監修:和氣 良浩(わけ よしひろ) 弁護士法人ブライト|代表弁護士|大阪弁護士会 大阪で20年以上、中小企業の企業法務・顧問弁護士サービスを提供。顧問先130社以上に透明性の高いリーガルサポートを実践している。 社員の横領が発覚したとき、経営者が最初に迷うのが「警察に告訴すべきか、示談で穏便に済ませるべきか」という判断です。感情的には告訴したい一方で、示談のほうが被害額を確実に回収できるのではないか、という迷いもあるはずです。 結論から言えば、刑事告訴と示談は「どちらか一方」ではなく、被害弁済の状況を見ながら並行して検討するのが実務上の主流です。本記事では、弁護士法人ブライト「みんなの法務部」が大阪の中小企業から数多く受けてきた相談をもとに、刑事告訴・示談それぞれのメリット・デメリット、業務上横領罪の成立要件、示談書に必ず入れるべき条項、そして会社としての判断フローを解説します。 横領社員への対応、告訴か示談か迷ったら 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずは無料でご相談ください。 顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る 無料で相談する 刑事告訴と示談、会社が本当に決めるべきことは何か 横領が発覚した会社の目的は、多くの場合「被害額を回収すること」と「同じことが二度と起きない体制にすること」の2つに集約されます。刑事告訴は加害者を処罰することが目的であり、被害弁済そのものを強制する手続きではありません。逆に示談は被害弁済を最優先にできますが、加害者に対する制裁・見せしめの効果は限定的です。 したがって最初に整理すべきは「刑事告訴か示談か」という二者択一ではなく、回収と抑止のどちらを優先するか、そして両方を同時にどこまで追求できるかという視点です。この視点を持たないまま感情で告訴に踏み切ると、かえって回収の機会を逃すケースが少なくありません。 刑事告訴のメリット・デメリット メリット:見せしめ効果と弁済への強いプレッシャー 刑事告訴の最大の効果は、加害者本人および社内・取引先に対する見せしめ・抑止効果です。「横領は犯罪であり、会社は本気で処罰を求める」という姿勢を示すことで、他の従業員に対する予防効果も期待できます。また、告訴の準備が整っていること自体が、加害者に弁済を急がせる強い交渉材料になります。捜査機関に事情聴取された経験は、加害者にとって大きな心理的プレッシャーとなり、結果として示談交渉がスムーズに進むことがあります。 デメリット:時間・レピュテーション・回収への直接効果は薄い 一方で、刑事告訴には無視できないデメリットもあります。 時間がかかる:警察・検察の捜査には数か月〜1年以上を要することが珍しくなく、その間に加害者の資産が散逸するリスクがあります。 警察は民事事件として扱いたがる傾向がある:会社間・雇用関係のトラブルに起因する横領は「民事で解決してほしい」と告訴状の受理を渋られることがあります。弁護士が証拠を整理した告訴状を持参することで受理される可能性が高まります。 レピュテーションへの影響:取引先・従業員・場合によっては報道を通じて、社内で不正が起きた事実が外部に知られるリスクがあります。中小企業の場合、取引先からの信用に直結するため慎重な判断が必要です。 告訴自体は被害弁済を保証しない:刑事罰(懲役・罰金)と被害弁済(損害賠償)は別の手続きです。加害者が服役しても、それだけでは1円も回収できません。 示談のメリット・デメリット メリット:回収の確実性と秘密保持 示談による解決の最大のメリットは、被害弁済を最優先に、柔軟な条件で早期に合意できる点です。裁判や捜査を経由しないため解決までのスピードが速く、分割払い・連帯保証人の設定・公正証書化など、回収の実効性を高める工夫を柔軟に盛り込めます。また、示談は原則として非公開で進められるため、社外への情報流出を抑えやすく、取引先や従業員への影響を最小限にとどめられる点も、中小企業にとって重要な意味を持ちます。 デメリット:抑止力の弱さと翻意リスク 他方で、示談には次のようなデメリットもあります。 