この記事の執筆・監修
執筆:笹野 皓平(ささの こうへい)弁護士 / 弁護士法人ブライト
大阪弁護士会所属
労災事故における会社への損害賠償請求を中心に担当。
監修:和氣 良浩(わけ よしひろ)弁護士 / 弁護士法人ブライト 代表
「労災で家族が亡くなったら、いくらもらえるのか」——この記事にたどり着いた方の多くは、お金の話をしたくてこの言葉を検索したわけではないと思います。それでも調べざるを得ないのは、明日からの生活費、子どもの学費、住宅ローン、そして「会社の言うとおりの金額で本当にいいのか」という、誰にも聞けない不安があるからではないでしょうか。
多くの記事は「遺族補償年金が支給されます」と書いて終わります。しかし労災死亡事故で遺族が受け取れるお金は「労災保険」と「会社への損害賠償」の2つがあり、金額の桁が大きく違うのは後者です。そして労災保険からは、慰謝料が1円も支払われません。この記事では、その2つの金額を分けて、計算式と数字で示します。
この記事でわかること
- 労災死亡でもらえる金額の「2階建て構造」(労災保険の遺族給付/会社への損害賠償)
- 労災保険からいくら出るか(遺族補償年金153〜245日分・遺族特別支給金300万円・葬祭料の計算式)
- 会社への損害賠償はいくらになるか(年収・年齢・家族構成別のモデル早見表)
- 差し引かれるお金と、差し引かれないお金(損益相殺の境界線)
- 金額が減らされる3つの落とし穴(過失相殺・素因減額・会社の支払能力)
- 受け取った後に遺族年金を止められないための、和解条項の設計
労災専用06-4965-9590(平日9:00〜18:00)
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▶ ご自身のケースでいくら請求できるかは、労災の賠償額診断ツールで目安を確認できます。
【結論】労災死亡でもらえる金額は「2階建て」──労災保険だけでは慰謝料が1円も出ない
まず全体像です。仕事中の事故や業務が原因の病気でご家族を亡くされた場合、遺族が受け取れるお金には性質の異なる2つの階層があります。
図解:労災死亡でもらえる金額の「2階建て」構造
2階:会社への損害賠償請求(安全配慮義務違反)
- 死亡慰謝料(本人分+近親者固有分)… 労災保険からは1円も出ない
- 逸失利益のうち、労災保険で填補されない差額部分
- 葬儀関係費/弁護士費用/遅延損害金
▶ 金額の桁が大きいのはこちら。会社の責任を立証できて初めて請求できる
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1階:労災保険の遺族給付(会社の責任を問わずに受け取れる)
- 遺族(補償)等年金(給付基礎日額の153〜245日分/年)
- 遺族特別支給金 一律300万円/遺族特別年金
- 葬祭料等(葬祭給付)
▶ 慰謝料は含まれない。生活の土台にはなるが、これだけで終わりにはできない
ここで押さえていただきたいのは、労災保険は「補償」であって「賠償」ではないという点です。労災保険は会社に落ち度があったかどうかを問わずに支給される制度なので、慰謝料のように「精神的苦痛」を金銭評価する項目がそもそも存在しません。慰謝料・弁護士費用・遅延損害金は、会社に請求して初めて受け取れるお金です。
死亡労災全体の流れ(労災申請から会社への請求まで)は仕事中の死亡事故で遺族が取るべき行動と請求できる全補償|労災死亡の完全ガイドで解説しています。本記事は、そのうち「金額」だけを深掘りする記事です。
1階:労災保険の遺族給付でもらえる金額(計算式と早見表)
労災保険の遺族給付は、生計を維持されていた遺族の人数によって年金額が変わります。金額の単位になるのが「給付基礎日額」(原則として労働基準法の平均賃金に相当する額。ざっくり言えば事故前3か月の賃金を暦日数で割った1日あたりの賃金)です。
遺族(補償)等年金の支給日数(人数別)
| 遺族の人数 | 遺族(補償)等年金 | 遺族特別年金 |
|---|---|---|
| 1人 | 給付基礎日額の153日分/年 (55歳以上、または一定の障害がある妻の場合は175日分) | 算定基礎日額の153日分/年 (同上の場合175日分) |
| 2人 | 給付基礎日額の201日分/年 | 算定基礎日額の201日分/年 |
| 3人 | 給付基礎日額の223日分/年 | 算定基礎日額の223日分/年 |
