この記事の監修者 和氣 良浩(わけ よしひろ) 弁護士法人ブライト|代表弁護士 大阪弁護士会 取扱分野:顧問弁護士・企業法務・債権回収・医療機関の法務 入院中に患者さんが亡くなられた。診療費・入院費に未収が残っている。請求書の宛名を、誰にすればよいのか——病院・医療法人の医事課や事務長の方から、実務上いちばん多くいただくご質問のひとつです。 ご遺族への連絡はためらわれますし、「相続放棄をします」と言われたらどうするのか、身元保証人に請求すればよいのか、そもそも請求してよいのか、という迷いも重なります。結果として、宛名が決まらないまま請求書が院内に滞留する。これが未収金の棚卸しをすると必ず出てくる型です。 この記事では、大阪で企業法務を扱う弁護士法人ブライトが、請求する側である医療機関に向けて、患者死亡後の医療費を誰にどう請求するのか、相続人の調べ方、相続放棄が出たときの扱い、身元保証人への請求との違い、院内で先に揃える資料を、民法の条文に沿って整理します。なお、個別の債権について誰にいくら請求できるかは、相続関係・保証契約の内容・時効の状況によって結論が変わります。この記事は一般的な整理であり、個別の事案について結論を示すものではありませんので、実際の対応は事案ごとに弁護士へご確認ください。 宛名が決まらない請求書が、院内に滞留していませんか 患者死亡後の未収金は、相続人の調査と放棄の確認に時間がかかるため、院内で止まりやすい類型です。弁護士法人ブライトは大阪で、医療機関の未収金を継続的にお預かりしています。顧問先142社・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが対応します。 医療費・未収金回収の継続受託を見る 外部法務部サービスを見る 06-4965-9590(企業法務窓口)LINEで相談する 結論——請求先は相続人。ただし「誰に・いくら」は分けて考える 診療契約に基づく医療費の支払債務は、患者さんが亡くなったからといって消えません。相続人が承継します。 民法896条(相続の一般的効力) 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。 ただし書の「一身に専属したもの」は、その人でなければ意味をなさない権利義務(扶養請求権など)を指します。医療費の支払債務は金銭債務であり、一身専属ではありません。したがって相続の対象になります。 相続人が複数いるときは、法定相続分に応じて分かれる ここが実務で最も取り違えられる点です。相続人が複数いる場合、金銭債務は相続分に応じて当然に分割され、各相続人はそれぞれ自分の分だけを負担します。全員が全額について責任を負う(連帯債務になる)わけではありません。 民法899条/民法427条 899条 各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。427条(分割債権及び分割債務) 数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う。 法定相続分は民法900条が定めています。子と配偶者が相続人なら各2分の1、配偶者と直系尊属なら配偶者3分の2・直系尊属3分の1、配偶者と兄弟姉妹なら配偶者4分の3・兄弟姉妹4分の1。子・直系尊属・兄弟姉妹が複数いるときは、その中で等しく分けます。 したがって、「長男さんにまとめてお支払いください」という請求は、請求としては通りません。長男が任意に全額を払うことは可能ですが、法的に請求できるのはその人の相続分に対応する額です。院内で「代表の方に」と伝えてしまうと、後で「自分の分は払ったのでこれ以上は払わない」と言われたときに、説明がつかなくなります。 相続人の構成 未収金30万円の場合の請求額 配偶者のみ 配偶者に30万円 配偶者+子2人 配偶者15万円/子 各7万5,000円 子3人(配偶者なし) 子 各10万円 配偶者+父母 配偶者20万円/父5万円・母5万円 配偶者+兄弟2人 配偶者22万5,000円/兄弟 各3万7,500円 この表を見ると、実務上の問題が一目で分かります。相続人が増えるほど1人あたりの額が小さくなり、回収コストが額を上回りやすくなるということです。宛名を確定する作業そのものにコストがかかるため、「誰に請求するか」と同時に「どこまで追うか」を院内で決めておく必要があります。 相続人の調べ方と、請求先の決め方 まず院内の資料から拾う 戸籍を取りに行く前に、院内にある資料で当たりを付けます。ここを飛ばすと、無駄な戸籍請求が増えます。 # 院内で先に揃える資料 そこから分かること 1 入院申込書・診療申込書 本籍・住所・続柄の記載、同意者の氏名 2 身元保証書・入院保証書 保証人の氏名・住所・続柄(保証の効力は別途検討) 3 緊急連絡先の届出 連絡が取れる親族の存在と続柄 4 被保険者証の写し・限度額適用認定証 保険種別・被扶養者関係・自己負担額の上限 5 退院・死亡時の手続書類の受領者 実際に来院した親族が誰か 6 診療費の一部を支払った人の記録 支払意思のある親族の存在 戸籍で相続人を確定する 正式に請求先を決めるには、戸籍で相続関係を確認します。医療機関は、未収金という債権を持つ立場(=自己の権利を行使する必要がある者)として、戸籍法10条の2第1項1号に基づき第三者請求ができます。 戸籍法10条の2第1項(第三者による戸籍謄本等の請求) 前条第一項に規定する者以外の者は、次の各号に掲げる場合に限り、戸籍謄本等の交付の請求をすることができる。この場合において、当該請求をする者は、それぞれ当該各号に定める事項を明らかにしてこれをしなければならない。一 自己の権利を行使し、又は自己の義務を履行するために戸籍の記載事項を確認する必要がある場合 権利又は義務の発生原因及び内容並びに当該権利を行使し、又は当該義務を履行するために戸籍の記載事項の確認を必要とする理由 実務上は、請求の際に「権利の発生原因と内容」(診療契約に基づく医療費債権であること、金額、発生時期)と「確認を必要とする理由」(相続人に対する請求のため)を明らかにする必要があります。診療契約書・未収金の明細・請求書の控えなどを疎明資料として添えるのが通常です。市区町村によって求められる資料が異なるため、事前に窓口へ確認してから請求すると往復が減ります。 弁護士に依頼している場合は、受任している事件に関する業務の遂行のために必要があるとして、戸籍法10条の2第3項に基づく職務上請求ができます。相続関係が複雑で、代襲相続や数次相続が絡むケースでは、この違いが調査期間に効いてきます。 相続人の順位を確認する 誰が相続人になるかは民法が定めています。配偶者は常に相続人となり(890条)、これに加えて次の順位で相続人が決まります。 第1順位:子(887条1項)。子が相続開始以前に亡くなっているときは、その子(孫)が代襲します(同条2項) 第2順位:直系尊属(889条1項1号)。第1順位の相続人がいない場合。親等の異なる者の間では近い者が先 第3順位:兄弟姉妹(889条1項2号)。第1・第2順位の相続人がいない場合。兄弟姉妹が先に亡くなっているときは、その子(甥・姪)が代襲します 高齢の患者さんの場合、第3順位まで下りることは珍しくありません。兄弟姉妹の代襲まで行くと、相続人が10人を超えることもあります。この段階で、1人あたりの請求額と調査コストを突き合わせる判断が必要になります。 相続人の調査から、外に出せます 戸籍の収集と相続関係の確定は、件数がまとまると院内の負担が大きくなる作業です。弁護士法人ブライトは、法務部がない会社の外部法務部として、大阪から医療機関の未収金をお預かりしています。 医療費・未収金回収の継続受託を見る 外部法務部サービスを見る 06-4965-9590(企業法務窓口)LINEで相談する 相続放棄が出たときの扱い ご遺族から「相続放棄をしました」「相続放棄をするつもりです」と言われたとき、院内で何を確認すればよいか。順番に整理します。 放棄の効力——その人は「はじめから相続人でなかった」ことになる 民法938条・939条 938条(相続の放棄の方式) 相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。939条(相続の放棄の効力) 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。 ここから2つのことが導けます。 第一に、放棄は家庭裁判所への申述によって行われます。ご遺族が「放棄します」と口頭で述べたり、「相続しません」という念書を出したりしても、それは民法上の相続放棄ではありません。申述が受理されたかどうかを確認する必要があります。 第二に、放棄した人は初めから相続人でなかったことになるため、次順位の人が相続人になります。子が全員放棄すれば直系尊属へ、直系尊属もいない、あるいは放棄すれば兄弟姉妹へ移ります。「子が放棄したから請求先がなくなった」わけではありません。ここを知らずに債権を落としてしまうケースが、実務ではしばしばあります。 期間——「知った時から3か月」であって「死亡から3か月」ではない 民法915条1項(相続の承認又は放棄をすべき期間) 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。 