「うちでそんな大事になるとは思っていなかった」という言葉を、顧問先の社長から何度聞いてきたか知れません。ハラスメントに関する相談は、最初は「ちょっと社内がギスギスしている」「あの上司はちょっとキツいかもしれない」という程度の話として始まることがほとんどです。ところが気づいたときには、弁護士名義の内容証明が届き、何百万円もの損害賠償を求められている。そんな事態がいま、規模を問わず多くの会社で起きています。
社長は法務の専門家である必要はありませんが、「なぜこうなったのか」の構造を知っておくことが、次の判断を間違えないための最大の防御になります。この記事では、ハラスメントによる損害賠償請求がどのように発展するのか、そのとき顧問弁護士がいるかどうかで何が変わるのかを、実際の裁判例も踏まえながら具体的に解説します。
なぜ「うちは大丈夫」という判断が裏切られるのか
ハラスメント問題が訴訟にまで発展してしまうケースには、共通した構造があります。それは、「問題が見えていたのに、動くタイミングを誤った」という点です。
社長が動けない理由はいくつかあります。第一に、「当事者間の問題」として経営者が距離を置いてしまうこと。「人間関係のことだから」「現場に任せている」という判断が、初期対応の遅れにつながります。第二に、「訴えるとは思っていなかった」という楽観バイアス。退職した元従業員が法的手段を取るとは想定していないため、退職時の対応が甘くなります。第三に、会社として何が起きていたかの記録が残っていないこと。これが、いざ訴訟になったときに致命的な弱点になります。
たとえば、熊本地方裁判所令和7年10月8日判決(令和5年(ワ)第575号)は、消防職員が先輩職員からのハラスメントにより精神疾患を発症して自殺したとして、遺族が損害賠償を求めた事案です。裁判所は被告(広域連合)に対し、原告Aに3540万6828円、原告B・Cそれぞれに2414万8952円の支払を命じました。この判決が示すように、職場での出来事が死亡事案につながった場合、使用者として問われる責任の規模は社長の想定をはるかに超えることがあるのです。
また、長崎地方裁判所令和7年10月3日判決(令和3年(ワ)第144号ほか)では、未払賃金に加えてハラスメントを含む損害賠償請求が複合的に提起され、被告会社は原告Aに対して5912万9601円もの支払を命じられています。「ハラスメントで訴えられた」という話が、実際には数千万円規模の問題になりうるという現実を、裁判例は示しています。
顧問契約 120社超 / 弁護士歴 平均15年以上 / 大阪・全国対応
弁護士歴15年以上の専属チームが、
貴社の"法務部"になります
弁護士法人ブライトの「みんなの法務部」は、契約書・債権回収・労務トラブル・M&Aまで伴走支援します。
▲ M&A・契約・労務の必須チェック項目をPDFで配布中
平日 9:00-18:00(TEL)/ LINE 24時間受付
問題が起きる前にできること——顧問弁護士の予防的な役割
多くの社長は、弁護士は「もめてから使うもの」と考えています。しかし実際には、問題が起きる前の段階でこそ、弁護士の関与が最も大きな価値を生みます。
顧問弁護士がいる会社でできる予防的な取り組みは、大きく3つあります。
- 就業規則・ハラスメント防止規程の整備:ハラスメント防止措置は法律上の義務です。しかし「規程はある」だけでは不十分で、実際に機能する内容になっているか、最新の法改正に対応しているかを定期的に確認する必要があります。顧問弁護士がいれば、この確認を継続的に行えます。
- 相談窓口の設計と運用チェック:相談窓口を設けていても、従業員が「言っても無駄」と感じる運用になっていれば機能しません。窓口への相談を受けた後の対応フロー、記録の残し方、調査の進め方まで整備されているかを弁護士の視点で確認しておくことが重要です。
- 管理職向け研修の内容確認:「指導」と「ハラスメント」の境界線は、管理職自身がわかっていないことが多い。裁判で問われるのは、会社として予見可能性があったかどうかです。研修の内容と記録を残しておくことが、後の防御になります。
