カスハラ対応の7ステップ|証拠保全・警告・警察連携・法的措置まで企業の手順を解説【弁護士監修】

カスハラ対応の7ステップ|証拠保全・警告・警察連携・法的措置まで企業の手順を解説【弁護士監修】

和氣 良浩

監修:和氣 良浩(わけ よしひろ)

弁護士法人ブライト|代表弁護士|大阪弁護士会

大阪で20年以上、中小企業の企業法務・顧問弁護士サービスを提供。顧問先130社以上に透明性の高いリーガルサポートを実践している。

「クレームか、カスハラか、判断できない」「対応しているうちに担当社員がメンタル不調になった」——大阪の中小企業の経営者・管理職から、カスタマーハラスメント(カスハラ)への対応についての相談が急増しています。

カスハラは放置すると、社員の離職・精神疾患・損害賠償請求まで発展します。2024年の厚生労働省調査では、カスハラを経験した労働者の約76%が「強いストレスを感じた」と回答しており(令和5年度職場のハラスメントに関する実態調査報告書)、企業側の適切な対応が問われています。

この記事では、カスハラが発生した瞬間から法的解決に至るまでの企業の具体的対応手順を、弁護士歴平均14年以上のチームが実務ベースで解説します。

この記事でわかること

  • カスハラと通常クレームの法的な境界線
  • 発生直後にやるべき初動対応(証拠保全・報告経路)
  • 警告書・出入禁止・警察連携の具体的な進め方
  • 社員が被害を受けた場合の企業の法的責任
  • 弁護士関与が必要になるタイミングの見極め方

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カスハラとは何か——通常クレームとの違いと法的位置づけ

カスハラの定義(厚生労働省基準)

厚生労働省が2022年に公表した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」では、カスハラを次のように定義しています。

カスハラの定義(厚生労働省)

  • 顧客等からのクレーム・言動のうち:その要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なもの
  • 具体例:長時間の拘束・繰り返し電話・土下座の強要・SNSでの誹謗中傷・脅迫・暴行
  • 根拠法令:労働施策総合推進法(パワハラ防止法)の対カスハラ適用(2020年施行)・民法709条(不法行為)・刑法上の強要罪・恐喝罪・威力業務妨害罪

通常クレームとカスハラの境界線

判断に悩む現場が多い「クレームかカスハラか」の区別は、「要求内容の正当性」と「手段・態様の相当性」の2軸で評価します。

要求内容 手段・態様 判断
正当(返金・謝罪) 穏当な申し出 通常クレーム → 誠実対応
正当(返金) 怒鳴る・長時間拘束 手段がカスハラ → 適切に制止
不当(過大要求・謝罪強要) 穏当 要求がカスハラ → 要求は断る
不当(脅迫・土下座強要) 怒鳴る・威圧 明確なカスハラ → 即時対応

実務上の判断ポイントは「何度目か」「どれくらいの時間か」「どんな言葉を使っているか」の3点の記録です。1回の強い口調だけでは判断が難しくても、同じ顧客から週3回・1回2時間を超える電話が続いているなら、手段面でカスハラと評価できます。

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カスハラ発生時の初動対応(ステップ1〜3)

ステップ1:その場での対応と即時記録

カスハラが起きた瞬間の対応が、その後の対処の成否を分けます。現場担当者に徹底させるべき初動の3点は次のとおりです。

  • 一人で対応しない:必ず管理職・上司に連絡し複数人で対応する。一人での対応は心理的負担を高め、後の証拠確保も難しくなる
  • その場で記録する:日時・場所・発言内容・対応者名を記録。店舗では防犯カメラの録画確認も忘れずに
  • 要求には即答しない:「確認して折り返します」と伝え、管理職の判断を仰ぐ。その場での謝罪・約束は避ける

顧問先の実務から見えた重要な点として、「怒鳴られると反射的に謝ってしまう」ケースが後のトラブルを引き起こすことがあります。カスハラ行為に対する謝罪は、相手の要求を認めたと受け取られる可能性があるため、謝罪の対象を明確にすることが大切です。