起算点は死亡日ではなく「自己のために相続の開始があったことを知った時」です。次順位の相続人にとっては、先順位の相続人が放棄したことを知った時が起算点になるのが通常です。 医療機関側の実務として重要なのは、「死亡から3か月以上経っているから、もう放棄はできないはず」という前提で動かないことです。疎遠だった親族に病院から初めて請求書が届き、そこで相続の開始を知った、という経過であれば、請求書の到達が起算点になり得ます。督促を重ねた後に放棄されて、それまでの作業が無になる、という形で表れます。 また、被相続人に債務がないと信じていたことについて相当の理由があるといえる事情があるときは、起算点を後ろにずらす扱いがされることがあります。この点は事案ごとの判断になるため、期間の経過だけを理由に「もう放棄できない」と断定しないほうが安全です。 放棄の有無を確かめる方法 債権者である医療機関は、利害関係人として、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対し、相続放棄・限定承認の申述の有無についての照会を行うことができます。照会の際は、被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍)謄本、申述の有無を調べたい相続人の戸籍謄本、利害関係を示す資料(請求書の控え・診療契約関係の資料など)を求められるのが通常です。 必要書類と書式は家庭裁判所ごとに異なるため、管轄の家庭裁判所に事前確認をしてから準備します。「放棄したと言っている」と「放棄が受理されている」は別物なので、債権を落とす判断をする前に、この照会で裏を取るのが院内の標準手順になります。 相続人が全員放棄したとき 全員が放棄すると、相続人のあることが明らかでない状態になります。この場合、相続財産は法人となり(951条)、家庭裁判所は利害関係人または検察官の請求によって相続財産の清算人を選任します(952条1項)。清算人が選任されると、相続債権者・受遺者に対し2か月以上の期間を定めて請求の申出をすべき旨が公告され(957条1項)、その手続の中で配当を受けることになります。 ただし、この手続は費用対効果を必ず確認してください。清算人の選任を申し立てる場合、申立人が予納金を納める必要があり、相続財産の内容によっては相当額になります。未収金が数十万円規模であれば、予納金が回収見込額を上回ることも珍しくありません。不動産などまとまった相続財産の存在が確認できているかどうかが、申立ての判断の分かれ目です。 ご遺族に「立て替えて払ってください」と言ってよいか 実務で見落とされやすい、しかし重要な論点です。相続人が相続財産を処分すると、単純承認をしたものとみなされます。 民法921条1号(法定単純承認) 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。 被相続人の預金を引き出して医療費に充てる行為は、相続財産の処分に当たると評価される可能性があります。そうなれば、その相続人は単純承認したものとみなされ、他の債務も含めて相続することになります。 つまり、医療機関が善意で「故人の口座から精算してください」と案内した結果、ご遺族が放棄できなくなる、という事態が起こり得ます。これはご遺族との関係を大きく損ないますし、医療機関側にとっても望ましい進め方ではありません。 院内の案内としては、支払方法をこちらから指定しないのが安全です。「故人の預金から」「相続財産から」といった表現を請求書・案内文に入れないこと。これだけで、この種の摩擦はかなり減ります。督促状・請求書の文面については医療機関の督促状・内容証明の書き方|そのまま使える文例3種と書いてはいけないことで扱っています。 なお、相続人が限定承認(922条)を選ぶこともあります。この場合、相続によって得た財産の限度でのみ債務を弁済することになるため、回収額は相続財産の範囲に限られます。 「放棄した」と言われた時点で、止めていませんか 放棄の受理を確認せずに債権を落とすと、本来請求できた先を取り逃がします。逆に、追い続けても回収できない先もあります。その線引きから、継続的にご相談いただけます。 医療費・未収金回収の継続受託を見る 外部法務部サービスを見る 06-4965-9590(企業法務窓口)LINEで相談する 身元保証人・連帯保証人への請求との違い 「相続人が放棄したので、身元保証人に請求する」。