二重雇用とは?社長が見落としがちなリスクと会社を守るための実務対応

二重雇用とは?社長が見落としがちなリスクと会社を守るための実務対応

「副業を認めているわけではないのに、うちの社員が他社で働いているらしい」「競合他社に情報が漏れているかもしれない」——そんな話が耳に入ったとき、社長はどう動けばいいのか、なかなか判断がつかないものです。

副業・兼業が社会的に広がる中で、「二重雇用」という問題が中小企業の現場でも静かに増えています。しかし、これを「本人の問題だから」と放置していると、気づいたときには会社の重要情報が外に出ていた、競合他社に主要な仕事を持っていかれていた、あるいは労務トラブルに発展していた——という事態になりかねません。

この記事では、二重雇用が引き起こすリスクの構造を整理し、社長が「どこで判断すればよいのか」を考えられるよう、予防から対応・再発防止まで順を追って解説します。

二重雇用とは何か——社長が知っておくべき基本の構造

二重雇用とは、一人の従業員が同時に複数の会社と雇用契約を結んでいる状態を指します。副業・兼業の解禁が進む中で、この状態自体が直ちに違法になるわけではありません。しかし、雇用主である会社側の視点から見ると、いくつかの深刻なリスクが絡み合っています。

問題になりやすいのは、主に次の3つの場面です。

  • 競業避止義務の違反:自社と競合する会社で働いている、あるいは自ら競合事業を行っている
  • 秘密情報・顧客情報の漏洩リスク:業務上知り得た情報が他社に流れる恐れがある
  • 労働時間・安全配慮義務の問題:複数社の合計労働時間が法定を超え、会社が知らないまま過重労働になっている

「副業を禁止していないから問題ない」「本人の自由だから口を出せない」と思いがちですが、就業規則に何も定めていない場合、トラブルが起きても会社側は身動きが取りにくくなります。

なぜ判断が遅れるのか——社長が見落とす3つの構造

【図解】二重雇用とは何か——社長が知っておくべきへの対応フロー

① 問題発生
→
② 事実確認・記録
→
③ 顧問弁護士に相談
→
④ 対応策の実行

※ 弁護士に早期相談することで、リスクを最小化できます。

二重雇用をめぐるトラブルで、社長の対応が遅れるのにはいくつかの共通した理由があります。

①「副業は個人の自由」という思い込み
副業・兼業を容認・推奨する風潮が高まる中で、「禁止するのは時代遅れ」という感覚が生まれています。確かにすべての副業を禁止する必要はありませんが、業務内容・競合関係・情報漏洩リスクによって対応は変わります。「個人の自由」と「会社のリスク管理」を切り分けて考えることが必要です。

②就業規則に明確な定めがない
副業・兼業について就業規則に何も記載がない、あるいは「会社の許可を得ること」とだけ書いてあって具体的な基準がない場合、社員が「これは問題ない」と判断して動いてしまいます。基準が曖昧なまま放置していると、注意・懲戒をしようにも根拠が弱くなります。

③「証拠がないから動けない」という躊躇
「他社で働いているらしい」という情報があっても、確たる証拠がないと社長は動きにくいものです。しかし、放置している間に状況は悪化します。どこまで確認できれば動いてよいのか、という判断基準を持っていないことが、対応の遅れを生みます。

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問題が起きる前にできること——予防の3ステップ

二重雇用のリスクに対して、最も効果的な対策は「問題が起きる前」に打っておくことです。

ステップ1:就業規則に副業・兼業のルールを明記する

副業・兼業を全面禁止にする必要はありません。ただし、「どんな場合に許可するのか」「競合他社への従事は認めないこと」「事前申告・許可制にすること」を就業規則に明記することが重要です。ルールがあれば、違反時に懲戒処分や損害賠償請求の根拠にできます。

ステップ2:競業避止義務・秘密保持義務を契約に盛り込む

雇用契約書や誓約書に、競業避止義務(同業他社での就業禁止)と秘密保持義務(業務上知り得た情報を外部に漏らさないこと)を具体的に記載しておきます。特に、重要情報にアクセスできる役職・担当者に対しては、内容を詳しく定めておくことが重要です。

ステップ3:入社時・定期的な申告制度をつくる

入社時に副業・兼業の有無を申告させ、変更があった場合は都度届け出るルールを作っておきます。定期的な確認の機会を設けることで、問題の早期発見につながります。「知らなかった」では済まない状況を作らないことが、会社を守る基盤になります。