| 4人以上 | 給付基礎日額の245日分/年 | 算定基礎日額の245日分/年 |
これに加えて、次の給付があります。
| 給付の種類 | 金額 | 性質 |
|---|---|---|
| 遺族特別支給金 | 遺族の数にかかわらず一律300万円 | 一時金(1回のみ) |
| 遺族(補償)等一時金 | 給付基礎日額の1,000日分 | 年金を受けられる遺族がいない場合等の一時金 |
| 遺族特別一時金 | 算定基礎日額の1,000日分 | 上記に対応する特別支給金 |
| 葬祭料等(葬祭給付) | 315,000円+給付基礎日額の30日分 (その額が給付基礎日額の60日分に満たない場合は60日分) | 葬祭を行った方への一時金 |
葬祭料の計算はここでつまずく方が多いので補足します。「315,000円+給付基礎日額の30日分」と「給付基礎日額の60日分」を両方計算して、高いほうが支給されます。給付基礎日額が10,500円を超える方(年収でおおむね383万円以上が目安)は、後者の「給付基礎日額の60日分」のほうが高くなります。
年金には「前払一時金」という選択肢もある
遺族(補償)等年金には、将来の年金の一部をまとめて先に受け取る前払一時金の制度があります(給付基礎日額の200日分・400日分・600日分・800日分・1,000日分から選択)。当面の生活費や葬儀費用の支払いに充てられる一方、前払を受けた分は年金の支給が一定期間止まります。会社への損害賠償請求との関係でも影響が出るため、選択の前に弁護士に確認されることをおすすめします。
なお、遺族補償年金の受給権は相続の対象ではなく、受給資格のある遺族に順位に従って承継されます。詳しくは遺族補償年金は相続できる?受給権の承継ルールをご覧ください。
2階:会社への損害賠償で請求できる金額の内訳
会社が安全配慮義務(労働契約法5条/民法415条・709条)に違反していた場合、遺族は会社に対して損害賠償を請求できます。項目は次のとおりです。
| 損害項目 | 内容 | 金額の目安・計算基準 |
|---|---|---|
| 死亡慰謝料 | 本人の精神的苦痛+近親者固有の慰謝料 | 一家の支柱:2,800万円前後/母親・配偶者:2,500万円前後/その他:2,000万〜2,500万円 (裁判実務で参照される基準額。本人分と近親者分を合わせた総額の目安) |
| 死亡逸失利益 | 亡くならなければ将来得られたはずの収入 | 基礎収入×(1−生活費控除率)×ライプニッツ係数 |
| 葬儀関係費 | 葬儀・埋葬に要した費用 | 原則150万円(実際の支出がこれを下回る場合は実支出額) |
| 死亡までの治療費・付添費・入院雑費 | 亡くなられるまでの入院期間分 | 実費・日額基準 |
| 死亡までの休業損害 | 事故から死亡までの収入減 | 基礎日額×実日数 |
| 弁護士費用 | 訴訟で認容された場合 | 認容額の10%程度が損害として認められる運用 |
| 遅延損害金 | 事故日から支払いまでの遅延利息 | 年3%(2020年4月1日以降に発生した事故) |
なお、会社への請求を実際にどう進めるか(労災申請から証拠収集、示談交渉、訴訟までの手順)は仕事中の死亡事故で遺族が会社に請求できる損害賠償|相場・手続き・弁護士活用法で解説しています。本記事は手続きではなく「金額の算定」に絞って解説します。
この表のうち、死亡慰謝料・弁護士費用・遅延損害金は労災保険では一切填補されません。労災保険の手続きだけで終わらせると、金額として最も大きい項目のひとつを丸ごと取り逃すことになります。
また、「本人の慰謝料」と「遺族固有の慰謝料」は法的な性質が違い、相続の扱いも変わります。詳しくは慰謝料の二重構造|本人慰謝料は相続・近親者慰謝料は固有で解説しています。
【早見表】年収・年齢・家族構成別のモデル金額(労災保険+会社への賠償)
「結局いくらになるのか」を掴んでいただくために、3つのモデルケースで両方の金額を並べます。いずれも計算式に数値を当てはめた試算であり、実際の金額は事故態様・過失割合・会社の資力によって変動します。
※モデルの前提:本記事の「年収」は賞与を除いた金額として給付基礎日額を概算し(年収÷365日)、賞与は別途「算定基礎日額」として遺族特別年金の計算に用いています。実際の給付基礎日額は、事故直前3か月間に支払われた賃金の総額をその期間の暦日数で割って算定するため、下表の概算とは端数が異なります。
