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第三者行為災害の求償と損害賠償|施設内暴行事故で会社の責任を追及した解決事例

笹野皓平 弁護士

この記事の執筆者

笹野 皓平(ささの こうへい)

弁護士法人ブライト|パートナー弁護士

大阪弁護士会/京都大学法学部卒・立命館法科大学院修了

和氣良浩 弁護士

この記事の監修者

和氣 良浩(わけ よしひろ)

弁護士法人ブライト|代表弁護士

大阪弁護士会

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入居者からの暴行で負傷…第三者行為災害における労災保険給付と会社への損害賠償請求で解決した事例

労災事故の中には、同僚・利用者・取引先など「第三者」の行為が直接の原因となって被災するケースがあります。このような「第三者行為災害」では、労災保険からの給付を受ける権利と、第三者本人への損害賠償請求権が併存します。さらに、安全配慮義務を怠った会社(使用者)に対しても、別途損害賠償請求が可能な場合があります。これらは法的には異なる次元の問題であり、それぞれの関係を正確に理解しなければ、本来受け取れるはずの賠償額が目減りしてしまう危険があります。今回は、介護施設の夜勤中に入居者から暴行を受け負傷した被災者について、労災保険給付と会社への損害賠償請求を適切に整理しながら解決に至った事案をご紹介します。

第三者行為災害は、労災保険法12条の4に基づく政府の求償と、会社(使用者)に対する安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求という、法的に異なる制度が関係するため、被災者ご本人や一般の交渉担当者では対応を誤りやすい分野です。弊所労災部では、第三者に対する求償の仕組みと、使用者に対する損害賠償請求の関係を正確に整理したうえで、依頼者が正当な賠償を受け取れるよう徹底してサポートしています。

結論

第三者行為災害は、労災保険給付と第三者への求償、そして会社への損害賠償請求という複数の法的制度が関係するため、それぞれの仕組みを正確に理解しないまま示談を進めてしまうと、不利益を被るおそれがあります。本件では、加害者本人に実質的な資力がない状況であっても、会社の安全配慮義務違反を丁寧に立証することで、実質的な賠償を確保することができました。第三者の行為による労災事故に遭われた方は、示談を進める前に一度専門家にご相談いただくことを強くおすすめします。

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事案の概要(属性)

  • 業種:介護施設(入所型施設)
  • 被災者:50代・女性・介護職員
  • 事故態様:夜勤中、認知症の入居者(第三者)から暴行を受け転倒・受傷
  • 負傷内容:頭部外傷、頸椎捻挫による後遺障害(等級認定あり)
  • ご依頼内容:会社(施設運営法人)への安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求、労災保険給付との調整

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「第三者行為災害」とは|労災保険給付と第三者への求償の仕組み

労災保険の対象となる事故のうち、事故の原因が同僚・取引先・施設利用者など「第三者」の行為による場合を「第三者行為災害」と呼びます。この場合、被災者には理論上、①労災保険からの給付を受ける権利、②第三者本人への損害賠償請求権、という2つの権利が併存します。労災保険法12条の4は、この二重填補を調整するため、政府が労災保険給付を行った場合に、その給付額の限度で被災者が「第三者」に対して有する損害賠償請求権を代位取得し、当該第三者に求償できる旨を定めています。

ここで重要なのは、労災保険法12条の4に基づく求償の対象となる「第三者」とは、労災保険関係の当事者(政府、事業主、被災労働者)以外の者を指すという点です。したがって、会社(使用者)は原則としてこの「第三者」には該当せず、使用者に対する損害賠償請求と労災保険給付との調整は、同条が直接対象とするものではありません。使用者に対する損害賠償請求は、安全配慮義務違反(民法415条)または不法行為(民法709条・715条等)に基づくものであり、労災保険給付との関係は損益相殺の法理等により別途調整されることになります。

本件の被災者は、夜勤中に認知症の入居者から突然暴行を受け転倒し、頭部と頸部に重い傷害を負いました。加害者である入居者本人には賠償資力がほとんどなく、実質的に損害を回復する手段は、労災保険給付と、施設運営法人(会社)に対する安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求に限られる状況でした。