この判断は、方向としては正しいのですが、前提の確認が2つ要ります。 保証債務は、相続放棄では消えない 保証人の責任は、保証契約に基づいて保証人自身が負っている債務です。主たる債務者(患者さん)が亡くなり、相続人が放棄をしても、保証人の債務がそれによって消えるわけではありません。 民法446条(保証人の責任等) 1項 保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う。2項 保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。 2項に注意してください。書面のない保証は効力を生じません。口頭で「私が責任を持ちます」と言われていても、それだけでは保証債務は発生しません。院内で保証人に請求する前に、まず署名のある書面が実在するかを確認します。 書面があっても、極度額の記載がなければ保証部分が効力を生じないことがある これが2つ目の前提です。入院時に取る身元保証書の多くは、これから発生する金額未確定の医療費を保証させるもの=個人根保証契約にあたると評価される可能性があります。2020年(令和2年)4月1日に施行された改正民法の下では、個人根保証契約は極度額(上限額)を定めなければ効力を生じません(民法465条の2第2項)。 ただし、この規律がそのまま当てはまるかは、保証契約をいつ締結したかで変わります。改正民法の施行日より前に締結された保証契約については、改正前の規律が適用されるものとして経過措置が置かれています。したがって「極度額の記載がない=すべて使えない」ではありません。院内に残っている保証書は、まず署名日で仕分けるのが先です。長期入院や再入院を繰り返した患者さんの場合、どの時点の書面が適用されるのかの確認も必要になります。この切り分けの詳細は、次にご案内する記事で扱っています。 この論点は独立して整理する必要があるため、入院の身元保証人に医療費を請求できるか|極度額のない身元保証書が無効になる理由と院内書式の総点検で詳しく扱っています。相続人への請求に進む前に、保証書が使える形かどうかを先に見ておくと、院内の手戻りが減ります。 保証人が親族である場合の重なり 実務でよくあるのが、身元保証人=相続人というケースです。長男が身元保証人になっていて、かつ相続人でもある。この場合、その方は2つの立場を持ちます。 相続放棄をすれば、相続人としての地位は失われます。しかし保証人としての地位は残ります(保証書が有効であることが前提です)。したがって、放棄を理由にすべての請求が止まるわけではありません。ご遺族にとっては分かりにくい構造なので、請求の根拠を書面で明確にしておくことが、無用な紛争を避けることにつながります。 相続人への請求 保証人への請求 根拠 民法896条・899条(相続による承継) 保証契約(民法446条) 金額 法定相続分に応じて分割 保証の範囲(極度額の定めがあればその範囲) 相続放棄の影響 放棄した人には請求できない/次順位へ移る 放棄では消えない 書面の要否 不要(法律上当然に承継) 書面が必須 先に確認すること 戸籍・放棄申述の有無 書面の実在/極度額の記載/署名の真正 時効との関係——死亡では時効は止まらない 相続人の調査には時間がかかります。戸籍の収集だけで1〜2か月、代襲が絡めばさらに延びます。その間も、消滅時効は進行しています。 民法166条1項(債権等の消滅時効) 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。 患者さんの死亡によって時効の進行が止まることはありません。院内で「亡くなられたので、落ち着いてから」と置いている間に、時効期間が経過することがあります。 医療費の時効については、いつ診療したかによって適用される規定が変わります(改正民法の5年と、改正前の3年の切り分け)。この切り分けと院内在庫の棚卸しの方法は医療費(診療費・入院費)の消滅時効は何年か|3年と5年の切り分けと病院が今すぐやるべき未収金の棚卸しで整理していますので、そちらをご覧ください。 残り期間から逆算して動く 死亡後の案件では、次の順番で時間を見積もります。 診療(請求)の時期から、時効の残り期間を確認する 相続人調査に要する期間を見込む(戸籍収集で1〜2か月、代襲・数次相続があればさらに) 放棄の熟慮期間(915条1項)が動いている可能性を織り込む 残り期間が短いなら、調査と並行して時効への手当てを検討する 4の手当てとしてどの方法を選ぶかは、相続人が確定しているか、金額はいくらか、相手方の対応はどうか、によって変わります。