「就業規則は前の担当者が作ったもので、正直よく中身を把握できていない」「社員が増えてきて、何かトラブルになったときにうちのルールで対応できるのか不安になってきた」——こういった感覚を持ちながら、でもどこから手をつければいいかわからず、日々の業務を優先している社長は多いはずです。
就業規則は、会社と社員の間の「約束の土台」です。この土台が古かったり、実態と合っていなかったりすると、いざトラブルになったときに会社側の言い分が通らなくなることがある。それだけではなく、普段の採用・評価・解雇・残業管理といった判断のひとつひとつに、就業規則の整備状況が影響してきます。
この記事では、顧問弁護士と就業規則整備を進めることがなぜ重要なのか、どのように取り組めばいいのかを、実際の相談の流れや失敗パターンも含めて解説します。
なぜ就業規則の問題は「気づいたときには手遅れ」になりやすいのか
就業規則の整備不足は、日常業務の中では目に見えません。社員が問題なく働いているとき、トラブルが起きていないとき、就業規則の穴は表に出てきません。だから後回しにされる。
ところが、ひとたび労務トラブルが発生したとき、最初に問われるのが「就業規則にはなんと書いてあるか」です。解雇の有効性を争われれば、就業規則の懲戒規定や解雇事由が根拠になります。残業代を請求されれば、労働時間のルールが問われます。試用期間中の退職勧奨であれば、試用期間の定め方が争点になることもある。
問題が起きてから就業規則を確認しても、そこに必要な規定がなければどうにもなりません。「後から追加すればいい」という話でもない。紛争になってから急いで書き加えたルールは、証拠としての力を持ちません。
判断ミスが起きる構造はシンプルです。「今は問題が起きていないから大丈夫」という平時の安心感が、整備を先延ばしにさせる。そして問題が起きたとき、就業規則という「武器」が手元にない状態で戦わなければならなくなる。
顧問弁護士が就業規則整備に関わる意味
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弁護士法人ブライトは、契約書・債権回収・労務トラブル・M&Aを伴走支援する「みんなの法務部」です。
弁護士歴平均15年以上のチームで、120社超の顧問先と日々向き合っています。
就業規則は、社労士が作成するものというイメージを持っている社長も多いかもしれません。確かに書式の作成や労働基準監督署への届出は社労士の守備範囲です。しかし、就業規則の「法的な効力」と「紛争時の使い方」については、弁護士の視点が必要になります。
たとえば、懲戒解雇の規定がある。しかし、どのような手順を踏まずに使った場合に無効と判断されるリスクがあるか——こうした「武器としての使い方」は、実際に労働訴訟を扱ってきた弁護士でないと見えてきません。
実際に顧問先からの相談を受けると、弁護士はまず就業規則、賃金規程、雇用契約書、36協定といった一連の書類を確認することから始めます。これは単なる形式確認ではなく、「万一この会社で労務トラブルが起きたとき、今の書類で会社を守ることができるか」を見るためです。
解雇案件の相談が来たとき、弁護士が最初に確認するのも就業規則と雇用契約書です。対象者のスキル不足を理由に退職勧奨を行った事案では、採用時のスキルチェック資料、フィードバックの記録、就業規則の解雇事由の規定——これらが揃っているかどうかで、会社側が取れる選択肢がまったく変わってきます。書類が揃っていなければ、弁護士は「まずリスクの整理から」という話になり、スピード感が落ちます。
顧問弁護士と就業規則整備を進めるということは、いざというときの「武器の準備」を平時から済ませておくことです。
問題が起きる前にできること:就業規則の「法務ドック」
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就業規則の整備は、一度やれば終わりではありません。会社の成長に合わせて、規定の中身をアップデートし続ける必要があります。採用形態が変わった、フレックスタイム制を導入した、役職のグレードが増えた——そのたびに就業規則との整合性を確認しなければ、実態と乖離したルールが積み重なっていきます。
