権利ばかり主張する社員への対応|解雇より前にやるべきこと

権利ばかり主張する社員への対応|解雇より前にやるべきこと

「あの社員は、何かあるたびに『自分の権利だ』と言って、指示をなかなか聞いてくれない」——そんな悩みを抱えながら、どう動けばいいか分からないまま時間だけが過ぎている社長は、少なくありません。

強く言えばパワハラと言われそうで怖い。かといって放置すれば他の社員の士気が下がる。辞めさせたいけれど、解雇してもいいのかどうかも分からない。そのはざまで、毎日じわじわとストレスが積み上がっているのではないでしょうか。

この記事では、権利ばかり主張して業務指示に従わない社員への対応を、「証拠の残し方」「注意指導の進め方」「解雇の判断基準」の順に整理します。感情論ではなく、会社を守るための判断の軸をお伝えします。

なぜ対応の判断がずれてしまうのか

権利ばかり主張する社員への対応で社長がミスを犯しやすい理由は、大きく二つあります。

一つ目は、「権利主張=正しい」という思い込みです。労働法が従業員を保護する法律である以上、社員が権利を主張することは一見正しいように見えます。そのため、社長側が遠慮してしまい、正当な業務指示すら出しにくくなる。これが最初のズレです。

二つ目は、「問題が起きてから動こう」という先送り体質です。毎日の業務の中で、問題のある言動を記録せず、注意もせず、気づいたら数年が経っていた——という状況では、いざ解雇を検討しても「証拠がない」「指導した形跡がない」として会社側が負けるケースが非常に多いのが現実です。

重要なのは、会社にも指揮命令権があるという事実です。従業員が権利を持つように、会社もまた業務上の指示を出す権利を持っています。問題は、その権利を適切な手順で、記録を残しながら行使できているかどうかです。

問題が起きる前にできること(予防の段階)

【図解】なぜ対応の判断がずれてしまうのかへの対応フロー

① 問題発生
→
② 事実確認・記録
→
③ 顧問弁護士に相談
→
④ 対応策の実行

※ 弁護士に早期相談することで、リスクを最小化できます。

権利主張トラブルを防ぐうえで最も効果的なのは、「会社のルールを文書で明確化しておくこと」です。就業規則に業務命令の根拠条項・違反した場合の懲戒規定を整備しておくことで、社員が「そんなルールは聞いていない」と言えない状況をあらかじめ作れます。

また、入社時の誓約書・雇用契約書に「業務上の指示に従う義務」を明記しておくことも重要です。これは脅しではなく、後のトラブル時に「あなたはこの内容に合意して入社した」と説明するための根拠です。

顧問弁護士を活用するなら、問題が起きる前の段階で就業規則や雇用契約書のチェックを依頼することが最も費用対効果の高い使い方です。揉めてから弁護士を使うのではなく、揉めないように弁護士を使う——これが本来の外部法務の役割です。

問題が発生したときの対応フロー(証拠の残し方)

実際に「業務指示に従わない」「権利だと言って仕事を拒否する」といった言動が起きたとき、会社はどう動けばいいでしょうか。以下のステップを守ることが重要です。

  1. 事実を記録する(日時・場所・発言内容・在席者)
    口頭でのやりとりだけでは記録が残りません。発生した出来事は、その日のうちに担当者がメモを作成し、上長も確認した形で保存してください。メールやチャットツールのログも必ず保全しておきましょう。
  2. 口頭指導を行い、内容をメールで補足する
    口頭で注意した後、「本日お伝えした内容を確認のためメールします」として文書化する習慣をつけることが重要です。相手が読んだことの記録にもなります。
  3. 書面による注意・警告を段階的に実施する
    口頭指導で改善がなければ、書面(注意書・警告書)を発行します。受け取りを拒否された場合は、その事実自体を記録してください。
  4. 弁護士に相談するタイミングを見極める
    書面指導を2回以上行っても改善しない、または「不当労働行為だ」「訴える」などの発言が出始めたら、その段階で弁護士に状況を相談することをお勧めします。

証拠は、紛争になってから急に作れるものではありません。問題社員への対応における「証拠」とは、日々の積み上げです。

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失敗事例の構造——なぜ相談が遅れ、なぜ証拠がなかったのか

多くの会社で、権利主張トラブルへの対応が後手に回る理由は共通しています。

「まだ大丈夫だろう」という先送りが最大の原因です。問題が起きた当初は、「そのうち落ち着くだろう」「辞めてくれるだろう」と期待して放置してしまう。その間、問題言動の記録は取られていない。注意した記録もない。

そして1〜2年後に「もう限界だ、解雇したい」となって弁護士に相談が来たとき、過去の経緯を示す証拠がほぼ何もない——というのが典型的な失敗パターンです。

仙台地判令和6年2月14日(判例秘書 L07951223)では、会社側が解雇に踏み切ったにもかかわらず、指導記録が不十分だったことを理由に普通解雇が無効と判断されました(使用者敗訴)。問題行動があっても、それを記録して指導した形跡がなければ、解雇は認められないのです。

一方、大阪地判令和3年7月9日(判例秘書 L07640893)では、権利主張ばかりして業務改善に応じない従業員への普通解雇が有効と判断されています。東京地判令和4年12月21日(判例秘書 L07731432)でも、業務命令違反・注意指導に従わない従業員への解雇が有効とされています。

