定期借家契約の途中解約は可能か|借主・貸主それぞれの対応を解説

定期借家契約の途中解約は可能か|借主・貸主それぞれの対応を解説

定期借家契約の途中解約は可能か|借主・貸主それぞれの対応を解説

定期借家契約は、原則として途中解約ができません。これは普通借家契約との最大の違いであり、特に事業用テナントとして物件を借りる中小企業にとって見落としがちな落とし穴です。「業績悪化で撤退したい」「移転が決まったので早めに退去したい」と思っても、契約書に解約権の定めがなければ、残存期間分の賃料を支払い続けなければならないケースがあります。

この記事では、以下の3点をわかりやすく解説します。

  1. 定期借家契約が途中解約できない理由(原則不可の根拠)
  2. 借主・貸主それぞれに認められている例外的な解約事由
  3. 契約満了が近づいたときの実務的な対処法

定期借家契約の締結前・締結後にかかわらず、経営者・総務・法務担当者の方はぜひ最後までお読みください。

定期借家契約とは|普通借家との違い

定期借家契約(定期建物賃貸借契約)とは、借地借家法38条に基づく賃貸借契約であり、契約で定めた期間が満了すると原則として契約が終了する仕組みです。普通借家契約とは大きく異なる以下の3つの特徴があります。

  • 更新がない:期間満了とともに契約は終了し、法定更新は発生しない
  • 期間満了で確定的に終了:正当事由がなくても、貸主は明渡しを求めることができる
  • 中途解約が原則禁止:借主・貸主ともに、合意なき一方的な解約はできない

以下の表で、普通借家と定期借家の主な違いをご確認ください。

比較項目 普通借家契約 定期借家契約
更新の可否 原則として更新される(法定更新あり) 更新なし(合意による再契約は可能)
期間満了時の扱い 正当事由がなければ更新が認められる 期間満了で確定的に終了
中途解約の可否 借主は一定の予告期間で解約可能(借地借家法27条) 原則不可(特約または法定要件がある場合のみ)

普通借家では、借主は原則として解約申入れの日から6ヶ月が経過すると退去できます。しかし定期借家では、この規定が適用されず、契約書に中途解約の定めがない限り、期間満了まで賃料支払義務が継続します。事業用テナントとして定期借家を締結する場合は、特にこの点を事前に十分確認することが不可欠です。

借主側が定期借家契約を途中解約できる場合

① 法律上の特例:居住用・床面積200㎡未満の場合(借地借家法38条5項)

借地借家法38条5項は、一定の要件を満たす場合に、借主から中途解約できる権利を認めています。その要件は以下のとおりです。

  • 契約期間が1年以上であること
  • 建物の床面積が200㎡未満であること
  • 用途が居住用(住宅)であること
  • 転勤・療養・親族の介護その他のやむを得ない事情があること

これらの要件をすべて満たす場合、借主は申し出から1ヶ月後に契約を終了させることができます。ただし、この特例はあくまで居住用建物に限定されており、事業用の店舗・オフィス・倉庫などには一切適用されません。中小企業が事務所や店舗として定期借家を締結している場合、この法的保護は受けられないことを強く認識してください。

② 中途解約特約(解約権の留保)がある場合

定期借家契約において、当事者間の合意により「中途解約権」を付与することが認められています。たとえば「契約開始から2年を経過した後は、6ヶ月前の予告により解約できる」といった特約を設けることが可能です。

この特約は、事業用定期借家においても有効に機能します。したがって、事業者が定期借家契約を締結する際には、中途解約特約を設けることを交渉の優先事項とするべきです。もし貸主が解約特約の付与を拒むようであれば、その契約の期間中は賃料を支払い続けるリスクを覚悟した上で判断する必要があります。

なお、契約書に特約があったとしても、その解釈をめぐってトラブルになることがあります。取引先から契約書を提示されたときに会社が見るべきポイントも参考に、締結前に契約書を精査することを強くおすすめします。

