労働審判(会社側)対応マニュアル【使用者側 弁護士解説】

労働審判(会社側)対応マニュアル【使用者側 弁護士解説】

労働審判とは?会社側の対応手順と費用【弁護士が解説】

🏢 この記事は経営者・人事担当者(使用者側)向けです

問題社員・労務トラブルへの対応を「会社側」の立場で解説します。労働者側の相談は対象外です。

労働審判は申立から原則3回以内の期日で終わる。会社側が知るべき対応手順を、以下の3つのポイントを中心に解説します。

  • ポイント1:申立書受理から第1回期日まで約1か月しかない
  • ポイント2:第1回期日が実質的な勝負どころである
  • ポイント3:答弁書の質が最終的な結果を左右する

労働審判の申立書が会社に届いた時点で、すでにカウントダウンは始まっています。準備不足のまま第1回期日を迎えると、事実認定の方向性が会社側に不利なまま固まってしまうリスクがあります。本記事では、会社側の担当者・経営者が最初に知っておくべき労働審判の仕組み、対応手順、費用の目安を体系的に解説します。


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労働審判とは?通常訴訟との違いを比較

労働審判とは、地方裁判所において、労働契約に関する個別の紛争を迅速に解決するための手続きです。裁判官1名と労働関係の専門知識を有する労働審判員2名で構成される「労働審判委員会」が審理を行います。

通常の民事訴訟と比べると、解決スピードが圧倒的に速く、手続きが非公開であることが最大の特徴です。また、調停による柔軟な解決を優先するため、双方が納得できる形で早期決着できるケースも多くあります。

労働審判と通常訴訟の違い

比較項目 労働審判 通常訴訟(民事)
解決期間 平均3か月程度(原則3回以内) 1年以上かかるケースが多い
費用(申立手数料) 申立人(労働者側)が負担。会社側は原則不要 提訴した側が訴訟費用を負担
非公開性 非公開(第三者の傍聴不可) 原則公開
合意の強制力 調停成立または審判確定で確定判決と同一の効力 判決確定で強制執行力が生じる
上訴・不服申立 異議申立により訴訟に移行(2週間以内) 控訴・上告が可能

労働審判は非公開で行われるため、会社のレピュテーションリスクを抑えながら紛争を解決できる点も、経営者にとって重要なメリットです。ただし、迅速であるがゆえに、会社側の準備不足が致命的になる場面も少なくありません。


申立てから解決までの流れ|労働審判の手続きを図解

① 申立書の受理・会社への送達

労働者(申立人)が裁判所に申立書を提出すると、裁判所は内容を審査のうえ、会社(相手方)に申立書の写しを送達します。この送達が届いた時点から、実質的な審判対応が始まります。第1回期日は申立から概ね40日以内に指定されるため、会社側に与えられた準備期間は約1か月しかありません。

② 第1回期日(最重要)

第1回期日は、労働審判手続きのなかで最も重要な期日です。労働審判委員会は双方から事情を聴取し、事案の争点を整理したうえで、調停の方向性を決定します。ここで委員会が受ける印象・事実認定の方向性がその後の手続き全体を規定するため、会社側は答弁書と証拠を十分に準備したうえで臨む必要があります。第1回期日を軽視して事後対応に回ろうとすると、取り返しのつかない不利な状況になりかねません。

③ 第2回・第3回期日:調停交渉から合意または審判へ

第2回・第3回期日では、第1回期日での事情聴取を踏まえた調停交渉が行われます。双方が合意に至れば調停成立となり、訴訟上の和解と同一の効力を持つ調停調書が作成されます。合意に至らない場合、労働審判委員会は審判を下します。審判に対して当事者が2週間以内に異議を申し立てない場合、確定判決と同一の効力を持ちます。異議が申し立てられた場合、事件は通常の民事訴訟に移行します。


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会社側が第1回期日までにやるべきこと|労働審判対応の準備

① 答弁書の作成(提出期限は期日の1〜2週間前)

答弁書は、申立書に記載された労働者側の主張に対して、会社側が認否・反論を行う書面です。裁判所から指定された提出期限(第1回期日の1〜2週間前が一般的)を厳守しなければなりません。

