空発注とは何か?会社が知っておくべき不正の手口と早期発見・再発防止の実務

空発注とは何か?会社が知っておくべき不正の手口と早期発見・再発防止の実務

「あの担当者、なんか妙に仕入れ先と仲良すぎないか」「稟議の金額に比べて、手元の在庫が少ない気がする」——そんな漠然とした引っかかりを、忙しさを理由に流してしまっていませんか。社長が経理や購買の細部まで目を光らせるのは現実的ではありません。でも、そのすき間に巧妙に入り込んでくる不正のひとつが、空発注(架空発注)です。

この記事は「空発注って聞いたことあるけど、うちの会社には関係ないよね」と思いながらも、どこかで心配している社長に向けて書いています。制度の説明より先に、「なぜ起きるのか」「なぜ気づけないのか」「発覚したらどう動くか」を順番に整理します。

空発注とは何か——仕組みと典型的な手口

空発注とは、実際には商品の納品も役務の提供もないのに、あたかも取引があったかのように発注書・請求書・支払いを作り出す行為です。「架空発注」とも呼ばれ、会社の購買担当者や経理担当者が、取引先と共謀して会社のお金を不正に流出させる典型的な手口のひとつです。

典型的な流れはこうです。担当者が実在する(あるいは実在しない)取引先に発注書を発行し、取引先がダミーの請求書を発行する。会社が支払いを行い、取引先から担当者にキックバック(リベート)が渡る。帳簿上は正常な取引として処理されているため、表面上はなかなか見えません。

よくある手口には以下のようなバリエーションがあります。

  • 完全な架空取引型:納品も役務もゼロなのに支払いだけが発生する
  • 水増し請求型:実際に一部の取引はあるが、金額や数量を大きく水増しする
  • ペーパーカンパニー型:担当者本人や身内が設立したダミー会社に支払わせる
  • 単価改ざん型:承認された単価よりも高い単価で支払処理をして差額を抜く

いずれも共通しているのは、「書類上は正しく見える」という点です。発注書も請求書も領収書も揃っている。だからこそ、普通の月次チェックでは通り抜けてしまいます。

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なぜ空発注は起きるのか——判断ミスが生まれる構造

【図解】空発注とは何か——仕組みと典型的な手口への対応フロー

① 問題発生
→
② 事実確認・記録
→
③ 顧問弁護士に相談
→
④ 対応策の実行

※ 弁護士に早期相談することで、リスクを最小化できます。

「うちの社員に限って」と思いたい気持ちはわかります。でも空発注が起きる会社に、特別に性格が悪い社員がいるわけではありません。問題は人ではなく、不正を起こしやすい環境にあることがほとんどです。

空発注が発生しやすい職場環境には、共通したパターンがあります。

  • 発注と検収が同一人物:発注する人間が、「ちゃんと届いたか」を確認する役割も兼ねている
  • 担当者が長期固定:同じ人が同じ取引先と何年もやりとりし、チェックが形骸化している
  • 請求書の内容確認が甘い:「いつもの金額だから」と中身を見ずに承認している
  • 少額取引は上長チェックなし:稟議の金額基準が高く、少額に分割することで承認を回避できる
  • 取引先との関係が個人的:担当者が取引先を「自分で開拓した」という意識で、社内での比較検討が行われない

特に問題になるのが「分散発注」と呼ばれる手口です。1件あたりの金額を稟議が不要な範囲に意図的に抑え、件数を増やすことで総額を大きくする。月に数万円ずつの不正が、気づけば数年で数千万円になっているケースも決して珍しくありません。

「忙しくてチェックが追いつかない」「担当者を信頼しているから」——その判断自体は間違っていないのですが、その結果として内部統制の穴が生まれてしまうのです。

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問題が起きる前にできること——予防の具体的なポイント

空発注の予防は、性悪説で社員を監視することではありません。「不正をしにくくする仕組み」を作ることで、誠実な社員を守ることでもあります。

まず取り組みやすいのは、発注・検収・支払いの担当者を分離すること(職務分掌)です。同じ人間がこの3つを一手に担っていると、チェック機能が働きません。小規模な会社でも、少なくとも「発注した人間と支払いを承認する人間が別である」という原則は守れます。

次に有効なのが、取引先マスタの管理です。誰でも自由に新規取引先を登録できる状態になっていると、ペーパーカンパニーへの支払いが容易になります。新規登録には上長承認を必須とし、登録後も定期的に取引実績と照合する仕組みが必要です。

また、稟議基準の見直しも重要です。少額だからといってフリーパスにするのではなく、「同一取引先への月次・年次の累計金額が一定額を超えたら承認が必要」というルールを加えると、分散発注の抑止になります。

