パートを辞めさせる方法と法律リスク|社長が知っておくべき正しい手順と注意点

パートを辞めさせる方法と法律リスク|社長が知っておくべき正しい手順と注意点

「正直、このパートさんにはもう辞めてもらいたい。でも、どうすればいいのか分からないし、トラブルになるのも怖い」——そう感じている社長は、決して少なくありません。問題は、「辞めさせたい」という気持ちはあっても、どの順番で、何をすれば安全に動けるのかが見えないことです。感情に任せて動けば後でこじれる。かといって何もしなければ会社の損害は積み上がる。この板挟みのまま時間だけが過ぎている——それが多くの現場で起きていることです。

この記事では、パートタイム従業員に辞めてもらうことを検討している経営者の方に向けて、法律の枠組みと実際の判断の進め方を整理します。「正しく動く」とはどういうことか、その構造から丁寧に説明します。

「パートだから簡単に辞めさせられる」は危険な思い込み

多くの社長が持っている誤解のひとつが、「パートは正社員と違うから、辞めさせるのは簡単だ」というものです。しかし、パートタイム従業員にも労働基準法・労働契約法が適用されます。雇用形態が非正規であることは、解雇や雇止めのハードルを下げる理由にはなりません。

特に気をつけたいのは「雇止め(ようどめ)」のルールです。有期雇用契約を繰り返し更新してきた場合、それが3回以上更新されていたり、1年を超えて継続していたりすると、実質的に無期雇用と同等の保護が働くことがあります(労働契約法19条)。このような場合、契約期間満了を理由に雇用を終了させようとしても、「解雇と同じ」として無効と判断されるリスクがあります。

また、2020年4月に施行されたパートタイム・有期雇用労働法により、パート従業員の待遇に関するルールも整備されました。法律を知らずに動くことで、思わぬところで会社が法的リスクを抱えることになります。

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なぜ判断ミスが起きるのか——その構造を理解する

【図解】「パートだから簡単に辞めさせられる」は危への対応フロー

① 問題発生
→
② 事実確認・記録
→
③ 顧問弁護士に相談
→
④ 対応策の実行

※ 弁護士に早期相談することで、リスクを最小化できます。

経営者が「パートを辞めさせる」という場面で判断ミスをしてしまう理由には、共通したパターンがあります。

①「正規・非正規」の違いを過信している

雇用形態の違いは処遇の差を生みますが、「辞めさせやすさ」の差ではありません。雇用継続への合理的な期待が生まれていれば、正社員に近い保護が発生します。「どうせパートだから」という前提で進めると、後から足をすくわれます。

②感情が先走り、記録が後回しになる

問題が起きたとき、多くの経営者は「とにかく今すぐ何とかしたい」と動きます。しかし、口頭での注意・指導だけでは証拠が残りません。万一トラブルになったとき、「会社として指導した」という事実を証明できなければ、法的にはほぼ何も言えない状況になってしまいます。

③「解雇」「雇止め」「退職勧奨」の違いを整理できていない

これらは法的にまったく異なる手段です。それぞれのリスクと手順を区別せずに動くと、意図していなかった法的手続きをとったことになり、会社が不利な立場に立たされます。

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問題が起きる前にできること——予防的な体制整備

「辞めさせたい」と思ってから動くより、そもそもその状況を防ぐための仕組みを整えることが、最もコストが低いリスク管理です。

  • 就業規則の整備:懲戒事由、業務上の指導手順、契約更新の基準などを明記しておく。曖昧な規程は会社の武器になりません。
  • 雇用契約書の内容確認:契約期間・更新の有無・更新基準が明記されているか確認する。「自動更新」になっていないか要チェック。
  • 日常的な業務評価記録の蓄積:問題行動が起きたとき、すでにそれ以前の記録があるかどうかで対応できる幅がまったく変わります。評価シートや指導記録を日頃から残す習慣が重要です。
  • 更新判断のフローを明確にしておく:「期間満了」で終了させるためには、そもそも更新判断を毎回きちんと行っている必要があります。なんとなく更新し続けた結果、雇用継続の期待を生んでしまうケースは非常に多いです。

