「そろそろ上場も視野に入れて、会社の体制を整えないといけない」と考えている社長が、必ずと言っていいほど直面するのが、監査機関をどうするかという問いです。顧問の会計士や証券会社の担当者から「監査等委員会設置会社にしませんか」と言われても、「監査役会と何が違うの?」とすぐには判断できない。そのまま雰囲気で決めてしまった結果、後から体制の見直しを迫られるケースが少なくありません。 この記事では、監査等委員会と監査役会の違いを、法律の教科書的な説明ではなく、「社長の判断の質を上げる」ための視点で整理します。どちらが優れているかではなく、自社にとってどちらが合っているかを判断するための材料を提供します。 そもそも何のための仕組みか——監査機関の役割から整理する 会社法は、取締役の行動をチェックする仕組みを会社に求めています。上場企業や一定規模の非公開会社には、このチェック機能を担う機関の設置が義務づけられており、大きく分けると次の3つの選択肢があります。 監査役会設置会社 監査等委員会設置会社 指名委員会等設置会社 このうち、監査等委員会設置会社は2015年の会社法改正で新たに設けられた類型です。上場企業の中でも採用数が増えており、特にIPO(新規株式公開)を準備している企業にとって選択肢として浮かび上がりやすい形態です。 ただし、どちらが「正解」かという話ではありません。自社のフェーズ・人員・ガバナンスの方向性によって、合う選択肢は変わります。まずは両者の構造の違いを正確に把握することが先決です。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) 監査役会設置会社と監査等委員会設置会社——構造上の違いを図解する 【図解】そもそも何のための仕組みか——監査機関のへの対応フロー ① 問題発生 → ② 事実確認・記録 → ③ 顧問弁護士に相談 → ④ 対応策の実行 ※ 弁護士に早期相談することで、リスクを最小化できます。 最も大きな違いは、チェック機能を担う人が「取締役会の外にいるか、内にいるか」という点です。 監査役会設置会社の構造 監査役は、取締役とは独立した機関として存在します。取締役会の決議に参加しますが、議決権は持ちません。独立した立場から取締役の業務執行を監視するのが役割です。3人以上の監査役が必要で、そのうち半数以上が社外監査役でなければなりません。また、常勤監査役の設置も義務づけられています。 監査等委員会設置会社の構造 監査等委員は、取締役の一員です。つまり、取締役会の中に「監査等委員会」という委員会が設けられ、そのメンバーが監査機能を担います。監査等委員である取締役は3人以上で、その過半数が社外取締役でなければなりません。監査役は設置できません(併存不可)。 この構造上の違いが、以下のような実務上の差異を生み出します。 選任・報酬の決め方が異なる:監査等委員である取締役は、株主総会で他の取締役と別議案として選任され、報酬も個別に決議されます。これにより、独立性の確保が制度的に担保されます。 取締役会の議決権:監査等委員である取締役は、取締役会での議決権を持ちます(監査役は持たない)。 業務執行への意見表明権:監査等委員会は、取締役の選任・解任や報酬について株主総会で意見を述べる権利を持ちます(会社法342条の2・361条)。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) なぜ「雰囲気で決めてしまう」判断ミスが起きるのか IPO準備の現場では、主幹事証券・監査法人・弁護士・社労士など多くのアドバイザーが関わります。そのなかで、機関設計の議論が「専門家任せ」になりやすい。 社長は「どちらがIPO審査で有利ですか?」と聞き、アドバイザーから「監査等委員会設置会社が最近は主流です」と言われると、それで決まってしまうことがあります。しかし、主流であることと自社に合っていることは別の話です。 特に問題になりやすいのは次のようなケースです。 社外役員の候補者が十分に確保できないまま移行を決めてしまった 常勤で動ける人材がいないため、実態として機能しない体制になった 「監査等委員会の方が役員を減らせる」という誤解で移行したが、実際には社外取締役の確保コストがかかった 移行後に株主構成が変わり、ガバナンス方針を見直す必要が生じた 機関設計は、設計した後から変えるにも株主総会の決議が必要です。