「調査が終わってから考える」では間に合わないことがある、という点だけ院内で共有しておいてください。 時効の残り期間から、逆算しませんか 患者死亡後の未収金は、調査に時間がかかるぶん時効との距離が近くなります。棚卸しの段階からご相談いただければ、順番の設計ができます。大阪から、顧問先142社の企業法務に対応しています。 医療費・未収金回収の継続受託を見る 外部法務部サービスを見る 06-4965-9590(企業法務窓口)LINEで相談する 回収可能性の見立てと、手続の選び方 「追うべき案件」と「追わない案件」を先に分ける 患者死亡後の未収金は、次の3つの要素で回収可能性が大きく変わります。 相続人の人数——多いほど1人あたりの額が小さくなる(前掲の表) 相続財産の有無——不動産や預貯金が確認できるか。まったく無いなら、判決を得ても回収できない 使える書面——有効な保証書があるか。あれば請求先が1本化でき、回収の見通しが立ちやすい この3つを院内の基準として文書化し、「この条件に当てはまるものは請求を続けない」と決裁で決める。これが在庫を減らす最短の道です。判断を担当者に委ねると、誰も落とせないまま滞留します。 請求を続ける場合の手続の選択 任意の支払いが得られない場合、支払督促・少額訴訟・通常訴訟のいずれを使うかは、金額と相手方の対応で決まります。相続人が複数いる場合は、それぞれの相続分に応じた額が請求額になるため、1人あたりの額が少額訴訟の枠に収まることが多いのが、この類型の特徴です。金額別の使い分けは医療費の未収金はどの手続で回収する?支払督促・少額訴訟・通常訴訟の使い分けを金額別に解説で扱っています。 ご遺族から分割での支払いを申し出られた場合は、合意書の作り方に注意点があります。期限の利益、遅延損害金、連帯保証の扱いは分割払いの合意書を作るときの注意点|期限の利益・連帯保証・遅延損害金をご覧ください。書面で請求する場合の文面設計は売掛金の内容証明郵便の書き方|回収率を上げる5つのポイントと文例も参考になります。 「請求しない」と決めるときも、記録を残す 回収を断念する判断そのものは、経営判断として正当です。ただし、誰が・いつ・どの基準で決めたかを残しておくこと。これがないと、監査や会計処理の場面で説明ができません。決裁記録は、担当者を守る書類でもあります。 院内で先に整えておく3つのこと 最後に、死亡退院が起きる前の段階で整えておけることを挙げます。未収金は、発生してから追うより、発生させない設計のほうが安くつきます。 入院申込書の記載事項を見直す——本籍、続柄、緊急連絡先を複数、支払義務者の氏名と住所。ここが空欄のまま運用されていると、死亡後の調査が振り出しからになります 身元保証書の書式を点検する——保証の条項と身元引受の条項が分かれているか、極度額の記載があるか。改正前の書式のまま運用されている医療機関は少なくありません 高額療養費・限度額適用認定証の案内を入口に置く——そもそもの自己負担額を抑えることが、未収金を発生させない最も確実な方法です なお、未払いがあることを理由に診療を断れるかという論点は、応招義務との関係で別途整理が必要です。未収金があると診療を断れる?応招義務と医療費不払いの判断枠組みをご覧ください。 院内書式の点検から、ご相談いただけます 「うちの入院申込書と保証書は今のままでよいか」を確かめるところから始められます。弁護士法人ブライトは、法務部がない会社の外部法務部として、大阪から医療機関の企業法務をお預かりしています。企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが対応します。 医療費・未収金回収の継続受託を見る 外部法務部サービスを見る 06-4965-9590(企業法務窓口)LINEで相談する よくあるご質問 患者さんが亡くなった直後に、ご遺族へ未収金の請求をしてもよいのでしょうか。 法律上、請求すること自体が禁じられているわけではありません。医療費の支払債務は相続の対象となり(民法896条)、相続人が相続分に応じて承継します(899条)。ただし実務上は、葬儀等が落ち着くまでの時間を置いたうえで、金額の内訳と根拠を示した書面でご案内するのが一般的です。時効との距離が近い案件では、待つことがそのままリスクになりますので、残り期間を確認したうえで時期を決めてください。 「長男が全部払います」と言われました。その方にまとめて請求してよいですか。 任意にお支払いいただくことは可能ですが、法的に請求できるのは各相続人の相続分に対応する額です。金銭債務は相続分に応じて当然に分割されるためです(民法899条・427条)。