再発防止・見せしめの効果が弱い:処罰を伴わないため、社内に「横領しても穏便に済む」という誤ったメッセージを与えかねません。示談の事実や条件を安易に社内へ開示しないことが重要です。 加害者に資力がない場合、示談自体が絵に描いた餅になる:分割弁済の合意をしても、途中で支払いが止まれば強制執行等の追加対応が必要になります。 合意後の翻意リスク:口頭や簡易な合意書だけでは、後から「脅されて合意させられた」等の主張をされるリスクがあります。公正証書化など法的効力を担保する工夫が不可欠です。 横領社員への対応、告訴か示談か迷ったら 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずは無料でご相談ください。 顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る 無料で相談する 刑事告訴 vs 示談:比較早見表 比較項目 刑事告訴 示談 主目的 加害者の処罰・抑止 被害弁済の確実な回収 解決までの期間 数か月〜1年以上 数週間〜数か月 秘密保持 捜査・裁判を通じて外部に知られる可能性 原則非公開で進められる 被害弁済の実効性 告訴だけでは保証されない 分割計画・公正証書化で実効性を高められる 社内への抑止効果 高い(見せしめ効果) 低い(開示範囲に注意が必要) この表からも分かるとおり、刑事告訴と示談はそれぞれ得意分野が異なります。だからこそ実務では、次に説明する「告訴を選択肢として残しながら示談交渉を進める」というハイブリッドな方針が多く採られています。 業務上横領罪の成立要件と時効 成立要件 横領社員に対する刑事告訴を検討する際、まず確認すべきは刑法253条の業務上横領罪が成立するかどうかです。業務上横領罪の成立には、おおむね以下の要素が必要です。 占有:加害者が業務上、会社の金銭・財物を占有(管理・保管)する立場にあったこと 委託信任関係:会社から金銭・財物の管理を委ねられていたこと 横領行為:その占有物を自己または第三者のために不法に処分・費消したこと 不法領得の意思:所有者でなければできないような処分を、自己のためにする意思を持って行ったこと 単なる経費の使い込みだけでなく、架空発注・水増し請求といった手口も、実質的に会社の財産を不法に領得している以上、業務上横領罪や詐欺罪(刑法246条)が成立しうる点に注意が必要です。 時効に注意する 業務上横領罪の公訴時効は7年です。長期間にわたり発覚しなかった横領事案では、古い部分から時効にかかっている可能性があるため、横領の期間・手口ごとに時系列を整理し、時効にかかっていない部分から優先的に立証していく必要があります。あわせて、民事上の損害賠償請求権についても消滅時効(不法行為に基づく請求権は損害及び加害者を知った時から原則3年、行為の時から20年)との兼ね合いを確認しておくことが重要です。 ⚖️ 横領・示談に関連する主要法令 刑法253条(業務上横領罪):10年以下の懲役。公訴時効は7年 刑法246条(詐欺罪):架空請求・水増し請求を伴う場合に成立しうる 民法709条(不法行為による損害賠償):損害賠償請求の根拠。消滅時効に注意 民法719条(共同不法行為):複数の加害者が関与した場合の連帯責任の根拠 破産法253条1項2号:詐欺・横領による損害賠償債権は非免責債権 「告訴猶予」という実務的な選択肢と、告訴・民事回収の並行対応 告訴状は準備しつつ、弁済状況を見ながら判断する 実務でよく用いられるのが、告訴状の作成・証拠の準備は進めておきながら、実際の提出は加害者の弁済姿勢を見て判断するという「告訴猶予」の方針です。本人が誠実に分割弁済に応じている間は告訴を見送り、支払いが滞った時点で告訴に踏み切るという設計にすることで、加害者に弁済を継続させる強い動機づけになります。弁護士法人ブライトが支援した事案でも、この方針のもとで示談成立・公正証書化までこぎつけ、その後の分割弁済が継続している例があります。 検察官への経緯報告が不起訴・被害弁済優先の判断に影響することがある 刑事事件として立件された場合でも、被害弁済が進んでいる事実や示談の経緯を検察官に適切に報告することで、罰金よりも被害弁済を優先する結果(不起訴処分等)につながることがあります。