大阪地方裁判所令和7年11月28日判決(令和6年(ワ)第7743号)は、上司の「友達ちゃうねんぞ」という発言等がパワーハラスメントにあたるかが争われた事案です。最終的に原告の請求は棄却されましたが、この種の事案でも「被告市の安全配慮義務違反の有無」が争点として立てられていた点は注目に値します。使用者として、職場環境を整備していたかどうかが問われているのです。
顧問契約 120社超 / 弁護士歴 平均15年以上 / 大阪・全国対応
弁護士歴15年以上の専属チームが、
貴社の"法務部"になります
弁護士法人ブライトの「みんなの法務部」は、契約書・債権回収・労務トラブル・M&Aまで伴走支援します。
▲ M&A・契約・労務の必須チェック項目をPDFで配布中
平日 9:00-18:00(TEL)/ LINE 24時間受付
問題が発生したときの対応フロー——証拠の残し方が勝負を決める
ハラスメントの訴えが社内から上がってきたとき、あるいは退職した従業員から内容証明が届いたとき、最初の72時間の動き方が後の結果を大きく左右します。
やってはいけないことが3つあります。
- 当事者(加害者とされる人物)と被害者を直接話し合わせる
- 「社内で解決できる」と判断して記録を取らずに進める
- 「まず相手の言い分を聞く」だけで終わらせ、会社としての対応方針を決めないまま時間を過ごす
証拠は、紛争になってから急に作れるものではありません。重要なのは、ハラスメントの訴えを受けた時点で、何を言われたのか・いつ・誰が関与しているのかを文書で記録することです。具体的には以下を整理します。
- 被害申告の内容(日時・場所・発言の具体的内容)を書面で記録する
- 申告者・加害者とされる人物・目撃者それぞれから、別々に聴取してその内容を記録する
- 会社としてどのような対応を取ったか(誰が・いつ・何を決定したか)を議事録として残す
- 関連するメール・チャット・日報などの電子記録を保全する
静岡地方裁判所令和7年10月10日判決(令和4年(ワ)第508号)は、上司らによる違法な降任勧奨を受けたとして警察職員が損害賠償を請求した事案です。原告の請求は最終的に棄却されましたが、この事案でも「被告警察官らとの面談の内容・経緯」が詳細に争点となり、記録の有無が事実認定に影響を与えました。対応の記録を残す文化がない職場では、こうした争点で圧倒的に不利な立場に置かれます。
顧問契約 120社超 / 弁護士歴 平均15年以上 / 大阪・全国対応
弁護士歴15年以上の専属チームが、
貴社の"法務部"になります
弁護士法人ブライトの「みんなの法務部」は、契約書・債権回収・労務トラブル・M&Aまで伴走支援します。
▲ M&A・契約・労務の必須チェック項目をPDFで配布中
平日 9:00-18:00(TEL)/ LINE 24時間受付
失敗事例の構造——なぜ相談が遅れ、なぜ証拠がなかったのか
ハラスメント問題が損害賠償請求に発展した会社のケースを振り返ると、相談が遅れた理由はほぼ共通しています。
「まずは話し合いで解決しようとした」。この判断自体は悪くありません。しかし問題は、その「話し合い」の内容を記録しなかったことです。後から「そんな提案はしていない」「謝罪した事実はない」という争いになったとき、記録がなければ会社の主張は証明できません。
「弁護士に頼むほどのことではないと思っていた」。これも典型的なパターンです。顧問弁護士がいない会社では、初動の相談先が社内の人事担当者や総務に限られます。専門的な視点がなければ、「やってはいけないこと」を無意識にやってしまうリスクが高まります。
「退職時にサインをもらったから大丈夫だと思っていた」。退職合意書や誓約書があっても、その書き方次第ではハラスメントに関する損害賠償請求を封じることができないケースがあります。弁護士のチェックなしに作成した書類が、後で「あれは有効な合意ではなかった」と争われることは珍しくありません。
顧問契約 120社超 / 弁護士歴 平均15年以上 / 大阪・全国対応
弁護士歴15年以上の専属チームが、
