「違約金の条項はちゃんと契約書に書いてある。だから大丈夫なはずだ」——そう思っていた社長が、消費者から「この違約金は無効だ」と主張され、裁判でその通りの判決が出てしまった。そんな出来事が、英会話スクール、結婚相談所、フィットネスクラブ、住宅リフォームなど、さまざまな業種で実際に起きています。 書いてあれば有効、というわけにはいかない。それが消費者と事業者の間の契約に対して日本の法律が採っている立場です。この記事では、事業者として契約書を作る・使う立場の経営者に向けて、「どういう条項が無効になるのか」「なぜ気づかずに使い続けてしまうのか」「今から何をすれば防げるのか」を順番に整理します。 消費者契約法第9条とは何か——「書いてあれば有効」ではない世界 消費者契約法第9条は、一言でいえば「消費者に過大な損害を課す違約金・解約料条項を無効にする規定」です。 具体的には、契約が解除されたときに消費者が支払う違約金や損害賠償額について、「事業者に生じる平均的な損害の額」を超える部分は無効になると定めています(9条1号)。また、金銭債務の履行が遅れた場合の遅延損害金については、年利14.6%を超える部分が無効になります(9条2号)。 ここで重要なのは、「平均的な損害」という概念です。個々の契約ごとに実際の損害を計算するのではなく、同種の契約が解除された場合に事業者が通常被る損害の平均値がこの基準になります。つまり、違約金の額が高すぎると判断されれば、契約書に明記されていても、その超過部分は最初から存在しなかったものとして扱われます。 「知らなかった」では済まない。消費者側から訴えられたとき、「うちの約款に書いてある」という主張は通らないのです。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) なぜ事業者はこのリスクに気づかないのか——判断ミスが起きる構造 【図解】消費者契約法第9条とは何か——「書いてあへの対応フロー ① 問題発生 → ② 事実確認・記録 → ③ 顧問弁護士に相談 → ④ 対応策の実行 ※ 弁護士に早期相談することで、リスクを最小化できます。 多くの経営者は、悪意を持って消費者に不当な条項を押し付けているわけではありません。では、なぜ無効になり得る条項が長年使われ続けるのでしょうか。 最大の理由は、「他社も同じ条項を使っているから大丈夫だろう」という横並び思考です。業界の慣行や、取引先・先輩経営者から受け継いだひな形をそのまま流用している会社は少なくありません。しかし、業界慣行が法的に正しいとは限らない。 次に多いのは、契約書作成時に「最悪のシナリオ」を想定していないケースです。事業が順調なときは、解約を巡るトラブルはほとんど起きません。条項の妥当性を検証する機会がないまま、何年も同じ約款を使い続けてしまう。 さらに根本的な問題として、「平均的損害」の額を自社で合理的に算定したことがないという点があります。「キャンセルされたら困る」という感覚から逆算して違約金を設定してしまうため、法的基準との乖離が生じます。事業者側が平均的損害を証明できなければ、裁判では不利になります。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) 問題が起きる前にできること——契約書を「法律に耐えられる設計」に変える 消費者契約法第9条のリスクを予防するには、今使っている違約金・解約料の条項が「平均的損害」の範囲内に収まっているかどうかを確認することが出発点です。 具体的に確認すべきポイントは以下の通りです。 解約時に発生する実際のコスト(人件費・機会損失・仕入済み費用など)を項目ごとに洗い出せているか 違約金の算定根拠を社内で文書化しているか 解約時期(早期・中途・直前)によって違約金が変わる段階設計になっているか 消費者に対して解約ルールが契約締結前に分かりやすく説明されているか 顧問弁護士がいれば、この確認を「法務ドック(会社の法務リスクの健康診断)」として定期的に行うことができます。トラブルが起きてから約款を見直すのではなく、揉める前に設計を変えておくことが、最もコストの低いリスク管理です。 また、契約書の整備と並行して、「なぜこの違約金を設定しているのか」を社内で言語化しておくことも重要です。のちに紛争になったとき、算定根拠を示せるかどうかで裁判の行方が大きく変わります。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) 問題が起きてしまったときの対応フロー——証拠の残し方が勝負を分ける 消費者から「この解約料は不当だ。返金してほしい」という申し出があったとき、初動対応が後の結果を大きく左右します。 まず絶対にやってはいけないのは、感情的になって「約款通りに払ってもらう」と突っぱねることです。