会社側としては「処罰感情を満たすこと」より「実際に被害額を回収すること」を優先したい場合、この経緯報告のタイミングと内容が極めて重要になります。 複数の加害者がいる場合の戦略的判断 横領・不正が複数の従業員による共謀で行われていた場合、全員を一律に刑事告訴・民事訴訟の対象とするのが必ずしも最善とは限りません。資力が乏しく回収可能性が低い加害者を訴訟の被告から意図的に外し、資力のある加害者から集中的に回収するという戦略が有効な場合があります。この場合も、後日あらためて損害賠償請求を行う余地を残しておくなど、請求権自体を放棄しない設計が必要です。弁護士法人ブライトでは、複数加害者が関与する不正案件で、共同不法行為の責任割合を整理したうえで、加害者ごとに異なる回収戦略(一括弁済・分割弁済・連帯保証人の設定等)を組み合わせて対応した実績があります。 示談書に必ず入れるべき条項 示談による解決を選ぶ場合、示談書(合意書)の内容が回収の実効性を大きく左右します。以下の条項は必ず盛り込むべきです。 返済計画(分割・一括)と公正証書化 返済金額・支払期限・分割回数を明確に定めたうえで、可能な限り公正証書(強制執行認諾文言付き)として作成することを検討してください。公正証書があれば、支払いが滞った際に訴訟を経ずに給与や預金口座への強制執行(差押え)に進むことができます。 清算条項 「本示談書に定めるもののほか、当事者間に債権債務がないことを相互に確認する」という清算条項を入れることで、後日蒸し返しによる紛争を防止できます。ただし、複数の不正行為が疑われる場合や、他の関係者への責任追及を残したい場合は、清算条項の効力が及ぶ範囲(対象となる事実の範囲)を明示し、他の債権や他の加害者への効力が及ばない旨を明記しておく必要があります。 守秘義務条項 示談の事実・金額・経緯について、当事者双方が第三者に開示しない旨の守秘義務条項を設けます。会社側としては取引先・従業員への影響を防ぐため、加害者側としては経歴への影響を避けるため、双方にメリットのある条項です。 連帯保証人・担保の設定 分割弁済とする場合は、可能であれば家族等による連帯保証を求めることも検討します。ただし、連帯保証人となる家族の同意が得られない場合は、無理に求めず一括弁済の条件を優先するなど、柔軟な交渉判断も必要です。 条項 目的 返済計画(金額・期限・分割回数) 回収の見通しを明確化する 強制執行認諾文言付き公正証書化 支払遅滞時に訴訟なしで差押えに移行できる 清算条項(対象範囲の明示) 蒸し返し防止・他の請求権への影響を限定 守秘義務条項 社外・取引先への情報流出を防止 連帯保証人・担保設定(任意) 分割弁済の実効性を高める 示談書の条項設計・公正証書化のご相談は 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずは無料でご相談ください。 顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る 無料で相談する 示談後に支払いが止まった場合の回収手段 公正証書化していれば、支払いが滞った時点で速やかに給与債権や預金口座への強制執行(差押え)に進めます。給与差押えは加害者の勤務先が特定できている場合に有効ですが、転職・退職により空振りに終わることもあります。その場合は、弁護士会の照会制度(弁護士法23条照会)等を活用して預金口座を調査し、次善の回収手段に切り替えるなど、一つの手段が尽きても迅速に次の手段へ移行する姿勢が重要です。公正証書がない場合は、支払督促や通常訴訟を経て債務名義を取得したうえで強制執行に進む必要があり、その分時間がかかります。 弁護士に相談すべきケースと費用・期間の目安 次のような状況に一つでも当てはまる場合は、告訴・示談いずれの方針を取るにせよ、早い段階で弁護士に相談することを強く推奨します。 