退職勧奨の進め方|違法にならない手順と経営者が知るべき判断基準【大阪の顧問弁護士が解説】

退職勧奨の進め方|違法にならない手順と経営者が知るべき判断基準【大阪の顧問弁護士が解説】

この記事でわかること

  • 退職勧奨で経営者が陥りやすい「誤った初動」の3パターン
  • 初動ミスが原因で実際に訴訟・高額和解に発展した事例の詳細
  • 違法にならないための正しい初動フロー(ステップ形式)

退職勧奨の初動を誤ると、後から取り返しがつかない

「辞めてほしい社員がいる。どう伝えれば角が立たないか」——この相談は、中小企業の経営者・人事担当者から非常に多く寄せられます。しかし、こうした相談の多くには共通点があります。それは、すでに何らかの対応を始めてしまっているという点です。

退職勧奨は、正しい手順を踏めば合法的な人事施策のひとつです。一方で、最初の一手を間違えると、その後どれだけ丁寧に対応しても「強迫だ」「不当解雇だ」という主張を覆すことが難しくなります。労働審判や訴訟に発展し、解決まで1年以上かかることも珍しくありません。

退職勧奨において重要なのは、「どう伝えるか」よりも「最初に何をするか」です。この記事では、よくある誤った初動パターンと、その結果として起きた実例、そして正しい初動フローを順に解説します。

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退職勧奨でよくある「誤った初動」3つのパターン

退職勧奨に関するトラブルの大半は、最初の対応に問題の種が埋まっています。以下の3パターンは、実際の相談案件で繰り返し登場する典型的な誤りです。

パターン①:記録を残さないまま口頭で「辞めてくれないか」と伝えた

最もよく見られるのが、事前準備なしに上司や経営者が呼び出し、口頭で「そろそろ考えてほしい」と伝えてしまうケースです。その場では従業員も黙って聞いていたのに、数日後に「退職を強要された」と主張して労働組合や弁護士に相談するというパターンが後を絶ちません。

口頭のやり取りは記録が残りません。会社側が「任意で話し合った」と言っても、従業員側が「一方的に迫られた」と言えば、客観的な証拠がない以上、会社に不利な状況になりがちです。

パターン②:解雇を匂わせながら退職を促した

「このままでは解雇になる」「会社に居場所がなくなる」といった言い方で、事実上の脅し文句を使って退職を迫るケースです。経営者としては「本当のことを言っているだけ」という感覚かもしれませんが、法律的には「脅迫的な言動による退職強要」とみなされる可能性があります。

退職勧奨が違法となる最大の理由のひとつがこれです。退職はあくまで「任意の同意」でなければなりません。解雇をちらつかせた時点で、任意性が失われたと判断されるリスクが高まります。

パターン③:退職合意書を交わさないまま「辞めることで合意した」と思い込んだ

口頭での「わかりました」「考えます」を退職の意思表示と勘違いし、退職合意書を取らないまま話を進めてしまうケースです。後日、「退職するとは言っていない」「あれは考えると言っただけだ」という主張が出てきたとき、会社には何の証拠も残っていません。

また、退職合意書を交わしていたとしても、その内容が一方的に有利すぎたり、署名を急がせたりすると「錯誤・強迫による意思表示」として取り消しを求められる場合があります。

これらの初動ミスは、問題社員を放置してきた会社ほど起こりやすい傾向があります。問題が積み重なったタイミングで感情的に動いてしまうからです。

実際に起きた事例:初動ミスが訴訟・高額解決金に発展したケース

初動の誤りが具体的にどのような結末をもたらすか、実際に近い形で整理した事例をご紹介します。

ある製造業の会社での出来事

従業員数30名ほどの製造業の会社で、遅刻・無断欠勤を繰り返す社員への対応が問題になりました。上司が何度か注意しても改善されず、業を煮やした経営者が直接その社員を呼び出し、「このままでは会社にいられなくなる。辞めることを考えてくれ」と口頭で伝えました。社員はその場では黙って聞いており、翌日から出社しなくなりました。

会社側は「退職の意思を示した」と判断し、離職票を発行。ところが数週間後、その社員から「退職を強要された」として労働審判を申し立てられました。審判では、会社側に書面での注意指導の記録がほとんどなく、口頭で「辞めろ」と迫ったことの違法性が問われました。最終的に解決金として数十万円を支払うことで和解しましたが、審判の対応に費やした経営者・担当者の時間と精神的負担は計り知れないものでした。

この事例で致命的だったのは、次の3点です。

  • 遅刻・無断欠勤に対する書面での注意指導を行っていなかった(口頭注意のみ)
  • 「このままでは辞めさせる」という言い方をしてしまった
  • 退職合意書を取らないまま離職票を発行した

いずれも、事前に弁護士に相談していれば防げたミスでした。退職勧奨で違法と言われないための進め方を理解していれば、この結果は避けられたはずです。

あわせて、そもそも退職勧奨がその社員への最適な手段なのかの確認も重要です。懲戒処分・解雇など他の選択肢との比較は「問題社員への対応手順」で弁護士が整理しています。

退職勧奨の「正しい初動フロー」ステップ形式で解説

では、退職勧奨を適法に進めるためには、最初に何をすべきなのでしょうか。以下のフローに沿って動くことが、後のトラブルを防ぐ最短ルートです。

ステップ1:退職勧奨が必要な「理由」を整理・文書化する

まず確認すべきは「なぜ辞めてほしいのか」という理由の整理です。業績不振による人員整理なのか、能力不足・勤怠不良といった本人起因の問題なのかによって、進め方が変わります。