ステップ2:証拠保全の具体的方法

後の法的対応を見据えた証拠保全は、できるだけ早く・できるだけ多く行うことが原則です。

証拠の種類 具体的な方法 注意点
録音 スマートフォンのボイスメモ・ICレコーダー 自分が当事者であれば無断録音でも証拠として使用可能
映像 防犯カメラの映像データを書き出し保存 上書き前に必ずコピーする
書面記録 対応記録シート(日時・発言内容・対応者) その日のうちに作成し管理職が確認・押印
SNS・メール スクリーンショット・PDF保存 URLとタイムスタンプごと保存する
目撃者 他の社員・顧客の証言(簡単なメモで可) 「見ていた人がいる」という記録自体が意味を持つ

電話対応でのカスハラが多い職場(コールセンター・受付など)では、「通話録音システム」の導入が最も有効な証拠保全策です。システム導入前でも、管理職が同席する2回目以降の対応ではスマートフォンでの録音を徹底することを現場に周知してください。

ステップ3:社内エスカレーション経路の確立

現場担当者が「どこに相談すればいいか分からない」まま一人で抱え込むケースが、被害を大きくします。カスハラが起きたときの報告経路を明確にしておくことが重要です。

  • 現場担当者 → 直属管理職(当日中)
  • 管理職 → 人事・総務責任者(重篤なケースは即日)
  • 責任者 → 弁護士・法的対応の判断(要求不当または繰り返しの場合)

エスカレーション経路は、就業規則・カスハラ対応規程に明記しておくことで、担当者が「自分の判断で対応を止めた」という後々のリスクを防ぎます。就業規則への記載方法はカスハラ対策義務化・就業規則整備の全手順を参照してください。

警告・取引停止・出入禁止の進め方(ステップ4〜5)

ステップ4:警告書の送付

口頭での注意が効果を上げない場合、書面による警告が次の手段です。警告書の効果は2点あります。

(1)法的対応の前置き記録になる:訴訟・告訴の段階で「事前に警告した」という証拠になります。裁判例では、警告なしに取引停止・法的措置に移行した場合、企業側の対応が過剰と判断されることがあります。

(2)相手方に抑止効果がある:弁護士名義の警告書は、特に抑止効果が高いとされています。個人的な感情での抗議と受け取られないため、「この会社は本気だ」という意識付けになります。

警告書に記載すべき内容は次のとおりです。

警告書の必須記載事項

  • カスハラ行為の具体的事実:日時・場所・発言内容(録音があれば記録番号も)
  • 当該行為が問題である根拠:どの法令・規程に違反するか
  • 今後の要求:行為の即時停止・書面での謝罪等
  • 応じない場合の措置:取引停止・法的措置・警察への被害届提出
  • 回答期限:通常は1〜2週間以内

ステップ5:取引停止・出入禁止の法的根拠

「顧客を断ると損害賠償されないか」という不安を持つ経営者は多いですが、法的には適切な手順を踏めば問題ありません。

企業には取引先・顧客を選択する自由(契約自由の原則・民法521条)があります。継続的な取引関係にある相手方であっても、カスハラ行為が続く場合は解約・取引停止が正当化されるというのが法律の立場です。

ただし、次の点には注意が必要です。

  • 一方的な予告なし解約:継続的契約は相当期間前の予告が必要(突然の取引停止は損害賠償リスクがある)
  • 不当差別的な取扱い:カスハラを理由とせず、人種・性別などを理由とする拒絶は許されない
  • 記録なしの取引停止:「なぜ断ったか」の記録がないと後の紛争で不利になる

弁護士法人ブライトの顧問先から受ける相談では、「警告書を送ったが無視された。次の手は?」というケースが実際にあります。この場合、次のステップ(警察連携・民事上の措置)に進むことになります。

警告書の作成・取引停止の法的手順は顧問弁護士に相談を

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警察連携・法的措置の進め方(ステップ6〜7)

