「そろそろあのアパートを建て替えたい。でも長年住んでいる入居者がいる。どう話を進めればいいのか……」 こういった悩みを抱えている不動産オーナーや、土地活用を考えている経営者の方は少なくありません。賃貸借契約の更新を断ること自体は法律上認められています。ただ、「正当事由がなければ更新拒絶はできない」という壁が立ちはだかります。 この「正当事由」という言葉、法律の教科書には書いてあるけれど、「自分のケースでは認められるのか」「立退料はどれくらい用意すればいいのか」という具体的な答えはなかなか見えてきません。 この記事では、更新拒絶の正当事由がどう判断されるのか、なぜトラブルになるのか、そして社長・オーナーとして何を準備しておけばいいのかを、実際の相談事例を踏まえながら整理します。 更新拒絶の「正当事由」とは何か 借地借家法第28条は、建物賃貸借の更新拒絶または解約申入れをするには、賃貸人に「正当事由」がなければならないと定めています。つまり、オーナーが「もう出ていってほしい」と思っていても、法律上の正当な理由がなければ、賃借人は出ていく義務がありません。 では、正当事由はどのように判断されるのでしょうか。裁判所は、以下の4つの要素を総合的に考慮して判断します。 賃貸人が建物の使用を必要とする事情(自己使用、建替え、老朽化による安全上の問題など) 賃借人が建物の使用を必要とする事情(居住年数、代替物件の有無、生活への影響など) 賃貸借に関する従前の経緯(賃料の支払い状況、賃貸借開始の経緯など) 建物の現況(老朽化の程度、修繕の必要性、安全性など) そしてこれらを比較衡量した上で、なお正当事由が不十分と判断された場合に、立退料の提供によって正当事由を補完できるとされています。立退料は「正当事由の有無を決める要素のひとつ」であって、「お金を払えば必ず追い出せる」というものではありません。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) なぜ「正当事由がある」と思っていたのにトラブルになるのか 【図解】更新拒絶の「正当事由」とは何かへの対応フロー ① 問題発生 → ② 事実確認・記録 → ③ 顧問弁護士に相談 → ④ 対応策の実行 ※ 弁護士に早期相談することで、リスクを最小化できます。 「建物が老朽化しているのだから当然出ていってもらえるはずだ」「土地を有効活用したいという正当な理由がある」——オーナー側がそう確信していても、実際には交渉が長期化したり、裁判になったりするケースが後を絶ちません。 この判断ミスが起きる構造は、大きく3つあります。 ①「オーナー側の事情」だけで考えてしまう 正当事由の判断は、オーナー側と賃借人側の事情を「天秤にかける」作業です。老朽化が深刻であっても、賃借人が高齢で転居困難な場合、長年居住している場合、代替物件が見当たらない場合などには、賃借人側の事情が重く評価されます。オーナーが「うちの事情は十分だ」と思っていても、裁判所の判断は異なることがあります。 ②立退料の相場感がずれている 「数十万円も払えば出てもらえるだろう」という感覚は、実態と大きく乖離しているケースがほとんどです。都市部の事業用物件では、数百万円から数千万円に及ぶ立退料が認められることもあります。相場感を誤って低い金額を提示したことで、交渉決裂→長期化という流れに陥るケースは多いです。 ③手続きのタイミングを誤る 更新拒絶の通知は、契約期間満了の1年前から6ヶ月前までの間に行わなければなりません(借地借家法第26条)。この期間を逃すと、法律上は更新されたものとみなされてしまいます。「そろそろ言えばいい」という感覚で動いていると、気づいたときには次の更新まで待たなければならない、ということになります。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) 問題が起きる前にできること(予防フェーズ) 更新拒絶に向けた準備は、「揉めてから始める」ものではありません。将来的に建替えや土地活用を考えているなら、できるだけ早い段階から、以下のことを整理しておくことが重要です。 賃貸借契約書の内容確認:契約期間、更新の定め、解約予告期間などを改めて確認する。特約や口頭合意がある場合は、書面化しておく。 建物の現状記録:老朽化を正当事由の一要素として使う場合、建物診断報告書や修繕履歴など、客観的な記録が必要です。「老朽化しているから」という主張は、証拠がなければ法廷では通りません。 賃借人の状況の把握:居住期間、年齢、健康状態、家族構成など、賃借人側の事情を可能な範囲で把握しておくと、正当事由の見通しを立てやすくなります。 代替案の検討:代替物件の紹介や引越し費用の負担など、賃借人にとって現実的な選択肢を用意しておくことで、交渉がスムーズになることがあります。 証拠は、紛争になってから急に作れるものではありません。