また、これまでの注意指導・業務改善の経緯が書面で残っているかどうかを確認してください。記録がなければ、この段階から記録を整備し始めることが必要です。

ステップ2:法的リスクを事前に弁護士と確認する

退職勧奨を始める前に、弁護士に相談して法的リスクをチェックします。「この状況で退職勧奨を行うことに問題はないか」「言ってはいけないこと・してはいけないことは何か」を事前に把握しておくことで、担当者が安心して面談に臨めます。

ステップ3:面談の場・回数・担当者を設計する

退職勧奨の面談は、1対1ではなく、できれば会社側が2名以上で行います(証人の確保)。面談の場所は個室で、プライバシーを確保してください。面談の内容は要点をメモや記録に残します。

面談の回数に上限はありませんが、あまりに頻回(例:毎日・長時間)に及ぶと「執拗な退職強要」とみなされるリスクがあります。一般的には、1回あたり30〜60分程度、数回にわたって行うことが多いです。

ステップ4:退職条件を明確にし、書面で提示する

退職を促す際には、退職金の上乗せや有給消化の扱い、離職理由(自己都合か会社都合か)など、具体的な条件を書面で提示します。口頭だけの約束は後で「言った・言わない」のトラブルになります。

ステップ5:同意を得たら退職合意書を必ず取り交わす

従業員が退職に同意した場合は、必ず退職合意書を書面で締結します。合意書には、退職日・退職理由・退職金の扱い・秘密保持・今後の請求放棄(清算条項)などを盛り込みます。署名を急かすと後で「強迫だった」と主張されることがあるため、「持ち帰って検討する時間」を与えることが重要です。

顧問弁護士がいれば、初動の設計を「事前に」できる

ここまで読んでいただければわかるように、退職勧奨のリスクの大半は「動く前の準備不足」から生まれます。問題が起きてから弁護士に相談しても、すでにこじれた状況をほぐすことは容易ではありません。

顧問弁護士がいる会社では、「この社員についてどう対応すべきか」という相談を日頃から行えます。退職勧奨の前段階から、注意指導の仕方・記録の残し方・面談の設計まで一緒に準備できるため、いざ退職勧奨に踏み切るときには「すでに証拠が整った状態」でスタートできます。

これが、スポット相談(問題が起きてから依頼)と顧問契約(日頃から伴走)の最大の違いです。顧問弁護士が必要かどうか迷っている方も多いですが、退職勧奨・解雇トラブルのリスクを考えると、月額顧問料は「保険料」として非常に費用対効果が高いと言えます。

特に、以下のような状況にある会社は、早めに顧問弁護士と関係を構築することをお勧めします。

  • 問題社員への対応に日常的に悩んでいる
  • 過去に退職・解雇に関するトラブルを経験したことがある
  • 就業規則や雇用契約書が数年以上更新されていない
  • 人事担当者が不在で、経営者がひとりで判断している

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「まだ何もしていないが、辞めてほしい社員がいる」という段階からご相談いただけます。初動から適切にサポートします。

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よくある質問(FAQ)

Q1.すでに口頭で「辞めてほしい」と伝えてしまいました。今からでも取り返せますか?

A.状況によりますが、まだ取り返せる場合は多くあります。重要なのは「その後の対応を誤らないこと」です。口頭で伝えた内容が「退職の強要」にあたるかどうかは、言い方・状況・回数・従業員の反応などを総合的に判断します。まず弁護士に現状を詳しく伝え、今後の対応方針を一緒に設計することをお勧めします。状況を悪化させないためにも、従業員への追加の働きかけはいったん止めてください。

Q2.退職勧奨と解雇は何が違うのですか?経営者として知っておくべきことは?

A.退職勧奨は「会社が退職を促し、従業員が自ら退職の意思表示をする」ことで成立します。あくまで従業員の同意が前提であり、強制力はありません。一方、解雇は会社が一方的に雇用契約を終了させる行為です。日本の労働法では解雇には「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が求められ、要件を満たさない解雇は無効となります。退職勧奨は従業員の任意の同意を得る手続きであるため、適切に行えば解雇よりもリスクが低く、争われにくいという特徴があります。

Q3.退職勧奨を断られた場合、次のステップはどうすればよいですか?

A.退職勧奨はあくまで「お願い」ですので、従業員が断ることは当然の権利です。断られた場合は、(1)引き続き就労させながら業務改善を求める、(2)就業規則上の懲戒事由に該当する行為があれば懲戒処分を検討する、(3)整理解雇の要件を満たすかどうか検討する、といった選択肢があります。いずれも法的要件を満たす必要があるため、断られた段階で弁護士に相談し、次の手を一緒に設計することが重要です。感情的に「では解雇だ」と動くことが最も危険です。

監修:弁護士法人ブライト 企業法務チーム
大阪・神戸を拠点に企業法務・顧問弁護士サービスを提供。中小企業の法的リスク対応を日々サポートしています。

※本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、個別の法律アドバイスではありません。具体的な問題については弁護士にご相談ください。

本記事は、一般的な情報の提供を目的とするものであり、個別案件に関する法的助言を目的とするものではありません。また、情報の正確性、完全性及び適時性を法的に保証するものではありません。
なお、本記事の内容に関する個別の質問や意見などにつきましては、ご対応できかねます。ただし、当該記事の内容に関連して、当事務所へのご相談又はご依頼を具体的に検討されている場合には、この限りではありません。
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