答弁書で重要なのは、相手方の主張を漫然と否定するのではなく、具体的な事実に基づいた反論を組み立てることです。答弁書の質が低いと、委員会による事実認定が申立人の主張に沿って進みやすくなるため、内容の精度が最終結果に直結します。

② 証拠の収集

答弁書の作成と並行して、会社側は関連する証拠を早急に収集・整理する必要があります。主な証拠として以下が挙げられます。

  • 就業規則(解雇・懲戒・休職に関する規定を含むもの)
  • 雇用契約書・労働条件通知書
  • タイムカード・勤怠管理システムの記録
  • 業務指示メール・社内通知文書
  • 注意・指導の記録(指導書・始末書・面談メモなど)
  • 給与明細・賃金台帳

これらの書類が整備されていない場合、事実関係の立証が困難になります。日頃から証拠を保全しておくことの重要性については後述の「予防対策」でも解説します。

③ 弁護士への早期相談(申立書を受け取った当日に)

準備期間が約1か月しかないことを考えると、申立書が届いた当日に弁護士に相談することを強く推奨します。答弁書の作成・証拠整理・期日対応の戦略立案には一定の時間が必要であり、相談が遅れるほど選択肢が狭まります。

なお、退職勧奨をきっかけとした紛争については、審判に至る前の交渉段階での弁護士介入が特に重要です。詳しくは退職勧奨で違法と言われないための進め方もあわせてご参照ください。


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実際にあった相談事例|労働審判 会社側の対応

ケース1:退職勧奨後の労働審判申立

ある中小製造業では、退職勧奨の交渉が決裂した従業員から「話し合いに応じなければ労働審判を申し立てる」と通告されました。このような相談がよく寄せられます。

このケースでは、弁護士が早期に介入し、相手方の真意を丁寧に把握したうえで解決金交渉を進めた結果、第1回期日前に双方が合意に至り、審判手続きそのものを回避することができました。

早期対応のポイントは以下の3点です。

  • 相手方の真意の把握:金銭解決を求めているのか、職場復帰を望んでいるのかを見極める
  • 解決金の相場観:勤続年数・事案の強弱・立証可能性を踏まえた金額設定
  • 交渉タイミング:審判申立前に合意できれば、手続き費用・時間・社内への影響を最小化できる

ケース2:休職期間満了後の自然退職紛争

ある従業員400名規模の会社では、休職期間満了による自然退職後に、元従業員が「退職していない」として労働審判を申し立ててきました。このような相談がよく寄せられます。

このケースでは、会社側が以下の証拠を答弁書とともに提出し、事実関係を丁寧に主張しました。

  • 休職規定に基づく自然退職の手続きが適正に行われたことを示す文書
  • 主治医による復職可能診断が休職満了日に間に合わなかった経緯
  • 休職開始時の合意書・復職支援に関する記録

調停段階での解決金の相場は月額給与の2〜6か月分程度となるケースが多く、事案の強弱・勤続年数・立証の難易度によって大きく異なります。問題社員や休職者の対応に悩む場合は、早い段階で方針を固めることが重要です。問題社員を辞めさせたい会社が最初に確認すべきことも参考にしてください。


費用の目安・対応の流れを弁護士が説明します

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労働審判の費用(会社側)|弁護士費用と手続費用の目安

申立手数料:会社側の負担はゼロ

労働審判の申立手数料は、申立人である労働者側が負担します。会社(相手方)には申立手数料は発生しません。ただし、弁護士に依頼する場合の弁護士費用は会社側が自己負担することになります。

弁護士費用の相場

費用の種類 目安 備考
着手金 20〜40万円程度(税別) 事案の複雑さ・規模により変動
成功報酬 解決内容・経済的利益に応じて設定 解決金の減額分・請求棄却の割合など
訴訟移行時の追加費用 別途着手金が発生するケースが多い 審判に異議申立→訴訟移行の場合
顧問弁護士を利用する場合 顧問料の範囲内で対応できるケースも 顧問契約の内容による

