「有給は取っていい。でも、この社員はちょっと違う」——そんな言葉にならないモヤモヤを抱えている社長は少なくありません。仕事はいまひとつで、チームに迷惑をかけているのに、有給の権利だけはしっかり主張してくる。法律で認められているのはわかっている。でも、このまま何もできないのかという焦りが、日に日に積み重なっていく。 この記事は、「有給の権利を盾にしてくる社員」への対処に悩む社長のために書きました。感情論ではなく、法的・経営的に整理したうえで、社長が実際に動ける判断軸をお伝えします。 「有給=問題」と感じるとき、本当の問題は何か 社長が「権利ばかり主張する」と感じるとき、その感情の中には複数の問題が混在しています。整理すると、たいていは以下の3つに分かれます。 業務能力の問題:仕事の質・量が基準に達していない 職場秩序の問題:チームや他の社員への影響、態度の問題 有給の使い方の問題:申請タイミング・頻度・手続きの問題 この3つが混在したまま「有給問題として」対処しようとするから、判断がぶれます。有給の申請を拒否することで業務問題を解決しようとすると、法的なリスクだけが高まって、本来対処すべき問題には何も手が打てていない——という状況に陥ります。 まず社長が持つべき視点は、「何が本当の問題か」を分離することです。 有給をめぐる「社長の誤解」が判断ミスを生む構造 【図解】「有給=問題」と感じるとき、本当の問題はへの対応フロー ① 問題発生 → ② 事実確認・記録 → ③ 顧問弁護士に相談 → ④ 対応策の実行 ※ 弁護士に早期相談することで、リスクを最小化できます。 「有給を拒否できる理由があるはずだ」と考える社長は多いのですが、法律の仕組みはそうなっていません。労働基準法39条に基づく年次有給休暇は、要件を満たした労働者に当然に発生する権利です。社長が「この社員には与えたくない」という理由は、法律上の拒否理由にはなりません。 ただし、法律には時季変更権という制度があります。「事業の正常な運営を妨げる場合」に限り、使用者は有給の取得時期を別の日に変更するよう求めることができます(労働基準法39条5項)。これは「拒否」ではなく「時期の調整」です。 この違いが、社長の判断を歪める出発点になっています。 「繁忙期だから断った」→ 繁忙期だけでは時季変更権の根拠にならない(最高裁昭和62年判決) 「有給をよく取るから評価を下げた」→ 不利益取扱いとして労基法違反になりうる 「口頭で『ダメ』と言い続けた」→ 証拠がなく、後で申告されると不利 「なんとなくできないはずがない」という感覚で動くと、会社側が法的に不利な立場に置かれます。感情と法的手段を分けて考えることが、社長にとっての最初の安全装置です。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) 問題が起きる前にやっておくべきこと(予防) 「権利ばかり主張される」という状況は、多くの場合、会社側の仕組みが整っていないことで助長されています。予防として整えておくべきポイントは以下の通りです。 就業規則に有給申請手続きを明確化する 「何日前に申請するか」「どの様式で提出するか」「誰に申請するか」が就業規則や社内ルールに明記されていない会社は多いです。これが整っていないと、申請の恣意的な扱いが後で問題になります。手続きを統一しておくことで、「この人だけ厳しくしている」という主張を封じることができます。 時季変更権の正当な使い方を把握しておく 繁忙期・代替要員の確保が困難な場合など、客観的な根拠がある場合に限り、時季変更権は有効です。ただし「また別の日に」と繰り返すだけで、実際に取得できる日を示さなければ、実質的な拒否と判断されます。変更を求めるなら、代替日を具体的に提示することがポイントです。 業務評価は有給と切り離して記録する 業務上の問題があるなら、有給とは完全に別の問題として対処してください。面談記録・業務指導の記録・評価シートなど、有給とは無関係に業務問題として文書化することが重要です。後で「有給取得を理由に評価を下げた」と主張されないための証拠作りでもあります。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) 問題が起きたときの対応フロー(証拠の残し方) 「権利ばかり主張する社員」への対応が必要になったとき、以下の順番で動くことが基本です。 何が問題かを書き出す:業務能力・職場秩序・有給手続きの問題を分けてリスト化する 有給申請の記録を確認する:申請日・取得日・業務状況を時系列で整理する 業務問題は業務問題として対処する:面談を設定し、指導・改善要請を文書で行う 時季変更権を行使する場合は根拠を明確にする:「この日は〇〇の理由で業務上支障がある。