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問題発生時の対応フロー——証拠の残し方を具体的に

「うちの社員が他社で働いているようだ」という情報が入ったとき、社長はどう動けばいいのか。感情的に問い詰めたり、逆に見て見ぬふりをしたりする前に、落ち着いて次の流れで対応することが重要です。

  1. 情報の確認と記録:いつ、誰から、どのような情報を得たかをメモに残す。社員の言動・勤怠の変化なども記録しておく。
  2. 就業規則・雇用契約書の確認:副業・兼業に関してどんな定めがあるかを確認する。ここで根拠がなければ、対応の選択肢が狭まる。
  3. 本人への事実確認(書面または録音):面談で事実を確認する際は、できれば複数名で対応し、記録を残す。本人が認めた場合は、その内容を書面で確認する。
  4. 証拠の収集・保全:社内システムへのアクセスログ、業務用PCの使用履歴、外部への情報送信記録などは早めに保全する。時間が経つとデータが消去・上書きされる。
  5. 弁護士への相談:懲戒処分・損害賠償請求・差止め請求など、どの手段が有効かは状況によって異なる。この段階で早めに相談することで、選択肢が広がる。

証拠は、紛争になってから急に作れるものではありません。「後で集めればいい」と思っているうちに、重要なデータが消えたり、相手方に証拠隠滅の時間を与えることになります。少しでも疑いが生じた時点から、記録を意識的に残していくことが重要です。

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失敗事例の構造——なぜ相談が遅れ、証拠がなかったのか

二重雇用をめぐるトラブルで、会社側が不利な立場に追い込まれるケースには、共通したパターンがあります。

事例①:競合他社への情報漏洩に気づくのが遅れたケース

営業担当者が退職後に競合他社に入社し、在職中から顧客情報を持ち出していたことが判明したケースです。退職前から「副業をしているらしい」という情報は社内に流れていましたが、「確証がないから」と放置していました。退職後に競合他社で顧客を次々と奪われて初めて問題の全容がわかったものの、その時点ではPCのデータは初期化済み、メールの送受信記録も残っておらず、損害の立証が困難になりました。

なぜ相談が遅れたか:「証拠がないと弁護士に相談しても意味がない」と思い込んでいた。実際には、証拠収集の方法自体を弁護士に相談すべき段階だった。

事例②:就業規則に根拠がなく懲戒処分できなかったケース

在職中に競合会社を設立して営業活動をしていた従業員を懲戒解雇しようとしたところ、就業規則に「副業・兼業を許可なく行った場合」の懲戒規定が存在せず、解雇が無効とされるリスクが生じたケースです。結果として、穏便な退職に向けた交渉を余儀なくされ、相当額の退職金を支払うことになりました。

なぜ証拠がなかったか:競業行為の事実は把握していたが、書面での事実確認を行っておらず、本人が否定した場合に反論できる記録がなかった。

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うちの会社ではどう考えればいいのか

「うちは小さい会社だから大丈夫」「そんなトラブルが起きるとは思っていなかった」——二重雇用の問題が表面化するまで、多くの社長はそう感じています。しかし、会社の規模や業種に関わらず、以下の点に当てはまる会社はリスクが高いと考えてください。

  • 顧客情報・技術情報・価格情報など、外部に出ると競争上の不利になる情報を従業員が扱っている
  • 就業規則に副業・兼業に関する明確な定めがない
  • 雇用契約書に競業避止義務・秘密保持義務の記載がない、または曖昧
  • 社員の副業・兼業の状況を定期的に把握する仕組みがない
  • 退職した社員が競合他社に転職するケースが過去にある

一つでも当てはまれば、今すぐ就業規則と雇用契約書の内容を確認することをお勧めします。弁護士に依頼しなくても、まず「現在の規定で何がカバーできていて、何が抜けているか」を整理するだけで、判断の起点が生まれます。

次の一手として、以下を確認してください。

  1. 現在の就業規則に「副業・兼業」の条項があるか確認する
  2. 雇用契約書・誓約書に競業避止・秘密保持の記載があるか確認する
  3. これらがない、または内容が不十分であれば、整備の優先度を上げる