ケース1:35歳・年収400万円・妻と子1人(遺族2人)
| 区分 | 項目 | 金額 |
|---|---|---|
| 1階 労災保険 | 遺族(補償)等年金(201日分) | 年 約220万円 (給付基礎日額 約10,959円×201日) |
| 遺族特別年金(賞与年80万円想定・201日分) | 年 約44万円 | |
| 遺族特別支給金 | 300万円(一時金) | |
| 葬祭料等 | 約65万7,000円(60日分) | |
| 2階 会社への 損害賠償 | 死亡逸失利益 400万円×(1−0.30)×20.389(32年) | 約5,709万円 |
| 死亡慰謝料(一家の支柱) | 2,800万円 | |
| 葬儀関係費 | 150万円 | |
| 会社への請求額(損益相殺前) | 約8,659万円 |
ケース2:45歳・年収600万円・妻と子2人(遺族3人)
| 区分 | 項目 | 金額 |
|---|---|---|
| 1階 労災保険 | 遺族(補償)等年金(223日分) | 年 約367万円 (給付基礎日額 約16,438円×223日) |
| 遺族特別年金(賞与年100万円想定・223日分) | 年 約61万円 | |
| 遺族特別支給金 | 300万円(一時金) | |
| 葬祭料等 | 約98万6,000円(60日分) | |
| 2階 会社への 損害賠償 | 死亡逸失利益 600万円×(1−0.30)×15.937(22年) | 約6,694万円 |
| 死亡慰謝料(一家の支柱) | 2,800万円 | |
| 葬儀関係費 | 150万円 | |
| 会社への請求額(損益相殺前) | 約9,644万円 |
ケース3:55歳・年収500万円・妻のみ(遺族1人・妻は55歳以上)
| 区分 | 項目 | 金額 |
|---|---|---|
| 1階 労災保険 | 遺族(補償)等年金(175日分) | 年 約240万円 (給付基礎日額 約13,699円×175日) |
| 遺族特別年金(賞与年80万円想定・175日分) | 年 約38万円 | |
| 遺族特別支給金 | 300万円(一時金) | |
| 葬祭料等 | 約82万2,000円(60日分) | |
| 2階 会社への 損害賠償 | 死亡逸失利益 500万円×(1−0.40)×9.954(12年) | 約2,986万円 |
| 死亡慰謝料(一家の支柱) | 2,800万円 | |
| 葬儀関係費 | 150万円 | |
| 会社への請求額(損益相殺前) | 約5,936万円 |
3つのケースを見比べると、年齢が上がるほど逸失利益が下がり、慰謝料の比重が大きくなることが分かります。50代の被災者の遺族から「労災保険が出るならもう十分では」というご相談を受けることがありますが、慰謝料は労災保険から出ないため、年齢が高い方ほど「会社に請求するかどうか」で総額の差が大きくなるのが実態です。
ご家族の年収・年齢・家族構成から、概算金額を試算します
上記は一般的なモデルです。実際の金額は事故態様・過失の有無・会社の資力によって変わります。お電話でお聞きした情報をもとに、おおよその見通しをお伝えします(資料を確認したうえで金額が変わることがあります)。相談料は原則3回まで無料です。
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死亡逸失利益の計算構造──ライプニッツ係数と年収別の計算例
死亡労災の賠償額でいちばん大きくなるのが逸失利益です。計算式は次のとおりです。
死亡逸失利益 = 基礎収入 ×(1 − 生活費控除率)× ライプニッツ係数
- 基礎収入:原則として事故前年の実収入(給与+賞与)。若年者や収入が変動していた方は賃金センサス(厚生労働省・賃金構造基本統計調査)の平均賃金を用いることがあります。
- 生活費控除率:生存していれば本人が使ったはずの生活費を差し引く割合。実務上の目安は、一家の支柱で被扶養者1人なら40%、被扶養者2人以上なら30%、女性は30%、独身男性は50%とされています。
- ライプニッツ係数:将来の収入を現在価値に引き直すための係数(中間利息控除)。法定利率年3%(2020年4月1日以降)に対応する係数を使います。
- 就労可能年数:原則として67歳までの年数。高齢の方は「67歳までの年数」と「平均余命の2分の1」のいずれか長いほうを用いる運用です。