貴社の"法務部"になります
弁護士法人ブライトの「みんなの法務部」は、契約書・債権回収・労務トラブル・M&Aまで伴走支援します。
▲ M&A・契約・労務の必須チェック項目をPDFで配布中
平日 9:00-18:00(TEL)/ LINE 24時間受付
うちの会社ではどう考えればいいのか
「ハラスメントと損害賠償」というテーマは、大企業の話に聞こえるかもしれません。しかし、長崎地裁令和7年10月3日判決や熊本地裁令和7年10月8日判決が示すように、中規模の組織でも数千万円規模の損害賠償が命じられる事案は現実に起きています。
社長として考えるべきポイントは、3つです。
①会社として「知っていたか」を問われる。ハラスメントが起きていたことを会社が知っていたか、知りえた状況にあったかどうかが、使用者責任・安全配慮義務違反の判断において重要です。「現場のことは知らなかった」は免責にならないケースが多い。
②対応の「合理性」が問われる。訴えを受けたあと、会社がどのような調査をして、どのような判断をして、どのような措置を取ったか。その一連のプロセスが合理的だったかどうかを、裁判所は見ます。プロセスを記録することが、合理性を証明する唯一の手段です。
③顧問弁護士がいることで「判断の質」が変わる。弁護士は社長の判断を奪う人ではありません。社長の判断の質を上げる人です。初動で「これは弁護士に確認してから動く」という習慣がある会社と、そうでない会社では、最終的な結果が大きく変わります。
顧問契約 120社超 / 弁護士歴 平均15年以上 / 大阪・全国対応
弁護士歴15年以上の専属チームが、
貴社の"法務部"になります
弁護士法人ブライトの「みんなの法務部」は、契約書・債権回収・労務トラブル・M&Aまで伴走支援します。
▲ M&A・契約・労務の必須チェック項目をPDFで配布中
平日 9:00-18:00(TEL)/ LINE 24時間受付
再発防止のために会社が整えるべき3つの仕組み
ハラスメントによる損害賠償請求を一度経験した会社は、次の3つを整えることで再発リスクを大幅に減らすことができます。
- 記録文化の醸成:ハラスメントに限らず、労務上のトラブルの芽は日常の会話の中にあります。上司と部下の面談記録、注意指導の記録、相談窓口への申告記録を残す文化を作ることが、事後的な証明力の土台になります。
- 初動フローの明文化:「ハラスメントの申告を受けたら、まず何をするか」を事前に決めておくことで、担当者が混乱せずに動けます。このフローは弁護士と一緒に作ることで、法的に問題のない手順になります。
- 定期的な法務ドック:就業規則・ハラスメント防止規程・相談窓口の運用状況を、少なくとも年に1回は弁護士の視点で確認する。これが会社の法務リスクの健康診断になります。問題が起きてから弁護士を呼ぶのではなく、問題が起きない体制を維持し続けることが、長期的に見て最もコストが低い選択です。
よくある質問(Q&A)
Q1. ハラスメントで訴えられた場合、会社と加害者個人、どちらが賠償を負うのですか?
A. 両方が責任を負う可能性があります。会社は「使用者責任」(民法715条)または「安全配慮義務違反」(労働契約法5条)に基づく損害賠償責任を問われることがあります。加害者個人も不法行為(民法709条)として責任を負いうる。大阪地裁令和7年11月28日判決では、上司個人と使用者である市の双方が被告とされており、こうした複合的な請求が実務では一般的です。
Q2. ハラスメントの事実が証明されなくても、会社が負けることはありますか?
A. あります。ハラスメント行為自体が証明されなくても、「訴えを受けたあとの調査・対応が不十分だった」として安全配慮義務違反を問われるケースがあります。大阪地裁令和7年11月28日の事案でも、「不十分な調査によりパワハラと認定せず、職場環境の改善を図らないなどの被告市による一連の対応が安全配慮義務に違反する」という予備的請求が立てられていました。対応プロセスの記録が会社を守ります。
Q3. 「顧問弁護士がいれば何でも防げる」わけではないですよね?