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再発防止策——仕組みで守る会社をつくる

一度トラブルが起きた後、同じことを繰り返さないためには「人への依存」から「仕組みへの依存」に切り替えることが重要です。

  • 副業・兼業申告制度の運用:入社時・年1回の定期確認・変更時の都度届け出を義務化し、記録を人事ファイルに残す
  • 情報管理規程の整備:誰がどの情報にアクセスできるかを明確にし、退職時の情報返却・削除手続きを定める
  • 退職時の誓約書取得:競業避止・秘密保持について退職時にも改めて署名させる(一定期間・地域・業種の限定を設けることで有効性が高まる)
  • アクセスログ・通信記録の保全ルール:問題発生時に証拠として使えるよう、ログの保存期間・保全手順を社内で定めておく
  • 定期的な就業規則の見直し:法改正や働き方の変化に応じて、年1回程度の見直しを習慣化する

これらは「起きてから作る」ものではなく、「起きる前に作っておく」ものです。仕組みがあれば、問題が起きたときの判断がぶれなくなり、社員への説明責任も果たしやすくなります。

二重雇用の問題はスポット対応で終わらせるべきではありません。副業・兼業規程を就業規則に組み込み、競業避止・秘密保持の契約書を整備し、困ったときにすぐ相談できる継続的な体制を作ることが、会社を長期的に守る基盤になります。弁護士法人ブライトの「みんなの法務部」では、顧問先 142社 の実名を公開しており、企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが、就業規則の条項整備から日常的な個別相談まで一体的に対応しています。「何かあったら呼ぶ弁護士」ではなく、問題が起きる前から一緒に考える法務パートナーとして、社長の判断を支える体制を整えることができます。

よくある質問

Q1. 副業を禁止していないのに、競合他社で働く社員を懲戒できますか?

副業を全面禁止していなくても、就業規則や雇用契約書に「競業行為の禁止」が明記されていれば、競合他社での就業を理由とした懲戒処分の根拠になり得ます。一方、何も定めがない場合は、懲戒処分の有効性が問われるリスクがあります。まず現在の規定を確認し、必要に応じて整備することが先決です。

Q2. 退職後の競業避止義務は有効ですか?

退職後の競業避止義務は、一定の合理的な範囲(期間・地域・業種の限定)があれば有効とされていますが、範囲が広すぎると裁判所に無効と判断されることがあります。「2年間・同業種・特定地域内」程度の限定をかけたうえで、退職時の誓約書に盛り込むことが一般的な実務対応です。有効性の判断は個別の事情によって異なるため、設計の段階で専門家に確認することをお勧めします。

Q3. 社員が二重雇用をしていた場合、損害賠償を請求できますか?

競業行為や情報漏洩によって会社が具体的な損害を受けた場合、損害賠償請求は可能です。ただし、「損害が発生したこと」と「その損害と競業行為の因果関係」を立証する必要があります。証拠が残っているかどうかが勝敗を大きく左右するため、問題発覚後は速やかに記録・ログを保全することが重要です。

Q4. 副業・兼業を許可制にすれば十分ですか?

許可制にすること自体は有効な仕組みですが、「何を基準に許可・不許可とするか」が明確でないと、恣意的な運用として従業員から異議を申し立てられることがあります。競合関係の有無、情報漏洩リスク、労働時間への影響などを基準として就業規則に明記し、判断プロセスを記録に残す運用にすることで、会社側の対応に一貫性が生まれます。

二重雇用・副業兼業対応・競業避止・情報漏洩防止など経営上の課題を継続的に相談できる顧問弁護士をお探しの方は、弁護士法人ブライト「みんなの法務部」にお問い合わせください。顧問先 142社 の実名を公開しており、企業法務部の弁護士歴平均14年以上の経験豊かな弁護士が対応します。企業法務窓口:06-4965-9590(平日9:00〜18:00)

和氣良浩 弁護士

この記事の監修者

和氣 良浩(わけ よしひろ)

弁護士法人ブライト|代表弁護士/パートナー弁護士

大阪弁護士会/大阪大学法学部卒

専門:顧問弁護士・企業法務・M&A・経営権紛争・事業再生

「みんなの法務部」というブライトの考え方

中小企業の社長に「専属の法務部」を持っていただく——これがブライトの顧問サービスの基本姿勢です。社内に法務部を置けない規模でも、契約書・労務・債権回収・M&Aまで日常的に相談できる体制を、月額固定で。企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームで、142社の顧問先と向き合っています。

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