認知症の加害者と責任能力の問題

本件のように加害者が認知症を患っている場合、民法713条に基づき、精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、賠償責任を負わないとされています。したがって、加害入居者本人に責任能力がないと判断される場合、当該入居者に対する直接の損害賠償請求は認められない可能性があります。

もっとも、民法714条により、責任無能力者を監督する法定の義務を負う者(監督義務者)が代わりに損害賠償責任を負う場合があります。最高裁平成28年3月1日判決(JR東海事件)は、認知症高齢者の配偶者や子について、法定の監督義務者に該当しない場合であっても、一定の要件のもとで監督義務者に準ずる者として責任を負う余地があることを示しました。しかし、本件では入居者の親族に十分な賠償資力が見込めなかったことから、会社に対する安全配慮義務違反を主たる請求先として交渉を進めました。

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先生方の戦略判断|会社への安全配慮義務違反を中心に据えた請求

本件では、加害入居者本人に賠償資力がなく、また責任能力の有無についても争点となり得る状況でした。そこで、会社(施設運営法人)に対する安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求を主たる請求先として位置づけ、交渉を進めることとしました。

安全配慮義務とは、労働契約法5条に明文化されているとおり、使用者が労働者の生命・身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をする義務です。判例上も、最高裁昭和50年2月25日判決(陸上自衛隊八戸事件)以降、使用者の安全配慮義務は確立した法理として認められています。介護施設においては、入居者からの暴力行為のリスクが一般的に認識されており、適切な人員配置、危険な入居者に関する情報共有、緊急時の対応マニュアル整備等が求められます。

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相手方(施設運営法人)の主張と交渉の経過

施設側は当初、次のような主張を展開しました。

  • 加害入居者に過去、重大な暴力行為の前歴はなく、本件のような加害行為は具体的に予見できなかった
  • 夜勤帯の人員配置は業界標準の範囲内であり、安全配慮義務違反はない
  • 被災者自身の対応にも落ち度があり、過失相殺により賠償額を減じるべき
  • 示談条項について、将来の法的リスクを懸念し修正を要求

なお、施設側が当初、法的責任を認めない前提で提示してきた解決金は10万円程度にとどまるものでした。

これに対し、当方は加害入居者の行動特性に関する記録(認知症の周辺症状として興奮・攻撃性が見られた記録等)や、施設側が広告等で受け入れ可能な入居者像として認知症の周辺症状にも対応可能と表示していた実態を精査し、予見可能性を裏付ける事情を積み上げました。また、夜勤帯の人員配置が形式的には基準を満たしていても、実質的な安全確保には不十分であったことを具体的に主張しました。

示談条項についても、労災保険法12条の4に基づく求償は「第三者」を対象とするものであり、使用者である施設運営法人はこの「第三者」に該当しないことを丁寧に説明し、相手方の法的な懸念を解消しました。使用者に対する損害賠償と労災保険給付との調整は、同条の求償制度とは異なる次元の問題であることを明確にすることで、交渉を前進させることができました。

結果として、当初の10万円程度の提示から交渉を重ね、後遺障害等級の認定内容も踏まえて最終的に600万円台での示談が成立しました。

弊所労災部では、第三者行為災害のように労災保険給付と会社への損害賠償請求の関係が複雑に絡む事案でも、着手金0円・完全成功報酬制でご依頼いただけます。相談料も原則無料です。まずは事故の状況をお聞かせください。

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解決までの結果

本件で特に意識したのは、以下の3点です。

  1. 第三者行為災害届を速やかに労働基準監督署に提出し、労災保険給付の手続を適切に進めること
  2. 加害者本人に資力がない場合や責任能力に疑義がある場合でも、会社の安全配慮義務違反という別の請求権を丁寧に立証すること
  3. 労災保険法12条の4に基づく求償の対象と、使用者に対する損害賠償請求の関係を正確に区別し、示談条項の検討においても法的な整理を明確にすること

