監修:和氣 良浩(わけ よしひろ) 弁護士法人ブライト|代表弁護士|大阪弁護士会 大阪で中小企業の企業法務・顧問弁護士サービスを提供しています。 社員の懲戒処分を検討するとき、会社側で準備したい書面の一つが「弁明機会付与通知書」です。対象となる事実を本人へ示し、認否、理由、反証資料などを説明する機会を案内します。 ただし、インターネット上のひな形へ氏名と期限を入れるだけでは十分ではありません。通知する事実が曖昧であれば本人は何に答えるべきか分かりません。逆に、会社が処分を決定済みであるかのような表現を使うと、弁明を実質的に検討していないと受け取られるおそれがあります。 この記事では、会社側・使用者側に向けて、弁明機会付与通知書のひな形、記載項目、期限の考え方、交付方法、回答を受けた後の流れを解説します。問題社員対応で会社が作る書類全体を確認したい方は「問題社員対応で会社が作る書類」をご覧ください。 この通知を出す前に、書面と手順を点検しませんか 弁護士法人ブライトは、法務部がない会社の外部法務部です。顧問先142社以上、企業法務部の弁護士歴平均14年以上の体制で、事実整理から再発予防まで支援します。 通知書を出す前に相談する 顧問サービス(みんなの法務部プラン)を見る 弁明機会付与通知書とは 弁明機会付与通知書は、会社が確認している対象事実と、本人が説明できる日時・方法を知らせる書面です。主な目的は次の3つです。 本人が何について説明を求められているかを理解できるようにする 会社が本人の認否・事情・反証資料を確認する 会社が確認した事実と本人の説明を区別して記録する 法律上、すべての懲戒について同じ様式の通知書を作ることや、必ず懲戒委員会を開くことが一律に義務付けられているわけではありません。一方、就業規則や労働協約に弁明・審査の手続が定められている場合は、その内容を確認する必要があります。行為の重大性や本人への影響が大きい場面では、手続を丁寧に進めることが、適切な事実認定と紛争予防につながります。 労働契約法15条は、懲戒が、労働者の行為の性質・態様その他の事情に照らして客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合、権利濫用として無効になる旨を定めています。通知書はこの判断を自動的に満たすものではなく、事実確認と本人説明を適切に進めるための一工程です。 弁明の対象事実を整理する段階から相談できます 会社の評価と確認できた事実を分け、本人が回答できる通知に整えます。 会社側の対応を相談する 通知書を作る前に確認する5項目 1. 対象事実は特定できているか 「勤務態度が悪い」「会社に迷惑をかけた」だけでは、本人が何に対して説明すべきか分かりません。日時、場所、発言・行為、関係者、業務への影響を整理します。複数の行為がある場合は、番号を付けて分けます。 2. 裏付け資料は何か 勤怠記録、メール、業務チャット、社内書類、関係者の聴取記録など、会社が確認した資料を一覧化します。本人に開示できない情報が含まれる場合は、プライバシーや調査への影響を検討し、どの範囲まで示すかを決めます。 3. 就業規則のどの規定が関係するか 懲戒事由、懲戒の種類、手続、決裁権者を確認します。該当条項があることだけで処分が決まるわけではありません。規定の周知状況や、過去の類似事案との均衡も確認します。 4. すでに会社の結論を決めていないか 通知前に「懲戒解雇にする」と社内外へ伝えていると、本人の説明を検討する余地がなかったと受け取られかねません。通知書では「懲戒処分を決定した」と書かず、対象事実について説明を求め、回答後に会社が検討する流れを示します。 5. 本人が回答できる方法を用意したか 面談、書面、メールなど、事案と本人の状況に合う方法を決めます。休職中、入院中、遠隔地、代理人がいる場合などは、方法や日程を調整します。 弁明機会付与通知書のひな形 弁明機会付与通知書 ○年○月○日 ○○ ○○ 様 株式会社○○代表取締役 ○○ ○○ 1 通知の趣旨当社は、下記2の事実について確認を進めています。