横領の金額・期間が大きく、加害者が複数関与している疑いがある 加害者が弁済に前向きだが、口約束だけで進めようとしている 警察への相談を検討しているが、告訴状の受理に不安がある 示談交渉の途中で加害者側が弁護士を立ててきた 費用の目安(弁護士法人ブライト「みんなの法務部」顧問先の場合): 示談交渉・示談書作成(公正証書化含む):着手金10〜30万円程度+報酬(回収額の10〜20%)が一般的な水準 告訴状の作成・提出:別途費用が発生する場合が多い(弁護士によって異なる) 強制執行(給与・預金差押え等):数万円〜10数万円程度の実費・手数料が別途必要 顧問契約がある場合:初動の相談・書面チェックは顧問業務の範囲内で対応できるケースが多い 大阪の弁護士法人ブライト「みんなの法務部」では、顧問先130社以上・弁護士歴平均14年以上のチームが、横領発覚時の初動対応から刑事告訴・示談交渉・強制執行までを一貫してサポートしています。 会社の判断フロー:告訴か示談か、どちらを軸にすべきか 最後に、実務上の判断フローを整理します。あくまで一般的な目安であり、最終判断は個別事情を踏まえて弁護士と相談のうえ行ってください。 状況 検討すべき方針 加害者が横領を認め、誠実に弁済に応じる姿勢がある 示談を軸に、公正証書化を条件に交渉。告訴は猶予しつつ準備は進める 加害者が否認・逃亡・証拠隠滅の兆候がある 早期に告訴状の提出も視野に入れ、証拠保全を最優先する 加害者に資力がなく、回収の見込みが極めて低い 再発防止・社内への抑止を重視し、告訴を積極的に検討 複数の加害者が関与している 資力のある加害者から優先的に回収し、責任割合を整理したうえで個別に方針を分ける 取引先・株主への影響を最小限にしたい 秘密保持を重視し、示談を優先。守秘義務条項を必ず盛り込む よくある質問 Q. 示談が成立すれば刑事事件にはなりませんか? A. 示談が成立しても、既に告訴・立件されていれば刑事手続きが自動的に終わるわけではありません。ただし、示談の成立や被害弁済の進捗を検察官に適切に報告することで、不起訴処分や罰金より被害弁済を優先する判断につながることがあります。 Q. 告訴と民事の損害賠償請求は同時に進めてよいですか? A. 同時進行が可能です。刑事手続きで収集・認定された証拠は民事の損害賠償請求でも活用できます。大阪の弁護士法人ブライトでは民事・刑事の両面を並行してサポートしています。 Q. 示談書は自社で作成しても問題ないですか? A. 作成自体は可能ですが、清算条項の範囲設定や公正証書化の手続きなど、専門的な判断が必要な箇所が多くあります。特に複数の加害者が関与する場合や高額案件では、弁護士が関与しないまま作成すると、後日の回収や他の請求権に支障が出るリスクがあります。 Q. 加害者に弁護士がついた場合、会社側も弁護士を立てるべきですか? A. 強く推奨します。加害者側に弁護士がつくと、示談条件や証拠の扱いについて専門的な交渉が行われます。会社側も弁護士を立てることで、清算条項の範囲や連帯保証人の要否など、対等な立場で交渉を進められます。 Q. 大阪の中小企業ですが、こうした案件はどこに相談すればよいですか? A. 大阪の弁護士法人ブライト「みんなの法務部」では、顧問先130社以上・弁護士歴平均14年以上のチームが横領発覚時の初動対応から刑事告訴・示談交渉・強制執行までを一貫して支援しています。まずは無料相談でご状況をお聞かせください。 横領社員への対応、告訴か示談か迷ったら 弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先130社以上を実名公開・弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずは無料でご相談ください。 顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る 無料で相談する 関連記事 従業員の横領・着服が発覚したときの対応 キックバック・リベート受領の不正対応 社内不正調査の進め方 みんなの法務部サービスを見る 本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、特定の事案に対する法律アドバイスではありません。個別の対応については弁護士にご相談ください。 【特集】企業不正対策センター 社員の横領・着服・不正が発覚したときの初動から、回収・刑事告訴・再発防止の制度設計までを体系的にまとめた特集ページです。 企業不正対策の特集ページを見る