カスハラのエスカレーション基準|誰にいつ上げるかを1枚で判断できる5段階フロー

カスハラのエスカレーション基準|誰にいつ上げるかを1枚で判断できる5段階フロー

和氣 良浩

監修:和氣 良浩(わけ よしひろ)

弁護士法人ブライト|代表弁護士|大阪弁護士会

大阪で20年以上、中小企業の企業法務・顧問弁護士サービスを提供。顧問先141社に透明性の高いリーガルサポートを実践している。

カスハラ対応で現場がいちばん困るのは、「これは自分が処理すべきことなのか、上に上げるべきことなのか」が分からない瞬間です。基準がなければ、担当者は上げません。「これくらいで呼ぶのは大げさかもしれない」と考えるからです。

その結果、上司が事態を知るのは、担当者が限界を迎えた後になります。エスカレーション基準とは、担当者の遠慮を制度で取り除く仕組みです。

この記事では、大阪の顧問弁護士として現場の運用づくりに関わってきた立場から、誰にいつ上げるかを1枚で判断できる基準を示します。そのまま社内に掲示できる形にしています。

この記事でわかること

  • 現場・管理職・本社・弁護士・警察の5段階と、それぞれへ上げる条件
  • 「上げる/上げない」で迷わせないための、観察できる引き金(トリガー)の書き方
  • その場で110番してよい場面と、後から相談する場面の切り分け
  • エスカレーションを機能させるために会社側が用意すべき3つのもの

自社の体制に合わせたエスカレーション基準をお作りします

弁護士法人ブライトは、法務部がない会社の「外部法務部」。顧問先141社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが、大阪から現場の運用づくりまで伴走します。

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なぜ現場は上げないのか

エスカレーションが機能しない会社には、共通する原因が3つあります。いずれも担当者の資質の問題ではなく、設計の問題です。

  • 基準が評価語で書かれている——「悪質な場合は上司に報告」では、悪質かどうかを担当者が判断することになります
  • 上げた人が損をする——「自分で処理できなかった」と受け取られる空気があると、上げる行為に心理的コストが生じます
  • 上げた先が決まっていない——「上司」としか書かれておらず、不在時に誰へ行くのかが不明

この3つを裏返すと設計方針になります。観察できる事実で書く/上げたことを評価する/不在時の代替先まで決める

2026年10月1日から、事業主には顧客等からの著しい迷惑行為によって労働者の就業環境が害されないよう、雇用管理上必要な措置を講じる義務が課されます(改正労働施策総合推進法33条1項)。企業規模による猶予はありません。指針は、方針の明確化と周知、相談体制の整備、事後の迅速適切な対応に加えて、「特に悪質な場合の対処方針をあらかじめ定めて周知し、実際に対処できる体制を整えること」を求めています。この記事で扱う運用は、その体制整備の具体化にあたります。詳しくはカスハラ対策義務化に罰則はあるのかをご覧ください。

5段階のエスカレーション基準

次の表をそのまま社内基準にできます。ポイントは、条件を「担当者がその場で見聞きできる事実」だけで書いていることです。判断の余地を残さないほど、現場は動けます。

段階 上げる先 引き金(この事実があれば上げる) 上げた先がやること
L0
現場対応
担当者 通常の申し出・苦情。要求が契約や規定の範囲内 通常対応。記録は残す
L1
その場で交代
その場の責任者
(店長・SV・リーダー)
・対応できない旨を2回説明しても同じ要求が続く
・通話や対面が30分を超えた
・担当者が「代わってほしい」と言った(理由を問わない
窓口を引き取り、以後は責任者が会社の窓口として対応
L2
本社・人事へ
本社の相談窓口
/人事
人格を否定する発言や脅迫的な発言があった(1回でも)
・同一の相手から3回以上の申し出が続いている
・担当者に体調不良や就業への支障が出た
・金銭や人事措置の要求がある
記録を集約し、対応方針を会社として決定。担当者のケアと配置の配慮
L3
弁護士へ
顧問弁護士 ・L2の対応後も行為が継続
・出入禁止や取引停止を検討する段階
・相手が弁護士を立ててきた
訴訟や報道をほのめかされた
・SNSやレビューに事実と異なる投稿がされた
通知書の要否と文面、法的手段の選択、証拠の補強を判断
L4
警察へ
110番
/所轄署
暴力を振るわれた/振るわれそう
・害を加える旨を告げられた
・退去を求めても出ていかない
・金銭を出すよう脅されている
・長時間の居座りで営業ができない

