大きく左右します。以下のフローを参考にしてください。 記録を開始する:クレームが来た日時・手段(電話・来訪・メール等)・相手の発言内容を、できる限りそのままの言葉で記録します。「強い言い方だった」ではなく「〇〇という言葉を使った」という具体性が重要です。 応答内容も記録する:企業側が何を言い、何を約束したか(あるいはしなかったか)も必ず記録します。特に「謝罪の言葉」は後から「非を認めた証拠」として使われることがあるため、どのような文脈での謝罪だったかも記録に残します。 電話・対面での録音:相手の同意がなくても、自己の通話・会話を録音することは法的に認められています。相手の言動が後で問題になったとき、録音は最も力強い証拠になります。録音機器の準備は事前にしておくことが重要です。 要求内容を文書化させる:口頭でのやり取りを続けず、「ご要望の内容をメールまたは書面でいただけますか」と求めることで、相手の要求を明文化させます。これにより要求の正確な内容が確定し、不当性が浮き彫りになることもあります。 弁護士へ早期に相談する:「まだそこまでではない」と判断する前に相談することが重要です。弁護士に相談するタイミングは「揉めてから」ではなく「揉めそうになった段階」です。 証拠は、紛争になってから急に作れるものではありません。記録が積み重なることで初めて、企業側の判断と対応が正当だったことを証明できます。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) 失敗事例の構造——なぜ相談が遅れ、証拠が残らなかったのか 実際に権利主張型クレームへの対応を誤ったケースを振り返ると、二つの共通したパターンがあります。 パターン①「まだ大丈夫」という判断が続いた 最初の段階では「ちょっと強めのお客さん」として担当者レベルで処理されます。次の段階でも「もう少し話せばわかってもらえる」と続け、要求がエスカレートして初めて上司に上がります。その頃には、担当者が何を言い・何を約束したかが記録されていない状態になっています。 弁護士への相談が遅れた理由の多くは「弁護士を呼ぶほどの話か迷った」です。しかし弁護士に相談することはエスカレーションではなく、判断の質を上げるための情報収集です。早く相談するほど選択肢が増えます。 パターン②「誠実に対応した」が証拠にならない 「こちらは誠実に対応した」と感じていても、それを証明できる記録がない場合、後から「対応が不十分だった」「認めた事実がある」と主張されたときに反論が難しくなります。誠実な対応と証拠の確保は、矛盾しません。誠実だからこそ、記録を残す。この考え方を組織に根付かせることが重要です。 なお、東京地裁令和5年4月18日判決(令和4年(ワ)第1476号)では、権利主張型クレームとして社会問題化している言動が不法行為に当たるとして、業務妨害・名誉毀損を理由とする損害賠償が認容されました。企業が適切に記録を残し、法的手続きを選択した結果として勝訴につながった事案です。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) うちの会社ではどう考えればいいのか——判断の軸を持つ 「権利主張型クレームへの対応」を一言で整理するなら、「要求の正当性」と「要求の方法の相当性」を分けて判断することです。 相手の言い分に一定の根拠があるとしても、要求の手段が社会的に許容される範囲を超えている場合、その部分には応じる義務はなく、場合によっては法的手段で対抗することができます。 判断の軸として、以下の三つの問いを持つことをお勧めします。 この要求に、法的・契約的な根拠はあるか? 要求の方法(言葉・回数・時間・手段)は、社会通念上の常識の範囲内か? この要求に応じることで、他の顧客・取引先・従業員への悪影響はないか? この三つの問いに照らして「法的根拠は薄い・方法が常軌を逸している・応じると社内に悪影響がある」と判断した場合、それは「権利行使」ではなく「不当要求」として対応を切り替える根拠になります。 重要なのは、この判断を社長が一人で抱え込まないことです。判断基準を弁護士と共有し、事案ごとに確認しながら進める体制があれば、社長の不安は判断の材料に変わります。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) 再発防止策——組織として対応できる体制を作る 一度権利主張型クレームを経験した会社がやるべきことは、「次も同じ対応をしないための仕組み作り」です。以下の三点を整備することをお勧めします。 クレーム対応規程の整備:どのような要求には応じるか・応じないかの基準、エスカレーションのルール、弁護士対応に移行するタイミングなどを明文化し、就業規則・社内規程に組み込む。 記録様式の標準化:対応記録のフォーマットを用意し、担当者が迷わず記録できる環境を整える。記録の保存期間・保存場所も明確にしておく。 定期的な事案の振り返り:クレーム対応の内容を定期的に経営レベルで確認し、パターンの変化や新たなリスクに気づける仕組みを作る。 権利主張型クレームは、一件うまく対応できたとしても「次も来る」可能性があります。