全額を1人に請求できる形にしたい場合は、その方との間で別途、債務引受や連帯保証などの書面を交わす方法が考えられます。ただし、その書面の作り方によっては相続の場面で別の問題が生じることがあるため、事前にご確認ください。 相続人が全員、相続放棄をしました。もう回収はできませんか。 相続人が全員放棄すると、相続人のあることが明らかでない状態になり、相続財産は法人となります(民法951条)。家庭裁判所に相続財産の清算人の選任を申し立て(952条1項)、公告された期間内に請求の申出をすることで、相続財産の範囲で配当を受ける道はあります。ただし申立てには予納金が必要で、相続財産の内容によっては回収見込額を上回ります。有効な身元保証書があれば保証人への請求は別に残りますので、そちらを先に確認することをおすすめします。 ご遺族から「故人の口座から払えばいいですか」と聞かれました。どう答えるべきですか。 医療機関から支払方法を指定しないことをおすすめします。被相続人の預金を引き出して支払いに充てる行為は、相続財産の処分にあたるとして法定単純承認とみなされる可能性があり(民法921条1号)、ご遺族が相続放棄をできなくなるおそれがあるためです。請求書や案内文にも「相続財産から」「故人の預金から」といった表現は入れず、支払方法はご遺族側の判断に委ねる形にしておくと、後の紛争を避けられます。 大阪の病院です。相続人の調査から回収まで、まとめて相談できますか。 ご相談いただけます。弁護士法人ブライトは大阪を拠点に、医療機関の未収金について、相続人の調査、放棄申述の有無の照会、保証書の読み分け、回収手続の選択、定期報告までを継続的にお預かりする形をご用意しています。件数・債権額・依頼範囲によって進め方が変わりますので、まずは院内に滞留している未収金の状況をお聞かせください。企業法務窓口:06-4965-9590(平日9:00〜18:00) 滞留している1件から、お持ちください 「宛名が決まらない」が何件あるかを数えるところから始められます。大阪から、医療機関の未収金の整理と回収をお預かりします。 医療費・未収金回収の継続受託を見る 外部法務部サービスを見る 06-4965-9590(企業法務窓口)LINEで相談する この記事と併せて読まれている記事 医療費・未収金回収の継続受託|病院・医療法人向け 医療費(診療費・入院費)の消滅時効は何年か|3年と5年の切り分けと病院が今すぐやるべき未収金の棚卸し 入院の身元保証人に医療費を請求できるか|極度額のない身元保証書が無効になる理由と院内書式の総点検 医療費の未収金はどの手続で回収する?支払督促・少額訴訟・通常訴訟の使い分けを金額別に解説 医療機関の督促状・内容証明の書き方|そのまま使える文例3種と書いてはいけないこと 未収金があると診療を断れる?応招義務と医療費不払いの判断枠組み 分割払いの合意書を作るときの注意点|期限の利益・連帯保証・遅延損害金 売掛金の内容証明郵便の書き方|回収率を上げる5つのポイントと文例 企業法務トップ 患者死亡後の未収金の整理、相続人の調査、院内書式の見直しについて継続的に相談できる弁護士をお探しの医療機関は、弁護士法人ブライトにお問い合わせください。大阪を拠点に、顧問先142社の企業法務を担っており、企業法務部の弁護士歴平均14年以上の弁護士が対応します。企業法務窓口:06-4965-9590(平日9:00〜18:00) 法務部がない会社の、外部法務部。 顧問より一歩、会社の中へ——これが弁護士法人ブライトの顧問サービス(みんなの法務部プラン)の基本姿勢です。社内に法務部を置けない規模でも、広告表示・契約書・労務・債権回収まで日常的に相談できる体制を。企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームで、142社の顧問先と向き合っています。 ▶ 外部法務部サービスを詳しく見る 【参照した一次資料】民法(明治29年法律第89号)166条1項・427条・446条・465条の2第2項・887条・889条・890条・896条・899条・900条・915条1項・921条・922条・938条・939条・951条・952条1項・957条1項/戸籍法(昭和22年法律第224号)10条の2第1項・第3項。条文はe-Gov法令検索の原文で確認しています(2026年9月20日時点)。本記事では、個別の裁判例について裁判所名・判決年月日を特定した記述は行っていません。 関連記事 未収金の回収を弁護士に継続で任せるとどうなるか|費用の考え方・院内の手間・任せたあとの進み方【病院・クリニック向け】