年収・年齢別 逸失利益の計算例(生活費控除率40%・法定利率3%)
| 年収 | 被災時年齢 | 就労可能年数 (67歳まで) | ライプニッツ係数 | 逸失利益(概算) |
|---|---|---|---|---|
| 300万円 | 30歳 | 37年 | 22.167 | 約3,990万円 |
| 400万円 | 35歳 | 32年 | 20.389 | 約4,890万円 |
| 500万円 | 40歳 | 27年 | 18.327 | 約5,500万円 |
| 600万円 | 45歳 | 22年 | 15.937 | 約5,740万円 |
| 700万円 | 50歳 | 17年 | 13.166 | 約5,530万円 |
| 800万円 | 45歳 | 22年 | 15.937 | 約7,650万円 |
| 1,000万円 | 45歳 | 22年 | 15.937 | 約9,560万円 |
逸失利益と労災保険給付の関係(どこまで差し引かれるのか)の詳しい計算は、死亡労災の逸失利益と遺族補償年金の損益相殺|慰謝料相場・計算方法で個別に解説しています。
死亡慰謝料の相場と、金額が上振れする事情
死亡慰謝料は、裁判実務で参照される基準額(いわゆる「赤い本」=民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準の考え方)が、労災の死亡事案でも参考にされる傾向があります。この基準額は「本人の慰謝料」と「近親者固有の慰謝料」を合わせた総額の目安である点に注意してください(別々に足し上げる性質のものではありません)。
| 被災者の立場 | 死亡慰謝料の目安(本人分+近親者分の合計) |
|---|---|
| 一家の支柱(被扶養家族がいる方) | 2,800万円前後 |
| 母親・配偶者 | 2,500万円前後 |
| その他(独身の方・お子さま・高齢の方など) | 2,000万〜2,500万円 |
基準額より増額される可能性がある事情
- 会社の落ち度が重い:過去に労働基準監督署の是正勧告を受けながら改善していなかった/同種のヒヤリハットが繰り返し報告されていたのに放置していた
- 事故から死亡までに苦痛の期間があった:即死ではなく、入院・治療の期間があった
- 事故後の対応が不誠実:謝罪がない/現場の状況を改変した/労働者死傷病報告に事実と異なる記載をした
- 遺族への打撃が特に重大:幼いお子さまが複数いる/遺族が事故を目撃した/遺族自身が精神疾患を発症した
実務では、この「増額事情」を主張できるかどうかで数百万円単位の差が出ます。増額事情の評価には、事故状況やその後の経過などが影響し得ます。証拠の押さえ方は労災事故の証拠保全|証拠保全申立から労働局への開示請求までをご覧ください。
差し引かれるお金・差し引かれないお金(損益相殺の境界線)
「労災保険からももらえて、会社からももらえるなら二重取りでは?」と心配される方が多いのですが、同じ損害を埋める部分だけは調整される(損益相殺)という仕組みになっています。逆に言えば、調整されない項目は満額そのまま残ります。
| 損害項目 | 対応する労災保険給付 | 賠償額から差し引かれるか |
|---|---|---|
| 逸失利益 | 遺族(補償)等年金・一時金 | 差し引かれる(すでに支給を受けた分・前払一時金の限度) |
| 葬儀関係費 | 葬祭料等 | 差し引かれる |
| 死亡慰謝料 | なし | 差し引かれない |
| 弁護士費用 | なし | 差し引かれない |
| 遅延損害金 | なし | 差し引かれない |
実務で争いになりやすいのは「まだ受け取っていない将来の年金分まで先に差し引けるか」です。この点は確立した判例法理により、現に支給を受けた分(および前払一時金の限度)を超えて、将来支給される年金分を先取りして控除することは認められないという整理が定着しています。会社側から提示された示談案が「将来の年金見込額まで差し引いた金額」になっていることは珍しくありません。
見落とされがちな争点:会社が掛けていた保険金・弔慰金は差し引かれるのか
死亡労災の示談交渉では、会社側から次のような主張が出てくることがあります。
「会社が加入していた生命保険から保険金が支払われている。これは賠償金の一部として差し引くべきだ」
