「外国人のお客様にパスポートを見せてもらうとき、どこまで記録していいのだろう」——そんな疑問を、フロントの現場担当者がこっそり抱えていることがあります。ところが社長や管理部門に聞いても、「法律で決まってるから確認してね」と言うだけで、具体的な運用ルールがない。現場は「とりあえずコピーしておこう」か「念のためスマホで撮っておこう」で乗り切っている——というのがホテル・旅館業界の実態です。 この「とりあえず」が、実は二重のリスクをはらんでいます。一方では旅館業法が定める本人確認義務をきちんと果たせていない可能性があり、他方では個人情報保護法が禁じる過剰な情報取得に踏み込んでいる可能性がある。どちらのリスクも「知らなかった」では済まされません。 この記事では、パスポートのどの部分を確認すればよいのか、どの部分を記録・コピーしてはいけないのか、そして現場が迷わない運用体制をどう作るかを、法律の趣旨から具体的な手順まで整理します。 旅館業法が求める「パスポート確認」の中身 旅館業法は、外国人宿泊客に対してパスポートの提示を求め、一定の情報を確認する義務を事業者に課しています(旅館業法6条)。具体的に確認が義務付けられているのは、国籍・氏名・生年月日・旅券番号(パスポート番号)の4項目です。 つまり、この4項目が確認できれば、法律が求める義務は果たされます。裏を返せば、それ以上の情報を収集することは、旅館業法の目的の範囲を超えた行為になりえます。 さらに重要な論点が、「原本確認か、写真データでの確認か」という問題です。旅館業法は「提示を求める」と定めており、必ずしも紙のコピーや画像の保存を義務付けていません。画面上で4項目を目視確認する方法でも、法律上の義務は原則として充足されます。この点について実際に顧問先ホテルから相談を受けた際も、「写真データでの確認が許容されるか」という論点に対して、法令の趣旨から整理した回答を提供しています。 見せてはいけない部分・記録してはいけない情報とは何か 【図解】旅館業法が求める「パスポート確認」の中身への対応フロー ① 問題発生 → ② 事実確認・記録 → ③ 顧問弁護士に相談 → ④ 対応策の実行 ※ 弁護士に早期相談することで、リスクを最小化できます。 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) パスポートには、旅館業法で求められる4項目以外にも多くの情報が記載されています。たとえば—— 渡航歴(スタンプ) 査証(ビザ)の種類・有効期限 ICチップに格納された指紋・顔写真などの生体情報 発行年月日・発行官署 機械読取領域(MRZ:下部の英数字2行) これらの情報は、宿泊の可否を判断するために必要な情報ではありません。「見せてはいけない」というより、「確認する必要がない・収集すべきでない」情報と理解するのが正確です。 特に注意が必要なのが、パスポートのコピーをそのまま保存する行為です。コピーや画像保存をすると、義務の範囲外の情報(ビザ情報、渡航歴、MRZなど)も一括して記録・保管してしまいます。これは個人情報保護法が定める「利用目的の範囲内での収集」という原則に反するおそれがあります。 個人情報保護法では、個人情報を収集する際は「利用目的をできる限り特定」したうえで、「目的の達成に必要な範囲を超えて取り扱ってはならない」と定めています(同法17条・18条)。パスポートの全面コピーは、この「必要な範囲」を超える可能性が高いのです。 なぜ「とりあえずコピー」が起きるのか——判断ミスの構造 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) ホテル・旅館の現場でパスポートの全面コピーや丸ごと撮影が行われる背景には、いくつかの構造的な理由があります。 ①「確認義務がある」という認識が、「記録義務がある」と誤解される旅館業法が「確認」を求めているのは事実です。しかし「確認」と「記録・保管」は別物です。この区別が社内で共有されていないと、「念のため証拠として残しておこう」という現場の善意がリスクに変わります。 ②法令を横断して理解している人が現場にいない旅館業法は観光庁・厚生労働省の所管で、個人情報保護法は個人情報保護委員会の所管です。それぞれ別々に「守らなければならないもの」として存在しているため、両方の関係を整理して運用ルールを作れる担当者が社内にいないことが多いのです。 ③「万が一のトラブルのときに備えて」という心理例えば、チェックアウト後に客室の損害が発覚したとき、外国人宿泊客の連絡先を確保したいという気持ちは自然です。しかしその目的のためにパスポートコピーを使用するのは、収集した利用目的の範囲外使用にあたります。 問題が起きる前に整備すべきこと 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) パスポート確認をめぐるトラブルは、ほとんどの場合「ルールがあいまいなまま現場に任されていた」ことが原因です。問題が起きてから規程を作るより、先に体制を整えることが現実的なリスク管理です。 ① 確認する情報を4項目に限定した社内規程を作る国籍・氏名・生年月日・旅券番号の4項目のみを確認・記録する、と明文化します。その他の情報(ビザ情報、渡航歴、MRZなど)は記録しないことをルールとして落とし込みます。 ② 確認方法を「目視確認+宿泊者台帳への転記」に標準化するパスポートのコピーや撮影を原則禁止とし、フロント担当者が目視で確認した4項目を宿泊者台帳(紙またはシステム)に直接入力する運用を標準とします。 ③ 宿泊者台帳の保管・廃棄ルールを定める記録した情報の保管期間と廃棄方法を規程化します。「とりあえず保管」が後々の情報漏洩リスクになります。 ④ フロントスタッフへの定期研修を実施するルールを作っただけでは定着しません。新入社員の入職時と、年1回の定期研修で内容を確認する機会を設けることが重要です。 問題発生時の対応と証拠の残し方 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) もし「過去に収集した情報の扱いが適切だったか疑わしい」「外国人宿泊客から情報の削除を求められた」という状況が生じた場合、どのように対応すればよいでしょうか。 発生直後にすべきこと どの情報をどのような方法で収集・保管していたか、事実関係を社内で確認する 収集した情報が個人情報保護法上の「利用目的」の範囲内であったかを確認する 開示・訂正・削除の請求には、個人情報保護法上の所定の対応フローがあるため、それに従って対応する 行政機関(個人情報保護委員会)への報告が必要かどうかを確認する(漏洩等が生じた場合は報告義務あり) ここで重要なのは、「証拠は紛争になってから急に作れるものではない」という点です。適切な運用をしていたことの証明は、日頃の記録の積み重ねです。確認手順を記した作業マニュアル、研修の実施記録、宿泊者台帳の記載ルールなど、「適法に運用していた」という証跡を平時から残しておくことが、いざというときの防御線になります。 失敗事例の構造——なぜ相談が遅れるのか 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) 顧問先のホテル運営会社から実際に相談を受けてきた経験から見えてくるのは、「問題が起きてから初めて法律を確認した」というパターンの多さです。 あるホテル運営会社では、外国人宿泊客のパスポートをチェックイン時にフロントでスキャン保存していました。担当者は「本人確認のため」と善意でやっていたのですが、スキャンデータにはビザ情報や渡航歴も含まれており、保管目的や廃棄ルールも社内で整備されていませんでした。 この運用が問題化したのは、宿泊客の一人から「なぜパスポートのコピーを保管しているのか」とクレームが入ったときです。対応に追われながら法律を調べると、旅館業法が求める確認事項は4項目のみで、保管義務はないことが判明。しかし「なぜスキャンしていたのか」「誰が承認していたのか」という社内の経緯が記録に残っておらず、対応に苦慮しました。 なぜ相談が遅れたかといえば、「法律に違反しているとは思っていなかった」からです。善意の運用が個人情報保護法の観点からグレーゾーンに踏み込んでいることは、法令を横断的に確認しなければ気づきにくい。顧問弁護士に事前に相談していれば、運用ルールの見直しは比較的小さなコストで済みます。しかし問題が起きてからでは、対外的な対応と社内調査が同時並行になり、消耗します。 うちの会社ではどう考えればいいのか 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) ホテル・旅館を経営している立場で、パスポート確認の問題を「現場の細かい話」と片づけてしまうのは危険です。以下の3つの視点で自社の状況を確認してみてください。 視点①:現場は「何を確認するか」を正確に理解しているかフロントスタッフが、確認すべき4項目(国籍・氏名・生年月日・旅券番号)を把握していますか。「パスポートを見せてもらう」という行為の目的が現場に共有されていますか。 視点②:収集した情報の保管・廃棄ルールは明文化されているか宿泊者台帳をいつまで保管するか、廃棄する際はどのように処理するかが、就業規則や内部規程に書かれていますか。 視点③:外国人宿泊客からの開示・削除請求への対応フローはあるか「自分の情報を見せてほしい」「削除してほしい」という請求が来たとき、現場が対応できる手順書はありますか。個人情報保護法は開示・訂正・削除の請求権を個人に与えており、事業者には応答義務があります。 この3つが整っていれば、日常の運用として安心して外国人宿泊客に対応できます。どれか一つでも「わからない」「できていない」があれば、まず社内ルールの点検から始めることをお勧めします。 再発防止策——現場が迷わない体制づくり 再発防止の核心は、「担当者の知識や善意に頼らない仕組み」を作ることです。 チェックイン手順書の整備:外国人宿泊客対応のフローを1枚にまとめた手順書を作成し、フロントに掲示する 確認事項の限定を明文化:「国籍・氏名・生年月日・旅券番号のみ確認・記録する」と手順書に明記する コピー・撮影の禁止または承認フローの設定:例外的にコピーが必要な場合の承認フローを定める 宿泊者台帳の保管・廃棄規程:保管期間(一般的には3年程度)と廃棄方法を社内規程に落とし込む 定期的な法令アップデートの確認:旅館業法・個人情報保護法は改正が続いているため、年1回は顧問弁護士と規程の見直しを行う 「法律が変わったら教えてくれる人がいる」という環境が、現場の安心感と適切な判断につながります。 