この記事のポイント(結論)
- とび職・鉄筋工が重層下請構造の現場で転落した場合、直接の雇用主(二次・三次下請)だけでなく元請・発注者にも安全配慮義務違反(労働契約法5条・民法415条)を問える
- 直接の雇用主が廃業していても、元請への損害賠償請求は可能。ブライトでは元請から3,000万円〜1億1,000万円の解決事例がある
- 「本人にも過失がある」と言われても、過失相殺の割合は弁護士が交渉で抑制できる(ヘルメット未着用でも1割以内に収めた事例あり)
- 損害賠償請求の時効は生命・身体侵害の場合症状固定から5年(改正民法724条の2)。重傷でも「落ち着いてから」では手遅れになるリスクがある
建設現場での転落事故は、労働災害(労災)の中でも件数・死亡率ともに突出して高い事故類型です。特にとび職・鉄筋工・足場解体工は常時高所で作業し、かつ重層下請け構造の末端に位置するため、「誰に責任を問えばいいか分からない」という状況に陥りがちです。
本記事では、とび職・鉄筋工が転落事故で被災したときに元請・発注者を含む複数当事者への損害賠償請求をどう進めるか、重層下請け特有の法的論点を実案件ベースで解説します。
監修:笹野 皓平 弁護士(弁護士法人ブライト 労災部部長・登録2011年・修習64期)
執筆監修:和氣 良浩 弁護士(代表・弁護士歴14年以上)
とび職・鉄筋工が転落したとき「誰に」損害賠償を請求できるか
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建設現場の多重下請け構造では、とび職・鉄筋工は多くの場合「三次下請け」「四次下請け」の末端に位置します。直接の雇用主(二次・三次下請け会社)が小規模で無資力のケースも多く、「会社が廃業した」「保険に入っていなかった」という相談が頻繁に寄せられます。
しかし、損害賠償請求の相手方は雇用主だけに限られません。以下の主体に対しても責任追及が可能です。
| 請求先 | 法的根拠 | ポイント |
|---|---|---|
| 元請会社(ゼネコン等) | 安全配慮義務(労働契約法5条・民法415条)、労働安全衛生法上の義務 | 下請け労働者に対しても元請が安全管理義務を負う(最高裁昭和59年4月10日判決参照) |
| 一次下請け会社 | 安全配慮義務・使用者責任(民法715条) | 実際の安全管理を指揮していれば責任を問える |
| 発注者 | 工作物責任(民法717条)・債権者保護義務 | 荷主や施主が現場管理に関与した場合は責任を問えるケースも |
| 直接の雇用主(二次・三次下請け) | 安全配慮義務・労働契約上の義務 | 廃業していても元請等への請求が可能 |
実務書(労働災害損害賠償実務)によれば、元請会社は下請労働者を自己の支配・監督下に置いている限り、安全配慮義務を負うとされています。とび職・鉄筋工が足場や鉄骨上で作業する現場では、元請の現場監督が作業の具体的な指揮を行っていることが多く、この場合は元請への責任追及が現実的な選択肢となります。
重層下請け構造特有の論点①:安全配慮義務の「人的範囲」
労働契約法5条は「使用者は、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定めています。しかしこの条文が直接適用されるのは直接の使用者(雇用主)に対してです。
では元請はどうか。判例法理では、元請と下請け労働者の間に「雇用に準じる指揮・監督関係」があれば、契約関係を超えて安全配慮義務が認められるとされています(民法415条の債務不履行構成)。
ブライトが実際に対応した案件では、仮設タラップからの転落事故(高次脳機能障害・下肢機能障害)において、元請(大手ゼネコン)が「下請けの管理は把握していない」と主張しましたが、元請現場監督が日々の作業指示を行っていた事実・安全教育を怠っていた事実を証拠化し、元請のみで5,500万円の和解を実現しました。
重層下請け構造特有の論点②:雇用主が廃業していても請求できる
とび職・鉄筋工が所属する二次・三次下請け会社は規模が小さく、事故後に廃業・自己破産するケースがあります。この場合、直接の雇用主への損害賠償請求は事実上回収困難になります。
しかしこの状況でも元請への請求が生きています。ブライトが対応したケース(後遺障害7級・解決金3,000万円)では、ワイヤー切断により約10メートル落下した被災者の直接の雇用会社が廃業していましたが、元請への安全配慮義務違反を立証し、解決金3,000万円+借入金免除で和解しました。
元請への請求においては以下の証拠が重要です。
- 元請現場監督が作業指示を行っていたことを示す書面・メール・音声
- 安全帯・足場・ネット等の安全設備の不備を示す写真・現場図面
- 死傷病報告書・災害調査復命書(大阪労働局・各労働局への情報開示請求で取得可能)
- 救急活動報告書(消防局への情報開示請求で取得可能)
⚠ 証拠は早期に保全してください