この主張が通るかどうかは、その保険金の目的・保険料の負担者・受取人の指定によって変わります。会社が福利厚生として掛けていた保険(従業員の遺族への上乗せ給付として設計されたもの)であれば、損害の填補を目的としたものではないため、損益相殺の対象にならないと主張できる余地があります。一方、賠償の原資として用意された「使用者賠償責任保険」からの支払いであれば、賠償金そのものです。
あわせて確認が必要なのが、その保険金を誰が受け取る立場にあるのかです。生命保険金は受取人の指定の有無や約款の定めによって、相続財産として扱われるか、受取人固有の財産として扱われるかが分かれます。遺族が複数いる場合には分配にも影響しますので、保険証券と約款を確認したうえで整理する必要があります。
会社から支払われる見舞金・弔慰金についても同様に、「賠償の前払い」なのか「純粋な儀礼・福利厚生」なのかで扱いが変わります。受け取る前に性質を確認しておくべきです(労災の見舞金は受け取ってよいか|損害賠償との差額もあわせてご覧ください)。
【ブライトの判断基準】「差し引く」と言われたら、その根拠まで確認する
会社側から「保険金が出ているので、その分は賠償額から引きます」と言われたとき、多くの方はそういうものかと受け入れてしまいます。しかしブライトは、その保険が何のために・誰の負担で・誰のために掛けられたものかを約款と契約書まで遡って確認します。
「『引かれるのが当然』の一言で諦めない。差し引きの根拠は、こちらから検証する。」これが、ブライトが死亡労災の交渉で一貫して大切にしている考え方です。
会社が提示する示談金が「相場より低い」典型パターン5つ
会社や会社側の保険会社から示談を打診されたとき、その金額が低く抑えられている典型的な理由は次の5つです。
| # | 低くなる理由 | 影響の大きさ |
|---|---|---|
| 1 | 慰謝料が入っていない、または相場より大幅に低い(「労災保険が出るから」と説明される) | 数千万円規模 |
| 2 | 将来の遺族年金まで先取りして差し引いている | 数百万〜数千万円規模 |
| 3 | 生活費控除率を高く設定している(被扶養者が複数いるのに50%で計算されているなど) | 数百万〜1,000万円規模 |
| 4 | 基礎収入を低く見積もっている(賞与を除いている・残業代を含めていない・昇給見込みを無視している) | 数百万円規模 |
| 5 | 弁護士費用・遅延損害金が加算されていない | 認容額の10%+年3%の累積 |
示談を打診されやすいタイミング
- 事故直後(1〜2週間):判断がつかない時期に「早期解決」として提示される
- 葬儀の直後:「区切りをつけたい」という気持ちが強くなる時期
- 労災保険の支給決定が出た直後:「労災も出たので、あとは上乗せ分で」という形で提示される
示談書に一度署名すると、後から増額を求めることは原則できません。「本件に関し、当事者間に他に何らの債権債務がないことを相互に確認する」といった清算条項が入るためです。金額の妥当性に確信が持てないうちは、署名を保留してください。
示談書に署名する前に、内訳をご確認ください
提示された金額そのものより、「どの項目が入っていて、どの項目が抜けているか」が重要です。示談書・計算書をお手元にご用意のうえご連絡いただければ、抜けている項目と増額の余地をお伝えします。
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金額が減らされる3つの落とし穴(過失相殺・素因減額・会社の支払能力)
計算上の金額が出ても、そのまま受け取れるとは限りません。実務で金額を押し下げる要因は主に3つです。
落とし穴①:過失相殺──「本人が墜落制止用器具を使わなかった」は本当に本人の落ち度か
会社側がほぼ必ず主張してくるのが過失相殺です。転落・墜落事故では「墜落制止用器具(安全帯)を使っていなかった」「決められた手順に従わなかった」という形で、過失割合を5割前後と主張されることがあります。過失割合が5割になれば、損害額は半分と評価されます。ただし、実際に受け取る賠償額は労災保険給付との調整(損益相殺)を経て決まるため、そのまま半分になるとは限りません。
ここで当法人が必ず確認するのは、「そもそも墜落制止用器具を掛けられる設備があったのか」という点です。親綱や取付設備が設置されていなければ、労働者は墜落制止用器具を使いたくても使えません。「使わなかった」という事実の手前に、「使える状態にしていなかった」という会社側の義務違反があるケースは実際に少なくありません。会社が「安全な作業姿勢を指導していた」と主張してきた場合も、その姿勢が現実の作業環境で取り得たものかを、現場の寸法や動線から検証します。