審判後の異議申立と訴訟移行

審判の内容に不服がある場合、当事者は審判書の送達を受けた日から2週間以内に異議を申し立てることができます。異議申立により審判の効力は失われ、労働審判の申立時に訴訟提起があったものとみなされて通常の民事訴訟に移行します。訴訟に移行した場合は、弁護士費用が別途発生するほか、解決まで1年以上かかることも珍しくありません。

顧問弁護士と契約している会社であれば、顧問料の範囲内または割引料率で労働審判対応を依頼できるケースもあります。顧問契約は、このような緊急事態への初動対応コストを抑える意味でも有効です。


労働審判を予防するための日頃の対策

労働審判への対応は、発生してから考えるのでは遅すぎます。以下の対策を日常業務の中で徹底することで、審判申立そのものを未然に防ぐことができます。

① 就業規則の整備

解雇・懲戒・休職・復職の要件を就業規則に明確に規定することが基本です。曖昧な規定は「会社側の恣意的運用」と判断されるリスクを高めます。特に休職期間・自然退職の要件、懲戒処分の種類と基準、普通解雇の要件については、法律の趣旨に沿った内容に整備・定期更新することが不可欠です。

② 記録・証拠の保全

業務指示・注意・指導の事実は、必ずメールや書面で記録に残す習慣を組織全体で定着させましょう。口頭での指導のみで記録がない場合、後から「指導の事実があった」と主張しても証拠がなく、会社側の主張が通りにくくなります。面談を行った場合は日時・内容・出席者を記録したメモを作成し、当日中にメールで本人にも送付しておくと証拠としての信頼性が高まります。

③ 問題発生時の早期弁護士相談

従業員との間でトラブルの兆候が生じた時点で、弁護士に相談することを強くお勧めします。紛争が深刻化する前に弁護士が介入することで、労働審判の申立を回避できるケースは少なくありません。「まだ審判になっていないから大丈夫」と楽観視せず、問題の芽を早期に摘む姿勢が会社を守ります。


よくある質問|労働審判 会社側の疑問に答えます

Q1. 労働審判を欠席したらどうなりますか?

正当な理由なく期日を欠席した場合、裁判所は相手方(申立人)の主張を認める審判を下すことができます(労働審判法第28条)。欠席は事実上の敗訴と同じ結果を招く可能性があり、絶対に避けなければなりません。万が一期日への出席が困難な場合は、速やかに裁判所と弁護士に連絡して対応を協議してください。

Q2. 調停に応じる義務はありますか?

調停の成立には双方の合意が必要であり、会社側には調停内容に合意する法的義務はありません。ただし、審判委員会から調停案を提示された場合にそれを拒否し続けると、審判が下されるリスクがあります。調停案の受入れ可否は、解決金の金額・立証の強弱・訴訟移行のリスクを総合的に判断したうえで弁護士と協議することが重要です。

Q3. 労働審判で負けた場合、必ず審判通りに支払わなければなりませんか?

審判の内容に不服がある場合、審判書の送達を受けた日から2週間以内に異議を申し立てることで、審判の効力を失わせることができます。異議申立後は通常の民事訴訟に移行するため、改めて裁判で争うことが可能です。ただし、訴訟移行により手続きの長期化・追加費用の発生が見込まれるため、異議申立の是非は弁護士と慎重に検討する必要があります。2週間を過ぎると審判は確定し、確定判決と同一の効力が生じますので、審判書を受け取ったら直ちに弁護士に相談してください。

監修:弁護士法人ブライト|企業法務・顧問弁護士サービス


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よくある質問

Q. 労働審判の申立書が届いたのですが、無視したらどうなりますか?

A. 申立書を無視して答弁書を提出しなかったり、第1回期日を欠席したりすると、申立人の主張どおりに事実認定が進み、会社側に不利な審判が下されるリスクが高まります。受け取った時点で速やかに弁護士へ相談してください。

Q. 労働審判で会社側が負担する費用はどのくらいですか?

A. 会社側には申立手数料はかかりませんが、弁護士費用が主なコストになります。弁護士費用は事案の複雑さや解決金額によって異なりますが、着手金・報酬金を合わせて30万〜80万円程度が目安です。審判後に訴訟へ移行した場合はさらに費用が増加します。

