監修:和氣 良浩(わけ よしひろ) 弁護士法人ブライト|代表弁護士|大阪弁護士会 大阪で20年以上、中小企業の企業法務・顧問弁護士サービスを提供。顧問先130社以上に透明性の高いリーガルサポートを実践している。 「監査役と監査等委員会、どちらを選べばいいのか」——会社の機関設計を見直す際に、多くの経営者や法務担当者が直面する問いです。2015年の会社法改正で「監査等委員会設置会社」が新設されて以来、上場企業を中心に急速に普及し、2023年時点で東証上場企業の約6割がこの制度に移行しています。 本記事では、監査役設置会社・監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社の3モデルを徹底比較し、それぞれの特徴・メリット・デメリット、そして移行手続きの実務を弁護士が解説します。 目次 Toggle 会社の機関設計|3つのモデルの全体像 監査役設置会社の仕組み 監査役の権限・職務(会社法381条) 監査役会(390条) 監査役の任期 監査役の独立性確保 監査等委員会設置会社の仕組み 監査等委員とは何か 任期と選任手続き 取締役会への委任拡大(399条の13) 報酬の特則(361条3項) 3モデル徹底比較表 監査等委員会設置会社へ移行するメリット・デメリット メリット デメリット・注意点 監査等委員会設置会社への移行手続き 指名委員会等設置会社の概要 弁護士に相談すべきケース よくある質問(FAQ) 監修者 機関設計の見直しをお考えの企業様へ 監査役設置会社から監査等委員会設置会社への移行・機関設計の最適化は、弁護士法人ブライトの企業法務チームにご相談ください。顧問先130社以上・弁護士歴14年以上のチームが対応します。 ご相談はこちら LINEで相談 会社の機関設計|3つのモデルの全体像 会社法は、取締役の職務執行を監督・監査する仕組みとして3種類の機関設計を認めています。どのモデルを選ぶかによって、取締役の権限・任期・社外取締役の要件・経営の機動性が大きく変わります。 モデル 監査機関 設置義務 社外取締役 主な採用先 監査役設置会社 監査役(会) 公開大会社は監査役会が必須 監査役会設置会社は社外監査役3分の1以上(335条3項) 非上場中小企業・一部上場企業 監査等委員会設置会社 取締役会内の監査等委員会 任意設置(上場は事実上必須に) 監査等委員の過半数が社外取締役(331条6項) 上場企業の約6割(2023年) 指名委員会等設置会社 監査委員会(+指名・報酬委員会) 任意設置 各委員会の過半数が社外取締役(400条3項) 大手・グローバル上場企業 監査役設置会社の仕組み 監査役の権限・職務(会社法381条) 監査役は、取締役の職務執行を監査することを職務とします(会社法381条1項)。その権限は広範で、業務監査(取締役の行為が法令・定款に違反していないかの確認)と会計監査(計算書類の適正性確認)の両方を担います。 監査役の主な権限は以下のとおりです。 調査権:いつでも取締役・支配人・使用人に対して事業の報告を求め、業務・財産の状況を調査できる(381条2項) 取締役会への出席・意見陳述権:取締役会に出席し必要に応じて意見を陳述できる(383条1項) 取締役の違法行為差止請求権:取締役が法令・定款違反の行為をするおそれがある場合、その行為の差止めを請求できる(385条1項) 代表訴訟対応権:株主代表訴訟提起の通知受領・会社の訴訟参加に関与する(386条) 監査役会(390条) 公開会社かつ大会社(資本金5億円以上または負債200億円以上)で監査役設置会社の場合、3人以上の監査役で構成される監査役会の設置が義務づけられます(会社法328条1項)。監査役会設置会社では、監査役の半数以上が社外監査役でなければなりません(335条3項)。 監査役の任期 監査役の任期は4年です(会社法336条1項)。定款によって短縮することも可能です(336条1項ただし書)が、実務上は多くの会社が4年間を維持しており、これは監査役の独立性を重視しているためです。 