過失相殺・使用者責任への反論の考え方は労災で会社の安全配慮義務違反を問う|使用者責任・過失相殺への反論・賠償保険の活用で詳しく解説しています。
落とし穴②:素因減額・因果関係の否定──「持病が原因では」という主張
特に目撃者のいない事故や、過労死・脳心臓疾患による死亡では、会社側が「もともとの持病が原因であって、業務が原因ではない」と主張してくることがあります。これが通ると、賠償額が減額されるだけでなく、責任そのものが否定されかねません。
この局面では、診療記録・健康診断結果・勤務実態(労働時間、深夜勤務、作業環境)を突き合わせ、業務が死亡に対してどの程度寄与したかを組み立て直す作業が必要になります。会社側から医師の意見書が提出されることもあり、こちらも協力医の意見を得たうえで反論の可否を判断します。
【ブライトのポリシー】「立証が難しい」で終わらせない
目撃者のない死亡事故で会社が「本人の持病が原因だ」と主張したとき、立証の困難さを理由に消極的な判断をすることもできます。しかしブライトは、協力医の意見・現場の物理的検証・勤務記録の検証といった手段を尽くしたうえで、見通しをご遺族に正直にお伝えする方針をとっています。
「『立証が難しい』の一言で諦めない。手を尽くしたうえで、勝ち筋と落としどころを、遺族と一緒に決める。」これが、ブライトが死亡労災で一貫して大切にしている考え方です。
落とし穴③:会社に支払能力がない──「勝っても回収できない」を防ぐ
意外に思われるかもしれませんが、死亡労災の交渉で最後に立ちはだかるのは「会社にお金があるか」です。中小規模の事業者では、使用者賠償責任保険(労災上乗せ保険)に加入していないことが珍しくありません。その場合、賠償金は会社の自己資金から支払われることになります。
当法人では、相手方に資力の不安がある事案では次のような確認・対応を検討します。
- 使用者賠償責任保険の加入の有無と支払限度額を早い段階で確認する
- 会社の商業登記・本店所在地の不動産登記を取得し、資産の有無を把握する
- 代表者個人の責任(会社法429条1項・民法709条等)を併せて追及できる事案かを検討する
- 回収の実効性を高めるため、分割払いの条件設計(頭金の割合・期限の利益喪失条項・連帯債務)を交渉する
- 状況によっては保全(仮差押え)の要否を検討する(ただし費用対効果とリスクを必ず事前にご説明します)
「いくら請求できるか」だけでなく「いくら回収できるか」まで設計するのが、死亡労災の実務です。紙の上の金額と、実際に振り込まれる金額は別物だからです。
受け取った後に減らされないために──遺族年金の支給調整と和解条項の設計
あまり語られませんが、示談が成立した後に「支給されるはずだった遺族年金が調整(減額・停止)される」という問題があります。会社から損害賠償を受け取ると、同じ損害を填補する部分について、労災保険の給付が一定期間差し控えられる(支給調整される)ことがあるためです。
解決から数か月後に年金の実施機関から「受け取った賠償金の内訳を教えてほしい」という照会が届き、そこで初めてこの問題に気づく、というケースがあります。解決額そのものは変わらなくても、その後に入るはずだった年金が止まれば、遺族の手取り総額は目減りします。
そこで当法人では、和解・示談の段階から次の点を設計します。
- 解決金の性質(内訳を細分化するか、包括的な解決金とするか)を意識して条項を組む
- 清算条項・口外禁止条項の要否を、遺族のご希望(再就職先への影響など)を踏まえて判断する
- 解決後に照会が来た場合の対応方針を、あらかじめご遺族と共有しておく
もっとも、最終的な支給調整の判断は年金の実施機関が行うものであり、条項の工夫によってリスクを下げることはできても、結果を保証できるものではありません。この点は最初にご説明したうえで方針を決めています。
遺族が複数いる場合、受け取った金額はどう分けるのか
金額の話でもう一つ避けて通れないのが、遺族間の分配です。配偶者とご両親、あるいは兄弟姉妹の間で、受け取った金額の分け方をめぐって関係が難しくなることがあります。
| お金の種類 | 誰のものか | 分配の考え方 |
|---|---|---|