パスポート確認のルールは一度整備すれば終わりではありません。旅館業法は感染症対応を契機に改正が重なり、個人情報保護法も2022年の大改正以降、ガイドラインのアップデートが続いています。スポット的に規程を作るだけでなく、「法律が変わったときに社内ルールを自動的に見直せる継続的な体制」があることが、ホテル・旅館経営の実際のリスク管理に直結します。弁護士法人ブライトの顧問契約(みんなの法務部)では、企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが、旅館業法・個人情報保護法・景品表示法など日常業務に直結する法令の変化を継続的にフォローし、現場の相談に即日対応しています。顧問先142社の実名を公開していることも、サービスの透明性の一つです。 よくある質問(Q&A) Q1. 旅館業法上、パスポートのコピーを取ることは義務ですか? A. いいえ。旅館業法が求めるのは「国籍・氏名・生年月日・旅券番号の確認」であり、コピーや画像保存は義務付けられていません。目視確認のうえ宿泊者台帳に転記する方法で義務は充足されます。コピーや撮影は過剰な情報収集として個人情報保護法上のリスクが生じる場合があります。 Q2. スマホで写真を撮って確認する方法は問題ありませんか? A. 撮影自体が直ちに違法というわけではありませんが、撮影した画像には旅館業法の確認義務の対象外の情報(ビザ、渡航歴、MRZなど)も含まれるため、保管・廃棄・利用目的の管理が必要です。目的外利用や不適切な管理は個人情報保護法違反につながる可能性があります。撮影・保管する場合は、社内規程で管理ルールを明文化することが必要です。 Q3. 外国人宿泊客が「コピーしないでほしい」と言ったら従わなければなりませんか? A. 原則として従うべきです。コピーは旅館業法上の義務ではないため、宿泊客の求めに応じてコピーを取らない対応は法律上問題ありません。コピーを拒否されたことを理由に宿泊を断ることは、宿泊拒否の正当理由に該当しない可能性があります。 Q4. 旅館業法の確認義務に違反した場合、どのような処分がありますか? A. 旅館業法上、確認義務違反に対しては行政上の指示・営業停止・許可取消しなどの処分がありえます。ただし、実際の運用では改善指導から始まることが多く、悪質性・継続性・隠蔽の有無などが処分の重さに影響します。問題が指摘された場合は、速やかに是正対応を行い、必要に応じて弁護士と連携して対応することをお勧めします。 当事務所が参考にした実務書 当事務所では本テーマに関する最新の実務書を継続的に確認し、顧問先企業のリスク評価に反映しています。本記事の作成にあたり特に参考にした書籍を以下に紹介します。 『旅館業法の解説と実務』 — 山田茂夫/大成出版社/2019年3月/分類:業種特化型実務書 『Q&A 観光・ホテル・旅館の法律実務』 — 弁護士法人第一法律事務所/民事法研究会/2020年6月/分類:Q&A形式の実務解説書 『個人情報保護法の知識』 — 岡村久道/日経文庫/2022年4月/分類:Q&A形式の実務解説書 『新訂第2版 出入国管理及び難民認定法逐条解説』 — 出入国在留管理庁/日本加除出版/2024年3月/分類:条文逐条解説書 『実務担当者のための個人情報保護のすべて(第2版)』 — 辻井重男監修/佐藤慶浩・眞野浩編著/日本経済新聞出版社/2018年8月/分類:Q&A形式の実務解説書 ※ 書籍内容は引用しておらず、書誌情報のみ表示しています。本記事は弁護士法人ブライトが監修・執筆しています。 この記事の監修者 和氣 良浩(わけ よしひろ) 弁護士法人ブライト|代表弁護士/パートナー弁護士 大阪弁護士会/大阪大学法学部卒 専門:顧問弁護士・企業法務・M&A・経営権紛争・事業再生 パスポート確認ルールの整備・旅館業法対応・個人情報保護の体制構築など、ホテル・旅館経営上の法務課題を継続的に相談できる顧問弁護士をお探しの方は、弁護士法人ブライト「みんなの法務部」にお問い合わせください。顧問先142社の実名を公開しており、企業法務部の弁護士歴平均14年以上の経験豊かな弁護士が対応します。企業法務窓口:06-4965-9590(平日9:00〜18:00) 「みんなの法務部」というブライトの考え方 中小企業の社長に「専属の法務部」を持っていただく——これがブライトの顧問サービスの基本姿勢です。社内に法務部を置けない規模でも、契約書・労務・債権回収・M&Aまで日常的に相談できる体制を、月額固定で。企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームで、142社の顧問先と向き合っています。 ▶ みんなの法務部とは(詳しく見る) 企業法務のご相談は弁護士法人ブライトへ弁護士法人ブライト「みんなの法務部」は大阪の中小企業の外部法務部。顧問先142社を実名公開・企業法務部の弁護士歴平均14年以上のチームが伴走します。まずはお気軽にご相談ください。法務チェックリスト 無料ダウンロード顧問弁護士サービス「みんなの法務部」を見る06-4965-9590(みんなの法務部)LINE相談(無料) 関連記事 パスポートで見せてはいけない部分とは?旅館業の確認実務と情報管理リスクを解説