労働者を新規採用するとき、「雇用契約書」と「労働条件通知書」のどちらを交付すべきか。実務ではしばしば混同されるが、法的根拠と機能が異なる別の書面である。労基法15条の通知義務との関係、後日の紛争予防の観点から、両者の使い分けを整理する。
この記事の結論
- 労働条件通知書は労基法15条で交付が法的義務(一方的書面)
- 雇用契約書は契約書としての双方合意。法的義務ではないが紛争予防のため強く推奨
- 実務上は「労働条件通知書 兼 雇用契約書」の一体型を運用するのが最も合理的
法的位置づけの違い
労働条件通知書(労基法15条)
労働基準法15条は、使用者が労働契約締結に際し、賃金・労働時間その他の労働条件を労働者に明示しなければならないと定める。明示事項は労基法施行規則5条で詳細に規定されている。違反すると30万円以下の罰金(労基法120条1号)。
雇用契約書(民法上の契約書)
雇用契約書は民法623条以下の雇用契約を書面化したもので、双方が署名押印する契約書。労基法上の交付義務はないが、契約成立を客観的に立証し、後日の労働条件をめぐる紛争を予防する機能がある。
労働条件通知書の必須記載事項
労基則5条1項は、書面交付が必須の「絶対的明示事項」を6項目定めている。
- 労働契約の期間(期間の定めの有無、ある場合は期間)
- 期間の定めある場合の更新基準
- 就業の場所・従事すべき業務の内容
- 始業終業時刻・所定労働時間を超える労働の有無・休憩時間・休日・休暇・交替制勤務のローテーション
- 賃金(退職手当・臨時賃金等を除く)の決定・計算・支払方法・締切・支払時期・昇給
- 退職に関する事項(解雇事由を含む)
電子交付は可能か
2019年4月施行の労基則改正により、労働者が希望した場合に限り、ファクシミリ・電子メール等での交付が認められている。社内チャットツール・SaaS人事システム経由での通知でも、出力して書面化できる形式であれば許容される。
ただし「労働者が希望した」ことの記録を残すこと、メール本文ではなくPDF等のファイル添付として送ることが望ましい。
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実務上の合理的な運用
中小企業の人事実務では「労働条件通知書 兼 雇用契約書」という1枚の書面に統合する運用が最も多い。労基法15条の必須項目を網羅しつつ、双方署名欄を設けることで雇用契約書としての機能も果たす。
メリットは①労基法違反のリスクを排除、②契約成立の客観的立証、③労使双方が同じ書面を保管、の3点。デメリットは特になく、人事担当者の運用負荷も増えない。雇用契約書だけを作って労働条件通知書を出さないケースが意外に多いが、労基法15条違反として行政指導の対象になる可能性がある。
違反した場合のリスク
- 労基法120条1号により30万円以下の罰金(実務上は是正勧告・指導が先行)
- 労働者から「明示された条件と異なる」として労働契約の即時解除を主張される(労基法15条2項)
- 労働審判・訴訟で労働条件をめぐる立証責任が使用者側に偏る
- 助成金申請の要件違反(雇用関係助成金は労働条件通知書の交付が前提)
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