貸主側が定期借家契約を途中解約できる場合

貸主側からの中途解約は、借主側以上に厳しく制限されています。定期借家契約は、借主に安定した使用・収益を保障するための制度でもあるため、貸主が一方的に契約を打ち切ることは、原則として認められません。

正当事由(借地借家法28条)と立退料の関係

仮に貸主が契約期間中に解約を申し入れる場合、借地借家法28条が定める「正当事由」が必要とされます。正当事由として考慮される主な要素は以下のとおりです。

  • 貸主が自ら使用する必要性が高いこと
  • 建物の老朽化が著しく、安全上の問題があること
  • 借主側の賃料不払いや契約違反が重大であること

ただし、「収益改善のために建て替えたい」「より条件の良いテナントに変えたい」といった理由は、正当事由として認められないことがほとんどです。

実務では、貸主が立替・再開発を理由に中途解約を求めてくるケースが見受けられます。たとえば、ある事業用ビルで建て替え計画が浮上した際、貸主が借主に退去を求めた事案では、正当事由のみでは退去請求が認められず、最終的に高額の立退料の支払いによって正当事由が補完されるかたちで合意に至ったケースがあります。

立退料の相場は一般的に「移転費用+営業補償+差額賃料」などを積み上げた金額となり、テナントの規模や営業状況によっては数百万円から数千万円規模に及ぶこともあります。貸主から立退きを求められた場合は、安易に応じるのではなく、弁護士に相談のうえ立退料の適正額を算定することが重要です。

実際にあった定期借家に関する相談事例

このような相談がよく寄せられます。以下に代表的な2つのケースをご紹介します。

ケース1:再契約を拒否された飲食チェーンの事例

複数店舗を展開するある飲食チェーンでは、多くの店舗を定期借家契約で賃借していました。業績が好調な主力店舗の契約満了が近づいた時期に、貸主から「再契約はしない」との通告を受けました。

普通借家であれば、正当事由がない限り貸主は更新を拒絶できません。しかし定期借家では、期間満了をもって契約が確定的に終了するため、借主には再契約を求める権利がありません。その飲食チェーンは定期借家の特性を十分に理解していなかったため、退店を余儀なくされ、物件の改装費や移転コストなど多額の損失を被りました。

この事例は、定期借家で店舗を借りている場合、「続けて使い続けられる」という前提が成り立たないことを端的に示しています。多店舗展開を行う事業者は、各店舗の契約形態と満了時期を一元管理し、再契約交渉を早期に開始することが不可欠です。

ケース2:普通借家への切り替え交渉に成功した飲食業者の事例

新規出店を重ねるある飲食業者では、物件オーナーから「定期借家でなければ貸せない」と言われたテナントについて、弁護士を通じて交渉した結果、普通借家への切り替えに成功しました。

この業者が長期的な店舗運営を前提にしていたこと、また物件の立地条件から貸主にとっても安定したテナントが望ましかったことが交渉の鍵となりました。弁護士のアドバイスとしては、「長期出店の安定性を優先するならば、普通借家が圧倒的に有利であり、その点を交渉材料にすることで貸主も応じる可能性がある」というものでした。

なお、フランチャイズ加盟店として多店舗展開している場合、フランチャイズ本部が用意するテナント契約の形態も確認が必要です。フランチャイズ契約トラブル・途中解除と損害賠償についても参考にしてください。

定期借家契約で契約終了が近づいたときの実務対応

定期借家契約の満了が近づいてきた場合、以下のステップで対応することを強くおすすめします。特に事業用テナントでは、退去・移転のリードタイムが長くなるため、早期着手が不可欠です。

  • 満了の1年前から再契約交渉を開始する:貸主も次のテナントを探す時間が必要であり、早期に意向を確認することで交渉の余地が広がる
  • 再契約条件を文書で確認する:口頭での「継続できる」という約束は法的効力がなく、必ず書面で確認する
  • 再契約拒否の場合は立退料交渉を行う:貸主から退去を求められた場合は、立退料・移転補償の交渉を弁護士に依頼する
  • 代替物件の探索を早期に開始する:業種・規模・立地に合った物件探しには最低でも3〜6ヶ月を要することを逆算して動く
  • 原状回復義務の範囲を事前に確認する:退去時の費用負担について、事前に契約書と現況を照合しておく
  • 貸主への通知義務を確認する:再契約しない場合、借主側も一定の通知義務を負うことがあるため、契約書を精査する