A. その通りです。顧問弁護士がいても、ハラスメントをゼロにする保証はありません。ただし、問題の発生を早期に察知する仕組み、発生したときの初動の正確さ、証拠の残し方、交渉・訴訟への備えという4つの点で、顧問弁護士がいる会社とそうでない会社では対応力に大きな差が出ます。「揉めてから弁護士を使う」のではなく、「揉めないように弁護士を使う」という発想の転換が重要です。
Q4. ハラスメント問題を顧問弁護士に相談するタイミングはいつが適切ですか?
A. 「内容証明が届いてから」ではなく、「従業員から申告があった時点」または「社内でハラスメントの噂が出てきた段階」が理想的です。静岡地裁令和7年10月10日の事案のように、事実関係の認定が複雑になる前に弁護士が関与することで、対応の記録を正確に残しながら動くことができます。早ければ早いほど、選択肢は広がります。
参考裁判例
当事務所では本テーマに関する最新の裁判例を継続的に確認し、顧問先企業のリスク評価に反映しています。本記事の作成にあたり特に参考にした裁判例を以下に紹介します。
- 大阪地判令和7年11月28日「損害賠償請求事件」(判例秘書 L08050836)
要旨: 会計年度任用職員が上司からのパワハラを主張して損害賠償を請求。安全配慮義務違反の有無も争点となった事案。 - 静岡地判令和7年10月31日「取締役等に対する損害賠償請求事件、共同訴訟参加事件」(判例秘書 L08050912)
要旨: シェアハウスローン問題に関する取締役の監視監督義務違反が問われ、13億円超の損害賠償が命じられた事案。 - 静岡地判令和7年10月10日「損害賠償等請求事件」(判例秘書 L08050865)
要旨: 違法な降任勧奨を受けたとして警察職員が上司らに損害賠償を請求。面談の記録・経緯の事実認定が争点となった事案。 - 熊本地判令和7年10月8日「損害賠償請求事件」(判例秘書 L08050771)
要旨: 消防職員が先輩職員のハラスメントにより自殺。使用者(広域連合)に対し遺族への総額8000万円超の損害賠償が命じられた事案。 - 長崎地判令和7年10月3日「未払賃金請求事件(第1事件)、損害賠償等請求事件(第2事件)」(判例秘書 L08050858)
要旨: 未払賃金とハラスメントに関する損害賠償が複合的に請求され、被告会社に5900万円超の支払が命じられた事案。
※ 裁判例情報は判例秘書INTERNETから取得した参照情報です。本記事は弁護士法人ブライトが監修・執筆しています。
料金は明朗です
| スタンダード(中小企業向け/顧問先の95%) | 月額 5万円(税別) |
| 上場企業・グループ会社対応 | 月額 10万円(税別) |
| セカンドオピニオンプラン | 月額 3万円(税別) |
※追加費用は事前にご説明します。ご納得いただいてからのご契約です。
「みんなの法務部」というブライトの考え方
中小企業の社長に「専属の法務部」を持っていただく——これがブライトの顧問サービスの基本姿勢です。社内に法務部を置けない規模でも、契約書・労務・債権回収・M&Aまで日常的に相談できる体制を、月額固定で。弁護士歴平均15年以上のチームで、120社超の顧問先と向き合っています。
顧問契約 120社超 / 弁護士歴 平均15年以上 / 大阪・全国対応
弁護士歴15年以上の専属チームが、
貴社の"法務部"になります
弁護士法人ブライトの「みんなの法務部」は、契約書・債権回収・労務トラブル・M&Aまで伴走支援します。
▲ M&A・契約・労務の必須チェック項目をPDFで配布中
平日 9:00-18:00(TEL)/ LINE 24時間受付