これらの仕組みを、規程として明文化しておくことが大切です。「口頭での申し合わせ」は担当者が替わったときに継承されません。購買・調達に関する社内規程を整備しておくことで、新入社員や配置転換後の社員にも基準が引き継がれます。

顧問弁護士がいる会社であれば、こうした社内規程の草案レビューや、チェック体制に法的な穴がないかの確認を事前に行うことができます。「何かあってから」ではなく、「仕組みを作るとき」に弁護士を使うのが、もっとも費用対効果の高い活用方法のひとつです。

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空発注が発覚したときの対応フロー——証拠の残し方を中心に

「どうも怪しい」と気づいた瞬間から、会社の動き方が結果を大きく左右します。ここで多くの会社が陥る間違いは、当該社員に直接話を聞いてしまうことです。事前に証拠を押さえずに問い詰めると、相手が証拠を隠滅したり、共謀した取引先と口裏を合わせたりする時間を与えてしまいます。

発覚・疑念発生時の対応は、以下の順番で進めることを基本としてください。

  1. 情報を限定する:疑いを持った段階では、調査に関わる人間を最小限(経営者+信頼できる法務担当または顧問弁護士)に絞る
  2. 書類・データを確保する:当該発注に関する発注書・請求書・振込記録・メール・チャット履歴を、担当者がアクセスできない形で保全する
  3. 現物確認をする:発注したとされる商品や成果物が実際に存在するかを確認する(在庫数・納品書と照合)
  4. 取引先の実態を調べる:法人として実在するか、代表者・住所・設立経緯に不自然な点がないか確認する
  5. 弁護士に相談する:証拠が揃ってきた段階で、どのような法的措置が取れるか・社員への対応はどうすべきかを確認する

特に重要なのが「証拠の保全」です。メールやチャットは担当者が削除できる設定になっていることがあります。システムの管理権限がある方が早急にバックアップを取るか、ITの専門家に依頼してログを保全することが必要です。

また、当該社員を問い詰める「事実確認面談」を行うタイミングと方法も、弁護士と事前に相談しておくことをおすすめします。面談の内容が、後の労働紛争や刑事告訴の場面で使われることがあるからです。録音については、会社側が行う場合は一般的に適法ですが、進め方によっては後のトラブルになることもあります。

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失敗事例の構造——なぜ相談が遅れ、なぜ証拠が消えたのか

実際に空発注の被害を受けた会社が対応を誤るパターンには、共通した構造があります。

「まず内部で解決しようとした」という判断が、最初のつまずきです。「社内の恥だから外に出したくない」「まだ確証がないから弁護士を呼ぶのは大げさかもしれない」——その間に、担当者は取引先と連絡を取り、証拠となるデータを削除し、自分に有利な状況を作ります。

「本人に確認したら認めた、だから話し合いで終わらせようとした」というケースも多くあります。担当者が「返します」と言えば、その言葉を信じて示談書も作らずに様子を見てしまう。数ヶ月後に「やはり全額は払えない」と言われ、その時点で弁護士に相談しても、証拠書類がすでに散逸していることがあります。

また、被害額の特定が遅れる問題もあります。空発注は「今日から始まった」ことは少なく、数年にわたって継続されていることがほとんどです。どこから不正が始まったのか、総額はいくらなのかを遡って調べるには、帳票や取引データを体系的に分析する必要があります。「大体これくらいだろう」という感覚で示談しては、後から被害額が大きく膨らんでいたことが判明することがあります。

裁判例でも、購買管理職が数年にわたり空発注を行いキックバックを受け取っていた事案で、会社の内部統制の不備が過失相殺の事由として争われたケースがあります(大阪地判令和2年9月16日)。つまり、被害を受けた会社であっても、管理体制が甘かった点が損害額の計算に影響することがある、ということです。

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うちの会社では、どう考えればいいのか

「従業員は数十人。全員の発注を細かく見る余裕はない」——それが現実だと思います。では、規模の小さい会社はどこから手をつければいいのでしょうか。

まず確認してほしいのは、発注・支払いに関する決裁ルールが明文化されているかどうかです。「うちは社長が全部見ている」という会社が、規模が大きくなるにつれて「現場に任せている」という状態に変わっていく。そのタイミングが、最も隙が生まれやすい時期です。

次に、定期的に取引先リストと支払い実績を照合しているかどうか。取引頻度の高い取引先、金額が急増した取引先、担当者が変わっても引き継がれている取引先——こうした「目を向けるポイント」を月次・四半期で確認するだけで、異変に気づく可能性は大きく上がります。