刑事記録(労基署の調書・消防局の報告書)は保管期限があります。事故後できるだけ早期に弁護士に相談し、情報開示請求・証拠保全の手続きを進めることが重要です。
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とび職・鉄筋工に特有の「安全配慮義務違反」の立証ポイント
とび職・鉄筋工の転落事故で会社側の安全配慮義務違反を立証する際の主な論点は以下のとおりです。
立証ポイント①:先行手摺工法の不採用
労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)563条・564条は、足場の手摺設置義務を定めています。特に「先行手摺工法」(足場の組立前に手摺を先行して設置する方法)の不採用は、安全配慮義務違反の典型事例として実務書でも指摘されています。
立証ポイント②:安全帯(墜落制止用器具)の未使用・未支給
労働安全衛生規則518条・519条・フルハーネス型墜落制止用器具の義務化(2019年2月1日施行)により、高さ2メートル以上の作業では墜落制止用器具の使用が義務付けられています。安全帯が支給されていなかった・使用指導がなかったという事実は、元請・下請双方への責任追及に有効です。
立証ポイント③:玉掛け・特別教育の未実施
鉄筋工・とび職が吊り荷・クレーン作業に関与する場合、玉掛け技能講習(労働安全衛生法59条・60条)の修了が必要です。資格未取得者への無断作業指示は、安全配慮義務違反の根拠となります。
過失相殺への反論——「本人にも過失がある」と言われたら
被災者側のとび職・鉄筋工に「ヘルメット未着用」「安全帯を付けずに作業した」という事情があっても、それを理由に損害賠償が大幅に減額されるケースは多くありません。
実務上の考え方として、会社が安全帯の使用を義務づける管理体制を整えていなかった場合、ヘルメット未着用や安全帯未使用は「被災者の過失」というより「会社の教育・監督不足」として評価されます。
ブライトが実際に対応した案件(脚立転落・後遺障害8級)では、相手方が「被災者側7割過失」を主張しましたが、上長の反省文を証拠として活用して会社側の安全義務違反を立証し、過失相殺を大幅に抑制した上で解決金1,500万円で和解しました。ヘルメット未着用ケースでも過失相殺を1割以内に収めた実績があります。
損害賠償の内訳——とび職・鉄筋工で請求できる費目
転落事故で請求できる損害賠償の主な費目は以下のとおりです。労災保険給付と損害賠償は別制度であり、労災保険から受け取った給付分は損益相殺(控除)されますが、慰謝料・弁護士費用は労災保険でカバーされないため、全額を会社に請求できます。
| 費目 | 内容 | 労災保険との関係 |
|---|---|---|
| 治療費 | 実費全額 | 療養補償給付で補填→損益相殺あり |
| 休業損害 | 事故前の基礎収入×休業日数 | 休業補償給付(給付基礎日額の80%)で一部補填→差額を請求 |
| 逸失利益 | 後遺障害による労働能力低下分(ライプニッツ係数方式) | 障害補償年金は損益相殺されるが、算定方式が異なるため差額が大きい |
| 慰謝料(入通院) | 入院・通院期間に応じた精神的苦痛 | 労災保険対象外→全額請求可 |
| 慰謝料(後遺障害) | 等級別の相場(1級2,800万円〜14級110万円) | 労災保険対象外→全額請求可 |
| 介護費用 | 近親者・職業介護者の費用 | 介護補償給付は実費の範囲で補填→差額あり |
| 弁護士費用 | 弁護士費用相当額の10〜15%が認められることが多い | 労災保険対象外→全額請求可 |
解決事例①:元請2社に合計1億1,000万円(建設業・仮設タラップ転落・高次脳機能障害)
事故の概要:工場改修工事中、仮設タラップ(仮設階段)から転落。高次脳機能障害・下肢機能障害の重篤な後遺障害を負った。被災者は一人親方。
複雑な事情:発注者・元請(大手ゼネコン)・一次下請・二次下請(破産)の多重下請け構造。過失相殺・介護費用・労災給付控除が論点。
ブライトの対応:元請の現場監督による作業指示・安全管理懈怠を証拠化。過失相殺はヘルメット着用の実態から「最大1割」と主張し押さえ込み。基礎収入は一人親方の申告売上から真に必要な経費のみ控除する方法で算定。将来介護費用を随時介護として計上し最大化。
結果:元請2社(大手ゼネコンおよび一次下請会社)にそれぞれ5,500万円、合計1億1,000万円で示談成立。
解決事例②:元請から3,000万円(後遺障害7級・雇用主は廃業)
事故の概要:元請から指示された専門外のアスベスト除去作業中、ワイヤー切断により約10メートル落下。左腕脱臼・右足骨折・腰骨圧迫粉砕骨折の重傷。後遺障害7級認定。
複雑な事情:直接の雇用会社が廃業しており、元請への損害賠償が唯一の手段。元請は支払いを拒否。
ブライトの対応:刑事記録の保管期限切れリスクを早期に説明し、早急に証拠確保。相手方保険会社の労働能力喪失への疑義に対し、医療記録・後遺障害診断書を戦略的に開示。借入金免除を和解合意書の清算条項に組み込み課税上の配慮も実施。