| 本人の死亡慰謝料・逸失利益 | いったん本人に発生し、相続される | 法定相続分に従って分配(遺産分割協議の対象) |
| 近親者固有の慰謝料 | 近親者自身の固有の権利 | 相続財産ではない。各人がそれぞれ請求できる |
| 遺族(補償)等年金 | 受給資格のある遺族の固有の権利 | 相続の対象ではなく、法定の順位で決まる |
| 会社が掛けていた保険金 | 受取人の指定による | 受取人が指定されていれば、その人の固有財産 |
この整理を最初にしておかないと、示談交渉の途中で遺族間の意見が割れ、会社との交渉が止まってしまいます。詳しくは遺産分割協議書に賠償金を含める?複数遺族の調整実務、税務の扱いは労災死亡賠償金と相続税|非課税扱いと申告実務をご覧ください。
弁護士が入ると、金額のどこが変わるのか
弁護士が関与することで金額が動くのは、次の3つの局面です。いずれも特別な交渉術ではなく、計算と検証の作業です。
- ①請求項目の漏れをなくす——慰謝料の水準、近親者固有の慰謝料、弁護士費用、事故日からの遅延損害金。会社側の提示計算書には入っていないことが多い項目を、根拠とともに積み上げます。
- ②差し引きの根拠を検証する——「保険金が出ているから」「年金が出るから」という理由で控除された金額について、その給付の目的・負担者・受取人まで遡り、控除の可否を法的に整理します。
- ③回収可能性まで設計する——会社の資力・保険加入状況を確認したうえで、一括か分割か、期限の利益喪失条項をどう置くかまで含めて条件をつくります。
あわせて、ご遺族が会社と直接やり取りする負担がなくなることも、実務上は小さくない意味を持ちます。
つまり金額の差が生まれるのは交渉テクニックではなく、当たり前の作業を一つずつ積み上げるかどうかです。弁護士が入ることで実際に何が変わるかは労災弁護士を使うと何が変わる?介入前後の金額差と依頼すべき3つの理由でも整理しています。
請求できる期限(時効)──制度ごとに年数が違う
「金額」と同じくらい重要なのが期限です。労災保険の請求と、会社への損害賠償請求では時効の年数が異なります。
| 請求の種類 | 期間 | 起算点 |
|---|---|---|
| 会社への損害賠償請求(生命・身体の侵害) | 5年 | 不法行為構成では損害および加害者を知った時から5年(民法724条の2)、不法行為の時から20年。安全配慮義務違反(債務不履行)構成では権利を行使できることを知った時から5年(民法166条1項1号) |
| 遺族(補償)等給付 | 5年 | 被災労働者が亡くなった日の翌日 |
| 葬祭料等(葬祭給付) | 2年 | 被災労働者が亡くなった日の翌日 |
時効までまだ期間があっても、証拠は時間とともに失われます。現場は復旧され、機械は改修され、当時の従業員は退職します。金額を左右するのは条文よりも証拠であることを考えると、早い段階でご相談いただく意味は大きいと考えています。
弁護士費用と、依頼するかどうかの判断軸
弁護士法人ブライトの労災事件は、着手金0円・完全成功報酬制を基本としています。ご依頼の時点でお金をご用意いただく必要はなく、解決して回収できた金額の中から報酬をいただく仕組みです。相談料は原則3回まで無料です。
具体的な料金体系は労災の弁護士費用(費用倒れを防ぐ判断軸)に掲載しています。判断していただきたいのは金額よりも、「弁護士に依頼して増える見込み額が、費用を上回るか」です。ご相談の際は、その見通しを最初にお伝えします。
なお、弁護士法人ブライトは顧問先130社以上の企業法務を担当しています。会社側がどのような論理で責任を否定し、どこで折り合いをつけようとするのかを日常的に見ているため、会社側の反論・対応パターンを踏まえ、交通事故分野で培った賠償実務・訴訟・示談交渉・保険実務の経験を注いだ交渉設計ができます。この経験が、損害額の立証と落としどころの見極めにそのまま活きます。
まずは「いくらになりそうか」だけでも確認してください
依頼するかどうかは、金額の見通しを聞いてから決めていただいて構いません。ご家族の年齢・年収・家族構成、そして事故の状況をお聞かせいただければ、請求できる項目と概算の金額をお伝えします。
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よくあるご質問
Q1:労災保険の遺族補償年金をもらいながら、会社にも損害賠償を請求できますか?