⚖️ この表の使い方(3つのルール)

  • 段階は飛ばしてよい——L0からいきなりL4に行く場面があります。順番に上げる必要はありません
  • 担当者の申告だけでL1が成立する——「代わってほしい」に理由を求めないことが、この仕組みの要です
  • L2以上は会社の判断に移す——担当者個人が背負う状態を終わらせます

引き金の数字を、自社の業種と人員に合わせて決めます

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その場で110番してよい場面

L4で最も迷われるのがここです。「警察を呼ぶほどか」と迷った時点で、呼んでよい水準に達していることがほとんどです。次のいずれかがあれば、その場で110番して差し支えありません。

その場の事実 問題になり得る罪 法定刑
殴る・突き飛ばす・物を投げる 暴行罪(刑法208条) 2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金等
その結果けがをした 傷害罪(刑法204条) 15年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
「殺すぞ」等と告げられた 脅迫罪(刑法222条) 2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金
脅して土下座や謝罪文を強いる 強要罪(刑法223条) 3年以下の拘禁刑(未遂も処罰)
退去を求めても出ていかない 不退去罪(刑法130条後段) 3年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金
大声・居座りで営業ができない 威力業務妨害罪(刑法234条) 3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
脅して金銭や商品券を出させる 恐喝罪(刑法249条) 10年以下の拘禁刑(未遂も処罰)

「110番するかどうかを担当者に判断させない」ことが重要です。上の表を現場に掲示し、該当すれば呼んでよい、呼んだことを後から咎めないと会社が明言してください。呼ぶ判断そのものを承認制にすると、その承認を待つ間に事態が進みます。

通報の判断とその後の流れはカスハラで警察に通報すべきタイミングで詳しく解説しています。

警察・弁護士へ上げる線引きを、現場が使える形にします

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基準を機能させるために会社が用意する3つのもの

表を配っただけでは動きません。次の3つがそろって初めて仕組みになります。

① 不在時の代替先まで書いた連絡先一覧

「店長へ」ではなく「店長(不在時はエリアマネージャー、それも不在なら本社相談窓口〇〇-〇〇〇〇)」まで書きます。夜間・休日の連絡先も必ず入れてください。カスハラは営業時間の終わり際に起きやすく、そこで連絡先が途切れると担当者が孤立します。窓口の設計はカスハラ相談窓口の設置方法を参照してください。

② 「上げたことを評価する」という会社の明言

指針は、相談したことや事実を述べたことを理由に不利益な取扱いをしてはならない旨を定め、周知することを求めています(改正後の労働施策総合推進法33条2項)。これは制度の飾りではなく、エスカレーションを機能させる中核です。

実務では、単に「不利益に扱わない」と書くだけでなく、「早期に上げた対応を適切な対応として扱う」と積極的に明記するほうが効きます。人事評価の場面で、クレームを自力で収めた担当者が高く評価される運用が残っていないかも点検してください。

③ 上げた後に何が起きるかの明示

上げた先が何をするのかが分からないと、担当者は上げても意味がないと考えます。L2なら記録の集約と方針決定、L3なら通知書の検討——というように、上げた後の動きを表に書いておくことが大切です。前掲の表で「上げた先がやること」を1列設けているのはこのためです。

基準を決めたら、対応マニュアルと就業規則に落とし込みます。カスハラ対応マニュアルの作り方就業規則への記載例が実務的です。記録の様式は録音は証拠になるかもあわせてご覧ください。

エスカレーション基準から窓口・規程まで一式で整備します

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よくある質問

エスカレーション基準は、どのくらい細かく決めるべきですか?

