「いずれ息子に会社を継がせるつもりだが、何から手をつければいいか分からない」「税理士には相談しているが、法律的な話になると誰に聞けばいいのか」——そういった声を、顧問先の社長からよく聞きます。
事業承継は、「やろうと思えばいつでもできる」と思っている間に、時間だけが過ぎていく問題です。そして、気づいたときには株式が分散していたり、相続が絡んで家族間が険悪になっていたり、「承継しようにも会社の形が整っていない」という状況になっていることが少なくありません。
この記事では、事業承継において顧問弁護士がどのような役割を果たすのか、そしてなぜ「揉めてから相談する」のでは遅いのかを、具体的な流れと判断の視点からお伝えします。
事業承継で「判断ミス」が起きる本当の理由
事業承継の失敗は、多くの場合「知識不足」ではなく「判断の順番を間違えた」ことで起きています。
典型的なパターンはこうです。税理士から「そろそろ株式を後継者に移した方がいいですよ」とアドバイスを受け、税務上の観点から株式を動かす。しかし、その時点で定款の内容を確認していなかった、株主間合意がなかった、少数株主の存在に気づいていなかった——。後になって法律上の問題が噴き出す、というケースです。
なぜこうなるのか。事業承継には、税務・法務・経営・家族関係という四つの軸が複雑に絡み合っています。税理士は税務の専門家であり、法務リスクの全体像を見るのは本来弁護士の仕事です。しかし、顧問弁護士を持っていない会社では、法務の視点が抜け落ちたまま手続きが進んでしまいます。
また、「承継はまだ先の話」という感覚が、準備を後回しにさせます。社長が60代になってから動き始めると、健康上の問題や認知機能の低下が重なり、意思能力の問題が生じることもあります。遺言書を書こうとしても「その時点で本当に本人の意思だったのか」と争われるリスクが出てきます。準備の遅れが、選択肢を狭めるのです。
企業の法律問題でお困りの経営者・法務担当者様へ
弁護士法人ブライトは、契約書・債権回収・労務トラブル・M&Aを伴走支援する「みんなの法務部」です。
弁護士歴平均15年以上のチームで、120社超の顧問先と日々向き合っています。
問題が起きる前にできること|顧問弁護士の予防的活用
事業承継における顧問弁護士の最大の価値は、「揉めてから解決する」ことではなく、「揉めない形を最初から作る」ことにあります。
① 株式の現状把握と整理
まず確認すべきは、現在の株主構成です。創業期に出資してもらった親族や知人が少数株主として残っていないか。株主名簿が正確に管理されているか。株式が相続によって意図せず分散していないか。これらを弁護士の目で整理することが出発点になります。
② 定款・株主間契約の整備
定款に「株式譲渡制限」や「相続人への売渡請求」の規定が盛り込まれているかどうかは、承継の自由度を大きく左右します。また、後継者と他の株主との間で株主間契約(議決権行使の合意など)を結んでおくことで、将来の対立を防ぐことができます。
③ 遺言・家族信託の設計
社長に万一のことがあったとき、株式が法定相続人の間で分散してしまうリスクがあります。遺言書や家族信託を活用することで、「誰に何を引き継がせるか」を法的に確実にしておくことができます。ここは税理士だけでは対応できない領域です。
④ 後継者との役割・権限の設計
「代表取締役を交代したが、実質的には前社長が全部決める」という状態は、対外的にも社内的にも混乱を招きます。権限移譲のタイミングと範囲を、法的な観点から整理しておくことが重要です。
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問題が発生したときの対応フロー|証拠の残し方
それでも、承継の過程でトラブルが起きることはあります。後継者と他の相続人との対立、少数株主からの異議、従業員への説明不足による混乱——。こうした局面で重要になるのが「証拠」です。
証拠は、紛争になってから急に作れるものではありません。
たとえば、社長が「後継者に株式を贈与する意思があった」ことを示す証拠として有効なのは、公正証書遺言や株式贈与契約書、取締役会議事録などです。口頭のやり取りだけでは、後から「そんな合意はなかった」と言われると覆せません。
具体的に残しておくべき証拠・書類はこちらです。
- 株主名簿(最新状態のもの)
- 株式譲渡・贈与に関する契約書
- 取締役会・株主総会の議事録
- 後継者との合意内容を記したメモ・メール
- 遺言書(公正証書形式が望ましい)
- 家族間での承継方針の確認書
顧問弁護士がいれば、これらを日常的な経営の中で整備していくことができます。「問題が起きたときに動く弁護士」ではなく、「問題が起きない土台を作る弁護士」として機能させることが、事業承継においては特に重要です。
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失敗事例の構造|なぜ相談が遅れたのか
実際に相談を受けた案件から見えてくる共通パターンがあります。(以下はいずれも匿名加工した事例をもとにした構造説明です)
「税理士に任せていたから大丈夫だと思っていた」
株式の移転を税務上の最適化だけで進めた結果、定款に株式譲渡制限の手続きが抜けていた。相続発生後に、想定外の人物が株主として登場し、経営権が不安定になった。相談が来たのは「すでに相続が起きた後」でした。