あなたの認否及び説明を確認したうえで、今後の対応を検討するため、弁明の機会を設けます。 2 対象となる事実(1)○年○月○日○時頃、○○において、○○という指示を受けた後、○○したこと。(2)○年○月○日までに提出を求めた○○について、同日までに提出が確認できなかったこと。 3 確認を求める事項上記各事実の認否、認めない場合の理由、当時の事情、会社に確認を求める資料・関係者、その他伝えたい事項。 4 弁明の方法○年○月○日○時に、○○会議室で面談を行います。書面による回答を希望する場合は、同日○時までに担当者へ提出してください。 5 資料の提出説明を裏付ける資料がある場合は、回答とともに提出してください。期限までの準備が難しい事情がある場合は、期限前に担当者へ連絡してください。 6 連絡先担当:○○部○○ 電話:○○ メール:○○ 以上 このひな形は一般的な構成例です。個別の就業規則、対象行為、本人の状況に合わせて修正してください。処分名を先に断定したり、本人が認めていない事実を確定表現で記載したりしないよう注意します。 ひな形を会社の事実関係に合わせて点検します 対象事実、回答事項、期限、面談方法、就業規則との整合を確認します。 通知書の点検を相談する 記載項目ごとの書き方 通知の趣旨 「懲戒処分を行うので弁明せよ」ではなく、対象事実について説明を確認し、その後に会社が対応を検討する旨を記載します。調査の段階なのか、懲戒手続の段階なのかを社内で整理してから書きます。 対象となる事実 本人が認否できる単位まで具体化します。抽象語、伝聞、他の社員の評価を並べるのではなく、会社が確認した行為を示します。たとえば、無断欠勤であれば、勤務予定日、欠勤日、連絡が確認できなかった期間、会社からの督促履歴を記載します。 関係する規定 就業規則の条番号と見出しを示す方法があります。ただし、該当すると断定する前に本人の説明を確認する場合は、「該当する可能性があるため確認する」など、手続段階に合う表現を検討します。 回答を求める事項 認否だけでなく、理由、背景、会社が未確認の資料、関係者、健康状態・職場環境に関する事情などを尋ねます。「反省しているか」だけを聞くと、事実調査より謝罪を迫る面談になりやすいため、確認事項を分けます。 期限 法律上、すべての案件に共通する弁明期間が定められているわけではありません。対象事実の量、資料確認の必要、通知の到達日、本人の体調、代理人の有無などを考慮し、実質的に回答できる期限を設定します。短い期限が必要な事情がある場合は、その理由を社内記録に残します。 面談方法 場所、日時、出席予定者、オンライン可否、書面回答の可否を示します。出席者が多すぎると威圧的と受け取られることがあります。会社側の進行役と記録役を決め、役割を明確にします。 交付方法と受領拒否への対応 面談で交付する場合 書面の趣旨、対象事実、回答方法を説明し、受領日を記録します。本人がその場で回答しようとしても、書面を確認して後日回答する機会を設けるかを検討します。 郵便・メールで送る場合 休職、欠勤、遠隔勤務などで手渡しできないときは、登録住所への郵便やメールを検討します。発送記録、配達状況、送信記録を保存します。内容証明郵便は送った内容と差出日を示す方法ですが、それだけで本人が内容を理解したことや、弁明の機会が実質的に確保されたことまで証明するものではありません。 受領又は出席を拒否された場合 拒否の日時、場所、説明内容、同席者、本人の発言を記録します。拒否を受けて直ちに処分を決めるのではなく、別方法で回答機会を案内するか、期限をどう扱うかを検討します。本人に代理人がいる場合は、連絡窓口も整理します。 交付方法と面談の進め方も相談できます 書面を作るだけでなく、誰が、いつ、どう説明し、回答をどう記録するかまで整えます。 交付前に相談する 弁明面談の進め方 冒頭で目的を説明する 対象事実と本人の説明を確認する場であること、現時点で処分が確定していないこと、記録を作成することを説明します。会社側が持つ資料を示す範囲も事前に決めます。 