ステップ6:警察への相談・被害届の提出

カスハラが刑事事件に該当する場合は、警察への相談・被害届の提出が有効な手段になります。カスハラが刑法上の犯罪に当たる主なケースは次のとおりです。

  • 脅迫罪(刑法222条):「お前の家を燃やす」「訴えてやる」だけで成立することも(生命・身体・財産への危害を告知)
  • 強要罪(刑法223条):土下座の強要・無理な要求を脅迫的手段で迫る行為
  • 威力業務妨害罪(刑法234条):長時間の占拠・怒鳴り込みで業務を妨害する行為
  • 不退去罪(刑法130条後段):退去要求に応じない行為

警察への相談は「被害届を出す」という強い手段だけでなく、「警察に相談している」という事実を相手方に伝える抑止的な使い方も有効です。実際に大阪府内の中小企業の顧問先では、管理職が来店した顧客に対して「本日警察にも相談しております」と告知したところ、それ以降の来店が止まったケースがあります。

ステップ7:民事上の損害賠償請求

カスハラによって社員が精神的損害(うつ病・PTSDなど)を受けた場合、企業は社員に対して安全配慮義務(労働契約法5条)を負っています。安全配慮義務を果たさなかった企業は、社員から損害賠償請求を受けるリスクがあります。

一方、カスハラを行った顧客に対しては、企業として(または社員個人が)次の法的措置が可能です。

  • 不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条):治療費・休業損害・慰謝料等
  • 仮処分命令の申立て:来店禁止・接触禁止の仮処分
  • 接近禁止の仮処分:ストーカー的な顧客に対する手段

顧問先の実務経験では、警告書の送付→取引停止→民事提訴という段階的な対応が、解決までの期間を最短にする傾向があります。段階をすっ飛ばして最初から訴訟に持ち込もうとすると、事前手続きの不備で訴訟が有利に進まないことがあります。

企業が負う法的責任——放置した場合のリスク

安全配慮義務違反による社員への損害賠償

カスハラに企業が適切に対処しなかった場合、被害を受けた社員から損害賠償請求を受けるリスクがあります。労働契約法5条は「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定めています。

裁判例では、顧客からの継続的なハラスメントを放置した企業に対して、被害社員への損害賠償責任を認めたものがあります(東京地裁平成23年5月判決等)。「顧客のことだから仕方ない」という対応は、法的には許されません。

放置するとどうなるか——被害拡大の連鎖

弁護士法人ブライトが顧問先から受ける相談では、初期のカスハラを軽視した結果として次のような被害拡大が起きています。

  • 担当社員の長期休職・離職による人手不足
  • SNSでの誹謗中傷が拡散し会社の評判に影響
  • 他の社員への連鎖的な影響(「この会社は守ってくれない」という不信感)
  • 顧客からの損害賠償請求(「謝罪した」という記録が認められた)

カスハラ放置は企業の法的責任になります。早めに弁護士へ

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就業規則整備チェックリスト:カスハラ対応に必要な8項目

就業規則にカスハラ関連の記載がない会社は、今すぐ確認・整備が必要である。複数の実務書(『カスハラ対策実務マニュアル』日本加除出版・『ハラスメント対応の実務必携Q&A』民事法研究会等)が共通して指摘する必須整備項目を以下にまとめる。

チェック項目 整備状況 条文例
カスハラの定義規定 ☐ あり ☐ なし 「顧客等からの著しい言動で就業環境を害するもの」等
会社の対応義務の明記 ☐ あり ☐ なし 「会社は組織的に対応し従業員を保護する」旨
対応打ち切りの根拠規定 ☐ あり ☐ なし 「会社の指示のもとで対応を終了できる」旨
エスカレーション基準 ☐ あり ☐ なし 上長報告・弁護士相談のトリガー条件を明記
記録保存の義務規定 ☐ あり ☐ なし 「対応内容を記録し会社に提出する」旨
相談窓口の設置規定 ☐ あり ☐ なし 窓口担当者・連絡先を就業規則附則に記載
不利益取扱禁止規定 ☐ あり ☐ なし 申告・相談を理由とした不利益取扱の禁止
取引基本契約への連動 ☐ あり ☐ なし 取引先の著しい迷惑行為を契約解除事由に明記

