監修:和氣 良浩(わけ よしひろ) 弁護士法人ブライト|代表弁護士|大阪弁護士会 大阪で20年以上、中小企業の企業法務・顧問弁護士サービスを提供。顧問先130社以上に透明性の高いリーガルサポートを実践している。 「退職予定の社員が、顧客名簿を大量にダウンロードしていたようだ」「独立した元社員が、うちの取引先に同じような営業をかけている」——大阪の中小企業から多く寄せられる相談として、こうした営業秘密・顧客データの持ち出し疑惑への対応があります。 結論から言うと、発覚直後の初動を誤ると、法的措置がほぼ取れなくなります。証拠が改ざん・消去される前に何をすべきか、そもそも自社の顧客データが法律上の「営業秘密」として保護されるのか、差止め・損害賠償・刑事告訴をどう使い分けるのかを、弁護士法人ブライトが実務上よく問題になる点として解説します。 情報漏えいが疑われたら、証拠が消える前にご相談を 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずは無料でご相談ください。 顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る 無料で相談する お電話でのご相談:0120-929-739 営業秘密・顧客データの持ち出しが疑われたら、まずやるべきこと 持ち出しの疑いが浮上した段階で優先すべきは、次の3つです。 ①情報が実際に抜き取られていないかを確認する(アクセスログ・ダウンロード履歴の確認) ②情報が抜き取られていることを確認できたら、当該アカウント・共有フォルダへのアクセスを遮断する ③取引先への影響が見込まれる場合は、事情を説明し、競合他社との取引開始を待ってもらうよう依頼する この3ステップは、実務上、集団退職や取引先の引き抜きが絡む深刻なケースほど重要になります。特に、退職予定者が主要な顧客担当者を兼ねている場合、初動が半日遅れるだけで顧客が競合に流出してしまうことも珍しくありません。まずは社内で「誰が・いつ・どの情報にアクセスしたか」を静かに調査し、証拠を固めた上で、損害賠償請求や刑事告訴も選択肢に入れて相手に対応を求める、という順序を踏むことが実務上の基本です。 ⚖️ 初動でやってはいけないこと 本人を呼んで問い詰める:証拠隠滅(データ削除・PC初期化)を誘発するリスクがあります 就業規則の根拠なくPC・スマホを無断で調査する:プライバシー侵害と評価される可能性があります 感情的にSNS等で公表する:名誉毀損で逆に訴えられるリスクがあります 不正競争防止法の「営業秘密」3要件|秘密管理性が最大の争点 顧客名簿や技術情報を持ち出されても、それが法律上の「営業秘密」に該当しなければ、不正競争防止法に基づく差止めや損害賠償の請求はできません。同法2条6項は、営業秘密の要件を次の3つと定めています。 要件 内容と実務上のポイント 秘密管理性 アクセス制限(ID・パスワード管理)、「社外秘」等の表示、就業規則・情報管理規程での明記など、客観的に秘密として管理されている状態が必要。実務上、最も争われやすい要件 有用性 事業活動に有用な技術上・営業上の情報であること(顧客名簿・仕入先リスト・原価情報・製造ノウハウ等) 非公知性 一般に知られていない情報であること。展示会やホームページで公開している情報は原則として該当しない 実務でつまずきやすいのは秘密管理性です。「社内では当然の秘密情報」と考えていても、誰でも閲覧できる共有フォルダに置かれ、パスワードもかかっていない状態では、裁判上「秘密として管理されていた」とは認められにくくなります。顧客名簿を営業秘密として保護したいのであれば、平時からアクセス権限の設定・持ち出し禁止の明記・定期的なアクセスログの取得を整えておくことが不可欠です。3要件のいずれかを欠く場合でも、就業規則の秘密保持義務違反や、雇用契約上の誠実義務違反を理由とした損害賠償請求は別途検討できます。 退職前後に起きやすい典型パターン 大阪の中小企業から寄せられる相談の傾向として、営業秘密・顧客データの持ち出しには一定のパターンがあります。 パターン①:転職直前の大量ダウンロード・私物USBへのコピー 転職・独立が決まった社員が、退職の意思表示をする直前〜直後の短期間に、通常の業務量では説明のつかない量のファイルをダウンロード、あるいは私物のUSBメモリに複製するケースです。顧客名簿・見積データ・単価表などがまとめて持ち出される傾向があります。 パターン②:個人メール・クラウドストレージへの転送 会社のメールアドレスから私用メールアドレスへ業務資料を転送する、あるいは会社契約のクラウドストレージから個人のクラウドアカウントへファイルを移す方法です。社外への持ち出しでありながら、社内の目に触れにくいという特徴があります。 パターン③:役員・幹部社員による集団退職・事業乗っ取り型 子会社や事業部門の代表者クラスが、主要な従業員をまとめて引き連れて競合他社へ転職・独立を計画するケースです。顧客情報や営業秘密の持ち出しに加え、取引先への引き抜き工作を伴うことがあり、事業の存続自体に関わる緊急性の高い問題に発展します。