顧問弁護士を活用している会社では、就業規則の整備・雇用契約書のレビュー・採用段階でのリスクチェックをあらかじめ行うことで、問題が起きにくい体制を作っています。揉めてから弁護士を使うのではなく、揉めないように弁護士を使うという発想の転換が、経営を守ります。

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問題発生時の対応フロー——証拠の残し方を具体的に

実際に問題が起きてしまったとき、どの順番で動けばよいのかを整理します。

  1. 事実を記録する(時系列で):何が起きたのか、いつ・誰が・どのような問題行動をとったかを書面で記録します。メール・チャット・業務日誌のスクリーンショットも保存。
  2. 口頭注意ではなく書面注意に切り替える:問題行動に対して注意・指導をする場合、口頭だけでなく書面(注意書・始末書の要求)を残すことが重要です。「言った・言わない」の争いを防ぐためにも、メールで通知し、受領確認を取る手順が有効です。
  3. 就業規則の該当条文を確認する:懲戒・指導・解雇に関する規定がどうなっているかを確認。これがないと、どんな行動をとっても「根拠がない」と言われます。
  4. 弁護士に相談してから動く:退職勧奨・解雇・雇止めのいずれを選ぶかは、状況によって変わります。どの手段を選ぶかは法的判断が必要なため、動く前に確認することが重要です。
  5. 退職勧奨を行う場合は任意性を確保する:退職勧奨は違法ではありませんが、「強迫」「執拗な繰り返し」と判断されると会社側が責任を問われます。1回の面談で結論を急がせず、従業員が自分の意思で判断できる状況を確保してください。

証拠は、紛争になってから急に作れるものではありません。日常の記録の積み重ねが、いざというときの会社の力になります。

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失敗事例の構造——なぜ相談が遅れるのか

当事務所に寄せられる相談の中には、「もっと早く来てくれれば選択肢があったのに」というケースが少なくありません。相談が遅れる理由には、共通したパターンがあります。

「まだ大丈夫」と思っていた

問題行動が繰り返されているにもかかわらず、「やめてもらうほどじゃない」「次の更新で終わりにすればいい」と先送りにするうちに、気づけば更新を重ねて数年が経過——という状況は非常に多いです。この時点では、雇用継続の合理的期待が発生している可能性が高く、「期間満了だから終わり」と言えない状態になっています。

証拠が残っていなかった

口頭注意しかしていなかった、業務上の問題を記録していなかった、注意書を作っていなかった——こうした状況では、「会社が適切な指導をしたか」を証明できません。法的には「何もしていなかった」と同じ評価を受けるリスクがあります。

「辞めると言った」を信じて動いてしまった

感情的な場面で「もう辞めます!」と言ったパート従業員に対して、そのまま退職扱いにしてしまったケースもあります。しかし、感情的・瞬間的な発言は法的な退職の意思表示として有効とは認められないことが多く、後から「辞めるとは言っていない」と主張されると、会社が不当解雇の責任を問われることになります。

これらの失敗に共通しているのは、「問題が小さいうちに動いていない」ことです。問題が小さいうちほど、解決の選択肢は多くあります。

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うちの会社ではどう考えればいいのか——状況別の判断軸

「パートを辞めさせたい」という状況にも、さまざまなケースがあります。状況に応じて判断の方向性が変わりますので、まず自社の状況を整理することが先決です。

  • 契約期間が残っており、問題行動がある場合:まず懲戒処分の検討(警告・譴責等)。重大な問題なら懲戒解雇も選択肢に。ただし手続きを踏まないと無効リスクが高い。
  • 契約期間満了が近い場合(更新回数が少ない・更新基準が明記されている):雇止め(更新しない)の選択肢あり。ただし30日以上前に予告が必要。一定の要件下では合理的な理由も必要。
  • 長期間更新を繰り返してきた場合:雇用継続の合理的期待が発生している可能性が高い。雇止めを無効とされるリスクを踏まえ、退職勧奨を丁寧に行うルートが現実的なことが多い。
  • 本人が自分から「辞める」と言った場合:状況によっては有効な退職の意思表示となる場合も。ただし後日翻意されるリスクを防ぐため、退職届を書面で取得することが必須。

「どのケースに当たるか」の判断は、契約書の内容・更新の経緯・問題行動の記録・これまでの対応などを総合的に見て初めて判断できます。いずれのルートを選ぶにしても、動く前に一度確認することが、会社を守る最大の安全装置です。

