執筆・監修
笹野 皓平(ささの こうへい)
弁護士法人ブライト|労災事業部 部長
大阪弁護士会(2011年登録)|修習64期
代表監修
和氣 良浩(わけ よしひろ)
弁護士法人ブライト 代表弁護士
この記事の結論
仕事中の死亡事故で会社に安全配慮義務違反(労働契約法5条)があれば、遺族は労災保険(遺族補償年金)とは別に会社へ損害賠償を請求できます。請求できる主な項目は①死亡慰謝料2,000〜2,800万円②近親者慰謝料③逸失利益(将来収入損失)④葬儀費用——合計で1億円超になるケースも。まず弁護士に相談することで受け取れる補償額が大きく変わります。
「労働災害で家族を亡くした」——その悲しみの中で、遺族が直面するのは「会社に何を・いくら請求できるのか」という切実な問題です。
労災保険の遺族補償年金を受け取っていても、慰謝料は一切支払われません。また、逸失利益(家族が将来得られたはずの収入)も全額はカバーされません。会社に安全配慮義務違反がある場合、損害賠償請求によって補償を最大化できます。
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死亡労災で遺族が受け取れる補償の全体像
労災保険から受け取れる給付金
業務中の事故や疾病で労働者が死亡した場合、遺族は労災保険から以下の給付を受けることができます。
- 遺族補償年金:被災者の収入の約5〜6割相当(給付基礎日額×153〜245日分)が遺族(配偶者・子など)に支払われる
- 遺族補償一時金:遺族補償年金の受給権者がいない場合などに一括で支払われる給付(給付基礎日額×1,000日分)
- 葬祭料:315,000円+給付基礎日額×30日分(または給付基礎日額×60日分のいずれか高い方)
ただし、労災保険には決定的な限界があります。慰謝料は一切支払われません。また、逸失利益も全額はカバーされません。
なお、労災保険の遺族補償年金・一時金の時効は5年(労災保険法42条)です。療養補償・休業補償の時効2年とは異なりますので注意が必要です。
会社への損害賠償請求との違い
労災保険と会社への損害賠償請求は、まったく別のルートです。労災保険の給付を受け取っていても、別に会社に対して損害賠償を請求することができます。損益相殺により重複分は控除されますが、慰謝料・逸失利益差額・葬儀費用超過分などは全額会社に請求できます。
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会社への損害賠償請求で受け取れる項目と相場
死亡慰謝料・近親者慰謝料
- 死亡慰謝料(本人分):2,000万〜2,800万円(一家の支柱かどうか・年齢・家族構成で変わる)
- 配偶者への近親者慰謝料:200万〜400万円
- 親・子への近親者慰謝料:各100万〜200万円
逸失利益の計算方法と計算例
逸失利益は、被災者が将来得られたはずの収入から生活費控除を差し引いた額です。
逸失利益 = 基礎収入(年収)× (1 ‐ 生活費控除率)× ライプニッツ係数(就労可能年数)
計算例:年収700万円・40歳男性(就労可能年数27年・生活費控除率40%)の場合
700万円 × 0.6 × 18.724(ライプニッツ係数・3%基準) ≒ 約7,865万円
死亡慰謝料2,800万円・近親者慰謝料・葬儀費用を加算すると、損害合計は1億円超になることも珍しくありません。
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会社への損害賠償請求を進める手順
ステップ1:証拠保全(事故直後に行うべきこと)
- 事故現場の写真・動画(足場の状況・安全装置の有無)
- 会社からのやり取りを記録(電話は録音・メール・書面のコピー)
- 同僚・目撃者の連絡先を確保
- 会社から渡された書類(示談書・損害賠償権利放棄書)は絶対にサインしない
- 死亡診断書・解剖記録のコピーを入手
ステップ2:労災申請(遺族補償給付)
まず労働基準監督署に遺族補償年金(または一時金)の申請を行います。会社が協力しない場合でも遺族が直接申請できます。労災認定を受けておくと、会社への損害賠償請求の際に業務上の死亡事故であることを証明しやすくなります。
ステップ3:会社への損害賠償請求
会社の安全配慮義務違反(労働契約法5条・民法415条)を根拠に、弁護士が内容証明郵便で損害賠償請求書を送付して交渉を開始します。交渉が決裂した場合は訴訟・調停に移行します。
損害賠償請求権の時効は、損害および加害者を知った時から5年(改正民法724条の2・166条1項)です。死亡事故の場合、通常は事故当日が起算点となります。
死亡事故でよくある「落とし穴」