事実ごとに認否を確認する 複数の事実を一括して「認めますか」と聞かず、番号ごとに確認します。本人が否認する場合は、その理由、別の経過、確認してほしい資料・関係者を尋ねます。 事情と再発防止を分けて聞く 事実の認否、行為の背景、本人の認識、再発防止策を分けます。健康状態、ハラスメント、過重労働、指示の不明確さなどの申告が出た場合は、必要に応じて別途調査します。 面談記録を作る 質問と回答、提出資料、追加調査事項、次の連絡予定を記録します。要約が本人の説明と異なるという争いを避けるため、確認方法を検討します。署名を拒否された場合も、その事情を記録します。 弁明を受けた後の社内検討 本人の説明を受けたら、会社の当初認識と照合し、追加調査が必要かを確認します。処分を検討する場合は、次の項目を整理します。 対象事実が資料によって裏付けられているか 本人の説明により事実認定が変わる点はないか 就業規則の根拠と手続を満たしているか 行為の性質、回数、故意・過失、業務への影響 過去の指導と改善機会 類似事案に対する社内の取扱いとの均衡 処分以外の注意指導、配置、教育等の選択肢 懲戒処分を行う場合は、処分通知書に対象事実、根拠規定、処分内容、効力発生日などを整理します。弁明通知書に書いていなかった別の事実を主要な処分理由に追加する場合は、本人の説明機会が必要かを改めて検討します。 会社が避けたい失敗 失敗 何が困るか 改善策 対象事実が曖昧 本人が具体的に回答できない 日時・行為・資料ごとに番号を付ける 回答期限が極端に短い 実質的な回答機会ではないと争われやすい 事案の量と到達日を考慮する 処分を決定済みと記載 弁明を検討する前提が崩れる 回答後に会社が検討すると示す 人格評価を列挙 事実確認ができず、対立が深まる 具体的行為と業務影響に限定する 面談記録がない 本人の説明を検討した経過を示せない 質問・回答・追加調査を記録する 就業規則の手続を見ない 社内規程と異なる進行になる 通知前に手続条項を確認する 通知書を交付するだけで手続が完了するわけではありません。 弁護士へ相談したいケース 懲戒解雇、諭旨解雇、降格、長期の出勤停止など影響の大きい処分を検討している 本人が否認し、証言や資料が食い違う 内部通報、ハラスメント、病気、労災、労働組合に関する申告がある 代理人から連絡が来ている 就業規則に弁明・懲戒委員会の手続があるが、運用経験がない 過去の類似事案と処分が異なる可能性がある 一通の通知書をスポットで点検する相談もできます。複数の管理職が関わる会社や、問題社員対応が繰り返し発生する会社では、顧問契約により、調査、通知、面談、注意指導、処分検討、就業規則の見直し、再発予防まで同じ方針で進めやすくなります。顧問契約がなければ依頼できないという意味ではありません。 よくある質問 Q. 弁明期間は何日必要ですか A. 一律の日数で決まるものではありません。対象事実の量、資料、通知の到達日、本人の状況などから、実質的に回答できる期間を設定します。 Q. 本人が弁明しなければ直ちに処分できますか A. 回答機会をどのように案内し、通知が届いたか、拒否や不応答に事情がないかを確認したうえで検討します。不応答だけで処分の相当性が自動的に決まるわけではありません。 Q. 懲戒委員会は必ず必要ですか A. すべての会社に一律に必要というわけではありません。就業規則、労働協約、社内規程に定めがある場合は、その手続を確認します。 Q. 大阪以外の会社も相談できますか A. 大阪の会社をはじめ、対応地域やオンライン相談の可否を個別に案内します。 弁明通知を、形式だけの手続にしないために この通知を出す前の点検から、回答後の追加調査、継続する注意指導・再発予防まで支援します。 会社側の労務相談をする 継続支援の内容を見る ※本記事は一般的な情報提供を目的とするもので、個別案件についての法的判断を示すものではありません。 会社側の労務対応をあわせて確認する 会社が作る労務書類の全体像 無断欠勤・音信不通の社員への会社側対応 企業法務・顧問弁護士のご案内