「法務ドック」という考え方があります。人間の健康診断のように、会社の法務リスクを定期的にチェックするという発想です。就業規則の整備はその中心にあります。
具体的には、以下のような観点で確認を進めます。
- 解雇・懲戒の規定が、実際に起こりうるトラブルに対応できるか
- 試用期間の定め方が、採用実態と合っているか
- フレックスタイム制・変形労働時間制を導入している場合、労使協定が正しく締結・届出されているか
- 非正規雇用・業務委託契約の社員に対する扱いが、正規雇用との差を合理的に説明できるか
- 育児・介護休業規程が法改正に対応しているか
- 賃金規程と実際の給与支払いが矛盾していないか
これらを顧問弁護士と一緒に確認する習慣があれば、問題が表面化する前に手を打つことができます。「揉めてから弁護士を使うのではなく、揉めないように弁護士を使う」という姿勢が、会社を守ります。
問題が発生したときの対応:証拠はその日に残す
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どれだけ整備を進めても、労務トラブルはゼロにはなりません。問題が起きたとき、どう動くかが結果を左右します。
まず大前提として、証拠は紛争になってから急に作れるものではない、ということを理解しておく必要があります。
たとえば、問題社員に対して複数回フィードバックを行ってきた——しかし、そのフィードバックの記録が口頭だけで残っていない。このような状況では、「何度も指導してきた」という主張が証拠として通りにくくなります。
日常の労務管理における証拠の残し方として、以下を習慣づけることが重要です。
- 指導・注意は口頭だけで終わらせず、メール・チャット・書面でも残す
- 業績評価や面談の記録を日付入りで保管する
- 採用時の条件提示・スキル確認の資料を保管しておく
- 問題行動が発生した日時・内容を都度記録する(日報や報告書を活用する)
- 就業規則の変更は、変更前後の版をそれぞれ保管し、周知の記録を残す
顧問弁護士に相談するタイミングは、「問題が深刻になってから」ではなく、「問題の予兆を感じた時点」です。早い段階で相談すれば、取れる選択肢が増えます。また、弁護士に状況を説明する過程で、自分では気づいていなかったリスクに気づくこともあります。
失敗事例の構造:なぜ相談が遅れ、証拠がなかったのか
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労務トラブルで会社側が不利になるケースには、ほぼ共通したパターンがあります。
① 「まだ大丈夫だろう」という先送り
問題の兆候はあった。でも「本人も反省しているようだし」「もう少し様子を見よう」と判断した。そうしているうちに状況が複雑になり、弁護士に相談したときにはすでに選択肢が絞られていた。
② 記録がない状態での指導
フィードバックや注意指導は口頭でずっと行ってきた。しかし書面が残っていないため、「そんなことは言われていない」と言われると反論が難しくなる。特に解雇案件では、改善指導の記録が決定的な証拠になります。
③ 就業規則の抜け穴
懲戒規定はあるが、実際に起きた問題行動が明確に規定されていなかった。あるいは、非正規雇用の社員に対する就業規則がそもそも存在せず、対応の根拠を示せなかった。
④ 変更した就業規則が周知されていない
就業規則を改訂したが、社員への周知が不十分だった。就業規則は社員に周知されていないと法的効力を持たないため、改訂した規定を根拠にできないケースもあります。
これらは、決して珍しいケースではありません。むしろ多くの会社が、いずれかのパターンに当てはまっています。だからこそ、平時の整備が意味を持つのです。
うちの会社ではどう考えればいいのか:規模別・状況別の整理
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「自社にとって何を優先すべきか」は、会社の規模や状況によって変わります。一律の答えはありません。ただ、以下の観点で考えると整理しやすくなります。
社員数10人前後の会社
就業規則の作成・届出義務は社員10人以上から生じます。この規模では、まず「法律上の義務を果たしているか」を確認することが出発点です。加えて、雇用契約書や業務委託契約書の整備も優先度が高い。正社員と業務委託が混在している場合、その区分の明確化が後のトラブルを防ぎます。