これは消費生活センターへの申し出や、消費者団体訴訟のきっかけになり得ます。 対応のフローとしては次の順番で考えてください。 事実確認:いつ、どのタイミングで、何を理由に解約の申し出があったかを記録する 証拠の保全:契約書・約款・説明書面・やりとりのメール・チャット履歴をすべて印刷・保存する 平均的損害の算定:その時点で自社に実際に生じているコストを数字で整理する 弁護士への相談:算定した損害が法的に主張できる根拠があるかを確認してもらう 消費者への説明:算定根拠をもとに、合理的な範囲での対応方針を書面で提示する 証拠は、紛争になってから急に作れるものではありません。日常業務の中で「何をいつ、いくらのコストでやったか」を記録しておく習慣が、いざというときの防衛線になります。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) 失敗事例の構造——なぜ相談が遅れ、なぜ証拠がなかったのか 英会話スクールを経営するA社のケースです。消費者が中途解約を申し出たとき、A社は契約書の規定通りに「残り受講料の50%」を違約金として請求しました。消費者がこれを不服として消費生活センターに申し出、その後弁護士を通じて返金を求める内容証明が届きました。 A社が弁護士に相談したのは、訴訟を提起されてからでした。 なぜ相談が遅れたのか。「約款に書いてある以上、負けるはずがない」という確信があったからです。消費者契約法という概念自体は知っていましたが、まさか自社の条項が対象になるとは思っていなかった。 なぜ証拠がなかったのか。「残り受講料の50%」という違約金がどういう根拠で設定されたのか、誰も説明できませんでした。何年も前に先代の時に決めた数字で、社内に算定資料は一切残っていなかったのです。 裁判では、平均的損害の立証責任は事業者側にあるという原則のもと、A社は数字を示せずに敗訴。違約金の大半を返還することになりました。 結婚相談所の事例でも同様のパターンが見られます。「業界標準の解約料だから」という理由で設定した料金が、裁判で実際の損害との乖離を指摘され、受領済み料金の返還命令が出たケースがあります(東京地判令和4年3月14日)。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) うちの会社ではどう考えればいいのか——業種別の視点 消費者契約法第9条のリスクは、消費者に対して役務(サービス)を継続的に提供する業種で特に高まります。月額制・年間契約・複数回講座・会員制サービスなどは要注意です。 業種ごとに考えるべき視点を整理します。 スクール・教育系(英会話・学習塾・音楽・料理など):特定商取引法の適用も確認しつつ、解約時期ごとに段階的な違約金を設計する。早期解約と直前解約では事業者の損害が異なるため、一律設定は危険 フィットネス・健康・美容系:入会金の不返還が「損害」として認められるかどうかは個別事情による。月会費の前払い分については特に精査が必要 結婚相談所・マッチング系:成婚までのサービス提供に要するコストを具体的に算定できる体制が求められる。活動期間に応じた返金計算式を明示することがリスク軽減につながる 住宅リフォーム・建設系:発注済みの材料費・職人への手配費用は損害として認められやすいが、その証拠書類(発注書・見積書・請求書)を保管しておくことが前提 「うちは大丈夫」と思う前に、まず自社の違約金の算定根拠を言語化してみてください。それが文書化できなければ、法的に主張できない可能性があります。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) 再発防止策——契約書は「一度作ったら終わり」ではない 一度のトラブルを解決しても、根本的な契約書の設計を変えなければ同じ問題は繰り返します。再発防止のために取り組むべきことを整理します。 違約金算定根拠の文書化と定期見直し:どのコストをどのように積み上げて違約金を設定したかを書面に残し、事業モデルが変わるたびに更新する 解約ルールの顧客への説明プロセスの整備:契約締結時に解約・違約金に関する説明を行い、説明した事実を記録として残す(サインや確認チェックボックスの活用) 約款・利用規約の定期的な法的レビュー:法改正(消費者契約法は複数回改正されています)や裁判例の動向を踏まえて、年に一度は弁護士に確認してもらう 社内への周知:営業・フロントスタッフが解約条項の趣旨を理解していることが、顧客への丁寧な説明と早期のトラブル察知につながる 契約書は、作ったときから法律も判例も社会環境も変わっていきます。「数年前に弁護士に作ってもらったから安心」は、今は通用しない考え方かもしれません。 消費者契約に関するリスク管理は、スポット対応で完結するものではありません。