建物の状態も、賃借人との関係も、日頃からきちんと記録に残しておくことが、いざというときの判断材料になります。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) 問題発生時の対応フロー 「もう動かなければならない」という段階に来たとき、どう動けばいいのかを整理します。 弁護士への相談(更新期限の1年前以上を目安に):まずは正当事由の見通しを法的に評価してもらうことが先決です。「自分では十分だと思っている」判断が、実は法的には脆弱だということは少なくありません。 更新拒絶通知の準備:内容証明郵便などで、期間内(満了の1年前〜6ヶ月前)に通知します。この通知の書き方・タイミングが後の交渉に大きく影響します。 立退料の提案と交渉:相手方の状況を踏まえて、現実的な立退料を提示します。この段階で代替物件の紹介を合わせて行うことで、交渉がまとまりやすくなるケースもあります。 合意書の作成:口頭での合意は後々のトラブルの温床になります。立退料の金額、明渡し期日、原状回復の範囲などを書面に落とします。 明渡しの実行と確認:明渡し後の状態を写真で記録し、鍵の返却や設備の確認を行います。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) 失敗事例の構造:なぜ相談が遅れ、なぜ証拠がなかったのか 実際の相談事例を見ると、「もっと早く来てくれていれば」というケースが一定数あります。なぜ相談が遅れるのかには、共通した構造があります。 「話せばわかるはず」という楽観 長年の賃借人との間には、人間関係があります。「法律の話を持ち出すのは気が引ける」「まず自分で話し合ってみよう」という気持ちは理解できます。ただ、その段階で感情的になってしまったり、立退料の話を先走りしてしまったりすると、後の交渉で不利になることがあります。相手方に弁護士がついた後では、こちらも弁護士を介した交渉に切り替えざるを得ず、余計に時間とコストがかかります。 証拠がない・記録が残っていない たとえば「建物が老朽化していて安全上の問題がある」という主張をするとき、それを裏付ける建物診断書や修繕依頼の記録がないと、法的な主張として通りにくくなります。また、「以前から退去をお願いしていた」という事実も、書面がなければ立証できません。口頭でのやり取りだけで進めてきた場合、後から証拠を作ることは困難です。 「いつでも動ける」という誤解 更新拒絶の通知期間(満了の1年前〜6ヶ月前)を過ぎてしまうと、法律上は更新されたとみなされます。「まだ時間がある」と思っていたら期限を逃し、次の更新まで数年待つことになった——こういう事例は実際に起きています。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) うちの会社ではどう考えればいいのか 「正当事由があるかどうか」は、状況によって大きく異なります。一般論として整理すると、以下のような視点が判断の出発点になります。 老朽化・建替えが理由の場合:建物の安全性に問題があるほど、正当事由として認められやすくなります。ただし、賃借人側の居住の必要性が高い場合には、立退料による補完が必要になります。 土地の有効活用・売却が理由の場合:これだけでは正当事由として弱いとされることが多く、立退料の額が高くなる傾向があります。 自己使用が理由の場合:必要性の程度と具体性が問われます。「将来的に使うかも」という程度では認められません。 賃借人に契約違反がある場合:無断転貸、用途違反、賃料滞納など、賃借人側に問題がある場合は正当事由の評価に有利に働くことがあります。ただし信頼関係の破壊に至るかどうかが別途問われます。 重要なのは、「自分の状況でどう判断されるか」を弁護士に確認してから動くことです。事前に見通しを立てておけば、立退料の金額設定も、交渉の進め方も、現実的な計画が立てられます。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) 再発防止策:次の賃貸借契約から変えること 更新拒絶のトラブルを経験した後、あるいはこれから新たに賃貸借契約を結ぶ場合には、以下の点を検討してください。 定期借家契約の活用:普通借家契約と異なり、定期借家契約(借地借家法第38条)では、契約期間の満了とともに賃貸借が終了します。正当事由は不要です。建替えや土地活用の予定がある場合、定期借家契約を選択することでリスクを大幅に低減できます。 契約条項の明確化:用途、転貸の可否、原状回復の範囲、更新の有無などを契約書に明確に記載しておくことで、後のトラブルを防げます。 定期的な建物診断の実施:老朽化を理由とする更新拒絶に備えて、建物の状態を定期的に記録しておくことが有効です。 賃借人との関係記録:賃料の支払い状況、修繕の依頼・対応、口頭でのやり取りなどを都度記録に残しておく習慣をつけましょう。 