できます。労災保険の給付と会社への損害賠償は別の制度です。すでに受け取った年金額は逸失利益から差し引かれますが、死亡慰謝料・遺族特別支給金・弁護士費用・遅延損害金は差し引かれません。「二重取りになるのでは」という理由で会社への請求を諦める必要はありません。
Q2:労災保険だけで、だいたいいくらもらえますか?
遺族の人数と給付基礎日額によります。たとえば年収600万円・遺族3人であれば、遺族(補償)等年金が年約367万円、これに遺族特別年金、一時金として遺族特別支給金300万円、葬祭料等が加わります(本記事のケース2参照)。ただしここに慰謝料は1円も含まれていません。
Q3:会社が「保険で払える金額はここまでが限界」と言っています。
会社の保険の限度額は、会社と保険会社の間の問題であって、遺族への支払義務の範囲とは無関係です。保険で足りない部分は会社自身の財産から支払う義務があります。ただし現実の回収可能性は別問題なので、会社の資産状況を把握したうえで、一括か分割か、条件をどう設計するかを判断します。
Q4:会社から「見舞金」や「弔慰金」を受け取ってしまいました。不利になりますか?
受け取ったこと自体が直ちに不利になるわけではありませんが、後に会社から「賠償金の前払いだった」と主張される可能性があります。振込の名目・添えられていた書面・受領書の文言が重要になりますので、破棄せず保管してください。
Q5:会社が労災だと認めてくれません。金額の話以前で止まっています。
労災保険の請求は、会社が事業主証明を拒んでも労働基準監督署に提出できます。認定するのは会社ではなく労働基準監督署です。会社が事故の存在自体を争っている場合は、金額の交渉に入る前に証拠を確保することが最優先になります。
Q6:会社の担当者が書類送検されました。賠償金は増えますか?
刑事責任と民事賠償は別の手続きですが、捜査で明らかになった事実(安全装置の不備・法令違反)は、民事の交渉でも会社の落ち度を裏づける材料になります。慰謝料の増額事情として主張できる場合もあります。詳しくは労災死亡事故で会社と経営者が書類送検・逮捕されるケース|刑事責任と民事賠償の関係をご覧ください。
Q7:もう1年以上経っています。今からでも間に合いますか?
会社への損害賠償請求は5年、遺族(補償)等給付は5年ですので、期間としては間に合う可能性が高いです。ただし葬祭料等は2年と短く、また証拠は時間とともに失われます。まずは現時点で何が残っているかを確認するところから始めましょう。
まとめ
- 労災死亡でもらえる金額は「労災保険の遺族給付」と「会社への損害賠償」の2階建て。慰謝料は2階にしかない
- 労災保険=遺族(補償)等年金(給付基礎日額の153〜245日分/年)+遺族特別支給金300万円+葬祭料等
- 会社への賠償=死亡慰謝料(2,000万〜2,800万円前後)+逸失利益+葬儀費+弁護士費用+遅延損害金
- 差し引かれる(損益相殺)のはすでに受け取った年金と葬祭料まで。慰謝料・特別支給金・弁護士費用・遅延損害金は残る
- 金額を押し下げるのは過失相殺・素因減額・会社の支払能力の3つ。いずれも事前の設計で結果が変わる
- 時効は損害賠償5年/遺族給付5年/葬祭料2年。証拠はそれより早く失われる
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「金額の話をするのがつらい」というお気持ちのまま、会社の提示額で区切りをつけてしまう方が少なくありません。まずは、請求できる項目の一覧と概算をお伝えするところからで構いません。相談料は原則3回まで無料、着手金は0円で、完全成功報酬でお受けしています。
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