再発防止策——次の採用・雇用管理に活かす

一度このような問題を経験した会社が次に取り組むべきことは、「また同じ状況を繰り返さない仕組みを作ること」です。

  • 雇用契約書を毎回きちんと交わす:更新基準・更新の上限回数・更新しない可能性があることを明記する。
  • 更新判断を書面で行う:更新する・しないをその都度書面で判断・通知し、記録を残す。
  • 問題行動の記録を日常業務に組み込む:指導記録シートを用意し、注意した内容・日時・担当者を残す習慣をつける。
  • 懲戒・退職に関する就業規則の条文を整備する:曖昧な規定では会社の武器になりません。実効性のある規程に見直す。
  • 採用段階でのリスクチェックを行う:雇用形態・更新条件・職務内容を明確にしてから採用する。

これらは一度整備してしまえば、継続的に会社を守る仕組みになります。問題が起きてから対応するコストは、整備に使うコストの何倍にも膨らみます。

パートタイム従業員の雇用管理に関するトラブルは、一件対応して終わりではありません。就業規則・雇用契約書の整備と、日常的に相談できる法務体制を組み合わせることで、次の問題が起きにくい会社になります。弁護士法人ブライトの「みんなの法務部」では、顧問先142社の実名を公開し、企業法務部の弁護士歴平均14年以上の弁護士が、雇用管理のルール整備から個別のトラブル対応まで継続的にサポートしています。「困ったときだけ相談する」ではなく、「困らないための体制」を一緒に作ることが、もっとも安定した経営リスクの管理方法です。相談すればするほど、会社は強くなります。

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よくある質問

Q. 契約期間中にパートを辞めさせることはできますか?

A. 有期雇用契約の期間中に会社側から一方的に雇用を終了させることは「即時解雇」に当たり、正社員の解雇と同様に厳しい基準が適用されます。「やむを得ない事由」がなければ認められないとされており(労働契約法17条)、単に「業績不振」「人員整理」などの理由だけでは難しいのが実情です。問題行動がある場合は、まず懲戒処分のプロセスを踏んだうえで判断することが必要です。

Q. 何度も更新してきたパートに、今から「次は更新しない」と言えますか?

A. 可能ではありますが、リスクを伴います。更新を繰り返してきた事実は「雇用継続への合理的な期待」を生む要素と評価されることがあり、雇止めが無効と判断されるケースがあります。予告のタイミング(30日以上前)・理由の合理性・これまでの対応の一貫性などを総合的に判断する必要がありますので、動く前に弁護士に確認することをお勧めします。

Q. 本人が口頭で「辞める」と言いました。退職扱いにしていいですか?

A. 注意が必要です。感情的な場面や突発的な発言は、法的に有効な退職の意思表示と認められないことがあります。後から「言っていない」「本意ではなかった」と主張された場合、会社が不当解雇の責任を問われるリスクがあります。口頭での発言があった場合でも、必ず書面(退職届)を取得してから退職扱いにすることが原則です。

Q. 退職勧奨はどこまでやっていいですか?

A. 退職勧奨自体は違法ではありませんが、「執拗に繰り返す」「強制的な雰囲気を作る」「断ったにもかかわらず続ける」などの行為は、違法な退職強要として損害賠償請求の対象になり得ます。面談は原則1〜2回にとどめ、従業員が自分の意思で判断できる状況を確保してください。複数回行う場合は、間隔を空け、内容を記録しておくことが重要です。

和氣良浩 弁護士

この記事の監修者

和氣 良浩(わけ よしひろ)

弁護士法人ブライト|代表弁護士/パートナー弁護士

大阪弁護士会/大阪大学法学部卒

専門:顧問弁護士・企業法務・M&A・経営権紛争・事業再生

パートタイム従業員への対応・退職勧奨・雇止め・解雇など経営上の人事労務課題を継続的に相談できる顧問弁護士をお探しの方は、弁護士法人ブライト「みんなの法務部」にお問い合わせください。顧問先142社の実名を公開しており、企業法務部の弁護士歴平均14年以上の経験豊かな弁護士が対応します。企業法務窓口:06-4965-9590(平日9:00〜18:00)

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