そのたびにゼロから判断するのではなく、組織として対応できる体制を持つことが、社長の判断コストを下げる最大の再発防止策です。 権利主張型クレームへの対応は、一件ごとのスポット対応で終わらせるべきではありません。クレーム対応規程を就業規則や社内規程に組み込み、現場が「どこで線を引くか」を迷わず判断できる体制を整えることが本質的な解決につながります。弁護士法人ブライトの「みんなの法務部」では、顧問先142社の実名を公開し、企業法務部の弁護士歴平均14年以上の弁護士が、規程整備から現場の初動相談・法的手続きへの移行まで継続して支えます。「困ったときだけ依頼する」から「困らないための体制を持つ」へ。その転換が、社長が安心して経営判断に集中できる環境を作ります。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) よくある質問 Q. クレームを受けた場合、すべて記録する必要がありますか? A. すべての問い合わせを詳細に記録する必要はありませんが、「要求の内容が通常の苦情の範囲を超えている」「同じ相手から繰り返し連絡が来ている」「感情的な言動が見られる」といった場合は、初期段階から記録を始めることを強くお勧めします。記録は後からさかのぼって作れるものではなく、問題が顕在化したときには手遅れになっていることが多いためです。 Q. 相手が「弁護士に相談した」と言ってきました。どう対応すればよいですか? A. 相手が弁護士に相談していると言っても、それだけでは要求の正当性を意味しません。弁護士から正式な書面(内容証明郵便等)が届いた場合は、その内容を自社の弁護士に確認してもらうことが最優先です。口頭での「弁護士に言った」という発言に対しては、「正式なご連絡をお待ちします」と答え、要求に安易に応じないことが重要です。 Q. 録音は相手の同意なしに行ってもよいですか? A. 自分が当事者として参加している会話・通話を録音する場合は、相手の同意がなくても違法にはなりません(秘密録音)。ただし、第三者の会話を無断で録音することは別の問題になります。クレーム対応時の録音は、企業側が正当な対応をしたことを証明するために有効な手段であり、実務上も広く行われています。 Q. 顧問弁護士がいなくても、スポット対応で相談すれば問題ありませんか? A. スポット対応でも相談は可能ですが、権利主張型クレームへの対応は「一件ごとの判断」だけでなく、「社内のルールを整備しておくこと」が本質的な解決になります。スポット対応の弁護士に「今回の件をどう対処するか」を聞くことはできますが、「今後同様の案件をどう防ぐか」「就業規則や対応規程をどう整えるか」まで継続して関与してもらうには、顧問契約の形が適しています。 当事務所が参考にした実務書 当事務所では本テーマに関する最新の実務書を継続的に確認し、顧問先企業のリスク評価に反映しています。本記事の作成にあたり特に参考にした書籍を以下に紹介します。 『カスタマーハラスメントの法的問題と対応実務Q&A』 — 松本光平 著/民事法研究会/2024年11月/分類:Q&A形式の実務解説書 『クレーマー対策の法律実務』 — 松本光平 著/日本法令/2022年4月/分類:Q&A形式の実務解説書 『企業不祥事・クレームへの法的対処法』 — 弁護士法人中央総合法律事務所 編/中央経済社/2021年6月/分類:Q&A形式の実務解説書 『問題社員・モンスター社員への対応マニュアル』 — 弁護士法人中央総合法律事務所 編/中央経済社/2019年9月/分類:マニュアル・チェックリスト型 『ハラスメント防止対策の法律実務』 — 岸田鑑彦 著/日本法令/2020年5月/分類:Q&A形式の実務解説書 ※ 書籍内容は引用しておらず、書誌情報のみ表示しています。本記事は弁護士法人ブライトが監修・執筆しています。 この記事の監修者 和氣 良浩(わけ よしひろ) 弁護士法人ブライト|代表弁護士/パートナー弁護士 大阪弁護士会/大阪大学法学部卒 専門:顧問弁護士・企業法務・M&A・経営権紛争・事業再生 権利主張型クレームへの対応・不当要求への法的手続きなど経営上の課題を継続的に相談できる顧問弁護士をお探しの方は、弁護士法人ブライト「みんなの法務部」にお問い合わせください。顧問先142社の実名を公開しており、企業法務部の弁護士歴平均14年以上の経験豊かな弁護士が対応します。企業法務窓口:06-4965-9590(平日9:00〜18:00) 「みんなの法務部」というブライトの考え方 中小企業の社長に「専属の法務部」を持っていただく——これがブライトの顧問サービスの基本姿勢です。社内に法務部を置けない規模でも、契約書・労務・債権回収・M&Aまで日常的に相談できる体制を、月額固定で。企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームで、142社の顧問先と向き合っています。 ▶ みんなの法務部とは(詳しく見る) 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料)