Q. 労働審判は必ず調停(和解)で終わらせなければなりませんか?

A. 調停による解決が義務ではありません。会社側が調停案を受け入れられない場合は拒否できます。その場合は審判が下され、さらに不服があれば2週間以内に異議を申し立てて通常訴訟に移行する選択肢があります。ただし訴訟移行はコスト・期間の増大を伴います。

Q. 解雇無効を主張する労働審判の申立てがありました。会社はどのような反論を準備すればよいですか?

A. 解雇の有効性を主張するには、解雇理由の具体的事実(業務上の問題行動、注意指導の経緯など)を裏付ける証拠が不可欠です。就業規則の解雇事由への該当性、事前の改善指導記録、面談メモ、メール等を整理し、答弁書に具体的かつ時系列で記載することが重要です。

具体的な対応手順・ケース例

以下は、従業員から「不当解雇」を理由として労働審判を申し立てられた中小企業(従業員30名、製造業)の典型的な対応例です。

  1. 申立書受領当日:弁護士へ相談
    申立書・添付書類を持参し、即日弁護士へ相談。第1回期日の日程を確認し、答弁書提出期限を把握した。
  2. 受領後3日以内:社内事実確認
    担当上司・人事部門へのヒアリングを実施。解雇に至るまでの経緯(業務上の問題行動、注意・指導の内容と日付)を時系列で整理した。
  3. 受領後1週間以内:証拠の収集・整理
    就業規則・雇用契約書・業務指示メール・指導書・勤怠記録・給与台帳を収集し、弁護士に提供。不足書類を優先的に補完した。
  4. 期日の2週間前:答弁書の提出
    弁護士が作成した答弁書を期限内に裁判所へ提出。解雇理由の具体的事実と就業規則上の根拠を明示し、申立人の主張への個別反論を記載した。
  5. 第1回期日:委員会への説明
    担当者・弁護士が出席し、答弁書の内容を補足説明。委員会からの質問に対して証拠に基づいた回答を行い、調停の土台を有利な形で設定した。

この事例では第2回期日で調停が成立し、解決金の支払いにより紛争を終結させました。早期の弁護士相談と充実した答弁書の準備が、早期解決に結びついたポイントでした。

⚖️ 労務・雇用の法的対応に関する判例・法的根拠

  • 労働契約法16条(解雇権濫用法理):解雇は「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の両要件を満たさなければ無効。最判昭和50年「島田鋼材事件」が基礎
  • 労基法20条(解雇予告・予告手当):30日以上の予告または予告手当の支払いが義務。予告なし・手当なしの解雇は原則無効で付加金の対象
  • 最判昭和61年12月4日(秋北バス事件):就業規則は合理的内容であれば労働者を拘束する。不利益変更には高度の必要性と相当な代償措置が必要

根拠条文:労働契約法16条・労基法20条・同法89条・90条

まとめ・確認チェックリスト

  • □ 申立書を受け取った当日中に弁護士へ相談する
  • □ 第1回期日の日程と答弁書の提出期限を速やかに確認する
  • □ 就業規則・雇用契約書・勤怠記録など関連証拠を直ちに収集・整理する
  • □ 答弁書は相手方の主張に対し具体的事実に基づいた反論を記載する
  • □ 指導記録・面談メモ・業務指示メールなど日常的な証拠を平時から保全しておく
  • □ 調停案の受否・審判への異議申立・訴訟移行の各選択肢を弁護士と事前に検討する
  • □ 第1回期日には担当者と弁護士が揃って出席し、委員会の質問に正確に答えられるよう準備する

監修・著者情報

和氣良浩弁護士

和氣 良浩(わけ よしひろ)弁護士

弁護士法人ブライト 代表弁護士|大阪弁護士会所属
弁護士登録:2006年(弁護士歴 20年)
取扱分野:企業法務・労務問題・契約トラブル・M&A・債権回収

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本記事は、一般的な情報の提供を目的とするものであり、個別案件に関する法的助言を目的とするものではありません。また、情報の正確性、完全性及び適時性を法的に保証するものではありません。
なお、本記事の内容に関する個別の質問や意見などにつきましては、ご対応できかねます。ただし、当該記事の内容に関連して、当事務所へのご相談又はご依頼を具体的に検討されている場合には、この限りではありません。
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