「家族のことだから弁護士は必要ないと思っていた」
息子への承継について、家族内で「そういう方向で」という口頭の合意はあった。しかし社長が急逝し、他の子どもたちが「そんな話は聞いていない」と主張。遺言書もなく、株式の帰属をめぐって家族間で法的紛争に発展した。
「もう少し後でいいと思っていた」
承継の準備を「65歳になったら」と先延ばしにしていたところ、64歳で健康上の問題が発生。意思能力の問題が絡み、遺言書の作成も株式の整理も間に合わなかった。
これらの失敗に共通しているのは、「弁護士は揉めてから呼ぶもの」という認識です。しかし事業承継は、揉めてからでは選択肢が極端に狭まります。揉める前に、法的な設計をしておくことが全てです。
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うちの会社ではどう考えればいいのか
事業承継における顧問弁護士の活用は、会社の規模や承継の形(親族内・従業員・M&A)によって異なります。ただ、どの会社にも共通して言えることがあります。
「誰に継がせるか」が決まっていなくても、弁護士への相談は始められます。
むしろ、決まっていない段階から相談することで、「どういう承継の形が自社にとって最も法的リスクが少ないか」を整理することができます。顧問弁護士は、社長の判断を奪う人ではありません。社長の判断の質を上げる人です。
具体的に言えば、次のような視点を顧問弁護士と一緒に確認することから始められます。
- 現在の株主構成に、想定外のリスクはないか
- 定款は承継を想定した内容になっているか
- 万一のときに株式がどう動くか、シミュレーションできているか
- 後継者候補との間で、法的な合意を形成する必要があるか
- 税理士・司法書士との役割分担は明確になっているか
これらを「法務ドック」として一度点検するだけでも、見えていなかったリスクが可視化され、社長の不安が判断に変わります。
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再発防止策|承継後の法務体制をどう作るか
事業承継は、完了したら終わりではありません。後継者が経営を引き継いだ後も、法務上の課題は続きます。
特に注意が必要なのは、承継直後の「権限の空白期間」です。前社長が実質的な意思決定を続けていると、対外的な契約や銀行との交渉で混乱が生じます。また、新社長(後継者)が顧問弁護士と信頼関係を築いていない場合、緊急時に相談できる体制が機能しません。
承継後の再発防止のために、以下の体制を整えておくことを推奨します。
- 顧問弁護士との関係を後継者にも引き継ぐ(担当弁護士との定期MTGを設ける)
- 承継後1〜2年間は、前社長と後継者の両方が顧問弁護士と情報共有できる体制を維持する
- 新たな経営体制に合わせて、定款・社内規程・契約書のひな型を見直す
- 株主名簿・登記情報を更新し、最新状態を維持する
相談すればするほど強くなる、という言葉は事業承継においても当てはまります。一度で全部解決しようとするのではなく、顧問弁護士と継続的に対話しながら、会社の法務基盤を育てていくことが長期的な安定につながります。
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よくある質問(Q&A)
Q1. 事業承継の相談は、税理士だけでは不十分ですか?
税理士は税務の専門家であり、株式の評価・贈与税・相続税の観点では非常に重要なパートナーです。しかし、定款の設計、株主間の合意形成、遺言書の作成、紛争予防のための契約整備は、弁護士の領域です。税理士と弁護士は「代替関係」ではなく「補完関係」にあります。どちらか一方では、事業承継の全体を安全にカバーすることはできません。
Q2. 承継先がまだ決まっていない段階で、弁護士に相談してもいいですか?
むしろ、決まっていない段階からの相談が最も価値があります。誰に継がせるかを決める前に、現状の株式構成や定款のリスクを把握しておくことで、選択肢が広がります。また、親族内承継・従業員承継・M&Aのそれぞれに、法的なメリット・デメリットがあります。顧問弁護士は、その比較検討を社長と一緒に行うことができます。
Q3. 少数株主がいる場合、事業承継はどのように進めればいいですか?
少数株主の存在は、承継において最もトラブルになりやすいポイントです。株主総会の決議要件によっては、少数株主が重要な意思決定を阻害できる場面があります。まずは現状の株主構成と持株比率を確認し、必要であれば株式の買取交渉や株主間契約の締結を進めることになります。早期に顧問弁護士に共有することで、対処の選択肢が広がります。
Q4. 顧問弁護士は事業承継のM&Aにも関与できますか?
はい。M&Aによる第三者への承継においても、顧問弁護士は重要な役割を担います。基本合意書・秘密保持契約・株式譲渡契約の内容確認、デューデリジェンス(法務調査)への対応、表明保証条項のリスク管理など、M&A特有の法務課題は多岐にわたります。M&Aアドバイザーとは異なる「法的保護の視点」を持つ専門家として、顧問弁護士が関与することで、不利な条件を見落とすリスクを減らすことができます。
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