なお、非公開会社では定款の定めにより監査役の任期を最長10年まで延長できます(336条2項)。 監査役の独立性確保 監査役は、当該会社または子会社の取締役・支配人・使用人等を兼任することができません(会社法335条2項)。これは、監査する側と監査される側の分離を徹底するための規定です。また、監査役の選任・解任・辞任については、監査役(会)の同意・意見陳述権が保障されています(343条・345条)。 監査等委員会設置会社の仕組み 監査等委員とは何か 監査等委員会設置会社の最大の特徴は、監査機能を担う者が「監査役(役員)」ではなく「取締役(監査等委員)」である点です。監査等委員も取締役であるため、取締役会の議決権を持ちます。 監査等委員会は3人以上の監査等委員(取締役)で構成し、その過半数が社外取締役でなければなりません(会社法331条6項)。 任期と選任手続き 監査等委員である取締役の任期は2年です(会社法332条4項)。定款によって短縮することも可能ですが(332条4項ただし書)、実務上は独立性確保の観点から2年を維持する会社がほとんどです。一方、監査等委員以外の取締役の任期は1年(上場企業の標準)で、定款の定めにより短縮可能です。 また、監査等委員の選任は、他の取締役の選任議案とは分けて株主総会に提出しなければなりません(329条2項)。これにより、株主は監査等委員の選任についてより直接的な関与が可能になります。 取締役会への委任拡大(399条の13) 監査等委員会設置会社の大きなメリットが、定款の定めにより取締役会の権限を代表取締役等に大幅に委任できる点です(会社法399条の13第5項・6項)。 通常の監査役設置会社では、「重要な業務執行の決定」は取締役会で行わなければならず(362条4項)、委任できる範囲が限定されます。しかし監査等委員会設置会社では、取締役の過半数が社外取締役であるかまたは監査等委員会の同意がある場合、重要な業務執行の決定のうち相当多くの事項を代表取締役等に委任することができます。これにより経営の機動性が大幅に向上します。 報酬の特則(361条3項) 監査等委員である取締役の報酬は、他の取締役の報酬とは区別して定款または株主総会の決議で定めなければなりません(会社法361条3項)。これにより、監査等委員が業務執行取締役から報酬面で独立した立場を確保できます。 役員報酬の決議手続きの詳細については、役員報酬の決議|株主総会の手続きと取締役会への委任も参照してください。 3モデル徹底比較表 機関設計の選択でお悩みですか? 「どのモデルが自社に合うか」は会社の規模・上場有無・ガバナンス方針によって異なります。弁護士法人ブライトが貴社の状況に合わせた最適な機関設計をアドバイスします。 ご相談はこちら LINEで相談 比較項目 監査役設置会社 監査等委員会設置会社 指名委員会等設置会社 監査機関 監査役(取締役会外) 監査等委員会(取締役会内) 監査委員会(取締役会内) 監査役・委員の取締役会議決権 なし あり あり 社外役員の最低要件 監査役会設置会社:社外監査役3分の1以上(335条3項) 監査等委員の過半数が社外取締役(331条6項) 各委員会の過半数が社外取締役(400条3項) 監査機関の任期 4年(定款で短縮可・延長は非公開会社のみ最長10年) 2年(定款で短縮可) 1年(取締役として) 業務執行への委任拡大 限定的(362条4項) 定款の定めで大幅委任可(399条の13) 執行役に大幅委任(416条4項) 業務執行機関 代表取締役 代表取締役 執行役(取締役と分離) 報酬決定 株主総会決議(361条) 株主総会決議(監査等委員は別途:361条3項) 報酬委員会が決定(409条) 設置コスト 低〜中 中(移行時に定款変更・登記費用) 高(3委員会+執行役設置) 典型的な採用先 非上場中小企業・一部上場 上場企業の約6割(2023年) 大手・グローバル企業(トヨタ等) 監査等委員会設置会社へ移行するメリット・デメリット メリット 