〇日に変更してほしい」を書面で伝える すべてのやり取りを記録に残す:口頭のみのやり取りは後で「言った・言わない」になる 証拠は、紛争になってから急に作れるものではありません。日常の記録が、いざというときの会社の防衛線になります。特に、業務指導の内容・日時・相手の反応を記録したメモやメールは、後の対処で大きな差を生みます。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) 失敗事例の構造:なぜ相談が遅れ、なぜ証拠がなかったのか 実際に労働局への申告や労務トラブルに発展したケースには、共通した構造があります。 「様子を見ていたら、有給を全消化して辞めた」パターン 問題社員に対して「どうせ辞めるだろう」と様子を見ていたところ、その社員は退職前に有給を一括請求。会社側が「今は繁忙期だから」と口頭で断ったものの、証拠がなく、時季変更権の行使も認められず、有給分の賃金を全額支払うことになった——こういったケースは珍しくありません。 「有給拒否を繰り返したら、労働局に申告された」パターン 有給申請のたびに却下し続けた結果、社員が労働局に申告。会社は時季変更権を主張したが、代替日の提示もなく、業務支障の根拠も示せず、指導が入ることになった。「断れると思っていた」という認識のズレが問題の始まりでした。 「評価を下げたら、不利益取扱いと言われた」パターン 有給取得が多い社員の評価を下げたところ、「有給を理由に不利益な扱いを受けた」と主張された。評価の根拠が文書化されておらず、有給取得との因果関係を否定できなかったため、会社が著しく不利な状況になった。 これらに共通するのは、「相談するほどのことではない」と判断して動いたことと、記録がなかったことです。揉めてから弁護士を使うのではなく、揉めないように弁護士を使う発想が、こうした失敗を防ぎます。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) うちの会社では、どう考えればいいのか 「有給は認めなければならない。でも、業務問題はきちんと対処したい」——この両立は可能です。ポイントは次の2つです。 有給の問題と業務の問題を、完全に別の軸で動かす 有給の申請に対しては、法律の手続きに沿って対応します。時季変更権を行使する場合は、客観的な根拠と代替日を明示する。それだけです。有給を「業務問題の解決手段」として使おうとするから、泥沼になります。 業務問題は、別の対処フローで着実に記録する 仕事の質・量・態度に問題があるなら、それは有給とは無関係の問題として、業務指導・面談・人事評価のプロセスで対処します。指導内容・改善を求めた日・社員の反応——これをすべて記録に残していくことが、将来の懲戒や退職勧奨の根拠になります。 「この社員はどうにかしたい」という本音がある場合、それを実現するための道筋は有給の拒否ではありません。業務問題として記録を積み上げ、正当な人事プロセスで対処すること——これが会社を守りながら経営判断を実行する唯一の道です。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) 再発防止策:職場全体で「権利の行使と責任」を整える 一人の社員への対処が終わっても、同じ問題が繰り返されるなら、仕組み自体に問題があります。以下の再発防止策を参考にしてください。 就業規則の有給申請手続きを整備する:申請期限・様式・承認フロー・時季変更の要件を明文化する 人事評価の基準を文書化する:何をもって評価を決めるのかを明確にし、有給取得と切り離した評価根拠を持つ 業務指導の記録フォーマットを用意する:面談記録・業務改善指示を残す習慣を管理職に定着させる 年5日の時季指定義務を社内ルール化する:2019年改正の義務を社内制度に組み込み、計画的付与の活用も検討する 時季変更権の行使基準を社内で共有する:「いつ・どんな理由で・どう変更を求めるか」を管理職が統一して対応できるようにする 有給の問題は、個別の対処より先に、職場全体のルールと文化を整えることで根本的に減らすことができます。 有給をめぐるトラブルは、一件対処しても繰り返されることがほとんどです。問題の根っこは「その社員への不満」ではなく、就業規則・申請手続き・人事評価の整備が追いついていないことにあります。就業規則の有給関連条項を整備し、業務指導の記録フローを日常業務に組み込むことは、弁護士が継続的に関与することで初めて実現しやすくなります。