結果:解決金3,000万円+借入金免除で和解。依頼者の手残り約2,204万円。
▶ 転落事故の損害賠償請求について詳しくは高所作業転落・損害賠償の解説もご覧ください。
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弁護士に依頼すべきタイミング——とび職・鉄筋工が知っておくべき時効と相談時期
損害賠償請求(生命・身体侵害)の時効は、改正民法724条の2・166条1項1号により、損害および加害者を知った時から5年です(2020年4月1日以降に生じた損害に適用)。「症状固定後に落ち着いてから相談しよう」と待っているうちに時効が成立するリスクがあります。
一方、労災保険給付の時効は制度ごとに異なります:療養補償給付・休業補償給付は2年、障害補償給付・遺族補償給付は5年(労働者災害補償保険法42条)。損害賠償請求と労災保険給付の時効は別制度である点に注意が必要です。
特に、重症の場合は治療が長期化し、症状固定まで2〜3年かかることがあります。この間に証拠の散逸・刑事記録の廃棄が起きるリスクがあるため、治療中であっても早期に弁護士に相談することを強くお勧めします。
弁護士法人ブライトが重層下請け案件に強い理由
- 複数弁護士体制:元請・一次下請・発注者への交渉を並行して進め、複雑な多重下請け案件に対応
- 情報開示請求を弁護士が主導:大阪労働局・消防局・厚生労働省への死傷病報告書・救急活動報告書の開示請求を実施
- 受任前から証拠保全を指導:「会社から書類にサインを求められた」「権利放棄書面がある」という状況で、受任前の段階から具体的な対策を指示
- 刑事・民事両面対応:安衛法違反の刑事手続きと民事賠償を並行進行。刑事記録を民事での証拠として活用
- 弁護士歴平均14年以上:ベテラン弁護士チームで、相手方保険会社の引き延ばし・過失相殺の不当な主張に対抗
よくある質問(FAQ)
Q1. 一人親方ですが、元請に損害賠償を請求できますか?
はい。一人親方であっても、元請会社が実質的に作業を指揮・監督していた場合は、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求が可能です。ブライトでは一人親方が元請から合計1億1,000万円の和解を実現した事例があります。
Q2. 直接の雇用主(下請け会社)が廃業・倒産しています。どうすればよいですか?
元請・一次下請けへの請求が可能です。雇用主の廃業は元請への請求権を消滅させません。ただし元請への請求のためには、元請が安全管理を担っていたことの証拠が重要です。早急に弁護士に相談して証拠保全を行ってください。
Q3. 「ヘルメットを外していた」「安全帯をしていなかった」ことで請求額が大幅に減りますか?
会社が安全帯の使用を義務づける管理体制を整えていなかった場合、被災者側の過失割合は大きくならない場合が多いです。ブライトではヘルメット未着用のケースでも過失相殺を1割以内に収めた実績があります。「過失があるから諦める」前に弁護士に相談してください。
Q4. 労災保険はすでに申請しています。それ以上に請求できますか?
はい。労災保険と会社への損害賠償は別制度です。労災保険でカバーされない慰謝料・逸失利益の差額・弁護士費用などは別途会社に請求できます。多くのケースで、労災保険のみでは補填されない損害が数百万円〜数千万円に上ります。
Q5. 家族が入院中で本人が相談できません。家族から相談できますか?
はい。配偶者・親・兄弟からの相談を受け付けています。重篤な場合は家族が窓口となって弁護士が受任し、本人の回復後に追認する形での対応も実績があります。
Q6. 事故から数年が経っています。今からでも請求できますか?
損害賠償請求の時効(5年)が成立していなければ請求可能です。ただし時効が近い場合は早急に弁護士に相談してください。また刑事記録・救急記録には保管期限があるため、早期の証拠保全が重要です。
Q7. 元請がゼネコン(大企業)でも請求できますか?
はい。相手が大企業であることは請求の妨げになりません。ブライトでは大手ゼネコンとの交渉・訴訟実績があります。大企業ほど保険会社が背後にいるため、弁護士が交渉を担うことで適切な賠償額を引き出しやすくなります。
まとめ:とび職・鉄筋工の転落事故は重層下請けを見据えた請求戦略が必要
とび職・鉄筋工の転落事故では、直接の雇用主だけでなく元請・発注者を含む複数の当事者への責任追及が可能です。雇用主が廃業していても元請への請求は生きており、過失相殺も弁護士の主張によって大幅に抑制できます。
重要なのは早期の相談と証拠保全です。刑事記録や現場写真は時間とともに失われます。症状固定前であっても、事故直後から弁護士が関与することで得られる利益は非常に大きくなります。
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