これらを踏まえた交渉により、被災者が受け取るべき賠償を適切に確保することができました。

項目 ご相談時(Before) 解決後(After)
賠償に関する見通し 加害入居者に資力なく、賠償を受けられるか不透明 会社への安全配慮義務違反を追及し、賠償を実質確保
後遺障害等級 未認定・見通し不明 等級認定を獲得
相手方の提示額 10万円程度(法的責任を認めない前提) 600万円台で示談成立
法的論点の整理 求償と使用者責任の関係が不明確 各制度の適用関係を整理し双方合意

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担当弁護士のコメント

💬 担当弁護士のコメント
第三者行為災害は、労災保険法上の求償制度と、使用者に対する安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求という、法的に異なる制度が関係します。これらを混同すると、交渉が混乱したり、相手方に不必要な懸念を与えたりすることがあります。本件では、加害者本人の責任能力や資力に頼れない状況でも、会社の安全配慮義務違反を諦めずに追及することで、実質的な賠償を確保することができました。(笹野 皓平 弁護士)

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第三者行為災害における求償の法的仕組み

労災保険法12条の4第1項は、「政府は、保険給付の原因である事故が第三者の行為によつて生じた場合において、保険給付をしたときは、その給付の価額の限度で、保険給付を受けた者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する」と定めています。これが「求償」と呼ばれる制度です。

ここでいう「第三者」とは、労災保険関係の当事者以外の者を指します。具体的には、政府(保険者)、事業主(使用者)、被災労働者の三者以外の者が「第三者」に該当します。したがって、被災労働者を雇用する事業主(使用者)は、原則としてこの「第三者」には含まれません。

このことは、使用者に対する損害賠償請求と労災保険給付との調整が、労災保険法12条の4の求償制度の直接の対象ではないことを意味します。使用者に対して安全配慮義務違反(労働契約法5条、民法415条)または使用者責任(民法715条)等に基づく損害賠償請求を行い、賠償を受けた場合の労災保険給付との調整は、損益相殺の法理や、最高裁判例(最判昭和52年10月25日等)に基づいて処理されることになります。

また、労災保険法12条の4第2項は、被災者が「第三者」から同一の事由について損害賠償を受けたときは、政府はその価額の限度で保険給付をしないことができる旨を定めています。これが「控除」と呼ばれる調整です。

本件のように、第三者(加害入居者)本人に賠償資力がなく、使用者(施設運営法人)に対して安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求を行う場合には、労災保険法12条の4の求償・控除の仕組みが直接適用されるわけではありませんが、損益相殺の法理等により、既に受けた労災保険給付と損害賠償額との調整が必要となる場合があります。このような法的関係を正確に理解しないまま示談を進めてしまうと、想定と異なる結果になることもあるため、専門家への早期相談が重要です。

第三者行為災害届の提出先と手続

第三者の行為によって労災事故が発生した場合、被災者は所轄の労働基準監督署長に対して「第三者行為災害届」を提出する必要があります(労災保険法施行規則22条)。この届出は、政府が将来的に第三者に対して求償を行うための基礎資料となるものです。届出が遅れたり内容が不正確であったりすると、労災保険給付の支給に支障が生じるおそれがあるため、事故発生後速やかに対応することが望ましいでしょう。

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よくある質問(FAQ)

労災事故が同僚や施設利用者など第三者の行為によるものでも、会社に損害賠償請求できますか?

はい、可能な場合があります。事故の直接の原因が第三者の行為であっても、会社が労働者の安全に配慮する義務(安全配慮義務、労働契約法5条)を怠っていた場合には、会社に対しても損害賠償請求ができる可能性があります。加害者本人に賠償資力がない場合、この会社への請求が実質的な救済手段になることが多くあります。

第三者行為災害届とは何ですか?提出しないとどうなりますか?

第三者の行為によって労災事故が発生した場合に、所轄の労働基準監督署長に提出する届出です(労災保険法施行規則22条)。提出が遅れたり内容が不正確だったりすると、労災保険給付の支給手続に支障が生じるおそれがあります。事故発生後、早い段階での対応をおすすめします。

労災保険からの給付と、加害者・会社からの賠償金は両方満額もらえますか?