「後で直せばいい」という感覚で決めると、修正コストが大きくなります。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) 問題が起きる前にできること——機関設計の判断を「準備」する IPO準備の段階で社長が持っておくべき判断軸は、次の3点です。 ① 自社の経営スタイルと監査機能の相性を確認する 監査役会設置会社は、取締役と独立した監査役が「外からチェックする」構造です。一方、監査等委員会設置会社は、取締役会の内側から監査機能を持たせる構造です。社長がどちらのガバナンス感覚に合うかは、会社の意思決定スタイルにも影響します。 ② 人材の確保可能性を先に見積もる どちらの形態を選んでも、社外の独立した人材が必要です。監査等委員会設置会社では社外取締役が過半数、監査役会設置会社では社外監査役が半数以上必要です。「人が確保できるか」は制度選択に直結します。 ③ 上場後のフェーズも見据えた設計をする IPO直後は「とりあえず上場できる体制」が優先されがちですが、上場後に機関変更を求められるケースもあります。投資家・機関投資家の目線でも通用する体制かどうかを、上場前から弁護士と確認しておくことが重要です。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) 失敗事例の構造——なぜ相談が遅れたのか 弁護士法人ブライトでは、IPO準備中の企業から機関設計に関する相談を受けることがあります。そのなかで見えてくる「相談が遅れた理由の構造」があります。 「会計士が決めてくれると思っていた」——機関設計は、会計士・証券会社の守備範囲と思っている社長が多い。しかし、会社法上の機関設計は法律の問題であり、会計監査とは切り離して考えなければならない部分があります。 「定款変更のタイミングで初めて弁護士に連絡が来る」——定款変更が必要な局面で初めて法律家が関わることになると、体制全体を設計し直す時間がない。その結果、「今ある選択肢の中でいちばんマシなもの」を選ぶだけになってしまいます。 「議事録や検討経緯が残っていない」——機関選択の判断をどのような根拠で下したか、記録が残っていないと、後から「なぜこの体制にしたのか」を説明できなくなります。上場審査では、過去の経営判断の合理性が問われることがあります。 証拠は紛争になってから急に作れるものではありません。機関設計の「判断の痕跡」を残しておくことは、上場審査においても経営の誠実さの証拠になります。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) うちの会社ではどう考えればいいのか——フェーズ別の判断軸 「どちらを選べばいいか」という問いへの答えは、会社のフェーズによって変わります。以下に目安を示します。 IPO準備中(上場申請前) 主幹事証券・監査法人の意向を確認しながら、弁護士も交えて機関設計の選択肢を整理します。監査等委員会設置会社を選ぶ場合は、社外取締役の候補者選定と、選任プロセスの適法性確認を早期に行うことが重要です。 上場直後・上場後1〜3年 機関が機能しているかどうかの実態チェックが必要です。「制度として整備した」だけで終わらず、監査等委員会が実際に機能し、議事録が適切に残っているか、定期的に確認する体制を作ります。 非上場・上場を将来的に検討している段階 現時点では監査役会設置会社のままでも、将来の移行を見据えた定款設計にしておくことができます。社外役員候補の人脈を早めに作っておくことも、実務上の準備として有効です。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) 再発防止策——「整備したつもり」を防ぐための仕組み 機関設計は「一度決めて終わり」ではありません。会社の成長・株主構成の変化・法改正に応じて見直しが必要になります。以下の点を定期的に確認する体制を作ることが再発防止につながります。 監査等委員会の議事録が適切に作成・保存されているか 社外取締役の独立性要件を引き続き満たしているか 選任・報酬の決議手続きが会社法の要件通りに行われているか 機関変更が必要になった場合の手続きフローを把握しているか これらは日常の法務業務の一環として、定期的に点検する仕組みを持っておくことが重要です。「上場できた時点」がゴールではなく、上場後の継続的なガバナンス運営こそが、会社の信頼を積み上げます。 