この場合、①情報流出の有無の確認、②アクセス遮断、③取引先への説明と競合他社との取引開始の留保依頼、という初動対応を速やかに行った上で、損害賠償請求や刑事告訴も視野に入れて相手方に翻意を促す交渉を行うのが実務上の対応です。 パターン④:退職後の競業行為・秘密情報の横流し 退職後にしばらく時間が経ってから、元従業員が独立して同業を始め、在職中に得た顧客情報を使って営業をかけていることが判明するパターンです。就業規則や誓約書に競業避止義務・秘密保持義務が明記されているかどうかで、対応の選択肢が大きく変わります。 「自社に当てはまるかも」と思ったら、まずは状況の整理から 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずは無料でご相談ください。 顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る 無料で相談する デジタル証拠の保全方法|改ざん前に確保すべきログ・USB・クラウド 営業秘密の持ち出しは、証拠が電子データであるがゆえに短時間で消去・改ざんされるリスクが最大の弱点です。発覚したら、以下の証拠を優先的に保全します。 ファイルサーバー・共有フォルダのアクセスログ:誰が、いつ、どのファイルにアクセス・ダウンロードしたかの記録 USBデバイスの接続履歴:社用PCに外部記憶媒体が接続された日時・容量の記録(Windowsのイベントログ等) メール送受信履歴:私用アドレスへの転送、添付ファイルの送信記録 クラウドストレージの共有・アクセス履歴:外部アカウントとの共有設定やダウンロード履歴 社用PC・スマートフォンの端末そのもの:初期化・廃棄をさせず、そのまま保管する ここで実務上重要なのは、証拠を確保するタイミングと方法です。管理者権限でログをバックアップする際は、改ざんを疑われないよう取得日時を記録し、可能であればタイムスタンプ付きで保存します。損害額や持ち出し範囲が大きい、あるいは相手が争う姿勢を見せている場合は、フォレンジック調査(デジタル鑑識)の専門業者と連携し、法的に証拠能力を持つ形で保全することも検討します。就業規則や誓約書に「会社は業務用端末を調査できる」旨のモニタリング条項を平時から定めておくと、調査の適法性を主張しやすくなります。 差止め・損害賠償・刑事告訴|法的措置の使い分け 証拠が揃った段階で、どの法的措置を取るかを判断します。不正競争防止法上、主に3つの手段があります。 ①差止請求(不正競争防止法3条) 営業秘密を使った営業活動や、情報の使用・開示を止めさせる請求です。緊急性が高い場合は、訴訟に先立って仮処分(保全処分)を申し立て、迅速に使用差止めの命令を得ることが可能です。取引先への被害が継続している集団退職型のケースなどでは、この差止め手続きの活用が有効な場面があります。 ②損害賠償請求(不正競争防止法4条) 営業秘密の不正取得・使用によって生じた損害の賠償を求めます。損害額の算定が難しいという実務上の壁がありますが、同法5条には損害額の推定規定が置かれており、相手が得た利益額を自社の損害額と推定できる場合があります。就業規則の秘密保持義務違反・雇用契約上の誠実義務違反を理由とする損害賠償請求と併せて主張することも一般的です。 ③刑事告訴(不正競争防止法21条・営業秘密侵害罪) 不正の利益を得る目的または保有者に損害を与える目的で営業秘密を取得・使用・開示した場合、刑事罰の対象になります。悪質性が高い、金額が大きい、示談交渉に応じない、といったケースでは刑事告訴も選択肢に入ります。刑事手続きで収集・認定された証拠は、民事の損害賠償請求でも活用できるため、民事と刑事を同時並行で進めることも実務上多く行われます。 どの手段を選ぶかは、持ち出された情報の重要性、相手の対応姿勢、事業への影響の大きさによって変わります。まずは内容証明郵便による警告・使用中止の要求から始め、相手の反応を見ながら次の手段に進む、という段階的な対応が一般的です。 持ち出しを防ぐ予防法務|秘密保持誓約書・就業規則の整備 発覚後の対応には限界があります。最も効果が高いのは、平時からの予防法務です。 入社時・在職中の秘密保持誓約書 入社時に秘密保持誓約書を取得するのはもちろん、在職中も定期的に誓約を更新することで、社員の意識づけと法的な裏付けの両方を確保します。誓約書には、保護すべき情報の範囲を具体的に列挙し、退職後も一定期間・一定範囲で秘密保持義務を負うことを明記します。 退職時の誓約書と競業避止義務 退職時には改めて秘密保持と情報返還を確認する誓約書を取得します。競業避止義務を課す場合は、地理的範囲・期間・対象業務を過度に広くしすぎると、職業選択の自由を侵害するとして無効と判断されるリスクがあるため、事業の実態に即した合理的な範囲で設計する必要があります。違約金条項を設ける場合も、金額の妥当性が争点になりやすい点に注意が必要です。 就業規則・情報管理規程の整備 就業規則に秘密保持義務・情報管理のルールを明記し、アクセス権限の設定・「社外秘」表示・持ち出し禁止のルールを社内規程として整えておくことが、不正競争防止法上の「秘密管理性」を満たすための土台になります。