有効な解雇と無効な解雇を分けるのは、問題の重大さではなく、「記録されているかどうか」「段階的に指導したかどうか」という手続きの問題です。

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うちの会社ではどう考えればいいのか

「うちの会社で権利ばかり主張する社員が出たとき、どう対応すべきか」という問いへの答えは、会社の規模・業種・その社員の立場によって異なります。しかし、共通する判断の軸は以下の通りです。

  • まず「業務指示が明確に出されているか」を確認する
    指示があいまいだったり、口頭だけだったりする場合、社員の言い分が通ってしまうことがあります。指示は文書で明確に。
  • 「権利主張」と「正当な申し入れ」を区別する
    有給休暇の取得・残業代の請求など、本来認められるべき権利と、業務指示への不合理な拒否は区別して対応する必要があります。
  • 懲戒・解雇は「最後の手段」として位置づける
    段階的な注意・指導・書面警告・改善勧告というプロセスを経ずに解雇に踏み切ると、法的リスクが高まります。
  • 「感情的に対応しない」ための仕組みを持つ
    問題社員への対応は、感情が先走ると必ず後悔します。判断の前に、弁護士に状況を共有して冷静に整理する習慣が重要です。

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再発防止策——同じ問題を繰り返さないために

一人の問題社員に対応できたとしても、同じ問題が別の社員で繰り返されては意味がありません。再発防止のために会社が整備しておくべきことを整理します。

  • 就業規則に「業務命令の根拠と違反時の対応」を明記する
    「業務上の指示に従う義務」「違反した場合の懲戒処分」を就業規則に盛り込み、全社員に周知しておく。
  • 注意・指導のフローを標準化する
    問題言動が起きたときに、誰が・何を・どんな順番で行うかを事前に決めておく。担当者が迷わず動けるマニュアルを用意する。
  • 採用時のスクリーニングを見直す
    採用面接で確認すべき事項・試用期間中の評価基準を明確にし、問題のある傾向を早期に把握できる仕組みを整える。
  • 日常的な記録の習慣をつくる
    問題が起きていないときから、業務指示・指導内容・社員の反応を記録する文化を根付かせる。

権利主張トラブルは、その社員固有の問題に見えて、実は会社の仕組みの問題であることがほとんどです。仕組みを整えた会社は、問題の発生頻度が下がり、発生しても短期間で解決できます。

こうした問題社員対応の仕組みは、スポット対応で終わらせるべきではありません。就業規則・注意指導フロー・雇用契約書の整備と、困ったときにすぐ相談できる継続的な体制が必要です。顧問弁護士がいれば、権利主張トラブルが起きたその日に状況を共有し、証拠の残し方・指導の進め方・解雇の可否まで一気通貫で相談できます。弁護士法人ブライトは顧問先142社の実名を公開しており、企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが「みんなの法務部」として顧問先の日常的な経営判断を支えています。危ない判断をしないための安全装置として、顧問弁護士との継続的な関係構築をご検討ください。

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よくある質問

Q. 「訴えるぞ」と言われただけで、すぐ弁護士に相談すべきですか?
A. 「訴えるぞ」という発言は、必ずしも実際の訴訟提起に直結するわけではありません。ただし、その発言が出た時点で状況は緊張局面に入っているため、それ以降の対応を弁護士に確認しながら進めることをお勧めします。早めに共有するほど、打ち手の選択肢が多く残せます。
Q. 問題社員が「有給を取得したい」と言っているのですが、拒否できますか?
A. 有給休暇の取得は労働者の権利ですので、原則として拒否できません。ただし、業務上の支障が大きい場合は「時季変更権」を行使して取得時季を変えることは可能です。権利主張に対しては、正当な権利とそうでないものを区別したうえで、会社の権限を適切に行使することが重要です。
Q. 注意や指導をしても「パワハラだ」と言われるのが怖いのですが、どうすればいいですか?
A. 正当な業務上の指示・注意は、パワハラには当たりません。パワハラと区別するポイントは、「業務上の必要性があるか」「人格を否定していないか」「複数人の前で必要以上に叱責していないか」です。注意・指導の内容を記録に残しておくことで、後から「パワハラだった」と主張された場合の反証にもなります。
Q. 解雇に踏み切るには、どれくらいの期間・回数の指導実績が必要ですか?
A. 一律の基準はなく、問題行動の内容・重大性・改善の可能性などを総合的に判断することになります。一般的には、書面による注意を複数回行い、改善指導期間を設けたうえで改善が見られない場合に解雇が有効と認められるケースが多いです。状況を弁護士に早めに共有し、解雇前の判断を相談することが重要です。
和氣良浩 弁護士

この記事の監修者

和氣 良浩(わけ よしひろ)

弁護士法人ブライト|代表弁護士/パートナー弁護士

大阪弁護士会/大阪大学法学部卒

専門:顧問弁護士・企業法務・M&A・経営権紛争・事業再生

権利主張トラブル・問題社員対応・解雇判断など経営上の課題を継続的に相談できる顧問弁護士をお探しの方は、弁護士法人ブライト「みんなの法務部」にお問い合わせください。顧問先142社の実名を公開しており、企業法務部の弁護士歴平均14年以上の経験豊かな弁護士が対応します。企業法務窓口:06-4965-9590(平日9:00〜18:00)

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