就業規則の変更には、労働者代表への意見聴取(労働基準法第90条)・労働基準監督署への届出・従業員への周知が必要である。就業規則の具体的な条文の書き方はカスハラ対策義務化・就業規則整備の全手順で解説している。

弁護士に相談すべきタイミング

次のいずれかに当てはまる場合は弁護士に相談を

  • 同じ顧客から繰り返しカスハラが起きている(月3回以上)
  • 社員が精神的なダメージを受け、休職・退職を検討している
  • 顧客から金銭的な要求(賠償・返金要求)を受けている
  • 脅迫・暴力など刑事事件に発展しそうな状況がある
  • SNS・口コミサイトへの誹謗中傷が続いている
  • 弁護士から内容証明・訴状が届いた

弁護士法人ブライトの「みんなの法務部」では、大阪の中小企業のカスハラ対応を顧問として継続的にサポートしています。一度の相談だけでなく、「どの段階で警告書を送るか」「警察に相談するタイミング」など、局面ごとの判断を一緒に行います。

顧問先130社以上の実務から蓄積した対応ノウハウと、弁護士歴平均14年以上のチームが、大阪を中心に企業のカスハラ対応を支援しています。

関連記事:カスハラ対策義務化・就業規則整備の全手順 | 企業法務トップ | 顧問弁護士サービス「みんなの法務部」

よくある質問

カスハラ対策で法的措置を取った場合、顧客から逆に訴えられるリスクはありますか?

適切な手順を踏めば逆訴訟のリスクは低く抑えられる。ポイントは、①記録に基づく客観的な事実確認、②段階的な対応(口頭警告→書面警告→取引解消)、③弁護士のアドバイスのもとでの対応である。これらを経ずに突然取引を打ち切ったり、強硬な表現を用いた場合は「不当な対応をされた」として逆に損害賠償請求を受けるリスクが生じる。顧問弁護士に相談しながら進めることで、このリスクを大幅に低減できる。

カスハラと通常クレームの違いは何ですか?

厚生労働省のマニュアルでは、「要求内容の妥当性に照らして、手段・態様が社会通念上不相当なもの」をカスハラとしています。返金・謝罪など正当な要求であっても、怒鳴る・長時間拘束・土下座強要などの手段が伴う場合はカスハラに該当します。判断の基準は「何を求めているか(内容)」と「どうやって求めているか(手段)」の2軸です。

カスハラの証拠として、無断で録音してもよいですか?

自分が当事者として対応している会話の録音は、相手の同意がなくても証拠として使用できます(最高裁昭和51年判決参照)。ただし、第三者が隠れて会話を録音した場合などは法的評価が異なることがあります。対応担当者が自らスマートフォンで録音するケースは問題ありませんが、念のため弁護士に確認することを推奨します。

カスハラを行った顧客との取引を停止できますか?

企業には契約自由の原則(民法521条)に基づき、取引先・顧客を選択する自由があります。カスハラ行為が継続する場合は取引停止が正当化されますが、継続的な契約関係では突然の予告なし解約は損害賠償リスクがあります。警告書の送付→改善なしの確認→取引停止という段階を踏み、書面に残しておくことが重要です。

カスハラへの対応を怠ると会社に責任が生じますか?

労働契約法5条の安全配慮義務により、企業はカスハラから社員を守る義務を負っています。継続的なカスハラを認識しながら放置した場合、被害社員から損害賠償請求を受けるリスクがあります。大阪の裁判例でも企業の安全配慮義務違反が認められたケースがあります。早期の対応が企業自身のリスクを最小化します。

大阪でカスハラ対応に強い弁護士を探しています

弁護士法人ブライトの「みんなの法務部」は、大阪の中小企業に特化した顧問弁護士サービスです。弁護士歴平均14年以上のチームが、警告書作成・取引停止の法的手順・警察連携・民事措置まで一貫してサポートします。顧問先130社以上の実名公開により、サポートの実績を透明に示しています。

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