経営の機動性向上:重要事項の大幅委任(399条の13)により、取締役会の開催頻度を下げて迅速な意思決定が可能になる 監査機能の実効性向上:監査等委員(取締役)が取締役会で議決権を行使でき、監査役より強い関与が可能 コーポレートガバナンス・コード対応:東証のCGコードが求める社外取締役の実質的関与を制度的に満たしやすい 社外取締役の兼任規制緩和:監査等委員である社外取締役は、他社の社外役員を兼任しやすい(規制が監査役より緩和されている) デメリット・注意点 移行コストがかかる:定款変更(株主総会特別決議)・変更登記・監査等委員の新規選任が必要(後述) 社外取締役の確保が必要:監査等委員の過半数が社外取締役でなければならず、適任者の探索コストがかかる 監査役の任期満了まで移行できない:既存の監査役が在任中は原則移行できず(監査役の同意が必要)、任期4年がネックになるケースがある 委任拡大には条件がある:399条の13の委任拡大の要件(取締役の過半数が社外取締役または監査等委員会の同意)を満たせない場合、委任のメリットが限定される 監査等委員会設置会社への移行をご検討の方 移行メリット・デメリットの整理から定款変更議案の設計まで、弁護士法人ブライトが一気通貫でサポートします。まずはお気軽にご相談ください。 ご相談はこちら LINEで相談 監査等委員会設置会社への移行手続き 監査役設置会社から監査等委員会設置会社へ移行するには、以下の手順を踏みます。 取締役会での検討・承認:機関設計変更の方針を取締役会で決定し、監査役に説明(移行には監査役の同意は不要だが、実務上は事前説明が望ましい) 定款変更議案の準備:①監査役設置会社の規定削除 ②監査等委員会設置会社の旨の追記 ③監査等委員の任期・報酬・選任に関する規定の追加 株主総会での特別決議:定款変更は特別決議(309条2項11号)が必要。同時に、新たな取締役(監査等委員)の選任も行う 変更登記:定款変更・取締役変更の登記を本店所在地の法務局に申請(2週間以内:915条1項) 監査役の退任処理:移行と同時に既存の監査役は退任。退任した監査役の変更登記も行う 定款変更の手続き一般については、定款変更の手続き|株主総会特別決議・登記要否・典型例を弁護士解説も参照してください。 株主総会の議事録作成については、株主総会議事録のテンプレート|会社法318条準拠の6パターンも合わせてご確認ください。 指名委員会等設置会社の概要 指名委員会等設置会社は、指名委員会・報酬委員会・監査委員会の3委員会と執行役を設置するモデルです(会社法400条〜)。各委員会の過半数は社外取締役で構成しなければなりません(400条3項)。 このモデルでは取締役会は経営監督に特化し、業務執行は執行役が担います。報酬委員会が役員報酬を決定するため(409条)、株主総会への報酬議案提出は不要です。 日本では導入企業が限定的で(2023年時点で上場企業の約80社)、主にグローバル展開する大手企業(ソニーグループ・日立製作所等)が採用しています。中小企業や非上場企業が選択するケースはほぼありません。 弁護士に相談すべきケース 以下のような状況では、企業法務弁護士への相談をお勧めします。 上場を検討しており、機関設計の整備が必要:東証の上場審査では取締役会・監査体制の適切性が審査されます コーポレートガバナンス・コードへの対応を進めたい:独立社外取締役の比率・監査体制の見直しが求められるケースがあります 監査役と経営陣の間でコンフリクトが発生している:監査役の権限行使・差止請求等をめぐる紛争は法的整理が必要です 監査等委員会設置会社への移行を検討している:定款変更議案の設計・適切な委任範囲の設定・登記申請まで一括して弁護士に依頼するのが効率的です 子会社・グループ会社の監査体制を整備したい:グループ全体のガバナンス設計には会社法・金商法・会社法施行規則の横断的な知識が必要です 取締役会の運営・書面決議については、取締役会の開催・運営・書面決議を弁護士が解説もご覧ください。 