揉めてから弁護士を使うのではなく、揉めないように弁護士を使う——この発想の転換が、不動産オーナーや経営者にとっての法務リスク管理の核心です。 更新拒絶・立退き交渉は、一件対応すれば終わりではありません。物件が複数ある場合、契約が順次満了を迎えるたびに同じ問題が繰り返されます。重要なのは「その都度の対応」ではなく、賃貸借契約書の雛形の整備、定期借家契約の適切な運用、立退き交渉の標準フローの構築といった、継続的な法務体制を整えることです。顧問弁護士がいれば、契約書のチェックから交渉の初動相談まで、日常的にサポートを受けられます。弁護士法人ブライトの「みんなの法務部」は、顧問先 142社 の実名を公開しており、企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが、不動産オーナー・事業会社の継続的な法務課題に対応しています。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) よくある質問(Q&A) Q. 建物の老朽化だけで更新拒絶は認められますか? 老朽化は正当事由として考慮されますが、それだけで自動的に認められるわけではありません。建物の安全性に実際の問題があるか、修繕によって対応できない程度かどうか、賃借人側の居住の必要性と比較してどうかが問われます。客観的な建物診断書などの証拠があると、主張の説得力が増します。 Q. 立退料はいくらくらい用意すればいいですか? 立退料の金額は、物件の場所・賃料・賃借人の居住期間・移転にかかるコストなど、個別の事情によって大きく異なります。住宅の場合は数十万〜数百万円、都市部の事業用物件の場合は数百万〜数千万円になることもあります。「相場感」で動くと交渉が決裂しやすいため、弁護士に見通しを確認した上で提示額を決めることをお勧めします。 Q. 通知期間を過ぎてしまいました。もう手は打てませんか? 法律上の更新拒絶の通知期間(満了の1年前〜6ヶ月前)を過ぎると、自動更新されたとみなされます。ただし、その後に賃借人と合意解約の交渉をすることは可能です。また、賃借人に契約違反があれば、解除の余地も検討できます。諦める前に、現状を弁護士に確認してみてください。 Q. 相手方(賃借人)が弁護士をつけてきました。どうすればいいですか? 相手方に弁護士がついた段階で、こちらも弁護士に対応を依頼することを強くお勧めします。弁護士を通じた交渉に対して個人で対応すると、法的に不利な内容で合意してしまうリスクがあります。また、相手方弁護士からの通知や書面には、期限が設定されていることもあるため、早期に相談することが重要です。 当事務所が参考にした実務書 当事務所では本テーマに関する最新の実務書を継続的に確認し、顧問先企業のリスク評価に反映しています。本記事の作成にあたり特に参考にした書籍を以下に紹介します。 『借地借家の正当事由と立退料の判定・算定実務』 — 稲本洋之助・澤野順彦 編/新日本法規出版/2014年2月/分類:Q&A形式の実務解説書 『実務解説 借地借家法』 — 田山輝明 著/弘文堂/2012年2月/分類:条文逐条解説書 『賃貸借・使用貸借の実務と書式』 — 片岡武・管野眞一 著/民事法研究会/2013年5月/分類:Q&A形式の実務解説書 『不動産賃貸借の終了と明渡請求の実務』 — 田中秀幸 著/新日本法規出版/2022年2月/分類:Q&A形式の実務解説書 『設問式 借地借家法の解説と判例』 — 川田悦男 著/新日本法規出版/2015年6月/分類:Q&A形式の実務解説書 ※ 書籍内容は引用しておらず、書誌情報のみ表示しています。本記事は弁護士法人ブライトが監修・執筆しています。 この記事の監修者 和氣 良浩(わけ よしひろ) 弁護士法人ブライト|代表弁護士/パートナー弁護士 大阪弁護士会/大阪大学法学部卒 専門:顧問弁護士・企業法務・M&A・経営権紛争・事業再生 更新拒絶・立退き交渉・不動産賃貸借に関するトラブルを継続的に相談できる顧問弁護士をお探しの方は、弁護士法人ブライト「みんなの法務部」にお問い合わせください。顧問先 142社 の実名を公開しており、企業法務部の弁護士歴平均14年以上の経験豊かな弁護士が対応します。企業法務窓口:06-4965-9590(平日9:00〜18:00) 「みんなの法務部」というブライトの考え方 中小企業の社長に「専属の法務部」を持っていただく——これがブライトの顧問サービスの基本姿勢です。社内に法務部を置けない規模でも、契約書・労務・債権回収・M&Aまで日常的に相談できる体制を、月額固定で。企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームで、142社の顧問先と向き合っています。 ▶ みんなの法務部とは(詳しく見る) 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料)