- 会社が「葬式代を出す」と言って終わりにしようとする:葬儀費用だけでは慰謝料・逸失利益は一切回収できません
- 「業務外の事故」と会社が強弁する:労災保険の認定とは独立して、弁護士が業務起因性を主張・立証できます
- 労災隠し:会社が労災申請を拒む行為は労働基準法違反です。遺族が直接申請できます
- 示談書へのサインを急がせる:弁護士が計算した賠償額の1/10以下の金額で示談しようとするケースが多くあります
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弁護士法人ブライトの解決事例(死亡労災)
事例1. 熱中症死亡・労災隠しの疑い(建設業・夏季屋外作業)
建設現場で夏季に熱中症により死亡した労働者の孫世代の女性(相続人8名の代表窓口)から相談を受けました。会社は「労災適用外」と説明していましたが、給与のピンハネや警察との説明の食い違いも発覚。会社による労災隠しが疑われる案件でした。ブライトは相続人8名の協議を前提に対応し、遺族が自ら情報公開請求を進める方針を決定。提出先・必要書類・費用について具体的にサポートしました。
事例2. 高所転落死亡・多重下請け構造で元請・一次下請へ請求
建設現場での転落死亡事故で、直接の雇用主(三次下請け)が破産済みの案件。ブライトは元請大手ゼネコンと一次下請けへの安全管理義務違反を立証し、複数の相手方と並行して交渉を実施。多重下請け構造でも複数の相手方から補償を得られる戦略を展開しました。
事例3. 日雇い労働者の夜間工事での死亡・雇用契約書なしで請求
夜間の道路工事中に死亡した50代男性(日雇い)の遺族案件。書面上の雇用契約書がなく、会社は「雇用関係がなかった」と主張しました。ブライトは給与支払い記録・作業指示メール・現場写真などから実態的な雇用関係を立証し、損害賠償請求を進めました。雇用契約書がなくても、実態として指揮命令関係があれば安全配慮義務の対象となります。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 労災保険の遺族補償年金をすでに申請しました。会社にも損害賠償を請求できますか?
はい。労災保険と会社への損害賠償請求は別の制度です。慰謝料・逸失利益差額・葬儀費用超過分などは会社に別途請求できます。損益相殺で重複分は控除されますが、それを差し引いても多額の賠償が認められるケースが多くあります。
Q2. 会社から「葬式代を出す」と言われました。それで終わりにすべきですか?
葬儀費用だけでは慰謝料・逸失利益は一切回収できません。年収700万円・40歳男性の逸失利益だけで約7,865万円になる計算です。葬儀費用のみで終わらせることは絶対に避け、弁護士にご相談ください。
Q3. 「業務中の事故ではない」と会社が言っています。どうすればいいですか?
まず労働基準監督署へ遺族補償給付の申請を行い、労災認定を取得することを優先します。会社の協力なしでも遺族が直接申請できます。認定が下りれば業務起因性の立証が大きく前進します。
Q4. 日雇い・非正規雇用でも会社に損害賠償を請求できますか?
雇用形態にかかわらず、実態として指揮命令関係があれば安全配慮義務の対象です。雇用契約書がなくても、給与支払い記録・作業指示の証拠があれば立証可能です。
Q5. 相続人が複数います。誰が請求の窓口になればいいですか?
損害賠償請求権は相続人全員が法定相続分に応じて相続します。弁護士が相続人全員の代理人となって、相続人間の協議をまとめながら会社との交渉を進めることが可能です。
Q6. 損害賠償請求の時効はいつまでですか?
生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効は、損害および加害者を知った時から5年(改正民法724条の2)です。死亡事故の場合、通常は事故当日が起算点となります。早急に弁護士にご相談ください。
まとめ
- 死亡労災の遺族は、労災保険(遺族補償年金)とは別に会社への損害賠償請求が可能
- 請求できる主な項目:死亡慰謝料(2,000〜2,800万円)・近親者慰謝料・逸失利益・葬儀費用——合計1億円超になるケースも
- 慰謝料は労災保険では一切カバーされない——会社への損害賠償請求でのみ回収可能
- 雇用形態(日雇い・非正規)にかかわらず、実態として指揮命令関係があれば請求可能
- 会社が「葬式代を出す」だけで終わりにしようとするケースが多い——早期の弁護士相談が不可欠
- 損害賠償請求の時効は損害・加害者を知った時から5年(民法724条の2)
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