機関設計・ガバナンス整備は弁護士法人ブライトへ 監査等委員会設置会社への移行・コーポレートガバナンス強化・上場準備の法的整備を、顧問先130社以上の企業法務チームがワンストップでサポートします。 ご相談はこちら LINEで相談 よくある質問(FAQ) 非上場の中小企業は監査役と監査等委員会のどちらが適切ですか? 非上場の中小企業(特に非公開会社)の場合、監査役設置会社のほうが一般的です。監査等委員会設置会社は社外取締役を過半数確保する必要があり、外部人材のコストが発生します。また上場会社のコーポレートガバナンス・コードの影響を受けない非上場企業では、委任拡大のメリットが限定的です。規模・資本構成・将来的な上場計画などを踏まえて選択することが重要で、弁護士・税理士への相談をお勧めします。 監査等委員会設置会社に移行すると既存の監査役はどうなりますか? 移行と同時に既存の監査役は退任します(会社法327条の2の機関設計上、両者は両立しません)。監査役の任期(4年)が満了していない場合でも移行と同時に退任となりますが、この場合は「任期満了以外の理由による退任」となるため、退任した監査役から損害賠償を請求されるリスクは基本的にありません(監査役の退任は定款変更という法令上の手続きによるものであるため)。ただし、移行前に監査役への十分な説明・協議を行うことが紛争予防の観点から重要です。 監査等委員会設置会社への移行コストはどのくらいかかりますか? 主なコストは①定款変更・登記費用(登録免許税:変更登記1件3万円程度)、②弁護士・司法書士報酬(議案設計・登記申請:20〜50万円程度が目安)、③社外取締役の選任・報酬(人件費・紹介費用)の3つです。上場企業の場合はこれに加えて開示書類(有価証券報告書・コーポレート・ガバナンス報告書)の改訂コストも発生します。全体として数十万〜数百万円程度の移行コストを見込む必要があります。 監査等委員会設置会社でも会計監査人は必要ですか? 監査等委員会設置会社は、会計監査人の設置が義務づけられています(会社法327条5項)。これは監査等委員会設置会社の制度的特徴の一つで、財務諸表の適正性について公認会計士・監査法人による外部監査が確保されます。逆に言えば、会計監査人を選任していない会社は監査等委員会設置会社を選択できません。指名委員会等設置会社も同様に会計監査人の設置が必須です(327条5項)。 監査等委員と監査役は兼任できますか? 兼任できません。監査等委員会設置会社と監査役設置会社は相互に排他的な制度であり(会社法327条1項1号・4号)、一つの会社が両方の機関を設置することはできません。したがって、「監査等委員」と「監査役」を同一の会社内で兼任する人物も存在しえません。なお、子会社と親会社のような別法人であれば、子会社の監査等委員が親会社の監査役を兼任することは禁止されていませんが、利益相反の問題がないか慎重に検討する必要があります。 機関設計・コーポレートガバナンスの法的整備 監査役・監査等委員会の選択から移行手続き・定款変更まで、弁護士法人ブライトの企業法務チームが一貫してサポートします。 無料相談はこちら LINEで相談 ⚖️ 会社法・取締役の義務と責任に関する判例・法的根拠 会社法423条1項(取締役の任務懈怠責任):取締役が善管注意義務・忠実義務に違反して会社に損害を与えた場合、損害賠償責任を負う 会社法339条1項・2項(役員解任と損害賠償):取締役はいつでも株主総会決議で解任できる。正当理由なき解任は損害賠償請求の対象 会社法854条(役員解任の訴え):不正行為・法令定款違反がある取締役を、少数株主でも裁判所に解任請求できる(6ヶ月保有要件あり) 根拠条文:会社法423条・339条・854条・330条(善管注意義務) 監修者 本記事は、以下の弁護士が監修しています。 和氣 良浩(わけ よしひろ) 弁護士法人ブライト 代表弁護士大阪弁護士会所属企業法務・顧問弁護士業務を中心に、会社法・労働法・不動産など幅広い分野を取り扱う。顧問先130社以上の実績を持ち、「みんなの法務部」をコンセプトとした予防法務を推進している。