機関設計の問題は一度スポット対応で解決できるものではありません。定款・社内規程の整備から、役員の選任手続き、議事録管理に至るまで、継続的に確認・更新し続ける体制が必要です。弁護士法人ブライトの「みんなの法務部」では、IPO準備から上場後のガバナンス体制の維持まで、企業法務部の弁護士歴平均14年以上の弁護士が継続的に伴走します。顧問先142社の実名を公開しており、「どこに相談すればいいかわからない」という段階から、具体的な判断の整理まで一緒に考えます。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) よくある質問(Q&A) Q. 監査等委員会設置会社にすると、役員の人数を減らせますか? A. 「監査役が不要になるので人数が減る」というイメージを持たれる方がいますが、監査等委員である取締役(3人以上、過半数が社外)を新たに選任する必要があります。社外の独立人材の確保コストは依然として発生します。単純に役員人数を減らすための手段とは言えません。 Q. 監査等委員会設置会社でも監査役を置けますか? A. 置けません。会社法上、監査等委員会設置会社では監査役を設置することができません(会社法327条4項)。監査機能は監査等委員会が一元的に担います。 Q. IPO審査では監査等委員会設置会社の方が有利ですか? A. どちらの形態が審査上有利ということはありません。重要なのは、選んだ機関が実態として機能しているかどうかです。形式的に整備するだけでは審査を通過することは難しく、監査等委員会の活動実績・議事録の質なども確認されます。 Q. 監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に移行するには何が必要ですか? A. 定款変更(株主総会の特別決議)が必要です。あわせて、監査等委員である取締役の選任(株主総会の普通決議で別議案として)、監査役の任期終了処理、社内規程の見直しなど、複数の手続きが連動します。早めに弁護士と手続きの全体像を確認しておくことをお勧めします。 当事務所が参考にした実務書 当事務所では本テーマに関する最新の実務書を継続的に確認し、顧問先企業のリスク評価に反映しています。本記事の作成にあたり特に参考にした書籍を以下に紹介します。 『会社法コンメンタール 第8巻 機関(2)』 — 江頭憲治郎ほか/商事法務/2021年3月/分類:学術書・体系書 『監査等委員会設置会社の実務』 — 太田洋・北村導人・渡辺邦広/商事法務/2016年2月/分類:Q&A形式の実務解説書 『会社法実務問答集Ⅱ』 — 澤口実ほか/商事法務/2022年3月/分類:Q&A形式の実務解説書 『新・会社法実務問題シリーズ⑤ 機関設計・役員』 — 中村直人・倉橋雄作/中央経済社/2019年7月/分類:Q&A形式の実務解説書 『IPO法務・労務の落とし穴』 — 倉橋雄作ほか/中央経済社/2024年6月/分類:業種特化型実務書 ※ 書籍内容は引用しておらず、書誌情報のみ表示しています。本記事は弁護士法人ブライトが監修・執筆しています。 この記事の監修者 和氣 良浩(わけ よしひろ) 弁護士法人ブライト|代表弁護士/パートナー弁護士 大阪弁護士会/大阪大学法学部卒 専門:顧問弁護士・企業法務・M&A・経営権紛争・事業再生 IPO準備・上場後のガバナンス体制・機関設計など、会社の骨格に関わる法的判断を継続的に相談できる顧問弁護士をお探しの方は、弁護士法人ブライト「みんなの法務部」にお問い合わせください。顧問先142社の実名を公開しており、企業法務部の弁護士歴平均14年以上の弁護士が対応します。企業法務窓口:06-4965-9590(平日9:00〜18:00) 「みんなの法務部」というブライトの考え方 中小企業の社長に「専属の法務部」を持っていただく——これがブライトの顧問サービスの基本姿勢です。社内に法務部を置けない規模でも、契約書・労務・債権回収・M&Aまで日常的に相談できる体制を、月額固定で。企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームで、142社の顧問先と向き合っています。 ▶ みんなの法務部とは(詳しく見る) 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料)