定期借家契約書を締結する前に確認すべきポイント

① 期間の確認|事業計画と契約期間が合致しているか

定期借家契約の期間は、事業計画上の出店期間と一致しているかを確認することが最優先です。たとえば、5年での初期投資回収を見込んでいる店舗に対し、3年の定期借家契約を締結してしまうと、再契約が拒否された際に投資回収が完了しないまま退店を余儀なくされます。期間設定は単なる形式的事項ではなく、事業収支と直結する重要な条件です。

② 中途解約特約の有無と内容の確認

契約書に中途解約特約が設けられているかどうかを必ず確認します。特約がある場合も、「解約予告期間」「解約できる時期の制限(たとえば契約開始から2年経過後に限るなど)」「違約金の有無」などの詳細を精査してください。事業状況の変化に応じて早期退去が必要になるケースは珍しくないため、できる限り短い予告期間・早期解約可能な特約の挿入を交渉することが望ましいです。

③ 再契約条件の明確化

定期借家では、満了後の再契約は当事者間の合意によって行われます。しかし再契約の意向確認時期・再契約の条件(賃料の改定有無・新たな期間など)について、あらかじめ契約書に盛り込んでおくことで、満了直前のトラブルを防ぐことができます。「再契約優先交渉権」の条項を設けることも一つの選択肢です。

④ 事業規模と期間のバランス|多店舗展開の場合の注意点

複数店舗を展開する事業者が、各店舗を異なる時期に定期借家で締結している場合、満了時期が集中することで一時的に多数の契約更改交渉・移転が発生するリスクがあります。契約期間を意図的にずらす、あるいは主力店舗についてはより長い期間を設定するなど、ポートフォリオ全体で管理する視点が不可欠です。総務・法務担当者は全店舗の契約情報を一元管理し、少なくとも1年前にはアラートが上がる体制を整えてください。

よくある質問|定期借家契約の途中解約・解約対応

Q1. 定期借家に中途解約特約がない場合、残存期間の賃料は全額払わなければならないのですか?

A. 原則として、残存期間の賃料を支払う義務があります。ただし、実務上は貸主との交渉によって「一定の違約金を支払い、それ以上の賃料は免除してもらう」という合意解除が行われるケースもあります。合意解除の交渉は、弁護士を通じて行うことで、支払総額を圧縮できる可能性があります。また、貸主が早期に新たなテナントを見つけた場合など、損害が発生しなかった部分については賃料免除が認められることもあります。まずは弁護士に相談の上、貸主と協議することをおすすめします。

Q2. 貸主から「建て替えるので出て行ってほしい」と言われました。応じなければならないのでしょうか?

A. 契約期間中であれば、原則として応じる義務はありません。貸主が中途解約を求めるためには正当事由が必要であり、建て替え・立替計画のみを理由とする退去請求は認められない可能性が高いです。ただし、老朽化が著しく安全上の問題がある場合や、適切な立退料の提示がある場合は異なる判断になることもあります。貸主からの退去要求を受けた場合は、安易に応じず、まず弁護士に相談して立退料の適正額を確認した上で交渉に臨むことをおすすめします。

Q3. 定期借家の契約満了前に、貸主から「再契約はしない」と言われました。どのように対処すればよいですか?