取引先との契約書に秘密保持契約(NDA)を組み込むことも、情報漏えいリスクの低減に有効です。 あわせて、横領・着服など社内不正一般に対する内部統制の整備や、情報持ち出しなど不正行為をした社員に対する懲戒解雇の進め方も、あわせて社内ルールとして準備しておくと、いざという時の対応スピードが大きく変わります。 誓約書・就業規則の整備は顧問弁護士にご相談ください 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずは無料でご相談ください。 顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る 無料で相談する 弁護士に相談すべきケースと費用・期間の目安 次のいずれかに当てはまる場合は、早期に弁護士へ相談することをおすすめします。 相談すべきサイン 放置するリスク 退職予定者による通常業務量を超えたダウンロード・データコピーの形跡がある 証拠の散逸、持ち出し範囲の拡大 元従業員が競合を立ち上げ、自社の顧客に営業をかけている 顧客流出の継続、損害額の拡大 役員・幹部クラスが従業員を引き連れて集団退職を計画している 事業運営の麻痺、取引先の喪失 就業規則や誓約書に秘密保持・競業避止の規定がない 法的措置の根拠が弱く、交渉力が下がる 費用の目安(弁護士法人ブライト「みんなの法務部」顧問先の場合): 初動対応(証拠確認・アクセス遮断の助言・警告書作成):顧問契約内で対応可能なケースが多い 内容証明郵便による警告・使用差止めの要求:数万円〜十数万円程度が一般的な水準 仮処分(差止め)の申立て:着手金20〜50万円程度+実費が目安 損害賠償請求・示談交渉:着手金10〜30万円程度+報酬(回収額に応じた割合) 刑事告訴状の作成・提出:別途費用が発生する場合が多い 顧問契約がある場合は、平時の就業規則・誓約書整備から緊急時の初動対応まで一貫してサポートできるため、多くの局面でスポット費用を抑えられます。大阪の弁護士法人ブライト「みんなの法務部」では、営業秘密・顧客データの持ち出し対応を顧問業務の一環として提供しています。 よくある質問 Q. 顧客名簿を持ち出した元従業員に法的措置は取れますか? A. 顧客名簿が不正競争防止法上の「営業秘密」の3要件(秘密管理性・有用性・非公知性)を満たしていれば、差止請求や損害賠償請求の対象になります。要件を満たさない場合でも、就業規則や誓約書の秘密保持義務違反を理由に損害賠償を請求できる場合があります。大阪の弁護士法人ブライトへご相談ください。 Q. 秘密管理性が認められないと、どうなりますか? A. 不正競争防止法上の「営業秘密」として保護されず、同法に基づく差止め・損害賠償請求はできません。ただし、就業規則の秘密保持義務違反や雇用契約上の誠実義務違反を根拠とした民事上の請求は別途検討できます。今後に備え、アクセス制限や情報管理規程の整備を進めることをおすすめします。 Q. 退職者のPC・USBを会社が勝手に調査してもよいですか? A. 社用PC・社用端末であり、就業規則等にモニタリング・調査に関する規定がある場合は、業務上必要な範囲での調査は可能とされています。ただし私物端末や、私生活領域に踏み込む調査はプライバシー侵害のリスクがあるため、調査の前に弁護士へ相談することをおすすめします。 Q. 刑事告訴と民事の損害賠償請求は同時に進められますか? A. 同時進行が可能です。刑事手続きで収集・認定された証拠は、民事の損害賠償請求でも活用できます。大阪の弁護士法人ブライトでは、民事・刑事の両面を同時にサポートしています。 Q. 就業規則に秘密保持規定がない場合、対策は手遅れですか? A. 手遅れではありません。今すぐ就業規則・情報管理規程・秘密保持誓約書を整備することで、今後発生しうる持ち出しへの抑止力と法的根拠を確保できます。顧問先130社以上の実績を持つ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」が、大阪の中小企業の規程整備を継続的にサポートしています。 情報漏えい・営業秘密の持ち出しトラブルは大阪の弁護士法人ブライトへ 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずは無料でご相談ください。 顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る 無料で相談する お電話でのご相談:0120-929-739 関連記事 秘密保持契約(NDA)の作成ポイント 業務上横領の防止策と発覚後の対処法 不正行為をした問題社員の解雇方法 みんなの法務部サービスを見る 本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、特定の事案に対する法律アドバイスではありません。個別の対応については弁護士にご相談ください。 【特集】企業不正対策センター 社員の横領・着服・不正が発覚したときの初動から、回収・刑事告訴・再発防止の制度設計までを体系的にまとめた特集ページです。 企業不正対策の特集ページを見る