また、内部通報窓口の設置も有効です。空発注を知っている社員が「言えない」環境になっていることは多い。匿名で報告できる窓口があるだけで、早期発見につながるケースがあります。窓口を外部(弁護士事務所など)に置くことで、より機能しやすくなります。

「法務ドック(会社の法務リスクの健康診断)」という発想で、自社の購買・調達のフローを一度棚卸しすることが出発点になります。

再発防止策——仕組みを変えなければ同じことが繰り返される

空発注が一度発覚した会社で、再発を防ぐためにやるべきことは「社員への注意喚起」だけではありません。「起こせる環境」を変えることが再発防止の本質です。

具体的には以下の対策が有効です。

  • 職務分掌の明確化:発注・検収・支払いの承認を別々の人間が担当するよう規程に落とし込む
  • 取引先登録・変更の承認プロセス整備:新規取引先の登録、口座情報の変更などに必ず上長承認を必要とするルールを設ける
  • 累計金額による自動アラート:会計システムに、同一取引先への月次・年次累計が一定額を超えた場合に通知が来る設定を入れる
  • 定期的なサプライヤー監査:主要取引先に対して、実態確認・価格妥当性確認を定期的に行う
  • 内部通報制度の整備:第三者(顧問弁護士など)を窓口とした匿名通報制度を設ける
  • 懲戒規程・損害賠償請求に関する規程の整備:不正が発覚した場合の処分・請求の根拠を就業規則・規程に明記する

「発覚してから対応する」ではなく、「発覚しにくい仕組み自体をなくす」——この発想の転換が、会社を守る最大の防御策です。

空発注の問題はスポット対応で終わらせるべきではありません。一件の不正を処理しても、制度が変わらなければ同じことが別の担当者・別の取引先で繰り返されます。購買・調達の社内規程を整備し、内部通報の仕組みや懲戒規程に不正対応を組み込む——こうした体制づくりには、就業規則や社内規程に詳しい弁護士が継続的に関わることが不可欠です。弁護士法人ブライトでは、顧問先 142社 の実名を公開しており、企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが、規程整備から通報窓口の設置・不正発覚時の初動対応まで「みんなの法務部」として継続してサポートしています。一度の対応ではなく、再発を防ぐ仕組みをともに作ることが、顧問弁護士を持つ本来の意味だと考えています。

よくある質問(Q&A)

Q. 空発注を行った社員を解雇できますか?

A. 空発注による横領・背任が認定できる場合、懲戒解雇の正当な理由となり得ます。ただし、就業規則に懲戒規程が整備されていること、事実確認のプロセスが適切であること、処分が相当であることが必要です。証拠の収集と手続きの適切さが問われるため、解雇の前に必ず弁護士に相談してください。

Q. 取引先(キックバックを渡した業者)にも責任を問えますか?

A. 担当者と共謀してキックバックを渡した取引先には、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求が可能な場合があります。裁判例でも共謀共同正犯の成立が認められたケースがあります(大阪高判平成28年3月24日)。ただし、取引先との今後の関係や証拠の状況によって対応方針は異なるため、法的措置の選択は慎重に検討する必要があります。

Q. 被害額はどうやって計算しますか?

A. 不正が行われた期間の発注データ・振込記録・在庫記録を照合して積み上げる方法が基本です。ただし、不正期間が長期にわたるほど調査は複雑になります。会計・税務の専門家(公認会計士・税理士)と弁護士が連携して行うフォレンジック調査が有効なケースもあります。「大体これくらい」という感覚での示談は、後から被害額が膨らんだ場合に追加請求できなくなるリスクがあります。

Q. 刑事告訴はすべきでしょうか?

A. 刑事告訴は、民事での損害賠償請求と並行して行うことができます。告訴によって捜査機関が動けば、証拠収集が進みやすくなるメリットがある一方、捜査の結果が必ずしも会社の期待通りになるとは限りません。また、告訴状の内容が後の民事訴訟に影響することもあります。告訴するかどうかは、被害額・証拠の状況・経営上の影響などを総合的に判断したうえで、弁護士と方針を決めることをおすすめします。

和氣良浩 弁護士

この記事の監修者

和氣 良浩(わけ よしひろ)

弁護士法人ブライト|代表弁護士/パートナー弁護士

大阪弁護士会/大阪大学法学部卒

専門:顧問弁護士・企業法務・M&A・経営権紛争・事業再生

空発注・架空発注の調査対応・再発防止体制の整備など、社内不正に関する問題を継続的に相談できる顧問弁護士をお探しの方は、弁護士法人ブライト「みんなの法務部」にお問い合わせください。顧問先 142社 の実名を公開しており、企業法務部の弁護士歴平均14年以上の経験豊かな弁護士が対応します。企業法務窓口:06-4965-9590(平日9:00〜18:00)

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