社員数30〜50人の会社
採用が増えると、人材の多様化に対応した規定が必要になります。フレックスタイム制・育児介護休業・試用期間の設計など、個別対応が増えるフェーズです。また、管理職と一般社員の区分(管理監督者かどうか)も残業代トラブルの温床になりやすい。
急成長中の会社
組織が急拡大しているときほど、ルールの整備が追いつかないリスクが高い。採用は増えているのに、就業規則は3年前のまま——というケースが頻発します。このフェーズでは、定期的な法務ドックを仕組みとして持っておくことが特に重要です。
いずれの規模においても、「今の就業規則で、明日トラブルが起きたとき会社を守れるか」という問いを持つことが出発点になります。
再発防止策:就業規則整備を「一度きりの作業」にしない
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就業規則の整備を一度終えたとしても、それを放置すれば同じ問題が繰り返されます。再発防止策として重要なのは、整備を「プロジェクト」ではなく「継続的なプロセス」として位置づけることです。
具体的には、以下の仕組みを作ることをお勧めします。
- 年1回の就業規則レビューを顧問弁護士と実施する:法改正への対応、採用形態の変化、実際に発生したトラブルの反映を行う
- 就業規則の変更は必ず書面で、周知記録を残す:社員がアクセスできる場所に最新版を置き、説明会や書面配布の記録を保管する
- 採用・人事の決定を行う前に弁護士に確認する習慣をつける:雇用形態の選択、試用期間の設計、評価基準の設定は、後々トラブルになりやすい
- 問題の予兆を感じた時点でSlackや電話で弁護士に一報入れる:「相談するほどでもないか」と思う段階こそが、最も有効な相談タイミングです
相談すればするほど強くなる、という感覚を持っている社長は、実際にトラブルを未然に防いでいることが多い。法務を「困ったときに頼む存在」ではなく、「判断の質を上げるパートナー」として使うことが、結果として会社を守ります。
よくある質問
Q1. 就業規則は社労士に任せているので、弁護士には頼まなくていいですか?
社労士と弁護士では、就業規則に関わる役割が異なります。社労士は書式の作成や労働基準監督署への届出を担います。一方、弁護士が確認するのは「この規定は、実際のトラブルで会社を守る力があるか」という法的有効性の観点です。解雇・懲戒・残業代請求など、紛争に発展したときに就業規則が武器になるかどうかは、弁護士の視点が必要です。社労士と弁護士の両方を使うことが、最も現実的なリスク対策になります。
Q2. 就業規則を変更するとき、社員の同意は必要ですか?
就業規則の変更に社員全員の同意は原則不要ですが、労働者に不利な変更の場合は合理的な理由が必要とされており、無条件に変更できるわけではありません。また、変更後の就業規則を社員に周知しないと法的効力を持たないため、周知の方法と記録が重要です。変更の内容・タイミング・周知方法については、事前に弁護士に確認することをお勧めします。
Q3. フレックスタイム制を導入しているが、就業規則との整合性に不安がある。どうすればいいですか?
フレックスタイム制を法的に有効に運用するためには、就業規則への規定と労使協定の締結・届出がセットで必要です。どちらかが欠けていると、残業代の清算ができず、1日ごとに残業代を計算しなければならなくなるリスクがあります。まず現在の就業規則と労使協定の内容を確認し、社労士・弁護士と連携して整備を進めることが先決です。
Q4. 顧問弁護士と就業規則整備を進める場合、どこから始めればいいですか?
まず現在の就業規則・賃金規程・雇用契約書・36協定を弁護士に見せることから始めてください。「今の書類で、どんなリスクがあるか」を整理することが出発点です。完璧に整備してから相談しようとする必要はありません。今ある状態を見てもらうことで、優先順位が明確になります。顧問契約を通じて継続的に関わってもらうことで、会社の成長に合わせた整備が可能になります。
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