約款・利用規約の整備、解約ルールの説明フローの設計、そして新しい裁判例の動向把握——これらを継続的に行う体制こそが、本当の意味でのリスク管理です。弁護士法人ブライトでは、企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが、顧問先142社の実名を公開しながら、「みんなの法務部」として継続的なサポートを提供しています。スポットで契約書を見てもらうだけでなく、「何かあればすぐ相談できる」体制を整えることが、事業者として消費者トラブルと向き合うもっとも確実な方法です。 よくある質問 Q1. 消費者契約法第9条は、BtoB(企業間取引)の契約にも適用されますか? 適用されません。消費者契約法は「消費者」と「事業者」の間の契約にのみ適用されます。ここでいう「消費者」とは、個人(自然人)であり、かつ事業としてではなく契約する人を指します。従って、会社同士の取引や、個人事業主が事業として締結する契約には原則として適用されません。 Q2. 違約金が「平均的損害」を超えているかどうかは、誰が証明しなければならないのですか? 平均的損害の額については、事業者側が立証責任を負うと解釈されています。消費者が「この違約金は平均的損害を超えている」と主張した場合、事業者は「この違約金額が平均的損害の範囲内である」ことを証明しなければなりません。算定根拠となる資料を日頃から整備しておくことが不可欠です。 Q3. 古い約款をそのまま使っていますが、今すぐ問題になりますか? すぐに問題が発生するわけではありませんが、消費者から解約を申し出られ、違約金の支払いを求めた段階でリスクが顕在化します。消費者契約法は2016年、2018年、2022年と複数回改正されており、古い約款は現在の法律に対応していない可能性があります。特にサービス業・会員制ビジネスを営んでいる場合は早めのレビューをお勧めします。 Q4. 消費者との間でトラブルになる前に、自社の約款が問題ないか確認する方法はありますか? 弁護士による約款・利用規約のレビューが最も確実な方法です。チェックポイントは、①違約金の算定根拠が文書化されているか、②解約時期に応じた段階設計になっているか、③消費者への説明プロセスが整備されているか、の3点です。顧問弁護士がいれば、こうした「法務ドック」を定期的に実施できます。消費者庁が公表しているガイドラインも参考になりますが、個別の事業内容への当てはめは専門家に確認することをお勧めします。 当事務所が参考にした実務書 当事務所では本テーマに関する最新の実務書を継続的に確認し、顧問先企業のリスク評価に反映しています。本記事の作成にあたり特に参考にした書籍を以下に紹介します。 『消費者契約法〔第4版〕』 — 後藤巻則・村千鶴子・齋藤雅弘 著/法律文化社/2022年12月/分類:学術書・体系書 『Q&A消費者契約法の解説』 — 日本弁護士連合会消費者問題対策委員会 編/三省堂/2019年11月/分類:Q&A形式の実務解説書 『消費者法判例百選〔第2版〕』 — 沖野眞已・窪田充見・佐久間毅 編/有斐閣/2020年3月/分類:判例集 『逐条解説・消費者契約法』(第4版) — 大村敦志 著/商事法務/2019年4月/分類:条文逐条解説書 『事業者のための消費者契約法対応マニュアル』 — 消費者庁消費者制度課 監修/ぎょうせい/2019年3月/分類:マニュアル・チェックリスト型 ※ 書籍内容は引用しておらず、書誌情報のみ表示しています。本記事は弁護士法人ブライトが監修・執筆しています。 この記事の監修者 和氣 良浩(わけ よしひろ) 弁護士法人ブライト|代表弁護士/パートナー弁護士 大阪弁護士会/大阪大学法学部卒 専門:顧問弁護士・企業法務・M&A・経営権紛争・事業再生 消費者契約に関するリスク管理・約款の見直し・解約トラブルへの対応など経営上の課題を継続的に相談できる顧問弁護士をお探しの方は、弁護士法人ブライト「みんなの法務部」にお問い合わせください。顧問先142社の実名を公開しており、企業法務部の弁護士歴平均14年以上の経験豊かな弁護士が対応します。企業法務窓口:06-4965-9590(平日9:00〜18:00) 「みんなの法務部」というブライトの考え方 中小企業の社長に「専属の法務部」を持っていただく——これがブライトの顧問サービスの基本姿勢です。社内に法務部を置けない規模でも、契約書・労務・債権回収・M&Aまで日常的に相談できる体制を、月額固定で。企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームで、142社の顧問先と向き合っています。 ▶ みんなの法務部とは(詳しく見る) 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) 関連記事 違約金と民法の関係を社長が知っておくべき理由|契約トラブルを防ぐ判断軸