A. 定期借家では、貸主には再契約を締結する義務がないため、法律上は拒否することができます。まずは、再契約拒否の理由を確認し、改善できる事情(賃料の引き上げへの応諾など)があれば交渉の余地を探ります。それでも再契約が難しい場合は、速やかに代替物件の探索を開始するとともに、退去に伴う原状回復費用・移転費用についても確認を進めてください。なお、貸主が再契約を拒否する理由が正当でない場合(たとえば差別的な理由や嫌がらせである場合)は、法的に対抗できるケースもあるため、弁護士への相談をおすすめします。

監修:弁護士法人ブライト|企業法務・顧問弁護士サービス

よくある質問

Q. 定期借家契約に中途解約特約がない場合、業績悪化を理由に退去できますか?

A. 原則としてできません。業績悪化は法律上の解約事由に該当しないため、契約期間中は賃料支払義務が継続します。貸主と協議の上で合意解約を目指すか、違約金の支払いで早期退去を交渉するといった対応が現実的です。

Q. 定期借家契約の中途解約特約は、どのような文言で設けるのが適切ですか?

A. 「契約開始からX年経過後、Y ヶ月前の書面による通知をもって解約できる」と明記するのが基本です。解約可能となる時期・予告期間・通知方法を具体的に定めることで解釈の争いを防げます。締結前に弁護士へ文言を確認してもらうことを推奨します。

Q. 貸主から「建替えのために退去してほしい」と言われました。応じる義務はありますか?

A. 定期借家契約の期間中であれば、借主は原則として退去を拒否できます。貸主からの中途解約には借地借家法28条の正当事由が必要であり、建替えの必要性だけでは認められないケースも多いです。立退料の提示がある場合も、金額の妥当性を慎重に検討してください。

Q. 定期借家契約の満了が近づいています。再契約を求めるにはどうすればよいですか?

A. 定期借家は法定更新がないため、引き続き使用したい場合は貸主との「再契約」が必要です。満了の6〜12ヶ月前には貸主へ意向を伝え、新たな契約条件を交渉することを推奨します。再契約が成立しない場合、期間満了時に明渡し義務が発生します。

具体的な対応手順・ケース例

以下は、中小企業が定期借家契約の途中解約を検討する際の典型的なシナリオと対応手順です。

【シナリオ】オフィスを事業用定期借家契約(期間5年)で賃借中の会社が、契約開始2年目に事業縮小のため早期退去を検討するケース。

  1. 契約書の確認:まず契約書に中途解約特約が存在するかを確認します。特約の有無・解約可能時期・予告期間・違約金条項を正確に把握してください。
  2. 特約がある場合:解約予告期間(例:3〜6ヶ月前)を守った上で、書面により貸主へ解約通知を送付します。口頭通知のみでは後日トラブルになるため、必ず書面で行ってください。
  3. 特約がない場合:貸主に対して合意解約の交渉を申し入れます。この際、残存賃料の一部を違約金として支払うことを提案するなど、貸主にとってもメリットある条件を提示することが交渉を円滑にします。
  4. 合意書の締結:合意が成立した場合は、退去日・違約金・原状回復の範囲などを明記した合意解約書を必ず書面で締結してください。
  5. 合意不成立の場合:期間満了まで賃料支払義務が継続します。賃料の支払いを一方的に停止すると債務不履行になるため、支払いを継続しながら継続的に協議を行ってください。

まとめ・確認チェックリスト

  • □ 契約書に中途解約特約(解約権の留保)が明記されているか確認する
  • □ 事業用物件の場合、借地借家法38条5項の法定解約権が適用されないことを認識する
  • □ 締結前の交渉段階で、中途解約特約の付与を貸主に求める
  • □ 解約特約がある場合、予告期間・通知方法・違約金条項を正確に把握する
  • □ 途中解約を希望する場合は、まず貸主へ合意解約の協議を申し入れる
  • □ 合意解約が成立した際は、退去日・違約金・原状回復範囲を記載した書面を締結する
  • □ 契約満了が近い場合は、再契約の要否を早期に貸主へ確認・交渉する
  • □ 賃料の一方的な支払停止は債務不履行となるため、協議中も支払いを継続する

監修・著者情報

和氣良浩弁護士

和氣 良浩(わき よしひろ)弁護士

弁護士法人ブライト 代表弁護士|大阪弁護士会所属
弁護士登録:2006年(弁護士歴 20年)
取扱分野:企業法務・労務問題・契約トラブル・M&A・債権回収

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