弁護士法人ブライトの顧問サービス「みんなの法務部」では、こうした日常の労務整備から、有給申請対応・時季変更権の行使判断・問題社員への対処フローまで、顧問先142社とともに、企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが継続的にサポートしています。「困ったときだけ相談する」ではなく、日頃から相談できる体制が、経営判断の質を上げ続けます。 よくある質問 Q. 有給申請を一切認めないことはできますか? A. できません。有給休暇は労働基準法上の権利であり、使用者が「認めない」という形での拒否はできません。ただし、「事業の正常な運営を妨げる場合」には、時季変更権として取得時期を別の日に変更するよう求めることは可能です。この場合も、客観的な根拠と代替日の提示が必要です。 Q. 有給をよく取る社員の評価を下げることはできますか? A. 有給取得を直接の理由として評価を下げることは、労働基準法附則136条の「不利益取扱いの禁止」に抵触するリスクがあります。ただし、業務能力・成果・勤務態度を客観的な基準で評価し、その記録が残っていれば、有給取得とは無関係に正当な評価を行うことは可能です。評価の根拠を文書化しておくことが重要です。 Q. 退職前に有給を一括取得されました。拒否できますか? A. 退職前の有給一括取得は、時季変更権が行使しにくい場面の一つです。退職日が確定している場合、変更先の日程がなくなるため、事実上の拒否はほぼ認められません。このリスクを軽減するには、退職手続きの中で有給残日数を事前に確認し、退職前の引き継ぎ期間の設計を就業規則に明確化しておくことが有効です。 Q. 「有給ばかり取る社員を辞めさせたい」。可能ですか? A. 有給取得を理由とした解雇は違法です。ただし、有給取得とは別に、業務能力・職場秩序への影響として問題が積み上がっている場合は、正当な人事プロセス(業務指導・改善要請・評価記録の積み上げ)を経て、退職勧奨や懲戒処分を検討できる場合があります。この判断は慎重な見極めが必要なため、早めに弁護士に相談することをお勧めします。 当事務所が参考にした実務書 当事務所では本テーマに関する最新の実務書を継続的に確認し、顧問先企業のリスク評価に反映しています。本記事の作成にあたり特に参考にした書籍を以下に紹介します。 『年次有給休暇の法律実務 第4版』 — 細谷越史/労働調査会/2022年6月/分類:Q&A形式の実務解説書 『労働基準法コンメンタール(第4版)』 — 厚生労働省労働基準局(監修)/労務行政/2022年10月/分類:条文逐条解説書 『問題社員対応の法律実務 第3版』 — 向井蘭・岡芹健夫/労働調査会/2022年11月/分類:Q&A形式の実務解説書 『解雇・退職の法律問題』 — 野川忍/日本経済新聞出版/2021年3月/分類:学術書・体系書 『就業規則の作り方・変え方』 — 岩出誠/日本実業出版社/2023年4月/分類:マニュアル・チェックリスト型 ※ 書籍内容は引用しておらず、書誌情報のみ表示しています。本記事は弁護士法人ブライトが監修・執筆しています。 あわせて読みたい 顧問弁護士と権利を主張するなら義務を果たせ|ブライト 顧問弁護士と権利ばかり主張する社員|ブライト 権利ばかり主張する社員への対応|義務を果たさないのに要求だけ増えるとき【大阪・使用者側弁護士解説】 この記事の監修者 和氣 良浩(わけ よしひろ) 弁護士法人ブライト|代表弁護士/パートナー弁護士 大阪弁護士会/大阪大学法学部卒 専門:顧問弁護士・企業法務・M&A・経営権紛争・事業再生 有給対応・問題社員・解雇・退職勧奨など経営上の課題を継続的に相談できる顧問弁護士をお探しの方は、弁護士法人ブライト「みんなの法務部」にお問い合わせください。顧問先142社の企業法務を担っており、企業法務部の弁護士歴平均14年以上の経験豊かな弁護士が対応します。企業法務窓口:06-4965-9590(平日9:00〜18:00) 「みんなの法務部」というブライトの考え方 中小企業の社長に「専属の法務部」を持っていただく——これがブライトの顧問サービスの基本姿勢です。社内に法務部を置けない規模でも、契約書・労務・債権回収・M&Aまで日常的に相談できる体制を、月額固定で。企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームで、142社の顧問先と向き合っています。 ▶ みんなの法務部とは(詳しく見る) 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料)