同一の損害について二重に填補を受けることはできません。労災保険給付が先行した場合、政府は第三者に対して求償を行います(労災保険法12条の4第1項)。逆に、第三者から先に賠償を受けた場合には、その価額の限度で労災保険給付が調整されます(同条第2項)。また、使用者から損害賠償を受けた場合も、損益相殺の法理により調整が行われる可能性があります。受け取る順序や内訳によって手取り額に差が出ることもあるため、専門家に相談しながら進めることが望ましいです。

加害者が認知症の場合、損害賠償請求はできないのですか?

認知症により責任能力がないと判断される場合、民法713条により、加害者本人に対する損害賠償請求が認められない可能性があります。もっとも、民法714条に基づき監督義務者が責任を負う場合や、会社の安全配慮義務違反を追及できる場合があります。本件でも、加害者本人ではなく会社に対する請求を中心に交渉を進め、賠償を確保しました。

会社は「労災保険法上の求償を受けるのではないか」と懸念していましたが、どう対応しましたか?

労災保険法12条の4に基づく求償の対象となる「第三者」には、被災労働者を雇用する事業主(使用者)は原則として含まれません。本件でも、この点を相手方に丁寧に説明し、使用者に対する損害賠償と労災保険給付との調整は同条の求償制度とは異なる次元の問題であることを明確にすることで、相手方の法的懸念を解消しました。

弁護士に依頼する場合、費用はどのくらいかかりますか?

弊所労災部では着手金0円・完全成功報酬制を採用しており、相談料も原則無料です。金銭的な負担を抑えながら、まずは状況をお聞かせいただくことが可能です。

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まとめ

第三者行為災害は、労災保険給付と第三者への求償(労災保険法12条の4)、そして会社への安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求という、法的に異なる複数の制度が関係します。これらを正確に区別しないまま交渉を進めてしまうと、本来受け取れるはずの賠償を十分に確保できないリスクがあります。

本件では、加害者である認知症の入居者本人に資力がなく、また責任能力の有無も問題となり得る状況でしたが、会社の安全配慮義務違反を丁寧に立証し、法的論点を整理しながら交渉を進めることで、当初10万円程度の提示から600万円台での示談成立に至りました。

第三者の行為による労災事故でお困りの方は、労災保険法上の求償制度と使用者責任の関係を正確に理解している、労災問題に詳しい弁護士へ早めにご相談ください。弊所労災部では、このような複雑な法的関係が絡む事案についても、依頼者の利益を最大化できるよう、専門的な知見に基づいたサポートを行っています。

【本記事について】本記事は、弁護士法人ブライトが当事務所の労災案件における実務経験をもとに再構成して作成しています。もっとも、依頼者の秘密保持義務および個人情報保護の観点から、ご本人が特定されることのないよう、性別・年齢・ご職業・地域・後遺障害等級・賠償額・時期などの事実を変更し、また複数事案の要素を組み合わせるなどして再構成しています。ご紹介する法的な考え方・手続き・解決の方針は当事務所の実務に基づくものですが、記事中の具体的な属性や数値は、特定の個人・事案を示すものではありません。

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笹野 皓平

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本記事は、一般的な情報の提供を目的とするものであり、個別案件に関する法的助言を目的とするものではありません。また、情報の正確性、完全性及び適時性を法的に保証するものではありません。
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所在地 〒530-0057 大阪府大阪市北区曽根崎2丁目6番6号 コウヅキキャピタルウエスト12階
TEL 06-4965-9590(受付時間9:00~18:00)
FAX 06-6366-8771
事業内容 法人向け(法律顧問・顧問サービス、経営権紛争、M&A・事業承継、私的整理・破産・民事再生等、契約交渉・契約書作成等、売掛金等の債権保全・回収、経営相談、訴訟等の裁判手続対応、従業員等に関する対応、IT関連のご相談、不動産を巡るトラブルなど)、個人向け(交通事故・労災事故を中心とした損害賠償請求事件、債務整理・破産・再生等、相続、離婚・財産分与等、財産管理等に関する対応、不動産の明渡し等を巡る問題など)

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