細かさよりも「担当者がその場で見聞きできる事実だけで書かれているか」が重要です。「悪質な場合は上司に報告」という書き方だと、悪質かどうかの判断を担当者に委ねることになり、結局上がってきません。「対応できない旨を2回説明しても同じ要求が続く」「通話が30分を超えた」「人格を否定する発言があった」のように、観察できる事実と数字で書いてください。数字そのものは自社の実情に合わせて構いません。段階も5つである必要はなく、小規模な会社なら現場・経営者・弁護士・警察の4段階でも機能します。大切なのは、迷う余地を減らすことです。

担当者が「代わってほしい」と言っただけで交代させてよいのですか?

はい、理由を問わずに交代させる運用をおすすめします。この一点が、エスカレーションが機能するかどうかを分けます。理由の説明を求めると、担当者は「自分が我慢すれば済むのでは」と考え、申告しなくなるためです。交代は担当者の能力評価とは無関係だと会社が明言してください。なお、交代後は「担当者を代えれば結論が変わる」と相手に思わせないことも重要です。引き継いだ責任者は、会社の窓口として同じ結論を伝える立場になります。相手の要求に応じるための交代ではない、という整理を社内で共有しておいてください。

警察を呼ぶかどうかは、上司の承認を得てからにすべきですか?

承認制にしないことをおすすめします。承認を待っている間に事態が進むためです。暴力を振るわれた・振るわれそう、害を加える旨を告げられた、退去を求めても出ていかない、長時間の居座りで営業ができない、といった事実があれば、その場の担当者の判断で110番してよいと会社が明言してください。あわせて「呼んだことを後から咎めない」と伝えることが不可欠です。これらの事実は、暴行罪・脅迫罪・不退去罪・威力業務妨害罪などが問題になり得る場面であり、警察を呼ぶことに何ら不自然さはありません。判断表を現場に掲示しておくと、迷いが減ります。

小さな会社で、上げる先が社長しかいません。それでも基準は必要ですか?

必要です。むしろ人数が少ない会社ほど、基準がないと担当者が一人で抱え込みます。段階は「現場 → 社長 → 弁護士 → 警察」の4つで十分機能します。重要なのは、社長に上げる引き金を数字と事実で決めておくこと、そして社長が不在・対応中のときの代替先(外部の顧問弁護士など)を用意しておくことです。2026年10月1日から課される措置義務には企業規模による猶予がありませんので、少人数の事業者も対象になります。「社長が全部対応している」という状態は、体制を整備していないことと同義に見られかねません。

大阪でカスハラのエスカレーション基準づくりを相談できますか?

はい。弁護士法人ブライトは大阪を拠点に、エスカレーション基準の設計、相談窓口の整備、対応マニュアルと就業規則への落とし込みまで一式でご支援しています。オンラインでの打ち合わせにも対応しています。業種によって引き金の置き方は変わります。店舗小売なら居座りと大声、コールセンターなら通話時間と架電回数、BtoBなら取引上の力関係が論点になります。現在の対応で「誰にも上がってこないまま担当者が疲弊している」という感覚があれば、それは基準の書き方に原因があることがほとんどです。まずは現状をお聞かせください。

2026年10月の義務化までに、上げる仕組みを作っておきませんか

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※本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、個別の法律アドバイスではありません。具体的な問題については弁護士にご相談ください。記載内容は2026年9月時点の法令に基づきます。

本記事は、一般的な情報の提供を目的とするものであり、個別案件に関する法的助言を目的とするものではありません。また、情報の正確性、完全性及び適時性を法的に保証するものではありません。
なお、本記事の内容に関する個別の質問や意見などにつきましては、ご対応できかねます。ただし、当該記事の内容に関連して、当事務所へのご相談又はご依頼を具体的に検討されている場合には、この限りではありません。
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